ホストスタジアムで勝った。
1月17日、リーグワン2025-26における磐田での初勝利を静岡ブルーレヴズが得た。
三菱重工相模原ダイナボアーズを相手に47-36。最後まで差が開かなかった展開に、スタンドからは歓声が沸き上がったり、ため息が漏れたりした。
そんな展開だったから、フルタイムを迎えた時は盛り上がった。
試合後の記者会見、藤井雄一郎監督の舌も滑らかだった。
「(2節、3節と)ホームで2回負けて申し訳ない気持ちでした。この試合も自分たちのミスで苦しんだところもありましたが、勝てて良かった。次につながる」
前半10分にCTBシルビアン・マフーザがレッドカード(まずイエローカードが出て、オフフィールドレビューによりレッドカードに。しかし再検証の結果、1月22日にイエローカードとなる)を受け、数的不利な時間帯も少なくなかった。その中で勝ち切った点に触れ、「14人になった時の練習もしていました。選手たちが、それを遂行してくれた。あの時間帯が、いちばんディフェンスが良かった。15人じゃない方がいいのかな」と取材陣を笑わせた。

試合終了直後、くたくたになったHO日野剛志が、ピッチサイドのベンチに座っていた。
「勝つことは、本当に難しいです」
ベテランがそう呟いた試合展開は、両チーム合わせて12トライ。前半だけでリードする側が4回変わり、ハーフタイム時はダイナボアーズが2点リードだった。
後半35分で13点差がついたと思ったのに、残り1分のところで6点差に詰められる。突き放したのは最後の最後だった。
しかし、天秤が大きく揺れた80分には、レヴニスタと呼ばれるファンを笑顔にする話題がたくさん詰まっていた。
プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれたCTBセミ・ラドラドラは2トライを挙げただけでなく、ファンタジスタの要素を存分に発揮した。
トリッキーなパスで好機を広げる。巧みに仲間を走らせる。
試合後は、「周りの選手のハードワークがあったからうまくいった」と謙虚に勝利と活躍を喜んだ。

リーグワン出場2戦目、この日が初先発だったSO筒口允之は、試合前日に「緊張しています。夜は考えすぎないように、同期といつも通りに過ごそうと思います」と言っていたのに、試合が始まれば思い切ってプレー。トライ+2G1PGと活躍した。
本人の自己採点は「40点」と低く、「ゲームコントロールなど課題のほうが多かった」と反省も、藤井監督は、「80分間、ベテラン選手に助けられながらやり切ったのはいい経験」と話した。
長いキック、積極的なパスワークは、今後さらに伸びそう。
「自分で前に出られそうな時も、最後は8人で固まって押し切ることが大事」など、スクラムを極めるために2024-25シーズン途中にアーリーエントリーでチームに加わったPR稲場巧は、この試合でも相手に圧力をかけ続けた。今季初出場のWTB矢富洋則はハイボール処理、ディフェンスと、期待されたエリアで力を発揮。チームの総力を結集し勝利をつかんだ。
そして、この試合に並々ならぬ思いで臨んだのがLOのマリー・ダグラスだった。
幸運なことにヤマハスタジアムでレヴズキャップが50に到達する36歳は、キックオフ前、選手たちの先頭に並び、ピッチの中まで駆け込んだ。
「気持ちが高まっていました。(ピッチの中で)深呼吸をして、いつもの気持ちに戻った。特別な日。家族やスコットランドの友人たちが見ている中で勝てたのはよかった」と胸中を言葉にした。

チーム最年長のセカンドローはスコットランドの中部、エディンバラから見ると、フォース湾を挟んで対岸にあるファイフの出身。アバディーン大学で法律を学び、弁護士資格も持っている。
2020年度からチームに加わり、今季が6シーズン目となる。
歩んできた道がおもしろい。
法律の勉強とラグビーの両立をクラブチームで実現していたダグラスは、スコットランドに2チームしかないプロチームでのプレーは思うようにならず、2012年に1試合出場しただけで途切れる。その後の詳細は、スコットランドの『The Herald』紙、ケヴィン・フェリー記者が書いた記事に詳しい。
25歳時、オーストラリアのメルボルンにて週に50~60時間ほど弁護士として働いていた。
プロへの扉が開いたのはその時。同国の国内選手権を戦うメルボルン・ライジングから「練習に参加しないか」と声がかかった。ラグビーへの情熱があったダグラスは勝負に出る。
貯金を切り崩しながらの生活の中で必死に練習、アピールした結果、当時のスーパーラグビーで活動していた、レベルズとの契約を結ぶことができたのだ。
ただ怪我もあり、その契約はすぐに終了。レベルズでの出場は3試合に終わるも、ニュージーランドのノースランドでプレーする機会を見つける。そこでの活躍が、ハリケーンズ入りに繋がった。
オールブラックスが何人もいるチームに加わって得られた刺激について、その記事中で、「最初の全体ミーティングを覚えています」と切り出して語っている。

「各自がそのシーズンに達成したい目標を書いたのですが、全員がスーパーラグビー優勝と書いていました。2位でも失敗という環境に入ったのは本当に印象的でした。シーズンを通して選手同士が強く責任を求め合っていました」
その後、ブランビーズでの2季、エディンバラでの短期契約を経て、静岡の地へやって来た。
ダイナボアーズとの準備が始まる週のはじめ、ダグラスは仲間たちの前で、「自分にとっては特別なキャップになる試合。誇らしい」と話したという。
「最初の1、2年は怪我もあり、あまり試合に出られませんでした。だからその頃は、ここまでやれるとは思っていませんでした。でも、ここが自分にとって、キャリアの中で1番長くいるチームになりました。家族も、クワッガら他の仲間も、磐田が好きなんです」
年齢とキャリアを重ねるうちに、チーム内での自分の立場も変わってきた。「年齢を重ねるということは、経験を積むこと。タフな時間を過ごしてきた中で、学んだことがある。若い選手たちが試合や練習の中で難しいシーンに直面した時、自分の経験を共有し、サポートするのも自分の役割と思っています」という。
そんなことが言える人間性があるから、試合前日には「自分のパフォーマンスというより、チームを勝たせるプレーをしたい。特にワークレートを高く、セットプレーで役割を遂行します。50キャップは気にせず、チームプレーに徹したい」

実際、試合でよく働いた。
いつもの安定感あるプレーに加え、前半36分にはトライも挙げた。相手キックオフのレシーブから攻めたアタックの中で、忠実なサポートプレーからトライラインを越えた。
「ボールに多くタッチし、チームに勢いを出すプレーができた。ファンの歓声は聞こえました。仲間の声も」
トライ時のチームメートの祝福が荒っぽくて「脳震盪になりそうな衝撃だった」と相好を崩した。
「試合に勝った。それが1番大きいと思います。勝たないと特別なものにならなかった。50キャップ(の喜び)は、勝利のおまけについてきたものです」
人格者。それは、ラインアウトについてともに追求する人ほど深く知る。同じLOの桑野詠真も、その人柄に惚れる。FWプレーを担当する長谷川慎コーチは昨季終了時、「いろいろと一緒にやってくれた」と、個人的にウイスキーを贈り、感謝の気持ちを伝えた。
磐田で今季初勝利を挙げた試合のあと、ダグラスは「チームがいい方向に進んでいく兆しが見えた」と言った。
チームのエンジンであるFWの真ん中で得たその感覚が正しかったと、次戦、1月25日にヤマハスタジアムでおこなわれるトヨタヴェルブリッツ戦で証明したい。