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シックスネーションズ2026の最終戦となったフランス×イングランド(3月14日)は、互いにトライを重ね、フランス代表FBのトマ・ラモスは「フルアタックモードの試合だった」と語った。
最後まで息つく暇もない激戦だった。
勝負が決したのは後半インジャリータイム。ラモスが決定的なPGを成功させて48-46という劇的なスコアを刻み、フランスに勝利をもたらした。この結果、フランスは2006-2007年以来となる2連覇という偉業を達成した。
熱狂は、テレビ視聴者数にも顕著に表れた。France 2が中継したイングランド戦の平均視聴者数は802万人に達し、瞬間最高では950万人がラモスの一蹴に釘付けとなった。
また、TF1が中継したイタリア戦は冬季オリンピックと重なっていたにもかかわらず、テレビを見ていた世帯の半分以上(占拠率53パーセント)がチャンネルを合わせるという驚異的な数字を記録した。
フランスの人口が日本の約半分であることを考慮すれば、人口比で常に1500万人以上が視聴していた計算となる。この代表チームの人気に加え、長い歴史を誇るシックスネーションズがフランスにおいて伝統ある国民的行事として定着していることが、圧倒的な数字となって現れている。

しかし、連覇を祝う声が上がる一方で、その実力を疑問視するシビアな論調も少なくない。紙面には「2連覇を達成、しかし拭いきれぬ数々の懸念」、「大会連覇を果たすも脆さが露呈」といった、手放しで喜び切れない厳しい見出しが並ぶ。
「最後の2試合で100点近い失点を喫したディフェンス」、「アタックはルイ・ビエル=ビアレ依存症」、「安定しないスクラム」と懸念材料は山積みだ。
メディアや有識者が突きつけるのは、「このレ・ブルーに、悲願のエリスカップを掴み取る器はあるのか?」という、幾度も頂点に手をかけながら涙を呑んできた国ゆえの、切実な問いだ。
そんな喧騒のなか、優勝から5日経った3月19日、ファビアン・ガルチエ ヘッドコーチがラジオ番組に出演。今大会を振り返り、噴出する批判に対して自身の見解と持論を展開した。
まず、イングランドと交えた激しい乱打戦について、彼はこう説いた。
「いま、こうしたシナリオの試合が非常に増えている。昨年のザ・ラグビー・チャンピオンシップや、今年のシックスネーションズを見ても明らかだ。現在のレフリングやルール下では、一気に21点を奪ったかと思えば、直後に21点を取り返されるような展開が起こりうる」
さらにガルチエは、目まぐるしく変わる試合展開を分析する。
「非常にテンポは早いが、重要なのは、一つの試合の中に複数の『優勢な時間帯』と『劣勢の時間帯』が混在している点だ。それがこのイングランド戦、ひいては現代ラグビーにおける劇的な試合シナリオを生み出している」
ガルチエは、現代ラグビーを支配する構造的な変化について、次のように解説を続けた。
「現在、ラグビーのルールは3つの基本原則によって支配されている。まず、スペース。攻撃側は常にスペースを作り出す必要がある。オフサイドの判定は極めて厳格になり、防御側は押し戻され続けている。いまのルールでは、オフサイドラインは『ラックの最後尾』ではなく、そこからさらに50センチ後方にある。その僅かな差が、攻撃側に決定的なスペースをもたらす」
さらに彼は、次にスピード、そしてタックルの高さを下げ選手の安全を守るセーフティを挙げ、自分たちの戦略がルールの変化に基づいた必然であることを強調した。
「我々は、現在のルールを前提に戦略を構築している」
これを受け、ロマンを求めるラグビーファンからはウケが悪かった。キックでボールを手放すスタイルから、より積極的に攻撃を仕掛ける戦術へと舵を切ったのかと問われると、ガルチエは一切の迷いを見せず、こう言い放った。
「私は、ロマンチストではない。ただ勝ちたいだけだ」

その言葉には、周囲の喧騒や美学に惑わされることなく、勝利という結果のみを追い求める指揮官の強い意志が込められていた。
一つの試合の中でスクラムは10回強、ラインアウトが25回前後。対して、フィールド上でのデポゼッション(ボール非保持)からリポゼッション(ボール再獲得)の局面は50回にも及ぶという。
「今のラグビーはセットピースからではなく『カオス』から始まる。どちらがボールを手にするか、自分が攻撃側になるか守備側になるかも分からない局面が、ピッチ上のあらゆるゾーンで50回も発生する。我々はこれを『フリーなボール』と呼んでいる。いたるところにフリーなボールが転がり、カオスを生む。そしてそのカオスからこそ、攻撃が生まれる。近年の試合がこれほどのハイスコアになる理由は、そこにある」
