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【グルノーブルの悲哀】観客動員数を記録更新のトップ14。2部リーグ、入替戦も白熱
入替戦に惜敗したグルノーブル。ペルピニャンに敗れ、うなだれる。(Getty Images)

【グルノーブルの悲哀】観客動員数を記録更新のトップ14。2部リーグ、入替戦も白熱

福本美由紀

 今季もトップ14の観客動員数の記録が更新された。フランスのプロリーグ運営団体のLNRの発表によると、レギュラーシーズンが終了した時点で293万2750人が、今季スタジアムでトップ14の試合を観戦した。昨年打ち立てた記録からさらに6%アップした。1試合平均では1万6114人になる。

 2部リーグのプロD2でも、今季トータルで143万46人の観客がスタジアムを訪れた。こちらも昨年から6%増で記録を更新した。1試合平均で5959人のサポーターがスタジアムに来てチームを支えた。

 そんな熱狂の中、トップリーグ昇格を目指すプロD2のクラブ間では熾烈な競争が繰り広げられ、ブリーヴやプロヴァンス・ラグビーといった資金力のあるチームは、トレーニング施設を充実させ、イングランド代表LO/FLコートニー・ロウズやウェールズ代表WTB/CTBジョージ・ノースといった大物選手を獲得し、トップ14復帰への強い意欲を示している。

 その中で大型補強はなかったものの、今季のレギュラーシーズンを1位で終えたグルノーブルは、「プロD2のトゥールーズ」と言われるほど安定した強さを見せ、今年こそは昇格かと多くの人が予想していた。
 同チームは2年続けて決勝で敗れ、入替戦でも敗れて悔しい涙を飲んできたのだ。しかも昨年の入替戦は、「あと3分でトップ14!」という土壇場でモンペリエがPGを決めて逆転、18-20という僅差で昇格を阻まれた。

 グルノーブルは近年、財政上の問題を抱えていた。クラブの窮状を救うため、1997年から2001年まで会長を務めたパトリック・ゴフィ氏が2023年3月に復帰、クラブの立て直しに当たった。
 しかし、すぐに状況は好転せず、2023年のプロD2決勝と入替戦での敗戦後、フランスラグビー規律評議会から調整債務超過と予算の不確実性を理由に3部リーグへの行政降格を言い渡された。

 クラブは即座に控訴し、40万ユーロの資金投入や、新たな出資者の獲得を示すことで、財政状況の改善と、プロD2で継続運営の保証を主張。その訴えは認められ、降格は回避された。ただプロD2残留は決定したが、財政規律違反に対するペナルティとして、ポイント剥奪という処分は残されたまま2023-2024シーズンを迎えていた。

 もう一つのグルノーブルの悩みは、チームの優秀な育成機関が輩出する才能の流出だ。フランス代表WTBルイ・ビエル=ビアレやイタリア代表WTB/FBアンジュ・カプオッゾ、さらには2023年U20世界王者メンバーのNO8マルコ・ガゾッティ、右PRザカリ・アファンヌ、HOバーナベ・マッサといった選手たちが、トップ14のクラブへ移籍している。

 トップ14でもプロD2でも、JIFFと呼ばれるフランスで育成された選手を1試合平均16名以上登録しなければいけないという規定があり、どのクラブも将来性のあるJIFFの選手を求めている。そして選手は、より競争力が高く、経済的に安定したクラブを選ぶ。育てた選手をクラブに引き留めるには、財政安定とトップ14昇格が不可欠だ。
 新しい経営陣の指揮のもと財政面は安定を取り戻し、2024-2025シーズンは、「あとはトップ14に昇格するだけ」という状態で始まった。

 プロD2は16チームがホーム&アウェーで全30試合を戦い、上位2チームが準決勝進出、3位と6位、4位と5位がそれぞれ準決勝進出をかけて戦う。決勝の勝者がトップ14へ自動昇格、敗者はトップ14の13位のチームとアクセスマッチ(入替戦)に臨む。

 一方、16位のチームはセミプロの3部リーグに自動降格、15位は3部リーグの2位のチームとの入替戦で残留をかけて戦う。

プロD2の決勝。グルノーブルはモントーバンに19-24で敗れた。(Getty Images)


 グルノーブルは準決勝でプロヴァンス・ラグビーを制し、決勝に進出。対するは、最終節で6位に滑り込んだモントーバンだ。
 同チームは昨季を15位で終え、入替戦で3部リーグのナルボンヌに1点差で勝利して、なんとかプロD2の座を死守した。コーチングスタッフを一新し、チームの再建を目指した今季開幕時の目標は残留だった。

 ところが開幕から8勝3敗と好調な滑り出しを見せた。11節を終えて2位につけた。
 その後5連敗して順位を下げるも、そこから6連勝し、再びプレーオフ圏内に入る。最終節でベジエと勝ち点で同数となったが、直接対決での勝者のモントーバンが6位に入りプレーオフ進出を決めた。戦績が良くなると観客も増える。今季は1試合平均6170人を集客し、昨年対比40% 増を記録した。

 勢いに乗ったモントーバンは、準決勝進出戦で3位のコロミエを、準決勝で2位のブリーヴを破り、センセーションを起こした。しかし、3週続けてサプライズを起こすことはないだろうと、誰もがグルノーブルの優勝を予想する中、決勝は幕を開けた(6月7日)。

