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この日もスクラムが勝利への呼び水となった。
前日のリーグワンのプレーオフ準々決勝、静岡ブルーレヴズ×コベルコ神戸スティーラーズは、互いのパックの押し合いが勝負に大きな影響を与えた。
それと同様、5月18日のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ×東京サントリーサンゴリアスも、スピアーズFWがプレッシャーをかけ続けて勝利に貢献した。
前日とは違い、好天に恵まれた花園ラグビー場。ファイナルスコアは20-15とロースコアの80分となった。
スピアーズの先制点は前半7分。ラインアウトからの攻撃の途中、相手の反則を誘う。PGで3点を得た。

ファーストスクラムは、その1分後だった。オレンジの塊はボールインと同時に一気に走り、サンゴリアスFWを蹂躙。コラプシングでPKを得た。
スピアーズはその後、最初のエンゲージ時に見せたような爆発力、相手を粉砕するプッシュを毎回見せることはできなかったが、圧力をかけ続けながらゲームを進めた。
しかし、この日のサンゴリアスのディフェンスは固く、そのファイトがスタジアムに漂う空気を熱くした。
前半は3-0からスコアが動かなかった。
後半に入ってスコアは活発に動いた。
スピアーズが逆転を許したのは5分。ラインアウトからボールを大きく動かしサンゴリアスにトライを許した。FB松島幸太朗がトライライン近くに蹴ったボールをWTBチェスリン・コルビが拾い、トライを挙げる。3-5とされた。
しかし、その3分後には強固なスクラムから右に仕掛けてWTB根塚洸雅が左中間に入り、Gも決まって10-5とする。5分後にはラインアウトのサインプレーから相手にあっさりとトライラインを越えられ(Gも)、再び10-12とリードされる。
決着の時は最後の20分に持ち越された。
勝利はFWでもぎ取った。
後半20分過ぎ、スピアーズはブレイクダウンで押し込み、PKを得て攻め込んだ。さらにモールで圧力をかけ、トライライン直前で再びPKを得る。
タップキックからFWが出て、最後はLOルアン・ボタが攻め切った(後半24分)。Gも決まり、17-12とした。

【写真右上】「これがプレーオフ」とスピアーズのファウルア・マキシ主将
【写真左下】シーズン終盤に10番を背負い続けたサンゴリアスSO森谷圭介
【写真右下】トライも挙げ、走り回り、キッカーと、大車輪の働きだったサンゴリアスWTBチェスリン・コルビ
スピアーズは攻守とも接点で力強く、相手のミスや反則を誘う。後半32分にはPGを追加して20-12として勝利により近づいた。
サンゴリアスも最後まで粘ったが、PGで3点を返すのがやっとだった。
小野晃征ヘッドコーチは「セットピースでゲームを組み立ててくる相手に対し、そこで粘れた。その結果、前半0-3でした。チームはエナジーをもらった。ランとキックのバランスがよく、少ないチャンスで点も取れた」と選手たちの奮闘を称えたけれど、勝利に届かなかった現実を受け入れるしかなかった。
HO堀越康介も、結果的にシーズン最終戦となった試合で見せたディフェンスには手応えを感じながらも、「オレンジの壁を破れなかった」と力の差を認めた。
スピアーズの勝利の立役者のひとり、左プロップの紙森陽太は、「いいスクラムを組めました。自分たちが練習でやってきたことを出せた」と笑顔で試合を回想した。
ファーストスクラムで相手を粉砕した。しかし、「ああいうシーンがあったとしても、(毎回同じことをしようと)焦らず、まずは自分たちの形で組むことにフォーカスしました」。
そのマインドがあったから、拮抗した試合展開でも慌てず、圧力をかけ続けられた。
チーム全体の充実を感じている。この日はシーズンを通して中核としてプレーしてきた選手たちを何人か欠く布陣だったものの、「まったく不安はありませんでした。なので、自分自身もいつも通りにプレーできた」。
対戦相手が「壁」と認めた分厚いディフェンスに関しては、「コミュニケーションを密にして、絶対に横の人とつながりながら動いています」と話し、特別なことでなく、シンプルなことを徹底して追求しているからこそ強固になっていると体感を伝えた。
約1か月前、同じ場所で30-10と完勝した相手との再戦にも、「サントリーは力がある。慢心はなく、しっかりした準備をしました。その成果を出せました」と、地に足がついた歩調で頂点に近づいている。

「2年前(2022-23シーズン)の優勝時はルーキーイヤー(2022年度新加入)で緊張していたし、初優勝で新鮮でした。あれから2年。いまは、あの時より落ち着いてプレーできると思います」
昨シーズン終了後にはニュージーランドのNPC(国内州対抗選手権)、ウェリントン代表に期限つき移籍で在籍し、同国チャンピオンに輝くなど、貴重な経験を積んだ。
その期間に「パススキルとかボールキャリーを伸ばせたと思います」という26歳は、日本代表選出についても、「(残るプレーオフの試合で)目の前のことをしっかり遂行していって選ばれたら嬉しいですね」とサクラのジャージーへの意欲も見せる。
ファウルア・マキシ主将は「これがプレーオフ」と表現し、痺れるような80分を勝ち切ったことで、チームが得たものは大きいとした。
172センチ、105キロの紙森もそのコンパクトな体にエナジーを詰め込んで、シーズンクライマックスに強烈なプッシュを爆発させる準備を進める。