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リーグ最終戦は、ただの試合以上の重みを持つ。
関東大学リーグ戦1部の最終節となった11月30日。東海大学にとって最終戦は「優勝」を勝ち取るための一戦であり、流通経済大学にとっては大学選手権への出場を賭けた試合でもあった。
関東大学リーグ戦らしいとも言える乱打戦の結果は、精度高くスコアし、得点を積み重ねた東海大学の勝利となった。
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〈主なアタック構造〉
流経大のキーになる選手は、展開という意味では10番の紺井大士、接点という意味では8番のティシレリ・ロケティが該当する。それぞれがFWとBKの柱となる選手。接点と展開を織り交ぜた攻撃的なアタックを見せる流経大のラグビーを作り上げていた。
ロケティがいるのは、主にエッジに近いエリア。ラインアウトからは早い段階でエッジと呼ばれるタッチラインに近いエリアに配置され、そのエリアでディフェンスラインを突貫することを目的としていることが容易に想像できる。
また、走力やハンドリングにも優れていることから、接点からオフロードパスを繋いだり、細かい足捌きで相手のタックルを外して前進する光景がよく見られる。
中盤でのスクラムやエッジからのラインアウトなど、セットピースからは連続したアタックフェイズの中で、シンプルなアタックラインで攻めた。セットピースから後述する階層構造、いわゆる「表と裏」の構造を作るようなシーンはあまり多くはない。テンポの速さをベースにした線形のラインを使い、外方向に生まれた優位性をシンプルに使う様子が見られた。
セットピースからのFWの動きには、熱心に順目方向に回ろうとする動きはあまり見られなかった。そのシーンでのシークエンス、決められた戦略により、回り込んでいないようにも感じられた。
順目方向のワークレートで相手を寄せたり、数的優位を作ろうとする動きより、スイングと呼ばれる動きでBKの選手が回り込んでくることによって数的優位を作ろうとするシーンや、逆目にFWの選手が残ることで、同方向に人数をかけようとしているように見えた。
ただ、FWの選手が逆目方向に多く残っているにもかかわらず、アタックオプションとして機能していないシーンも散見された。多くの場合逆目に残っていたFWの選手をブロッカーに、BKの選手が順目側から回り込んで、あと出しで人数を余らせようとしていた。
しかし、ブロッカーの役割を持つFWの選手のアタックの脅威が薄く、東海大の選手は容易に裏側のラインへと潜り込んでいた。

〈ポッドと階層構造〉
ポッド、つまりFWの選手たちの配置としては、主にエッジから1人ー3人ー2人ー2人の比率で配置されているように見える。エッジには7番の豊田晃清やロケティといった、体の強さと走力を兼ね備えた選手を配置していた。アタックライン上の彼らはダミーではなく、キャリアーとしてセットしており、主に狭いサイドなどに生まれた相手BKとの質的なギャップを突くことに貢献していた。
中盤のポッドではFWの選手による3人のポッド、または12番のアンドリュー・ヘイウォードの近くに配置した2人のポッドを使ってコンタクトを作っていた。ヘイウォードはBKとしての仕事とFWに近い仕事の両方をこなしており、中盤で3人-3人の比率で安定感を出しつつ、外方向へのアタックの厚みをさらに出せていた。
前述した「表と裏」の関係を使った階層構造は、あまり積極的に用いられていないように見えた。ポッドとして前方のラインに配置されたFWの選手を壁として使いながら、9番の幸妻怜治や10番の紺井の判断でポッドの隙間を縫うようなパスを見せていた。
階層構造を作るフェイズもあったが、すでに述べたように、順目方向に高いワークレートを見せたり、しっかりとポッドなどの構成要素の人数が揃ったフェイズも多くはなかった。階層構造として効果的な水準まで人数が揃っていなかったり、テンポベースのアタックの結果、位置的にバランスの悪い状態になっていた。
〈セットピース〉
全体的にキックでのエリアコントロールが押し込まれ気味の試合展開において、意味を持っていたのがラインアウトからのモールだろう。そこで相手を上回ることができれば、最も効率がいいスコア手段となる。敵陣で獲得したラインアウトからのポゼッションを、パスなどのミスが生じうるプレーを介さずにゴール方向へ運ぶことができる。
実際に、今回の試合でもいくつかモールから直接、またはモールでの前進からゴール前の攻防に移行してトライを取り切ったシーンがあった。ゴール前5〜10メートルに入った後の流経大のスコア精度は高く、このエリアに入り、かつラインアウトを確保することができれば高確率でトライに繋げることができた。
一方で、苦戦したのがスクラムでの規律だ。東海大側のボールではペナルティが目立ち、マイボールの時も複数回ペナルティとされた。
