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【車いすラグビー日本選手権】BLITZが3連覇を達成し11度目の日本一に! MVPは池透暢が獲得
決勝で激しいマッチアップを演じたBLITZの池崎大輔(左)とFreedomの池透暢(右)。(撮影/張 理恵)

【車いすラグビー日本選手権】BLITZが3連覇を達成し11度目の日本一に! MVPは池透暢が獲得

張 理恵

 チーム力を結集した戦いに、スピードスターたちの壮絶バトル。
 2025年のラストを飾る日本一決定戦は、熱気に溢れた——。

 車いすラグビー国内最高峰の戦い「第27回車いすラグビー日本選手権大会」が12月12~14日、千葉ポートアリーナ(千葉市)で開催された。
 今大会には予選を勝ち抜いた8チームが出場、クラブチーム日本一を目指し、火花散る熱戦が繰り広げられた。

◆常勝軍団BLITZが大会3連覇を達成。


 4チーム総当たりのプール戦を勝ち上がり、準決勝、決勝と駒を進めたのは、BLITZ(東京)とFreedom(高知)。
 島川慎一、池崎大輔、小川仁士、長谷川勇基と、パリ・パラリンピック金メダルメンバー4人が所属するBLITZは日本選手権で10回の優勝を果たしている強豪チームだ。
 対するFreedomは、パリ・パラリンピック日本代表のキャプテンを務めた池 透暢がヘッドコーチを兼任し、チーム結成から10年目の2023年(第24回大会)に悲願の初優勝を果たした。

チーム力を結集し、見事3連覇を達成したBLITZ。通算11度目の日本一に輝いた。(撮影/張 理恵)


 代表レベルの国内最強ラインアップが武器のBLITZ、ロングパスを活かしたスペースラグビーを得意とするFreedom。
 前回大会と同じ顔合わせとなった決勝戦は、序盤から激しいコンタクトの応酬となった。

 BLITZは4人が連係しながら徹底的に池をマーク。タックルからさらにグイっと車いすを押し込んでプレッシャーをかけると、池の手からボールがこぼれ、ターンオーバーに成功。
 Freedomのスペースとパスコースを潰していくBLITZのディフェンス。その初動の早さから、綿密な準備と遂行力の高さがうかがえた。
 BLITZのリードが続く中、Freedomは相手守備の隙をついてワイドに展開し、池と白川楓也がトライを重ねた。

 島川、池崎、池。世界トップクラスのパフォーマンスを誇るJAPANのハイポインター(障がいの比較的軽い選手。攻撃の主軸を担う)3人を同時にコート上で見られるのは、国内大会だけの特権だ。そこに、次世代のキープレーヤー・白川も加わり、スピード感あるハイレベルな攻防を繰り広げる。

世界トップクラスのハイポインター3人を同時にコート上で見られるのは、国内大会だけの光景だ。(左から池崎大輔、池透暢、島川慎一)。(撮影/張 理恵)


 その中で、前半のラストトライを挙げたのはBLITZの長谷川。一番障がいの重いクラスで、体幹も握力もない長谷川だが、ピリオド残り3秒、池崎のスローインを上半身全体で受け取ると、車いすを走らせスコア。27-23のBLITZリードで前半を折り返した。

 車いすラグビーでは、バイプレーヤーの存在も大きい。
 Freedom設立メンバーのひとり、53歳の畑中功介は、相手ディフェンスが池と白川に詰め寄る間にスペースへと走り、トライライン手前にポジションを取ると、タフなパスをキャッチしてゴールにねじり込む。畑中は第3ピリオドで、池と白川を上回る5得点をマーク。体力が限界に近づこうとしている中、全力で車いすをこぎ続けた。