ガルチエはイングランド戦を例に挙げ、そのメカニズムを解き明かす。「イングランドが我々の背後へ25回もキックを蹴ってくることは織り込み済みだった。重要なのは、ディフェンスの『前』と『背後』でのプレーを交互に織りまぜることだ。なぜなら、ボールをあえて手放す『デポゼッション』の中には、我々が『オフェンシブ・チェイス』と呼ぶ、あらゆる得点チャンスが含まれているからだ」
大会5トライを挙げたテオ・アティソベや、9トライを量産したルイ・ビエル=ビアレ。彼らが躍動した理由もそこにあるとガルチエは分析する。
「今のルール下では、守備側は極限の選択を迫られている。オフサイドラインの防御に人数を割けば、自ずと後方のカバーが薄くなる。その瞬間に、中央や外側のフリーなエリアにスペースが生まれる。頭上を越す小さなキックや激しいチェイスは、すべてそのスペースを突くためのもの。我々が挙げた7つのトライのうち、約50パーセントがこの『デポゼッションのキック』から生まれている。これは、極めて攻撃的なキックなのだ」
この攻撃システムは2024年のアルゼンチン遠征から着手され、招集のたびに磨き上げられてきた。いまや選手たちは、システムの中で自在に自己を表現できるまでになっている。その成果は数字に如実に表れた。
今大会、フランスが挙げたトライ数は「30」。これは昨年自ら塗り替えた大会最多記録に並ぶ数字だ。総得点は211(昨年は218)を数え、得点ランキング2位のイングランドに60点近い大差をつけて独走した。
一方で、攻撃的なスタイルは守備面に影を落としたことも事実だ。失トライ数は昨年の11から19へと跳ね上がり、総失点も93から130へと増加。アイルランド(108失点)、イタリア(117失点)に次ぐ3番目という結果になった。
「攻撃面で大きな進歩を遂げたのは確かだが、3つのインターセプトを許した局面も含め、その代償を守備で支払った側面もある」と、ガルチエは課題を認める。
「失点が少なければ勝つのはもっと容易になるし、それほど得点しなくても済むようになる。守備の改善が必要なのは確かだ」
自らが描いた「攻撃的キック」や「カオスからの得点」が、時に諸刃の剣となったことを冷静に分析する指揮官。しかし、最後にはこう付け加えることを忘れなかった。
「だが、我々は勝った。それが何よりも重要なことだ」
批判にさらされた守備の脆さを認めつつも、「勝利」という事実によって、自分たちの選んだ戦略や準備が間違っていなかったことを、あらためて強調した。

守備と並んで「持ち堪えるのが精一杯」と揶揄されるスクラムについても、ガルチエは「劣っている」という事実を率直に認める。特に、巨漢右PRウイニ・アトニオの穴を埋めきれない現状は、大きな不安材料として指摘されている。
その重要性を象徴するのが、イングランド戦での手痛い失点シーンだ。ハーフウェーライン付近での2度のスクラムでフランスは反則を取られ、自陣深くでのラインアウトを許した結果、2つのトライを献上した。
「もし、あそこで相手の反則が奪えていれば、逆に我々が敵陣深くに攻め込み、14得点を挙げていたはずだ。それこそが、2023年W杯の敗因の一部でもあった。南アフリカはそうやって試合を支配した。世界で戦い続けるためには、やはり強力なスクラムが不可欠だ」
しかし、ガルチエの視点はあくまで組織的だ。「スクラムはプロップ個人だけの問題ではない。これは集団としての問題であり、プロセスと手順の問題なのだ」と訴える。
「ルールの進化にともない、スクラムの戦い方も以前とは様変わりしている。我々は変化を受け入れ、新たなプロセスや手順を構築していかなければならない」
スクラムだけで勝てるわけではない。しかし、スクラムの成否がそのまま勝敗を分かつ致命傷になることもある。ガルチエの言葉には、自国開催のW杯で頂点を期待されながらわずか1点差に泣いた、あの夜の悔しさを二度と繰り返さないという、強い決意が感じられた。
今大会の優勝は、弱点を補って余りある「強み」を積み上げた結果だ。ガルチエは自チームの現在地を冷静に分析する。
「我々には弱点がある。しかし特定の分野では現在、世界最高だ。特にキック後のボールの奪い合い(リポゼッション/デポゼッション)に関しては、他を寄せ付けない圧倒的なナンバーワンだ」
規律面も劇的に改善した。
昨年11月には守備でオフサイドを連発し、平均12個に達していたペナルティ数を7.6にまで抑え込み、「いまや攻守両面で最高の規律を備えている」と胸を張る。
それほどの成果を出しながらも、止まない批判に対してガルチエは「批判されることは良いことだ」と余裕さえ見せる。
「批判こそが我々に適度なプレッシャーを与えてくれる。2022年の時のようであってはいけない。あの時は12年ぶりの優勝ということもあり、一種の熱狂状態にあった。ワールドカップを1年後に控え、我々は称賛の嵐の中にいた」