ハンドリングエラーなど小さなミスはアタックを続ける中でなかなか避けられない要素ではある。東海大はそのスクラムからペナルティを獲得し、大きく前に出ることに成功していた。
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まず、流経大のスタッツを確認していこう。
画像を見ていただきたい。
ポゼッションは後述する東海大とほぼ同程度の45回で、欄外の情報としてポゼッション獲得率は約55パーセントとなった。1回当たりのポゼッションの平均時間は東海大のものよりも長く、一つひとつのポゼッションである程度ボールを動かそうとした様子が分かる。
敵陣22メートルライン内に侵入した回数は6回となっており、1回の侵入に要したポゼッションは7.5回と、時間がかかっていた。敵陣に侵入した回数に対してトライ数は4回と高い確率でトライに持ち込むことに成功しており、結果論ではあるが、この比率を維持した状態で侵入回数を増やすことができれば、もう少しトライ奪取を期待できたかもしれない。
ベーシックなスタッツを見ると、キャリーが92回、パスが149回、キックが24回で、そのプレイングの中で3回のラインブレイクを生み出している。主要なスタッツの比率(キャリーとパス、キャリーとキック)としては一般的な水準感に落ち着いていたが、ラインブレイクに関してはキャリー30回に対して1回と、効率が悪かった。
実際の試合を見たイメージでも、東海大と比べると大きく前に出ることができたシーンは少なく、相手のディフェンスラインを崩すことができていなかった。アタックラインがシンプルになる傾向があったことが影響したか、動きの中でブレイクを作ることができなかった。
セットピースに関しては、対照的な様相を見せた。流経大はラインアウトの精度が高く、ラインアウトモールから直接、もしくはそこからチャンスを生み出した。4回のトライのうち3回が、そういったシーン。相手のペナルティから敵陣深くに侵入し、モールを組むことができれば高い攻撃力、決定力を示していた。
しかし、スクラム成功率は55.6パーセントと、かなり苦戦していた。相手ボールのスクラムだけではなく、マイボールの時でもペナルティを取られた。スクラムでの反則回数はスクラム成功率以上のインパクトを示している。
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〈主なアタック構造〉
東海のキーマンになったのは、個人的な感覚では13番のコンラッド・セブンスターだ。ここまで12番に入ることが多かった同選手だが、今回は数字的に外側に入ることになった。
ただ、役割はそこまで大きく変わるものではなく、中盤での繋ぎにおいて大きな役割を果たしていた。
東海大のアタックの肝となるのは、セブンスターと10番北村光基のコンビネーションだ。アタックラインの中央から外にかけて位置する2人は、表と裏の構造、または線形に並んだところからアタックを展開。ラックから見て早いレシーバーにセブンスターが立ったり、北村がそのままSOとしてレシーバーの役割を果たしたりする。
特にセブンスターが早く受ける時は階層構造が用いられることが目立った。セブンスターのランナーとしての誘引力、それに伴ったハンドリングスキルによって、相手を自身に寄せながら、動きに自由がある北村にパス。結果、外方向に数的優位を作るシーンが散見された。

特徴的だったのは、ポジションに偏りのない、チーム全体での意図を持ったアタックシーンだ。最も特徴的だったシーンは前半24分に生まれた中村太志朗のトライだ。グラウンドの右エッジで大きく前進し、そこから大きく振り返して反対サイドで崩した形でのトライとなった。
このシーンにおいて注目したいのは、「エッジからの振り返しのアタックでは、多くがFWの選手によるプレーであった」ことだ。ラインアウトからの最初のフェイズで、東海大は階層構造を使った大きな展開を見せた。14番のウェスリー・トンガが主となって大きく前進し、BK主体でラックを形成している。
つまり、そこから展開しようにも反対サイドにはFWが多く残っていることが分かる。しかし東海大はここで大きな展開し、残っていたFW選手でアタックを完結まで持ち込んだ。一般的なイメージではなかなか崩し切れないこのシーンにおいて、トライを取り切ったところに大きな意味がある。
ただ、すべてのアタックが順調だったわけではない。階層構造で崩しが生まれる分、目立ったのがシンプルなライン構造になった時の不安定さだ。東海大はスイングといったBKが逆サイドから大きく回り込むような方式で数的優位を作り出すシーンが少ない。結果として、フェイズの開始時点に並んだ人数で相手ディフェンスラインに対し、アタックをすることになる。
そこで東海大は数的優位を作り切ることができなかった。FWはラックを作った後、まっすぐ下がって逆目方向に人数を加算する形をとっている。しかし相手ディフェンスの動きとの兼ね合いもあって余り切らず、ポッドを作った選手も位置関係が曖昧になることで、選択肢としての脅威度も下がっていた。
