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山梨学院大が全国地区対抗初優勝。敗れた鹿児島大も充実の表情。
山梨学院大のSO篠原悠士。キック、ランでチームを前に出し、完勝に導いた。(撮影/松本かおり)

山梨学院大が全国地区対抗初優勝。敗れた鹿児島大も充実の表情。

田村一博

 50-0。
 ファイナルスコアには大きな差がついたけれど、勝った山梨学院大は初の日本一が本当に嬉しそうで、負けた鹿児島大の選手たちの表情にも充実感が滲んでいた。

 1月6日に愛知・パロマ瑞穂ラグビー場でおこなわれた第76回全国地区対抗大学大会の決勝は、山梨学院大(関東1区代表)が鹿児島大(九州代表)から8トライを挙げて快勝した。
 35年ぶりにこの大会に出場した同大学は、4回目の出場で初めて頂点に立った。

 山梨学院大は2025-26シーズンを関東大学リーグ戦2部で戦い、5勝2敗で3位。1位の中大と17-19、2位の専大と0-22だった。
 惜しくも1部との入替戦への出場を逃した力を持つだけに、今回の全国地区対抗大学大会でも戦前から優勝候補の筆頭と見られていた。

来季は必ず関東大学リーグ戦1部に昇格したい山梨学院大。(撮影/松本かおり)


 今回、関東大学リーグ戦2部の上位校が出場することになった背景は複雑だ。
 前年度まで関東1区1部にいた2校、東京学芸大と東京都市大が揃って関東大学リーグ戦に戦いの場を移したため(ともに2025-26シーズン、5部からスタート)、今年度は関東大学リーグ戦2部の3位以下のチームに協力を求め、3位以下の6校の中から関東1区の推薦校を決めることになっていた。

 しかし、諸事情により各校への通達が遅れたため、メンバー構成やチームのスケジュール的に出場可能な大学が限られ、その両面で対応できた山梨学院大が推薦された。
 同大学も間際になっての確定により、年末年始の都合がつかない選手たちもたくさんいたため、1年生及び(遠距離帰省とならない)山梨近郊出身者でチームを組み、準備を重ねて大会へ参加。そんな状況下で勝ち抜いての優勝だった。

 2026年の9月から10月にかけて名古屋で開催されるアジア競技大会のために改装された綺麗なスタジアムでキックオフは13時。全国大学選手権の準決勝で笛を吹いた米倉陽平レフリーが担当する試合は、やや強めの風こそあったが、好天の中での80分となった。

 序盤から山梨学院大がボールを持ち、よく攻める展開。しかし、鹿児島大も粘り強く守った。
 守る時間が多かった鹿児島大はこの日、16人しかエンジ色のジャージーを着ていなかった。授業が始まったことでチームを離れなければいけない選手(理系学部に学ぶ部員たち)に加え、コンディションを崩した選手もいたからだ。

鹿児島大は粘り強く、ハードなタックルを見せた。(撮影/松本かおり)


 ただ、苦しい陣容ながら健闘した。
 体格で上回る相手のクラッシュにも怯まず、連続攻撃にハーフブレイクされても片足にしがみついて離さない。積み上げてきた、ディフェンスで粘り勝つスタイルを必死で示し続けた。
 攻めても風上でうまくキックを使い、エリアを獲得。SH今村南月、SO川手寛祥、CTB武田広大らも工夫した仕掛けを見せ、敵陣深くに攻め込むシーンもあった。

 しかし山梨学院大は、落ち着いて自分たちのやるべきことを続けた。
 攻撃の中心となったのは1年生の篠原悠士。SOとして視野広くプレーし、練習を積んで伸ばしたキック、得意とするランを駆使してチームに勢いを与える。前半19分の先制トライは、この人が転がしたグラバーキックをCTB程原壱茶が確保したことがきっかけだった。
 そのあとの展開でトライライン近くに居座り続け、最終的にスクラムからNO8ネマニ・スミスが最初のトライスコアラーとなった。

