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真紅のジャージーが、自分たちの時間を多く作った。
青い方は、藤井雄一郎監督が「負けたということは力を出し切れなかった」と話したように、やりたかったパフォーマンスを出せなかった。
5月17日、花園ラグビー場でおこなわれたリーグワン、ディビジョン1のプレーオフトーナメント準々決勝、コベルコ神戸スティーラーズ×静岡ブルーレヴズは、スティーラーズが35-20で勝利を手にした。
5月24日、秩父宮ラグビー場でおこなわれる東芝ブレイブルーパス東京との準決勝に駒を進めた。
今季のレギュラーシーズンで2度対戦し、ブルーレヴズが2勝したこのカード(第1節/15-13、第18節/29-23)。しかしこの日は、いつもと違う様相だった。
前半からスティーラーズがスクラムで優位に立つ。先制PGも、押し込んだスクラムから展開した後に得たものだった。

9分、相手ボールスクラムからの仕掛けでWTBヴァレンス・テファレにトライを許すも、スティーラーズはFWパックの奮闘で反則を誘い、レヴズに圧力をかけ続けた。
18分に得たペナルティトライも、スクラムで得たPK後のラインアウトから攻めたものだった(10-7)。
27分にはWTB植田和磨の好走からFLワイサケ・ララトゥブアがトライを奪う(Gも決まり17-7)。
38分にPGを返されるも、前半を17-10とリードして終えた。
後半、先手を取ったのはスティーラーズ。スクラムでの反則ではなかったが、ここでもレヴズからPKを得て攻め込んだのがきっかけなった。
ドロップアウト後のキックレシーブから攻め、最後はFB李承信が走り切った(Gも決まり24-10)。
11分にターンオーバーされたボールから切り返されてトライを許し(SH北村瞬太郎)、17分にはPGを追加されて24-20と迫られた。
しかし、スティーラーズは試合終盤を制して勝ち切った。
後半20分の直前には18フェーズを重ねるアタックも攻め切れなかったものの、30分過ぎにも攻め立てて反則を誘う。そしてなおも攻め続け、最後はSOブリン・ガットランドのキックパスをWTBイノケ・ブルアが受けて5点を挙げた。
真紅のジャージーはさらに2PGを追加してファイナルスコアを刻んだ。
スティーラーズは、終始プレッシャーをかけ続けて勝利を得た。
レヴズから18の反則を奪う。スクラムこそ後半は修正された感はあったものの、モメンタムを作り、一気に流れをつかむ相手の得意パターンに持ち込ませなかった。
殊勲者の一人は先発の3番、39歳の山下裕史だ。経験豊富なスクラムワークで押し込み、相手に強みを出させなかった。
後半7分に入替で渡邉隆之にバトンを渡すまで、強いプッシュを繰り返す。試合後は、「スクラムが多くて疲れましたが、いいプレッシャーをかけることができた」と気持ちよさそうだった。
自分に求められていることを、「いいスクラムを組む、あわよくばペナルティをとる。チームを(前へ)進める。ラグビーの本質、陣取りのところで先陣を切って引っ張っていくのが僕の仕事」と理解している。
100パーセント期待に応えた。

プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたSH日和佐篤も、チームの強みを引き出し、仲間に安心感を与える手綱捌きで勝利を手繰り寄せた。
雨が降ったり、上がったり。風が吹き、芝も滑った。プレーしづらいコンディションだった。しかし、「コントロールが難しいのはお互い様」とさらりと流し、「スクラムを本当に頑張ってくれた」とFWのパフォーマンスを称えた。
「お陰でめちゃくちゃやりやすかった。自分たちが用意したプレーができました」
37歳の9番は、「点を取れそうなときにはテンポをあげましたし、ゆっくりにしたいときにはそうしてバランスを取りました」と話し、巧みなゲームコントロールを淡々と貫いた。
経験豊富な選手たちが下地を整えたから、若い選手も思い切って動けていた。FB李のプレーはさすが。WTB松永貫汰の名前がトライスコアラーの欄に記されることはなかったものの、左コーナーに駆け込む寸前までいくこと2度。一つはペナルティトライを得て、2つ目のシーンは、直後のトライを呼んだ。
今季途中にアーリーエントリーでチームに加わった14番の植田もボールタッチが多く、決定機を作るプレーもあった。
「負けたら終わりという試合。緊張感ある中で、自分の持ち味を出せてよかった」と相好を崩した。
前週のレギュラーシーズン最終戦で敗れた相手との再戦も、「この1週間、自分たちのやるべきことをやれば勝てると信じて準備してきました」。
前半27分、FLララトゥブアが挙げたトライは、この人がパスダミーから抜けてビッグゲインした直後に生まれた。
固定スパイクで滑ったと苦笑しつつ、学生時代(近大)は苦手だったダミーの動きからの突破だった。大事な試合で新しい自分を出せたことについて、「神戸に来て成長できている」と説明した。

運動量も増えた。左右のサイドに関係なく走り回る姿があった。
「自分たちのシステム上、走らないといけないポジションです。空いているところにどんどん動いています。そのスタイルに必要なトレーニングもしているし、試合に出ているうちに、大学の頃は足がつっていたのに、それもなくなりました」
試合直前、ブロディ・レタリック主将から出た「自分たちから仕掛けていくぞ」の声に奮い立った。
試合中は、「14番でヤンブーさん側(3番)のスクラムが見えるのですが、僕の位置からでも相手が崩れていると分かりました。(試合前の予想では神戸の)スクラム劣勢と思っている人たちが多かったと思いますが、勇気づけられました」。
頂点まで、残るは2試合。短期決戦で大事なのはチームの結束と勢いだ。
スティーラーズに漂う空気が、いい感じに高まっている。