 最終ピリオドを残し、BLITZ は41-33とリードを広げた。
 BLITZはここでようやく、この試合最初のメンバーチェンジ。主力メンバーの小川がコンディション不良により出られない状況だったが、ここまでの4試合すべてでスタメン起用された日向顕寛の奮闘が光った。
 終盤に差し掛かり、次々とベンチメンバーを投入する両チーム。
 コート上4人の合計が217歳という最高齢ラインアップ(BLITZ)も躍動した。
 Freedomは闘志を絶やさず、このピリオドで相手を上回る5つのターンオーバーを奪い、最大9点にまで開いた点差を6点差へと持ち込み、最後まで戦う姿勢を貫いた。
 そうして、55-49でノーサイドのブザー。BLITZが全勝で大会3連覇を達成、最多優勝記録を伸ばし11度目の日本一に輝いた。

 優勝会見で荻野晃一ヘッドコーチは、「優勝を目指してやってきた。代表クラスの選手が多くいる中で、なかなか全員が集まるのは難しかったが、みんなが協力しながら、しっかりとした練習ができたことがこの結果につながった」と1年間の道のりを誇った。
 そして池崎大輔は、「3連覇は簡単なことではないし、強さを継続していかなければという思いがあった。しっかり結果を残せて、素直にうれしい気持ちでいっぱい」と喜びを口にした。

2大会連続で準優勝に輝いたFreedom。(撮影/張 理恵)
3位のTOHOKU STORMERS。準決勝ではアクシデントに見舞われたが、5大会連続で表彰台に上った。


◆競技レベルを押し上げた海外プレーヤーたち。


 今大会では、海外から参戦した外国人プレーヤーたちの活躍も目立った。
 オーストラリア、フランス、カナダ、韓国の4か国から8選手が参加。今大会出場の5チームにそれぞれ所属し、予選大会も共に戦った。
 Fukuoka DANDELIONの主要メンバーとして定着した韓国代表の朴承撤(バク・スンチョル)、朴雨撤(パク・ウチョル)兄弟をはじめ、カナダ代表としてパリ・パラリンピックに出場した神田・リオ・コバックなど、どの選手も各国の代表レベルのプレーヤーで、国際大会を彷彿とさせるマッチアップが見どころのひとつとなった。

 日本の国内リーグ初参戦となったRIZE CHIBA(千葉)のセバスチャン・ヴェルダンは、ハイレベルな1on1を演出した。
 フランス代表の主力として、東京とパリの2大会連続でパラリンピックに出場。「(島川、池崎、池などと同じ)クラス3.0では世界トップクラスのスピードを持ち、高さもある」と、国際大会で何度も対戦した島川も、その実力を認める。
 ヴェルダンは2枚も3枚もついたディフェンスを跳ね除けてトライを連発、そして、橋本勝也や島川慎一といったハイポインター陣との息をのむ走り合いは、今大会のハイライトシーンのひとつとして刻まれた。
 その活躍は、2018年の第20回大会以来7年ぶりとなった、RIZE CHIBAのベスト4進出に大きく貢献した。

フランスのスピードスター、セバスチャン・ヴェルダン(RIZE CHIBA)は高いパフォーマンスで観客を魅了した。(撮影/張 理恵)


 自国・フランスの国内リーグはシーズンが短いことから、イギリスやアメリカのリーグにも参戦し、スキルを磨いているというヴェルダン。
 フランス代表としては、来年の世界選手権と、その先のパラリンピックでの金メダル獲得を目標に掲げる。そして個人では、「アメリカ、イギリス、日本、(今後は)オーストラリアと、世界中のリーグに参加して、各国の国内選手権すべてで優勝することが目標」と、ワールドワイドな野望を抱いている。

 チームからのオファーにより実現した日本でのプレー。「ディフェンスにスピードバトル、日本のプレーヤーたちとの1対1の勝負はとても楽しかった。日本の食や文化も好きなので、毎年来たい」と、充実した笑顔で大会を振り返った。

◆池 透暢が大会MVPに輝く。


 今大会では、プレーオフで最後の2枠を勝ち取ったGLANZ(東京・埼玉)とCOAST(神奈川・千葉)が初出場を果たした。
 GLANZは昨年度、COASTは今年結成した新チームで、予選ラウンドと5-8位予備戦では並み居る強豪に押され、勝利を手にすることはできなかった。
 日本選手権で「1勝」を挙げたい両チーム。直接対決となった7-8位決定戦は、50-42でCOASTが勝ち、本大会での初勝利をつかみ取った。

