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「コート全体を使ってディフェンスをする、プレッシャーをかけながらもリカバリーしてキーエリアまで戻るというのが、ディフェンスのひとつの強みになってくる」
中谷英樹ヘッドコーチが語る、日本ラグビーの強みが存分に発揮された一戦となった。
「2025 ワールド車いすラグビー アジア・オセアニア チャンピオンシップ(以下、アジア・オセアニア選手権)」大会3日目の11月22日、世界ランキング1位の日本は、韓国(同14位)との一戦に臨んだ。

ここ数年でメキメキと実力をつけている韓国に対し、日本はギアを上げた。
経験豊富なベテラン勢をスタメンに起用した日本は、序盤から強いプレッシャーをかけ、じりじりと引き離していく。これまでの2試合よりも(相手の)低い位置までディフェンスを張り巡らし、隙あらばラインの外へと相手プレーヤーを押し出してターンオーバーを奪う。
ラインアップを入れ替え、攻守ともにリズムを変化させながら着実に得点を重ね、14-8で第1ピリオドを終えた。
リードを広げられようとも、簡単には折れないのが韓国の強さだ。日本の壁を一枚一枚突き破り、トライラインへとボールを運んでいく。
それに対して日本は、抜かれてもリカバリー、抜かれてもリカバリーと、幾重にも相手の前に立ちはだかり、粘り強く行く手を阻む。
そうしてディフェンスで主導権を握ると、コートを広く使うダイナミックなオフェンスを仕掛け、27-19で試合を折り返した。

東京とパリの2大会連続でパラリンピックに出場した長谷川勇基は、日本のディフェンスについて、こう語る。
「ケビン・オアー元ヘッドコーチ(※)時代には、コート上の4人でディフェンスの形をしっかり作るということに取り組みました。いまはそこが完成されてきているので、コートの中で、例えば、隣にいる選手と一言で会話をするといったショートコミュニケーション、ショートトークに取り組んでいます。場面、場面でどうセットするのか、そういう声掛けを、アイコンタクトであったり一瞬で分かる言語で伝えることを強化しています」(※2017~2023年に日本代表を率いた名将)
パリ・パラリンピックに向けても、コート内でのコミュニケーションにフォーカスしてきた日本代表だが、確かにその頃の試合を思い返せば、時計が止まっている短い間に、選手同士が寄り合ってしっかりと会話を交わすシーンが多かった。
ただ今回は、コート上で選手が集まることはほとんどなく、さっと声をかけたり、その場で自身の状況を仲間に伝えるワードや短いセンテンスが頻繁に飛び交っている。
それが、素早いスイッチや、オフェンスでの展開の早さを可能にしているようにも見受けられた。

加えて、第3ピリオド以降は、攻守の切り替えにおいても、そのショートトークが有効的に機能していた。
特に橋本勝也の入るラインアップでは、橋本がボールを持ってトライを狙い、走っている間に、状況を見極めた橋本が、次のディフェンスに移るよう仲間にひと言で指示。その声で3人が守備の形を作り、相手が攻撃に転じた時には、すでに日本は優位なポジションを確保していた。
車いすラグビーでは、トライラインが(攻守交替により)相手チームの攻撃の起点となるため、いかに早いトランジションで相手の攻撃に備えるかがとても重要になる。
ハードワークが続く中、日本は疲れを見せるどころか勢いに乗り、43-26と点差を広げ、第3ピリオドを終了した。
日本の強さが随所に垣間見える好ゲーム。ただ、この試合のハイライトは第4ピリオドにあったのかもしれない。
池 透暢ー橋本ー月村珠実ー長谷川のラインアップが、韓国に魔の2分19秒を経験させる。
インバウンド(ボールをコートに入れるプレー)をコート内で待つ韓国の選手たちをがっちりとマークし、ボールの入れどころを完全につぶした。投げられたボールを日本が次々とカットし、そのままトライ。ピリオド開始直後から、日本は実に11連続得点を挙げ、韓国にこのピリオド初得点となる27点目が入ったのは、試合時間残り5分41秒を電光掲示板が表示した時だった。

その間の日本のディフェンスに視線を向けると、ただ力で押さえ込むのではなく、相手を思うように動かせないための車いすのポジション取りや当て方といった、緻密な車いすスキルがあった。
コート全体を使って4人が連係して動く守備のみならず、こうしたディテールにまでこだわる意識が、日本の強固なディフェンスを作り上げたのだと再確認する試合となった。
どんなにリードしようとも戦う姿勢を貫いた日本は、試合終了のブザー直前、橋本が全速力で走り切ってラストゴールを決め、67-33で勝利。今大会3勝目を飾った。
これで日本はオーストラリアと並んで3勝をマークし、次のニュージーランド戦に勝てば2位以上が確定する。
大会4日目の11月23日、日本は世界選手権への切符をかけ戦いに挑む。