Keyword
メジャーリーグ・ラグビー(以下、MLR)は、北米におけるプロラグビーの確立を目指し2018年に発足した。しかし、野心的な急拡大戦略は、深刻な財政的な脆弱性を抱えており、2025年のオフシーズンにリーグは壊滅的な「緊縮の危機」に直面している。
本記事では、MLRの創設から2025年の大規模なチーム活動停止に至る経緯について記載する。
2025年シーズン終了後、リーグは11チームからわずか6チームへと、ほぼ半減する事態に陥った。この崩壊は、ノラ・ゴールド(NOLA Gold/ニューオーリンズ・ゴールド)による選手への契約不履行問題に象徴される、リーグ全体の構造的欠陥を露呈させた。
2回に分けて掲載する記事。今回はリーグの歴史をおさらいするとともに、近年の動きについて書いた。
◆アメリカにおけるプロラグビーの歴史。
アメリカにおけるプロラグビーリーグの歴史は、2016年に発足した「PRO Rugby」から始まる。
このリーグは、ニューヨークの投資家ダグラス・ショニンガーによって設立され、アメリカ初の完全プロリーグとしてUSAラグビーおよびワールドラグビーから独占的承認を得て始動した。
しかし、その構造はリーグ全体と全チームを個人が所有する「完全中央集権型オーナーシップ」という形だった。開幕当初は一定の注目を集めたものの、すぐに選手への給与未払いや会場使用料の滞納といった放漫経営が露呈し、運営実態は急速に悪化した。
さらに、独占権の解釈やマーケティング業務を巡って統括団体であるUSAラグビーとの信頼関係が完全に決裂し、泥沼の法廷闘争へと発展した結果、リーグはわずか1シーズンで全選手の契約解除と事実上の解散を余儀なくされた。
このPRO Rugbyの短命な幕引きは、一個人の資金力と意欲に依存するガバナンスの限界を浮き彫りにし、のちのMLRが採用する組織構造に影響を及ぼすことになった。

◆メジャーリーグ・ラグビーの創設と構造的危機。
PRO Rugbyの失敗から学び、より持続可能なモデルを目指して2018年に発足したのがMLRだ。
①創設の経緯と「シングル・エンティティ」モデル
MLRは、既存のアマチュア強豪クラブ(グレンデール・ラプターズ、ラグビー・ユタやシアトル・ラグビー・クラブなど)や地域の投資家グループが主導して設立された。初代コミッショナーには、メジャーリーグ・サッカー(MLS)のレアル・ソルトレイクでCEOを務めたディーン・ハウズ(Dean Howes)が就任した。
ハウズの主導により、MLRはMLSを模倣し、リーグ(MLR LLC)がすべてのチームと選手契約を保有する「シングル・エンティティ(Single-Entity:単一事業体)」構造を採用した。各チームの「オーナー」は、法的にはリーグの株主(投資家兼運営者)であり、特定地域でのチーム運営権を持つ形だ。
②拡大路線とその代償(2019年〜2024年)
2018年に7チームで開幕したMLRは、急速な拡大戦略をとった。2022年にはカナダのトロント・アローズを含む13チーム体制となり、マーア・ノヌ(サンディエゴ・リージョン)やマット・ギタウ(LAギルティニス/RFCLA)といった世界的スター選手を獲得してリーグの知名度向上を図った 。
日本からも、瀧澤直(現NECグリーンロケッツ東葛)、畠山健介(元日本代表、サントリーサンゴリアスなど)、山田章仁(元日本代表、現九州電力キューデンヴォルテクス)が参戦していた。
しかし、この拡大傾向は、MLRの持つ脆さを解消しないままだった。
各チームは年間数百万ドルの赤字を計上しており、その補填は各フランチャイズのオーナー個人の資産に依存していた 。資金力に優れた「パトロン」に依存するモデルは、オーナーの本業が傾くか、あるいはラグビーへの情熱(投資意欲)が冷めた瞬間にチームが破綻するリスクを孕んでいた。
実際、2020年には、MLR初年度に決勝にも進んだコロラド・ラプターズ(Colorado Raptors、結成当初はGlendale Raptors)が、2022年にはオースティン・ギルゴロニス(Austin Gilgronis)とロサンゼルス・ギルティニス(LA Giltinis)が、2023年にはその年のMLR優勝チームであったラグビー・ニューヨーク(Rugby New York)とカナダ唯一のプロラグビーチームであったトロント・アローズ(Toronto Arrows)が、2024年にはダラス・ジャッカルズ(Dallas Jackals)がリーグからの撤退を表明した。
③破綻の連鎖(2025年)
そして、2025年シーズン終了後、類をみない5チームの撤退が起こった。
●カリフォルニアの合併(2025年7月)
創設チームの一つであるサンディエゴ・リージョン(San Diego Region)と、アトランタから移転してきたラグビー・フットボール・クラブ・ロサンゼルス(RFCLA)が、2026年シーズンに向けて単一の新フランチャイズ「カリフォルニア・リージョン(California Region)」として合併することが発表された。
●ノラ・ゴールド(ノラ・ゴールド(NOLA Gold))の撤退(2025年7月)
2025年7月30日、創設チームであるノラ・ゴールド(ノラ・ゴールド(NOLA Gold))が活動を停止し、2026年シーズンに参加しないことを発表した。
●マイアミ・シャークス(Miami Sharks)の撤退(2025年8月)
2025年8月6日、2024年に加盟したばかりのマイアミ・シャークスも2026年シーズンからの撤退を発表した。
●ヒューストン・セイバーキャッツ(Houston Sabercats)の撤退(2025年9月)
2025年9月11日、MLR発足時から存在してきたチームであり、2025年のチャンピオンシップ準優勝チームでもあったヒューストン・セイバーキャッツが、衝撃的な撤退を発表した。
●ユタ・ウォリアーズ(Utah Warriors)の撤退(2025年11月)
2025年11月4日、MLR発足時から存在してきたチームであるユタ・ウォリアーズが、新規投資の取引不成立を理由に2026年シーズンの活動停止を決定した。

この壊滅的なオフシーズンを経て、2026年のMLRに残されたのはわずか6チームである。
シアトル・シーウルブズ(Seattle Seawolves)
カリフォルニア・リージョン(合併新チーム/California Region)
シカゴ・ハウンズ(Chicago Hounds)
ニューイングランド・フリージャックス(New England FreeJacks)
オールドグローリーDC(Old Glory DC)
アンセム・ラグビー・カロライナ(Anthem RC)
この崩壊の深刻さは、2018年のリーグ発足時に参加した7つの創設チームのうち、2026年時点で独立した組織として存続しているのがシアトル・シーウルブズ(Seattle Seawolves)ただ1チームであるという点からも明らかだろう。これは健全な経営判断に基づく「縮小」ではなく、2018年に構想されたリーグのビジネスモデルが、連鎖的に破綻しているといえる。
次回は、実際の現場スタッフの声も聞きながら、リーグの現状と未来について深掘りしていく。