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どこでも走る。石井勇輝[レッドハリケーンズ大阪]
1996年2月27日生まれ。184センチ、96キロ。日体荏原→東洋大→NTTコミュニケーションズシャイニングアークス/浦安D-Rocks→レッドハリケーンズ大阪。セブンズ日本代表キャップ11。(撮影/松本かおり)
2026.03.19
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どこでも走る。石井勇輝[レッドハリケーンズ大阪]

田村一博

 自陣10メートルライン付近、右のエッジでパスを受けると一気に加速して走った。一度ブレーキをかけて、鋭く内へ。敵陣22メートルライン手前まで到達した。
 最後は止められるも、FL石井勇輝(6番)は大きなチャンスを作った。レッドハリケーンズ大阪はその後もアタックを継続し、最後はSO呉嶺太がトライラインを越えた。

 3月15日に釜石鵜住居復興スタジアムでおこなわれた日本製鉄釜石シーウェイブス×レッドハリケーンズ大阪(リーグワン ディビジョン2)は、最後まで競り合う好ゲームとなった。
 最終的に28-24のスコアで勝ったのは、大阪から長距離の移動を経て戦ったチーム。冒頭のトライシーンは、15-17で迎えた後半9分の逆転シーンだ。

 そのトライとコンバージョンキックで22-17とリードするも、その後、一時22-24とされる時間帯もあった。
 しかしラスト20分で2つのPGを追加して勝利を掴む。開幕4連敗と最悪のスタートを切ったチームは、これで4連勝。通算成績を4勝4敗の五分とした。

フォワードの周囲の選手たちに教わりながら、バックスの知識も伝える。(撮影/松本かおり)


 SO呉のトライに繋がる快走を見せた石井は、試合後に「ポジションはフランカーですがエッジ(グラウンドの外側)でプレーすることも多い。そこでボールをもらい、ゲインできたシーンもありました。その点はチームに貢献できたと思います」と自身のパフォーマンスを振り返った。
 また、「キックオフのときにしっかり競りにいってコンテストするのも自分の強みです。そこは出せたかな、と思います」と付け加えた。

 1年前も、このスタジアムでプレーした。2025年3月8日にシーウェイブスと東日本大震災復興祈念試合を戦い、その時に背負ったのは11番。WTBとして80分ピッチに立ち、トライも挙げている(試合結果は35-24でシーウェイブスの勝利)。

 そんな好ランナーがいまひと桁の番号を背負っている。
 コーチからの勧めとチーム事情を踏まえて決断した。

 今季第3節以降の全6試合に出場。花園近鉄ライナーズ戦ではWTB西川賢哉の代わりに出場し、その時以外はフォワードのリザーブとしてピッチに立った。今回のシーウェイブス戦が初先発だった(社会人になってのフォワードでの初先発でもある)。
 しかし、自分のカラーは失わない。「コーチからも、お前はエッジにいていい、それで持ち味が出せる、と言われています」
 その期待に応えた。

 ポジション変更は2025-26シーズンに入ってからだった。夏合宿中に打診されたこともあったがその時は断った。
 あらためての提案を受け入れることにしたのは、チーム事情と悶々とした気持ちがあったからだ。
 31歳のFL、花田広樹が脳震盪の影響で12月に引退を決めた。バックローに怪我人も相次いだ。
「そんな中でもう一度話をいただきました。自分も試合に出場できていなかったので、出られるなら(ポジションは)どこでもいいです、と答えました」

長身を使ってハイボールの争奪戦でも働く。(撮影/松本かおり)


 夏の打診を断った理由を「フォワードはしんどいからです」と、とぼける。
「スクラムやモールがきついのは分かっていますし、フォワードの練習はいつも長いなと思っていたので」
 でも、いまは「やり甲斐を感じながらやらせてもらっています」。

「自分しかできないというか、フォワードとバックス両方の動きができるのが持ち味です」
 フランカーでは自分の強みが、より鮮明になっていると感じている。

 リーグワン2022-23シーズンまでは浦安D-Rocksに所属していた。レッドハリケーンズでのプレーは今季が3季目。仕事とラグビーの両方をしたくて大阪を選んだ。
 2022年から2023年にかけてセブンズ日本代表でも活躍し、ワールドラグビーセブンズシリーズ9大会を含む11キャップを獲得した。2024年のパリ五輪への出場を目指していたがスコッドを外れたのを機にラグビーへの専心から、もともと自分の考えていた道を選択した。

 30歳。東洋大時代は関東大学リーグ戦2部が戦いの舞台だった。リーグワンへ毎年多くの選手たちを送り込む現在のチームとは「全然違います」というクラブでも、BKながらFWでもプレーしていた。
 今季もレッドハリケーンズを指導している伊藤宏明アシスタントコーチが大学時代にスポットで教えに来てくれた。その時、転向を促したと記憶している。

 そんな時もあったからFWはまったくの素人ではないが、トップレベルのチームのパックに加わるのだ。戸惑いは少なからずある。
「スクラムもそうですが、やはりディフェンスのところにギャップは感じます。体重が軽いので、きょうの試合でも相手のナンバーエイトなどに結構差し込まれたシーンがありました」
 箕内拓郎アシスタントコーチに「もっと強くタックルにいけ、と言われています」。

 いいお手本がいる。逆サイドのベテランFLは35歳。ブレイクダウンのスペシャリストの一人だ。
「佐藤大朗さんは、すごく低いプレーが得意です。強い人たちもいます。そういう先輩たちに教わりながら練習し、やっていこうかなと思っています」
 走力に強さも備われば、出場のチャンスはさらに広がる。

つかみどころのないキャラクター。場を明るくする。(撮影/松本かおり)


 学生時代とは段違いのFWのレベルの高さを「最初はラインアウトのサインなどが、呪文を言っているように聞こえました」と表現する。
「頭の中がこんがらがった状態でやっていました。いまはなんとか(サインも)覚えてやっていますがミスも出る。それを繰り返して学んでいっている感じです」

 松川功ヘッドコーチは、石井の転向について「サイズもあってフィジカル(の強さ)もある。シーズン序盤からなかなかバックローに人が揃わない中で、前に出られる人間が必要かな、と。スピードの緩急が(他のフォワードとは)圧倒的に違うのでアクセントになる」と話す。
 それだけではない。
「本人がポジティブだし、他のフォワードの選手は石井に分からないことを教えることで、それがプラスになっています」と付け加える。

 本人は、「フォワードはタックルやボールキャリーなど、プレーに絡む機会が多くておもしろいですよね。たくさんやることがあり、その分しんどいけど、やり甲斐がある」と言いながらも、「バックスに戻ってこいと言われたら戻ります。試合に出られればどこでもいい」。
 この人が走ればチームが元気になる。その理由が分かるような気がする。




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