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圧巻のパフォーマンスだった。
2月21日に神戸総合運動公園ユニバー記念競技場でおこなわれたコベルコ神戸スティーラーズ×埼玉パナソニックワイルドナイツで、スティーラーズが完璧な試合展開を見せて8節まで全勝だったワイルドナイツに土をつけた(40-24)。
スコアがそう極端に離れたわけではなかったが、試合の多くの時間でスティーラーズが「いいラグビー」を見せていた。
◆コベルコ神戸スティーラーズのラグビー様相。
〈アタックの基本構造〉
スティーラーズはアタックの基本構造として、ラックから直接キャリーする選手にパスをする9シェイプと呼ばれる選択肢をうまく活用していた。アタックの中で9シェイプで(ランナーを)浅く走り込ませることができており、パスが浮いている間に相手ディフェンスに詰められるデメリットを軽減し、結果、さらに前に出られる。
また、FWのアタック判断の中ではピックゴーもうまく活用していた。ワイルドナイツはここ数シーズンでラックに近いエリアでのディフェンスに難点があり(ヴェルブリッツなどはこのギャップをうまく活用していた)、ピックゴーで前に出られる可能性が高い。連続でピックゴーを狙うことで相手ディフェンスを崩し、焦らせることで、ペナルティやミスを誘っていた。
また、基本構造の中でもブロッカーと呼ばれる動きをうまく使っている。ブロッカーとは、相手のディフェンスラインに対して囮(おとり)となる動きを見せることでディフェンスの足を止める動きだ。スティーラーズはその動きで相手を完全に崩すことができていたわけではないが、内側の選手の足を止めることでディフェンスの間にスペースを作り出し、ランナーに走り込ませることがうまくいっていた。

〈1対1の強さとショートサイドの活用〉
スティーラーズは基本的に、接点の強さを戦略的に活用している。フィジカルバトルに持ち込んで相手に圧力をかけるため、積極的に接点を作る動きを見せた。
その戦略が生きるのがショートサイドへのアタックだ。
狭いサイドで数的優位を作ることができれば、ワイルドナイツは消極的な、少し受けに回るようなディフェンスをせざるを得ず、1対1の強さがあるスティーラーズが優位になる。ショートサイドであれば相手ディフェンスにはBKとFWの選手が混在しており、うまくFWを配置することができれば、質的な優位性も確保しやすい。
またSH、上村樹輝のパスワークによってショートサイドのアタックオプションを最大限活用することができていた。相手ディフェンスに厚みがあるラックに近いエリアではなく、ディフェンダー間の距離が広いエリアで勝負することができていた。
〈キック戦略とトランジション〉
スティーラーズのキックオフ戦略は、相手フィールドの中央近くに蹴り込む形だ。相手からするとボールを受けてすぐにボールを蹴り出す動きが取れず、それでいてタッチラインに近いエリアのようにFWの選手などが密集しているわけではない。相手のタッチ方向への蹴り出しにプレッシャーをかけることができていた。
相手のキックオフレシーブからの蹴り出しがインフィールドに残った場合、スティーラーズはカウンターを選択することが多く、ハーフウェイラインまで進むことができない場合も、次のフェイズを構造的に作ることで安定したアタックフローに持ち込んでいた。
アタックが不安定になっても、個々の力で前に出られる選手が揃っているのが大きい。
またトランジションという観点では、相手が少しこぼしたボールがことごとくスティーラーズの選手の手元に入り、一方で自分たちがこぼしそうな時は確保できたり、そういった意味でもいい流れを掴むことができていた。
特に後半最初に生まれた植田和磨のトライでは、上村がいい動きを見せていた。明らかに味方選手へのサポートコースではなく相手のタップバックを狙っており、ワイルドナイツの竹山晃暉のプレーへの分析ができていたように見えた。
〈ディフェンスの様相〉
ディフェンスも基本的には非常に堅さを見せていた。特に相手の9シェイプのようなFWの集団を使う選択肢に対して強気なディフェンスを見せており、相手を抱え込むチョークタックルなど、相手に能動的にプレッシャーをかけることができていた。
少人数で守る必要があるショートサイドをアタックされても、アーディ・サヴェアのような万能型で体の強い選手や、若手で体の強さを長所とするタリ・イオアサのような選手が並んでいたことで堅さを生み出していた。
一方で、ほんの少しの修正点、課題のようなものも見えてくる。
ブレイクダウンへ仕掛ける意識が強いことから、ディフェンスラインがやや密集してしまうフェイズが生まれている。その状況に対して展開を促すような動きも少なかった。ヒートアップする(攻防になる)と調整がうまくいかないかもしれない。
また、ディフェンスラインの後方、さらに後方のフィールドを守っている選手たちの前方のスペースは、何度かピンチに繋がっていた。このエリアにはどのチームも脆弱性がある。キックをうまく使われると一気に崩されるリスクがあるエリアだ。
特にワイルドナイツはロングキックを主体に使うチームでもあるので、後方をカバーする選手がかなり深い位置に並んでいるように見えた。ダミアン・デアレンデが作り出したトライの他に、野口竜司による再獲得を許すシーンもあった。そのエリアをカバーすることも求められる。
◆埼玉パナソニックワイルドナイツのラグビー様相。
〈基本的なアタック構造〉
ワイルドナイツは全般的にアタックで苦戦した。結果的に4トライを得たが、その内の3トライは特異的なトランジションやアンストラクチャーのようなトライだった。そのような局面でトライに持ち込むことができるのがワイルドナイツの良さではあるが、個人的には、フェイズを重ねてトライを取り切ることが少ないことにリスクも感じていた。
ワイルドナイツは全チームを網羅的に見ると、極端に接点が強いチームではないように見ている。相手の重心を崩すような精緻なアタックを繰り返し、小さなズレを揺り動かして大きなギャップを作るようなアタックだ。その分、一つひとつの接点で圧倒するシーンはあまり多くはない。
今回の試合でも、9シェイプや10シェイプで前に出るシーンは多くなかった。テンポが上がるようになった終盤はリズムが出てきていたが、平均的なテンポはあまりはやいわけでもない。相手ディフェンスのセットアップのサイクルを崩せていなかった。
また、普段の試合でも用いているブロッカーの質も、今回の試合ではあまり高くなかった。ブロッカーの意味と役割については前述の通り。ワイルドナイツのブロッカーは相手ディフェンスの足を止めることができず、配置が間に合わないケースもあった。
ショートサイドで用いることが多かったが、スライドしながらブロッカーを潜り抜けるように守るスティーラーズのディフェンスとの噛み合わせが悪かった。

