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4節終了時点でD-Rocksは5位、ブレイブルーパスは4位。1月17日に秩父宮ラグビー場でおこなわれた一戦は、実は第5節に行われたD1の試合のうち、最もチーム間の順位が近い顔合わせだった。
D-Rocksは昨シーズン、最下位と沈んだ。しかしながら今シーズンは上位陣に対して良い結果を残したり(静岡ブルーレヴズに勝利)、チームの調子の良さを感じる。
ブレイブルーパスは開幕節こそ埼玉パナソニックワイルドナイツに大敗を喫したものの、2節以降は若干の不安定性を抱えながらも勝利を重ねてきた。
そんな両チームの試合は、各チームの戦略性がよく見える試合となった。
◆浦安D-Rocksのラグビー様相。
〈好機となったハイボール戦略〉
D-Rocksのアタックのなかで最もうまくいった要素は、ハイパントやボックスパントといった、いわゆるハイボール系のキックを蹴り込む戦略ではないかと思う。ラックからSHの2選手が蹴り込むキックに対し、WTBの選手たちが良い反応を示していた。
ハイボールを再獲得できると、相手のディフェンスは乱れることになる。ちょうどディフェンスのフロントラインとなる線形のディフェンスラインの裏に蹴り込むことが多く、フロントラインは下がりながらそのキックを見ることが必要となる。
逆に深いキックをカバーしていた選手は大きく前に出なければいけない。その結果としてキックが蹴り込まれた位置に対して相手チームの多くの選手が集まることとなり、ハイパント系のボールを再獲得することができれば、その後の展開でさらに大きなチャンスを獲得できることが多い。
D-RocksのWTB陣はハイボールの獲得スキルが非常に高く、空中での競り合いで勝って取り切ったり、味方方向に対してタップすることでチャンスの創出に貢献していた。
しかし、全体として若干の不安定性が残っていることも確かだ。パント系のキックの距離が長めだったことで相手に安定して再獲得され、キックリターンに強みのあるブレイブルーパスに対して少し後手に回っていたようにも感じた。
〈アタックの不安定性〉
アタック全体に関しては、良いモメンタムを生み出すことができていた。接点に強い選手を揃え、その選手たちを生かすような形を組み立てていた。
特にキーになったのは12番のサミソニ・トゥアや13番のシェーン・ゲイツといったCTB陣の選手だ。共に接点の強さと「気の利き方」に特徴がある選手で、単にアタックラインに参加してキャリーするだけではなく、ピックゴーといった、ラックからダイレクトにボールを持ち出すようなアタックにも貢献していた。

ピックゴーはその前のフェイズでゲインができた時に特に効力を発揮する。ディフェンスはラックの近くではなく外方向の展開を狙う相手を抑えようとする動きをとり、かつラックの近くに立つべき選手は、そもそもラックに巻き込まれていることが多い。そのため、その一連の動きの中でディフェンスがラック近くに立っていなければピックゴーでチャンスを作ることができる。
一方で気になったのが、アタックラインの不安定さだ。アタックラインは主に9シェイプや10シェイプといったポッドとBKによる線形のライン構造から成り立つ。できればポッドはある程度揃えておいた方が、アタックの選択肢になり効果が出る。しかし、D-Rocksはこのポッドの配置が少し不安定になっていた。
特にモメンタムを作り出すときに使っていきたい9シェイプ、ラックから直接ボールを受けるポッドが不安定だった。ゴール前では9シェイプを揃えるのがやや遅れ、結果的に効果の薄いBKによるアタックラインに展開したりしていた。また、テンポを上げていくと徐々に9シェイプの構築が遅れ、本来望ましい3人1組ではなく2人でのポッドになることがあった。
〈ディフェンス戦略〉
ブレイブルーパスを相手にしたディフェンスで重要になるのが、10シェイプへのプレッシャーだ。ブレイブルーパスは、プレイメーカーのリッチー・モウンガからボールが動く10シェイプによってリズムを作り出していく。
しかしD-Rocksは、全体的に10シェイプに対して少し受けに回っていたように見えた。プレッシャーが少し甘くなると、10シェイプや10番周辺の選択肢を使う時間的、位置的余裕が生まれる。その結果として自由に動かれ、外方向に展開される形となった。
また気になったところとしては、選手ごとのディフェンス戦略の違いだ。ディフェンス時に前に出る選手と受けに回る選手、裏のエリアをカバーするように移動する選手など、戦略のブレがあった。その結果としてディフェンスラインにギャップが生まれてしまっていた。
個々人の戦略がうまくハマるようなシーンもあったが、全体的に不安定だったようにも見えた。
◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。
〈ポッドアタックの様相〉
基本的なポッドの配置としてはエッジから1人-3人-2人-2人といった配置が見られていた。相手の足を止めるブロッカーとして2人ポッドを使ったり、エッジ側の2人ポッドを1人のユニット2つに分けたり、階層構造を細かく作るようなシステムを使いこなしていた。
一方でポッドを使ったアタックの特徴としては、4人ポッドを好んでいることが挙げられる。9シェイプでも10シェイプでも用いられているが、4人の選手が並んでいる形を好んでいた。
最初に生まれたラインブレイクでは、キックオフレシーブからのフェイズで9シェイプに4人ポッドを用いている。内側から3人目の選手がボールを受け、4人目の選手が鋭く角度をつけながらティップオンパスを受けに向かう。裏のアタックラインを抑えようとする選手間のギャップを突いて大きくゲインを果たしていた。
リズムが出てきた後のポッドを使ったアタックではティップオンで細かい接点のズレを作っていた。ティップオンを狙うブレイブルーパスに対し、D-Rocksがそれを抑えるような動きを見せればそのまま外方向にボールを展開したり、バランスのいい運用をしていた。
ポッドは相手の人数を寄せることに用いられており、相手のディフェンスラインとアタックラインの人数比の噛み合わせが悪い時は、狭いサイドにポッドを配置することで相手の密集度を調整していた。中盤でのアタックでは10シェイプを使うことでBKをラックに巻き込み、外側のディフェンスラインのスピードを抑える=スピードのある選手を中盤に寄せることにより、外側で質的優位を担保していた。