〈ポッドアタック〉
東海大のポッドの配置は、主に1人ー3人ー3人ー1人の構成比をとっているようだ。中盤の3人のポッドの中ではティップオンと呼ばれる隣の選手に小さくパスを出してズレを作るパスオプションを使ったり、フラットに走り込むことでモメンタムを作り出そうとする様子が見られた。
その中で時折見られたのが、FWの選手を4人使ったポッドへのシフトだ。4人の選手は浅い台形のような、比較的平行に近い位置関係で並び、SHは中央に立つ2人の選手に対してパスをすることが多い。そこからは普段の3人ポッドのようなアタックオプションで、ティップオンを入れたり直接レシーバーがキャリーしたりすることで接点を作っていた。
4人ポッドから3人ポッドへ移行する中で、そのポッドに参加しない1人のFWが生まれる。その選手は、そのまま順目方向に回り込み、次のポッドへと参加する。4人ポッドにするメリットとしては、単純に考えるとアタックオプションとしての役割が考えられる。SHやプレイメーカーからのパスの行き先として複数のオプションを準備することにより、ディフェンスラインとしては過剰な詰める動きは避けざるを得ない。
〈ディフェンス〉
東海大のアタックは積極的に前に出る様子が見られた。いわゆるラッシュアップと呼ばれるような激しく詰める動きはなかったが、完全に横方向にスライドするようなディフェンスというよりは、しっかりと前方向のベクトルを殺さずに相手のスペースを詰めていた。
流経大のアタックの多くがシンプルなポッド構造と線形のライン構造によるものだったこともあり、ディフェンスの多くのシーンでは前に出て相手を止めることに成功していた。
アタックオプションの脅威が低く、1対1の連続になりやすいアタックをしてくる相手に対して、しっかりと人数を合わせながら対応していた。
気になる点としては、ラックに対して逆目方向に数的優位を作られるシーンが目立っていたことだ。SHのディフェンスはラックの裏で指示役に回る形をとっており、順目方向に回りすぎた時にその穴を埋めるのに一手多く時間がかかってしまう。その結果、順目側から回り込むように逆目方向にラインを作る流経大のアタックに対し、後手に回っていた。
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次に東海大のデータも見ていこう。
ポゼッションは46回と相手と似た回数ではあったが、ポゼッション獲得率は45パーセントと相手から10パーセントほど下回る数値となった。この要因としては、一つのポゼッションあたりの時間が4秒ほど少なかったことが考えられる。各ポゼッションで4秒ずつ少ないと、1試合では184秒、つまり3分強のポゼッション時間が相手に対して不足する形となる。
世界的に公表されているデータとして、W杯のデータがある。そのデータによる全ての試合の平均ポゼッション時間は24秒ほどが記録されていた。つまり、東海大のポゼッション時間はそれに比べて大きく下回る数値であり、一つひとつのポゼッションがコンパクトだったと想像できる。
しかし、東海大のトライはどれも効率的だった。多くのトライはセットピースやターンオーバーから少ないフェイズ、つまり時間をかけずにトライを取り切っており、相手に対してポゼッション獲得率で下回っていても、相手以上にトライを奪うことに成功していた。
敵陣22メートルへの侵入回数では12回と相手を大きく上回った。その中で7トライを奪っており、効率も非常に良かった。お互いのスクラムで獲得したペナルティから敵陣深くへの侵入を果たしており、敵陣への侵入効率も非常に良かったと言える。
修正したい要素としては、ラインアウトの精度が挙げられるだろうか。成功率は71.4パーセントとなっており、一般的な感覚としては少し低い数値だ。完全なスティールはなかったが、味方方向にタップをしようとしてボールがブレることで相手に確保されるシーンが目立った。
スクラムはマイボール獲得率100パーセントと非常に高い精度を見せた。また、前述したように相手ボールでもペナルティを獲得したり、スクラムから試合を支配的に進めることができていた。大学選手権に向けて、一つの武器にしていきたいところだ。
◆まとめ。
東海大としては、非常に良い形で試合をフィニッシュすることができた。スクラムで圧倒し、アタックラインの攻撃力も示すことができた。接点もある程度前に出ることができ、今シーズンの形は定まってきたように見える。精度が下がったラインアウトの部分を修正して、アタックの安定感を高めていきたい。
流経大は非常に残念な結果となった。先制し、スコアで相手に食らいついていったが、要所での反則を起点に相手にスコアを重ねられ、最終的なスコアは離れた。
今シーズンはここで終わりとなったが、来季に向けてさらなるチャレンジが求められる。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