〈接点と数的優位の構築〉
この試合でのワイルドナイツは、優位性が確保されていない状態で無理に崩そうとしていたように見え、結果的に接点の勝負になって、相手の圧力を受けていた。終盤に奪った野口竜司のトライに至るまでのフローのように、中盤での接点にこだわることをベースにしているときは、いいサイクルでアタックできていた。
しかし、相手ディフェンスの圧力を受けて接点周りのボールの動かし方が消極的で、崩しが効いていないのに展開をしようとして相手の圧力を受けるシーンが目立った。
接点にこだわって相手を密集させることができれば、崩すことができる実力は間違いなくある。
プレイメーカーが強い圧力を受けていたようにも見える。自分から無理に持ち込んでいるわけではないが、崩しが効いていない状態で展開しようとするので、なかなか数的優位が取れない。その結果として自分でキャリーせざるを得ない状態となり、エッジ方向への攻撃力が低下していた。
〈キック戦略とブレイクダウン〉
キック主体のゲームコントロールはそう悪くはなかった。ワイルドナイツの狙いとしては、おそらくキックでのエリアの取り合いの方が都合が良かったのではないか。相手を走らせ、スティーラーズの強みである接点での勝負の比率を減らそうとしていた、とも予想できる。
ただ、相手があまり蹴り合いに乗ってこないので、ポゼッションが移るだけで終わるキックシーンもあった。要所でのキックミスも痛い。プレー効率としては、その場でのハンドリングエラーと同程度の影響をもたらしていた。
ブレイクダウンを見ると、ボールキープの甘さが散見された。ラックに参加している選手が相手のプレッシャーに対して耐えることができておらず、SHが押し込まれるようにしてプレッシャーを受けていたり、隙間からターンオーバーを狙われたりしていた。キャリアーのボールを置く動き=プレイスメントも悪く、ラックからボールが転がり出たりすることでターンオーバーを許していた。
〈ディフェンス様相〉
ディフェンスの読み自体の質は高い。SHの小山大輝のような読みの鋭い選手はディフェンスラインの隙間を埋めるような動きをしたり、インターセプトからのトライに繋げたりもしていた。ワイルドナイツのディフェンスが構造的に崩されるシーンは、さほど多くなかったように感じる。
また、タッチラインに近いエッジエリアのディフェンスの読みも良かった。相手が外方向に展開してきた場合は裏に立つバックスリーの選手らが前に上がる。相手のアタックラインの人数に合わせて早い段階で前に出るので、スティーラーズに数的優位を作られにくくなっていた。
一方で、シンプルに接点で相手のキャリアーに差し込まれるシーンが目立った。中盤であれば致命傷にはならないが、ディフェンス時にペナルティがかさむことで簡単に自陣深くに入られるシーンもあり、少しずつ前に出られてトライまで持ち込まれた。相手をしっかりホールドすることができていない時もあり、オフロードパスを許すシーンもあった。
◆マッチスタッツを確認する。