〈10番の配置と展開力〉
ブレイブルーパスのアキレス腱、強みであり弱みにもなりうる要素とは、10番のリッチー・モウンガだ。圧倒的な司令塔であり、走力と展開力、キックの判断にも優れた選手でもある。しかし彼のプレーが封じられると、ブレイブルーパスの攻撃力は低下する。
この課題に対しブレイブルーパスは、10番の位置を変えるという戦略を用いていた。ラックからの最初のレシーバーを他の選手にすることで、モウンガの位置取りを切り替えていた。そうすることでモウンガが有する圧倒的な質的優位性をより外方向に活用することができる。
基本的に判断力の質や選択肢の幅は外側になる程少なからず落ちていくことになる。司令塔であるSOの近くが最も多い選択肢は、外方向にかけて徐々に少なくなっていく。しかし、10番の位置関係を外方向にずらすことによって、その判断や選択肢の質の落ち方をグラデーションで緩くする狙いがあると考える。
また、モウンガがラックの近くにいるケースに、モウンガをダミーにして外方向に展開する形がある。モウンガをノミネートから外すという行為は、彼の実力から考えるとナンセンスだがその結果、最大の矛でもあるモウンガが最大の囮になる。
〈課題になりうる要素〉
あえて課題になるような要素を挙げるとすれば、相手のキックオフに対する獲得率がそこまで高くはないという点がある。数値自体は後述するが、ハーフラインから近い位置(浅めに)に蹴り込まれたキックオフに対して、相手のハイボールに強い選手のプレッシャーを受けることになった。
キックオフは、自分たちが獲得したスコアに対して相手がキックオフを蹴り込んでくる。基本的には蹴り込まれた側が獲得することができる。それをどれだけ奥に蹴り返すことができるか、といったところから相手ポゼッションが始まることになる。
しかし、相手キックオフを相手チームが獲得することにより、自陣側で相手ポゼッションが始まるリスクと、インプレーの中で相手ポゼッションが始まる。つまり一種の攻守交代=トランジションが起きるということだ。トランジションであればディフェンスの整備も遅れ、相手のチャンスにも繋がる。
◆マッチスタッツを確認する。
それではマッチスタッツを見ていこう。

ポゼッションはほぼイーブンという状態になっているが、テリトリーはブレイブルーパスが大きく上回ることとなった。60パーセントをどちらかのチームが獲得することはそう多くはなく、63パーセントとなると滅多に見ない数値だ。ペナルティ数がほぼ同水準であることを考えると、効果的にテリトリーを取ることができていたと考えられる。
敵陣22メートル内侵入の回数もブレイブルーパスが上回ることになった。侵入回数の半分くらいトライできるのがブレイブルーパスの平均水準と考えると、もう少し取りたかっただろう(この試合でブレイブルーパスは6トライ)。しかし、安定したスコアにはつながっていた。
D-Rocksは、10回の侵入に対して3本のトライ。少し課題となるところだ。
キャリーやパスの比率を考えると、D-Rocksはキャリー優位、ブレイブルーパスはややパス優位といった数値を示している。
D-Rocksは9シェイプを多く用いていることもあり、キャリーの比率が多くなったことが予想できる。ブレイブルーパスは、10シェイプの比率が多く、パスの比率も多くなっている。
ターンオーバーは両チームともに非常に多い数値を示した。一般的には10回前後が平均的な数値だったが、今回の両チームはそれぞれ20回前後の数値を示した。かなりのハンドリングエラーがあった。
◆プレイングネットワークを考察する。

それではD-Rocksのネットワーク図を見ていこう。
目立つところでは、9シェイプが多く用いられている。一方で10シェイプがそこまで用いられていないことから、パスを介さずに接点を作り、ある程度前に押し込みながらキャリーをすることを狙っていたと想像できる。
BK陣へのパスワークとしては、4人の選手への展開だった。10番のオテレ・ブラックの他にも、15番の山中亮平らがボールを受けている。12番13番に関してはキャリーを選択する回数が多く、プレイメーカー役というよりも、少ないパスでアタックのキーになる選手にボールを供給していた。
また、ボックスキックが多かったことが好機を作った一つの要素として挙げられる。試合の流れとしてボックスキックが10回を超えることはそう多くないように感じる。D-Rocksはいい運用をしていた。

ブレイブルーパスのアタックは、今シーズン初期と比べると、徐々にファーストレシーバーのバリエーションが増えているように見える。固定化されたプレイメーカーに依存することなく、さまざまな選手がボールを受ける形をとっていた。
一方で、依然としてモウンガのレシーブ回数は多く、10シェイプが用いられる回数も多い。この領域に関してはブレイブルーパスの哲学なのだろう。
◆まとめ。
D-Rocksはハイボール再獲得の質の高さ、接点の強さという要素で相手との勝負に勝ち、いい試合を作り上げることにつながった。あとは敵陣への侵入というチャンスをスコアに繋げるだけだ。
ブレイブルーパスは少しずつ特定の選手に依存しないような戦略性を見せるようになった。未だ課題になるようなシーンも散見されるが、主力選手の復帰を伴って改善を狙っていけるだろう。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
