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最終的に1点差となった激戦の末に勝利を得た。
ホストチームが今季開幕からの連勝を6に伸ばし、熊谷ラグビー場にはいい空気が流れていた。
1月24日におこなわれた埼玉パナソニックワイルドナイツ×東京サントリーサンゴリアスは31-30。プレーヤー・オブ・ザ・マッチには、ハードワークを80分続けたワイルドナイツのLOエセイ・ハアンガナが選ばれた。
試合後、その表彰がおこなわれたのに続いてセレモニーが催された。前節の試合でワイルドナイツキャップが150となった稲垣啓太を祝福するものだ。
マイクを握ってファンへ感謝の言葉を伝えた本人に花束が渡される。プレゼンターは妻の貴子さん。そのサプライズに稲垣の表情は緩み、穏やかな空気の中で記念写真撮影がおこなわれた。

この日、後半13分から途中出場でピッチに立った稲垣は、27分のプレータイムの中でスクラムを組み、ラインアウトで働き、5回のボールキャリー、8タックルと、積極的に動いた。
今季はすべて途中出場ながら開幕からの全6戦に出場。好調さを示している。
試合終了からしばらく時間が経って、取材陣が待つミックスゾーンに姿を現した稲垣の鼻は血まみれのままだった。取材終了後には、「縫ってきます」と言って部屋を出て行った。
受傷のシーンについて「スパイクが降ってきたのは覚えています」と言った稲垣は、節目のセレモニーについて、「(前節の)試合へ向けてのミーティングでいきなり言われ、あ、150なんですね、という感じでした。きょう、セレモニーがあるのも知らなかった。奥さんも、仕事って言っていましたし」
「こうやって、自分が愛したチームに愛されるのは光栄ですね」の言葉がスッと出るのが素敵だ。
自分の仕事があるので応援に行けないと言っていた妻が突然現れて驚いた。そして花束を受け取る時、ふたりで言葉を交わした。
「鼻、やばくない? と」

「びっくりしたんですよ。(妻は)お仕事だと思っていたので。すごく嬉しかったです。なんかそわそわして、緊張しましたけど妻の顔を見た時、感謝の気持ちを強く感じました。妻だけじゃなくチームにも感謝、サポーターの人たちにも感謝です。『150』の看板を作ってくれたりね。みんなが声をかけてくれたりして、自分ひとりでラグビーやっているんじゃない、と強く感じました。何十年やってきて、感謝の気持ちを忘れないようにしようと、あらためて思いました」
感謝の気持ちを持つことの大切さは、野球少年だった頃から叩き込まれたと振り返って続けた。
「小学校の頃からずっと言われてきました。自分ひとりでできることって、たかが知れている」
これまで多くの人に助けてもらったから、「自分も何かあったら周りの人、身近な人を助けられるようにしたいし、チームをサポートしていきたい」とした。
普段は試合後、ピッチ上で起こったことについて理路整然と話す。35歳のベテランはこの日、チーム愛をたくさん口にした。
「150か、って、ちょっと感慨深いですね。自分が(この先)ラグビーやる時間は、そんなに長くないと思っています。その中で、自分が自分がというより、自分がチームに何を残せるか、チームにどれくらい貢献できるかを第一にやっていきたい」
「矛盾していると感じるかもしれませんが」と前置きして、「それにはまず自分のやるべきことやらないと」と言う。
「そうでないと、チームには何も残らない。自分のためにやっていることが回り回って、いろんな人のため、チームのため、しいてはサポーターのためになればいいと思っています。そこは変わってないですね。1年目から、13年目のいままで」

「いい考え方をこのチームで、いろんな人に教えてもらってきました」と話し、フロントローの先輩である相馬朋和氏(現帝京大監督)をはじめ、ベリック・バーンズBKコーチや霜村誠一さん(桐生第一高校監督)、北川智規さんらワイルドナイツOBや、現在はエグゼクティブアドバイザーで昨季まで監督だったロビー・ディーンズ氏の名前を挙げた。
「いろんな方の背中を見てきました。いろんな方からメッセージももらい、自分にとってはすごく素敵な日になりました」
2013年度の春、関東学院大からチームに加わった。大学時代、まだ三洋電機ワイルドナイツ(2010年度まで)だった頃の先輩たちのパフォーマンスが好きだった。「すごく楽しそうだった」と思い出す。
「僕は、楽しい、楽しくないでラグビーをやってないとずっと言っているのですが、学生の頃に見た三洋のラグビーっていうのは、すごく楽しそうで、自由だなっていう印象を受けたんですよ。現代ラグビーはシステマチックになっていて、やれ役割だの、決め事だのいろんなことが決まっていて、ガチガチだと言われていますが、その中でやっぱりラグビーは自由だ、っていうのがうち(のラグビー)。自由なんですけど、自由には責任がすごく伴う、っていうのを理解できています」
「自由にやるには、自由にやったときの責任を取らないといけない」と続ける。
「試合になれば、同じシチュエーションになることなんてありえない。それを踏まえて臨機応変な対応が求められる。だから、堀江(翔太)さんがキック蹴ったっていい。僕がキックを蹴ってもいい。ま、蹴らないですけどね。自分の役割の中でどう自由にやっていくか。自由にやった結果がチームにとっていい結果をもたらすのか、もたらさないのか。もたらさないのであれば、それはただの自己満なんです。そこを履き違えている選手は試合に出られない」

ワイルドナイツが伝統とする、自由で強く、勝つラグビーの実現を追い続ける。
その先に、チームにとっては優勝が待っている。この日のサンゴリアス戦で今季は6戦全勝。リーグで唯一の無敗チームとなった。いい感じ。
そして、チームの躍進と自身の好パフォーマンスが続けば、それは赤白のジャージーが近づいてくることにもつながる。
日本代表への愛情も口にした。
「呼ばれたら行きますよ。当たり前じゃないですか。そういう場所じゃないといけないと思っています。呼ばれても行きたくないから行かないなんて、そんな集団であってはいけない。呼ばれないってことはパフォーマンスが悪いだけ。呼ばれるようにやるだけですよ。それが結果の世界。それだけです」