それではまずマッチスタッツを確認していきたい。
敵陣22メートルライン内への進入回数は実はワイルドナイツの方が多い。9回の侵入に対して4回のトライと、平均値より少し高いスコア効率を見せている。スティーラーズのスコア効率は7回の進入で6回のトライと、非常に高い効率を見せた。
ここまでのスコア効率なら、試合に負けることはまずない。各試合全チームの平均で10回の進入回数は担保されている。この効率なら爆発的なスコアが期待できる。
キャリーとパスの比率を見ると、スティーラーズは平均値と比べパス比率はやや上振れ、ワイルドナイツはパス比率の大きな上振れを見せている。実際にワイルドナイツのプレーを見ると、パスが多かったように感じた。その点では主観的肌感覚と変わりない。
しかし、そのパスの多くが効果的なものではなかった。相手の圧力を避けるような消極的な判断だったようにも見える。
最も勝敗に影響した要因としては、ターンオーバーロストが挙げられるかもしれない。平均的な水準に収まったスティーラーズの12回に対して、ワイルドナイツは23回のターンオーバーロストを記録した。
今回は調査していないが、平均値から概算するワイルドナイツのポゼッションは40〜45回ほどと予想される。そのポゼッションのうち23回がターンオーバーロストで失われていると考えるとその影響力の大きさがわかるだろう。
タックル成功率は両チームともにいい成功率を見せた。スティラーズが平均値をやや上回った。ただ、実情としては似たようなタックル成功率で、スティーラーズの方が攻撃的なディフェンスを見せていた。単にタックルを成功させるだけではなく、相手を押し込むことに成功していた。
◆プレイングネットワークを考察する。

次にスティーラーズのネットワーク図(上図)を見ていきたい。
今回の試合でベースとなったのは9シェイプの多さだ。攻撃的で、安定感があった。多く用いるだけの前進効率の高さも見せており、それでいてポッドの裏の選手、バックドアへのパスワークも適宜交えていた。効果的なアタックに繋げていた。
また、ピックゴーもバランスよく用いた。こだわり過ぎることもなく、ゴール前でも9シェイプと合わせて用いることで、相手ディフェンスにプレッシャーをかけていた。
バックスラインへのボールの供給は比較的バランスが良かったように見える。SOの李承信へのパスが最も多いが、そこまで際立ったものではない。13番のアントン・レイナートブラウンは一定数ボールを受け、キャリーに持ち込んだり展開に貢献したりしていた。12番のイオアサは自らの得意とする領域を活かすようにキャリーを見せていた。

最後にワイルドナイツのデータ(上図)も確認していこう。
今回の試合では、ワイルドナイツのアタックフォーマットの割に10シェイプの比率が少なかった。
ブレイブルーパスほど特殊な配置をしているわけではないが、ワイルドナイツはもう少し9シェイプと10シェイプのバランスがいいアタックをしていた。どういった狙いかはわからないが、少し接点を作るエリアの判断を変えても面白かったかもしれない。
スティーラーズに比べると、ボックスキックやピックゴーといった選択肢の回数が少なかった。ワイルドナイツのベストゲームである第1節(12月14日)のブレイブルーパス戦に比べると少し回数が減っている。誤差のレベルではあるので、そこまで気にすることではないが、ワイルドナイツはピックゴーの判断が研ぎ澄まされると攻撃力が上がってくるようにも感じる。
バックスラインのパス比率は平均的な水準だ。誰かのレシーブ回数や選択肢が増えるということもなく、平均的な水準に回帰している。ただ、今回の試合では「普段通りの戦い方」ではなかなか勝利を手繰り寄せることは難しかったかもしれない。今後に向けてこの様相をチェックしていきたい。
◆まとめ。
スティーラーズにとっては、今シーズンここまでのベストパフォーマンスだったと言ってもいいかもしれない。得点効率が高く、接点で押し込み、最終盤の失点も最小限に抑えることができた。この試合展開に持ち込めば必ず勝てるという今後のビジョンにもつながるだろう。あえてプラスアルファの改善点を挙げるとすれば、最終盤の得点がない点か。最後まで一貫性を保ち、試合を支配していきたい。
ワイルドナイツは8連勝ののち、ついに敗れた。ここまで苦戦もあったため、いつか敗れるタイミングが来ることは明白だったように思う。ただ、ここからの立て直しに長けているチームだ。主力の移籍や引退で再建に近いチームの変革を伴う中で、後半戦に向けて修正していきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