 5-0としたスカイブルーのジャージーは、ハーフタイムまでに2つのトライを追加した。前半28分のトライは自陣でのターンオーバーからボールを大きく動かし、左サイドをFB三木良唯吏が前進。その背番号15がインサイドに蹴ったボールをWTBの菅谷久遠がインゴールに置いた。

 前半36分には、鹿児島大がタッチに出したかったPKが出なかったところをカウンターで攻めた。攻撃を重ねる途中、SO篠原が自らディフェンスの隙を巧みに走り、そのままトライラインを駆け抜けた。19-0とした。

山梨学院大は、個々のパワーと、普段からの意思統一を融合して戦った。(撮影/松本かおり)


 踏ん張っていた鹿児島大を突き放したのは後半6分のトライだったか。山梨学院大は敵陣22メートルライン付近、右寄りのスクラムで圧力をかけ、アドバンテージを得ている中で左に展開。タテに切れ込んだFB三木が左中間に入った。Gも決まり、26-0とした。

 14分過ぎからは、ベンチから投入されたフレッシュレッグスたちの動きもあり、ラスト20分で4トライを追加してみせた。
 日本代表31キャップを持つ梶原宏之監督はモチベーションの持ち方が難しかった選手たちに、「関東協会から推薦していただいたプライドを持って戦おう」と話して気持ちを盛り上げたという。そして、「普段公式戦に出場機会が少ない選手や、能力があっても部員数が多いのでなかなか出られない1年生にとっては、緊張感ある中、いいスタジアムでプレーし、自信になったと思う」とした。

 同監督は、人数は少なかったが、責任感を持ってチームをまとめた4年生たちに感謝した。
 例えばゲームキャプテンを務めたWTB川崎輝。普段はバイスキャプテンで、大会を通してチームの先頭に立つのは初めてのことだったが、「みんなをまとめるのがうまい」と評価した。

「1年生、2年生がふわふわしているところもある中で、4年生たちがよく引っ張ってくれました。円陣を組んだ時、(下級生たちに)4年生のプレーを見本にして、積極的にコミュニケーションをとって戦おうと言ったんです」
 卒業していく最上級生たちが頂点に立ててよかった。あと一歩のところで関東大学リーグ戦1部との入替戦出場を逃した悔しさもある代だ。「優勝したことが誇りになって今後のラグビー人生に生かしてくれるのではないか」と労った。

【写真左上】今大会でキャプテンを務めた山梨学院大のWTB川崎輝。【写真右上】山梨学院大を指揮する梶原宏之監督。【写真左下】この試合のマッチオフィシャル。左から2人目が米倉陽平レフリー。【写真右下】アジア競技大会へ向けて改装されたパロマ瑞穂ラグビー場。(撮影/松本かおり)


 今大会でキャプテンを務めたWTB川崎は、170人前後と多くの部員がおり、活動グレードにより練習時間も違うため、これまであまり話したことがない選手もいたという。
 しかし積極的にコミュニケーションを取る姿勢を示してくれたことでやりやすかったと笑顔を見せた。

 いい結果を残すことが新チームの活動にもつながると考えていた中で優勝を手にできて安堵しているようだった。
 今大会だけのメンバー編成にも関わらずうまく戦えた理由を、チームの基盤をみんなが理解しているからとした。
「チームにはスタンスとしているものや(共有している)プレーとかサインがあるので、難しいサインとかを使うのではなく、基本的なことを、忠実にやろうと思いました。意思統一し、同じ方向を見てプレーできたと思います」
 本人は卒業後、クリーンファイターズ山梨でプレーを続ける。

 大会を通して司令塔としてチームをドライブしたSO篠原は、1年生ながらリーグ戦でも各試合のメンバー入りを果たしていたがプレータイムが短い試合もあり、決して満足していなかった。そういう背景もあり、「1年間やってきたことを出し切るいい機会になった」と話した。
「自分たちの強みであるフィジカルで圧倒できてよかったです」