当時の熱狂が、かえってチームの隙を生んだのではないか。その反省があるからこそ、彼はいまの厳しい視線を歓迎する。
「いま、我々は1期目(2023年W杯まで)よりも良い結果を出している。なぜなら、我々は勝ち、そして勝ち続けているからだ。勝つことは難しいが、勝ち続けることはさらに難しいことなのだ」
指揮官がチームの真の進歩を確信したのは、試合終了間際の2分間だった。その光景は、奇しくも2023年W杯の南アフリカ戦の展開を思い起こさせていた。
「あの時の選手たちは、判定に抗議して腕を上げ、プレーを止めてしまっていた。しかし今回は違った。誰一人口を出さず、ただ黙々とプレッシャーをかけ続け、自らの手でボールを奪い返した」
土壇場でイングランドの反則を誘い出した瞬間も、選手たちは冷静だった。相手の挑発にも動じず、ただキッカーのトマ・ラモスの後ろに並び、キックがポストに当たった場合に備えて走り出す準備をしていた。スコアは45-46。フランスが1点を追いかけていた。
「見事な光景だった。チームは決して諦めていなかった。勝利をただ守ろうとする相手に対し、我々は執拗に勝利へ向かって走り続けていた」
ラモスが逆転サヨナラキックを放った1秒後、彼は完璧なショットを確信したゴルファーのように背を向け、両腕を突き上げた。その瞬間も他の選手たちは、泥臭くポストを目がけて走り続けていた。
「私は常々、試合終了のホイッスルが鳴るまで喜ぶなと言い聞かせている。いまのラグビー界では早い時間のトライで派手に喜ぶ光景をよく目にするが、そんなものに意味はない。彼らが本当に最後の最後、勝利が決まった瞬間に初めて喜びを爆発させたこと。それこそが重要なんだ」
そのすべてを見守っていた指揮官は確信した。
「我々は2023年から学び、成長してきた。これはもう、以前と同じチームではない」

大会を総括するにあたり、ガルチエは5人のベストプレイヤーを挙げた。豊富な運動量で凄まじいパフォーマンスを見せた左PRジャン=バティスト・グロ。新たな星として輝いたFLオスカー・ジェグーとWTBテオ・アティソベ。そして、勝負どころで動じない強さを示したトマ・ラモス。
もう一人、特別な賛辞を送ったのがSOマチュー・ジャリベールだ。常にロマン・ンタマックと比較され、批判の矢面に立たされる過酷なプレッシャーの中、チームのシステムに溶け込みながらも、代表でかつてないほど解放され、彼らしいスピード感のある創造的なプレーで、多くの攻撃基点となった。
「我々は2人の10番(ラモスを含む)でプレーしているようなものだから、マチューはアントワンヌ(デュポン)やトマ(ラモス)と一緒にプレーする必要があった。選手のパフォーマンスは彼自身の努力によるものだが、アタックコーチのパトリック(アルレターズ)が攻撃システムの中で、彼らが共存し、何よりお互いを認め合えるような最高のレシピを見つけ出してくれたのも功を奏した。彼らは本当にお互いを高く評価し合っている」
また、これまで批判されていたディフェンス面での成長も、2023-2025のタックル成功率76.2パーセントから92.3パーセントという数字が示している。
世間では「ンタマックが復帰してもジャリベールが1番手になるのか?」と相変わらず甲乙をつける議論が続く。しかし、ガルチエの答えは明快だ。
「我々には2人が必要なんだ。2023年にロマンが前十字靭帯を断裂した時はマチューがプレーした。今年もロマンが負傷し、マチューがプレーしている。昨年はマチューが負傷し、ロマンがプレーした。私が重要だと思うのは、2人とも優勝を経験していることだ」
優勝したことによって、選手には一種の『正当性』が付与される。今回の優勝を経て、ジャリベールはもはや代役ではなく、チーム内で高く評価され、確固たる地位を築いた存在になったと指揮官は断言する。
そして、それまで理詰めでチームの進化を説いてきたガルチエが、最後に語気を強めてこう付け加えた。
「どうか彼らの才能を尊重し、敬意を払ってほしい。彼らは本当に優れた選手であり、素晴らしい人間なんだ。彼らがフランス代表のためにすべてを捧げてくれると確信している。我々には2人とも必要なんだ。彼らがこうした議論にさらされるのは分かっているが、あえてお願いする。彼らを大切に扱ってくれ。守ってやってほしい」
奇しくも、2週間の休息を経て再開されるトップ14。その再開初週を締めくくる最高のカードとして組まれているのが、ボルドー×トゥールーズ(3月22日)。怪我から復帰するンタマックと、休暇を先送りしてチームの勝利のために参戦するジャリベール。注目を集めたのは、やはりこの2人だった(44-20でボルドーの勝利)。