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リスタート。前後半の開始を除くキックオフである。
スコアを与えた側からすると、失意のすぐあとに真ん中まで戻れて、敵陣へ蹴り込める。ゆえに「再起動」と訳したい。
同じ用語を、得点を遂げたほうの立場の言葉にしようと、さっき、試みた。挽回を期す連中を「再起動」させてはならない。うーん、なかなか単語にはならない。
思い浮かぶのは「ここでしくじったら、ちゃらじゃん」。関西圏では「じゃん」は「やんけ」となる。
先の日曜、3月1日の東京・調布のAGFフィールド。リーグワンのディビジョン3、クリタウォーターガッシュ昭島-ルリーロ福岡の白黒をリスタートが決した。
55-31の昭島の勝利。21歳の11番、オーストラリア・パース出身のカウリ・ティぺネグレースを切り札にライン攻撃が冴えまくり、背番号7、この日でリーグワン通算50キャップの中尾泰星主将のゆるみのない率先統率もあって、計8トライをものにした。

福岡もぶつかり合いでは引かない。5トライ獲得。なのに熱戦の印象が薄いのは、せっかくのスコアのあと、5度のリスタートのうちの3度をミス、たちまち失点したからだ。これでは「さあ、ここから」の機運は高まらない。
前半29分=トライとゴールで14-26と迫るも直後のキャッチはかなわず、Pを取り締まられてカードをもらう被トライ。後半23分=19-36として、こんどは捕球ののちの軽いつなぎを落球、スクラム→P→モールであっけなく失点する。
同29分=からくも望みをつなぐトライとゴール。なのに得点盤に「26-43」と掲示されて、さっそくのリスタートをまたもまたもやキャッチできず、P→クイックの仕掛けを許し、インゴールを明け渡した。
今季伸長気配のルリーロは、計「16」を数えるP、「どうしてもこいつに投げたい、絶対に俺に放れ、という確信」を欠くパス、繰り返すが、なによりも崩れに崩れたリスタートのレシーブで、ここまで1勝のみのウォーターガッシュに歓喜の歌をもたらした。
日本代表キャップ9の豊田将万HC(ヘッドコーチ)との立ち話で確かめた。
リスタートのぐらつきは、この試合に起きた現象? 元万能ナンバー8は、この人らしく正直だった。
「ずっと課題です」
わかってはいる。なのに修正や進歩は簡単ではない。高校でも大学でも、いかなるクラブや代表であれ、キックオフの攻守にそんな厳粛はつきまとう。
風や日光の気まぐれ、相手の秀逸なアイデアや周到きわまる準備やキッカーの精度などなど、対策の届かぬ領域が、次々と、からみつくのだ。
リスタートの守りのおそろしさとは、しばしば、よいプレー(スコア)の次のよくないプレー(捕球ならず)へ結びつくところにある。まさに、ここでしくじったら、ちゃらじゃん。タメ息のシーンがコーチ席で頭をよぎる。あっ。さほど低くない確率でそうなる。
わが広辞苑の黄ばんだページを繰った。
「ちゃら①ごまかしのことば。でたらめ。でまかせ。うそつき。ちゃらんぽらん」
散々だ。転じて、差し引きゼロの意味にも用いられる。

いま想像した。
3点を追う最終盤である。閃光のステップ。すれすれのオフロード。つないで、つないで、つないだ先に愛されるやつが出現。長く負傷に苦しみ、ようやく復帰できた苦労人の右プロップだ。ポスト下に感動の逆転トライ! 横一列の控えメンバーは肩を組み、涙腺を決壊させ、ピョンピョンと跳ねた。
待て。もうひとつ試練は残る。再確保狙いの短い距離のリスタートがくるぞ、くるんだって。仲間がポロリ。背番号3は律儀な性格のまま、こぼれ球をめがけて飛び込み、押し潰された。身動きはかなわず。つぶらなほどの瞳でレフェリーに懇願と恭順の意を示す。なのに無情の笛は響いた。
「タイテン、いまのは退転できる」
モール。かくして、ちゃら。監督は机の上を手で叩き、下のほうを黒の革靴で蹴る。バーン、ドン。世にも悲しい音だ。
上の数行を書いて気づいた。これは元コーチの消えてはくれぬ悔いの噴出なのだと。
四半世紀よりもっと前、都立国立高校ラグビー部は、当時の地区にあっての強豪、目黒高校や保善高校や東京高校によく挑み、よくリスタートに泣いた。地を這えば自慢の170㎝級の両ロックも、こと空中の体当たりでは分が悪く、ボールと勢いを持っていかれてしまった。
ルリーロ福岡がきっとそうしてきたのと同じように、しかと課題と認識、それなりの反復で向上を期した。でも小柄な公立校にあっても軽量の集団にとって、リフティングのない時代、空中でのサイズの大差を乗り越えるのは容易でなかった。
後年、下記のごとくすればよかった、と、悔いた。
キックオフ/リスタートに備える陣形を世界のどこにもないものとする。たとえば、ある年度なら、唯一、強い私学に対抗できる身体能力の15番が、ひとりきりで、右なら右の広範囲をやや後方よりカバーする。どこにどんなキックが飛んできても、そいつが必ずキャッチへ向かう。
前方のショートの仕掛けを警戒、観察力に富み、のしかかられても、いくらか時間を稼げる左プロップほか1、2名を立たせておく。
他のFWは、これだけ広い空間ならここをめがけるに違いない、あいつなら競り負けずにつかむ、そのときに駆け寄る距離や角度を後衛でイメージしておく。初見から数回くらいは蹴る者にも迷いは生まれるはずだ。

以上、机上の空論である。実戦の実験を経ていない。ただし、ただ、してやられるなら、こちらがましだ、とは本気で考える。
球技は、成功とそいつを阻む対策を繰り返しながら、歴史を刻む。ボール争奪に拘泥せずにスペースを幅広く埋める防御が席巻(1999年のワールドカップ制覇のワラビーズ=大会で奪われたトライはひとつ)、定着すれば、そいつを打ち破るアタックは考案される。すると前へ飛び出す守備術に傾き、さらなる攻略は始まる。パスの受け手を狭い空間に複層で散りばめる攻撃体系、昨今の空中バトル回帰も一環だろう。
しかし。高校ラグビーではままあるように「経験や体格など人材の層や環境においてターゲットとの開きが顕著」なら、循環の外に飛び出して、独自の戦法を創造しなくては、どのみち負ける。
2026年3月のキックオフのディフェンス時の一般的な人員配置が、およそ、高さや縦横の長さをまんべんなく埋める思考にもとづくのだとしたら、あえてガラガラにしてみる。適者がリフトに頼らず単身ジャンプ。あなたもどうぞ。とは記せない。ただ見てみたい。