 大きなポテンシャルと才能を秘めたルーキーたちも躍動した。
 そのバックグラウンドは様々で、車いすバスケットボール、パラ陸上、パラ卓球…との二刀流で競技に励んでいる。
 GLANZの西村柚菜もその一人。
 車いす陸上に取り組んでいる西村は、今年1月に車いすラグビーを始め、先月11月には日本代表としてアジア・オセアニア選手権に出場して優勝を経験した。この先の人生にも影響を与えるような、濃密な1年を過ごした。
「ラグビーで世界と戦える選手になりたい」
 そんな強い意志を持って、走り続けている。
「自分の状況が二転三転していろいろと変わった1年間だったけど、車いすラグビーが楽しくて楽しくてしかたない。このまま楽しみながらラグビーができたら、それが一番。自分を出しながらプレーしていきたい」
 キラキラと目を輝かせ、成長を誓った。

大会MVPに輝いた池透暢。池は先月のアジア・オセアニア選手権でもMVPを獲得した。(撮影/張 理恵)


 そして大会MVPに輝いたのは、Freedomの池 透暢。
 先月のアジア・オセアニア選手権でもMVPを獲得した池は、今年、次世代の育成を目的とした国際大会「SHIBUYA CUP」では日本代表のアシスタントコーチを務めるなど活動の幅を広げた。
 講演会や競技の普及活動にも努め、「ラグビーのオンの時間とオフの時間を分けて使えて、すごくリフレッシュできた1年だった」と振り返った。

 来年には、ロス・パラリンピックへの試金石となる世界選手権が待ち構える。そこを見据えながら、ロスに向けた自身のプランを推し進める覚悟だ。
「(今年)作った土台にどれだけ自分を乗せていけるか、思い描いた自分を乗せていけるか。年齢というリミットは一切なしで、もう一回、初心に返ってやり遂げていきたい」

今大会屈指の好ゲームとなった予選ラウンドの「TOHOKU STORMERS対BLITZ」(55-57)。STORMERSは優勝したBLITZを相手に、あと一歩のところまで追い込んだ。(左から横森史也、池崎大輔、橋本勝也)。(撮影/張 理恵)


 白熱した頂上決戦で幕を下ろした車いすラグビー日本選手権。来年こそはBLITZの牙城を崩すチームが現れるのか。次回大会への期待も膨らむ大会となった。
 そして日本代表においては、アジア・オセアニア王者に輝き、新たな才能にも出会えた1年だった。
 来年8月にはブラジルで世界選手権、また10月には愛知県で「第5回アジアパラ競技大会」が開催される。
 魂のタックル、競技への情熱が心を揺さぶる車いすラグビーに、来年も注目だ。



【第27回車いすラグビー日本選手権大会 最終結果】
優勝  BLITZ(東京)
準優勝 Freedom(高知)
3位  TOHOKU STORMERS(東北)
4位  RIZE CHIBA(千葉)
5位  Fukuoka DANDELION(福岡)
6位  AXE(埼玉)
7位  COAST(神奈川・千葉)
8位  GLANZ(東京・埼玉)

ベストプレーヤー賞を獲得した選手たち(前列左から/クラス0.5→3.5)。(撮影/張 理恵)

【ベストプレーヤー賞】
クラス0.5 横森史也(TOHOKU STORMERS)
クラス1.0 今井友明(RIZE CHIBA)
クラス1.5 草場龍治(Fukuoka DANDELION)
クラス2.0 畑中功介(Freedom)
クラス2.5 神田・リオ・コバック(GLANZ)
クラス3.0 セバスチャン・ヴェルダン(RIZE CHIBA)
クラス3.5 橋本勝也(TOHOKU STORMERS)

【大会MVP】池 透暢(Freedom)

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