 試合は序盤から激しい攻防が続き、グルノーブルがリードする時間帯もあったが、モントーバンの決定力と粘り強さがこの試合でも光った。後半開始早々には80mを超える見事なカウンターアタックからトライを決める。一気に点差を広げたことが勝負を決めた。

 グルノーブルもトライを1本、PGを2本決め、2点差まで追い上げた。しかし、モントーバンもPGで3点追加する。78分、グルノーブルは相手ゴール前でペナルティを奪った。スコアは19-24の5点差。絶好の逆転のチャンスと、誰もが息を呑んだ。

 そこから思わぬ展開となった。グルノーブルの選手が、足でボールをタップせずにプレーしてしまったのだ。モントーバンボールのスクラムとなり、組み直し。時間が流れる。
 再びスクラムが崩れた。タイマーが止められる。リスタート。今度はうまく組めた。
 スクラムから出たボールをモントーバンが遠くに蹴り出す。グルノーブルのラインアウトからモールになる。レフリーが笛を吹く。モントーバンのスクラムとなった。
 ホーンが鳴った。モントーバンがスクラムから出されたボールをスタンドに蹴り込んだ。

 モントーバンの歓喜したサポーターがピッチに雪崩こむ。会場はトゥールーズのエルネスト=ワロン。モントーバンから50kmと、ほぼホームだ。

 モントーバンは15年ぶりにトップ14への昇格を決めた。レギュラーシーズン6位のチームが優勝するのは史上初の快挙だ。

 敗れたグルノーブルの選手はマイクを向けられ、「絶対に勝てないような気がする。今度こそは僕たちの番だって思って、あらゆる努力をしてきた。でも、いつもこうなんだ、同じ結末。モントーバンを讃えたい。彼らは素晴らしいシーズンを送った。勝敗はちょっとしたところで決まった。わかっていたのに。これ以上、何を言えっていうの?」と落胆し、心が空っぽになったかのように呆然としていた。打ちひしがれている様子が伝わってくる。1週間後の入替戦までに立て直せるのだろうかと、誰もが思った。

プロD2決勝(左)と入替戦での敗戦を伝えるグルノーブルの公式「X」


 しかし、彼らは立ち上がった。翌週のペルピニャンとの入替戦(6月14日)は文字通り死闘となった。スコアボードに気温は42℃と表示されている。ウォーターブレイクをとり、度重なるTMOもあり、試合は2時間15分にも及んだ。

 開始早々にペルピニャンがトライを奪って先制し、グルノーブルを不穏な空気が包む。しかし、動揺せず、前半は自分たちのリズムで試合を支配。多くのチャンスを作り出した。
 ハンドリングエラーやTMOによる2度のトライの取り消しなど不運にも見舞われたけれど、それでも、1トライを挙げ、PGで逆転した。8-7とリードしてハーフタイムを迎えた。

 両チームともに決定機を逃し、後半も一進一退の攻防が続いた。ペルピニャンはSOトンマーゾ・アランがPGを外し、CTBヘロニモ・デラフエンテが決定的なトライを落球するなど、もどかしい展開に。しかし、66分にアランがPGを決め、ペルピニャンが逆転した(ペルピニャン/10点、グルノーブル/8点)。グルノーブルもSOロマン・トゥルイユのPGで11-10と再びリードを奪い、スタジアムには緊迫した空気が漂った。

 そして、運命の77分。1点を追っていたペルピニャンがスクラムでペナルティを獲得した。これをSOトンマーゾ・アランが確実に決め、再逆転する(ペルピニャン 13-11 グルノーブル)。そのまま勝利を手にした。

 グルノーブルにとって残酷すぎる結末となった。昨年のモンペリエとの入れ替え戦と同じシナリオだ。「またか」と打ちのめされたような気持ちだろう。過去3年間で、3度の決勝と3度の入替戦に敗れたグルノーブルは、来季もプロD2に留まることになった。一方、ペルピニャンは薄氷を踏む思いでなんとかトップ14残留を決めた。

 グルノーブルは何を変えなければならないのだろう?

 この敗戦を受けゴフィ会長は、「選手たちは、『絶好のチャンスを逃してしまった』という心境です。もっと言えば、『ありえないことをやってしまった』とでも言うべきでしょうか。彼らは、今年トップ14に昇格できなかったのは自分たちのせいだと感じており、来年はさらに厳しくなり、もっと良い結果を出さなければならないことを強く認識しています。しかし、私は必ずしもそうは思わない、と彼らに伝えました」と語る。

 会長は、誰もがそれぞれ責任を負っているとし、「来シーズンもっと良いパフォーマンスを出すためには、全員が自分自身を見つめ直す必要がある」と強く述べた。

「入替戦の試合自体は素晴らしかった。しかし、またしても我々は冷静さと明晰さを欠いて試合を落とした。重要な局面で確実に結果を出せる選手を育成するための取り組みが必要だ。これは選手だけでなく、スタッフやその他の要素も含めた、総合的な検討が必要なのです」と全体の改革を示唆した。

 メンタルコーチの導入はすでに検討されている。スタッフの役割分担の見直しもおこなわれるだろう。また、選手の補強も期待されている。

 辛い夏になりそうだ。でも、立ち上がって前進するしかない。

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