 50/22キックなども蹴り出して、チームを前へ、前へと進めた。今季はFBでのプレーがほとんどだったから、相手のバックスリーの位置を見て、どんな種類のキックを蹴るか判断する力もある。それを10番の位置でも生かしたそうだ。
 初めて経験した日本一を自信に、自分が在籍している間にチームを関東大学リーグ戦1部に昇格させたい。

鹿児島大の山口晃世主将。この日はWTBでプレー。「今の遠征も、学生主体のチームとしてちゃんと過ごせました」。(撮影/松本かおり)
苦しかったシーズン序盤からチームを立て直した鹿児島大。(撮影/松本かおり)


 試合後に笑顔を見せていたのは勝者だけではなかった。鹿児島大のキャプテン、WTBの山口晃世は、授業が始まった影響で、九州学生リーグや、今大会での準決勝(1月2日)までと大きく違うメンバーで戦いながらも、攻守両面で、自分たちらしさを多く出せたことを喜んだ。
「(4年ぶりの出場で)地区対抗を経験したことがないチームだったので、この大会でプレーし、決勝までこれたことがシンプルに嬉しかったです」

「ベストメンバーが揃わない中で、関東の強豪大学に対して、ディフェンスで頑張る鹿大(かだい)らしさを出してゲームができたのは、嬉しかったし、来年のチームにとっても一つの収穫だったと思っています」
 山口主将も準決勝まではNO8で出場も、決勝ではWTBでプレー。5人が通常とは違うFWは、スクラムでは押されたものの必死で動き、タックルとブレイクダウンでは働いて、攻撃にも貢献していた。

 一人ひとり、個性を発揮して戦っていた。
 例えばHO四元俊太は前半14分過ぎ、自陣トライライン直前で相手NO8のスミスを仰向けにさせ、押し込むタックルを見せた。
 1年生FBの佐藤晴道はキックでチームを前に出し、自ら積極的に動いた。前半終了前には相手ボールを奪い取り、すぐに30メートル超走った。ショートキックを相手に処理されてしまうも、好プレーだった。

キックと積極的なボールタッチでチームに貢献した鹿児島大FB佐藤晴道。(撮影/松本かおり)


 今季は九州学生リーグの序盤、大敗が続く滑り出しだった(最終的に同リーグ5位)。しかし、そんなどん底からいろんなものを乗り越えて成長。山口主将も、その変化を感じた。
「以前は劣勢のとき、例えばトライを取られたあとに下を向いて反省していたのですが、いまは上を向く、次なにをするのかみんなで考えられるようになりました。どうボールを確保するのか。アタックをどうするのか。だから決勝まで来られたし、きょう、こういう試合ができたと思います」

 この大学に来てよかった。主将はそう言った。
 福岡・修猷館出身。高校時代はラグビーに打ち込み、進学先は浪人中に考えた。その時、「ラグビーを真剣にしたい」、「九州に残りたい」の条件を満たすのが鹿児島大と判断した。三重ホンダヒートの中尾隼太ら現役のリーグワンプレーヤーもいる。ラグビーを突き詰められる環境があるところに魅力を感じた。

「大人の存在がないのが特徴のクラブです。普段の練習、試合のメンバーの(選出や)入れ替え、戦術(を考えること)も学生でやっています」
 大学生は大人になる前の大事な期間。「自分自身のステップアップを考えても、鹿大の環境は魅力的」と判断したのは正解だった。

 自分ひとりがそうでも、うまくいかなかっただろう。仲間たちも同じ価値観だったから、学生最後の試合で、こんな気持ちになれた。
 負けた悔しさとやり切れた充実。そんな感情を繰り返す4年間を後輩たちにも過ごしてほしい。

16人で戦ったこの日の鹿児島大は、厳しい状況ながらも粘りのディフェンス、体を張ったプレーなど、自分たちのスタイルを出し続けた。(撮影/松本かおり)




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