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フランスは現地時間2月5日、世界ランキング4位のアイルランドを36-14という大差で退け、シックスネーションズの幕開けを華々しく飾った。
試合2日前の記者会見でファビアン・ガルチエHCは、「この開幕戦ですべてが完璧にいくわけではない」と慎重な見通しを語っていたが、ピッチ上の選手たちはその予測をポジティブに裏切るパフォーマンスを見せた。
少なくとも、試合開始から45分が経過するまでは、まさに「これぞフランス!」というラグビーを完璧に披露していた。
この試合で最も顕著な進化が見られたのは、チームの規律だ。昨秋のテストマッチシリーズにおいてフランスは、南アフリカ戦で13、フィジー戦で11、オーストラリア戦で12と二桁のペナルティを記録しており、自ら試合の流れを悪くしていた。
しかし、このアイルランド戦では開始から45分間、ペナルティ数を「ゼロ」に抑え込むことに成功した。
最終的なペナルティ数もわずか4つに留まり、前回の反省が見事に活かされた。
1年ぶりにブルーの10番のジャージーを着たSOマチュー・ジャリベールは、この改善について次のように語っている。
「自分たちにはいいディフェンスがあるのに、(昨年の)11月のシリーズで特に欠けていたのが規律だった。ペナルティ、特にオフサイドを連発して、相手に安易にポゼッションを許したり、ペナルティから自陣深くでラインアウトを献上したりしないよう、重点的に取り組んできた。アイルランドのラインアウト・モールを防ぐのがいかに困難かは分かっていたから」
また、近年の課題だったハイボール処理でも大きく改善が見られた。もともとハイボールキャッチを得意としていたWTBテオ・アティソベだけでなく、2023年W杯準々決勝で、南アフリカの執拗なキック攻撃の標的とされたWTBルイ・ビエル=ビアレも空中での競り合いに勝ち、成長を示した。

ハイボール処理はレシーバーだけの問題ではなかった。「空中での戦いと、その後の地上での戦いが重要なのだ」とガルチエHCはかつて語っていた。
今回、フランスはレシーバーの周囲に数人の選手を配置し、こぼれ球やその後のブレイクダウンに素早く対応できるように待機した。
アタックコーチのパトリック・アルレターズは、「空中戦の競り合いやセカンドボールへの対応に多大な時間を割いて強化してきた」と話した。
「かつてのフランスでは空中戦は軽視されてきたが、いまの選手たちは非常に高い関心を持っている。攻撃、守備の両面において、これらのボールがいかに重要であるかを彼らは理解したのです。特にエスコートが禁止されたいま、その重要性はさらに増している。我々のシステムでは、5人の選手がボール獲得に専念し、残りの10人は空中戦や落下地点の争いには関与せず、それぞれのポジションにつく。敵陣と自陣の全エリアを網羅するように選手を配置し、どこにボールが落ちても安全に確保できるようにしているのです」と説明している。(ミディ・オランピック)
空中戦を支配し、ペナルティも与えず、前半はフランスのポゼッションが62パーセントという数字が示すように、怒涛のブルーは、アイルランドに「一切のスペースも希望も与えなかった」(ガルチエHC)。
アイルランドといえば、執拗にフェーズを重ね、相手を窒息させるポゼッションラグビーを信条とするチームだ。しかしこの試合ではブルーの鉄壁の前に策が見つからずキックでボールを手放してしまうほど、フランスはディフェンスで圧倒した。
ボールを得ると、速いテンポでパスを繋ぐ。BKだけではなく、FWも全員がコネクトしていた。
34分のフランスのトライは、ジャリベールがタップしたところから始まった。ボールがFLフランソワ・クロスの手中に収まり、PRジャン=バティスト・グロに渡ると、グロはディフェンスをしっかり引きつけてLOミカエル・ギヤールにパス。ボールはギヤールから、この試合では4番をつけていたシャルル・オリヴォンへと渡り、FWだけで40メートル走り、繋いだ。
オリヴォンは試合開始直後、チーム1の俊足のビエル=ビアレが敵ゴールを脅かした時にもサポートについていた。本職FLのオリヴォンとNO8もカバーできるギヤールの2人のハイブリッドLOが次々とボールに絡んだ。オリヴォンは中継役として、ギヤールはコリジョンで強さを発揮した。サポートし、タックルにいき、すぐ起きて再びラインに戻る。これを50分繰り返すという膨大な走行距離と仕事量をこなした。
ガルチエHCは、「走行強度(intensité courue)」と「格闘強度(intensité combative)」という言葉を使う。チボー・フラマンの欠場という理由もあったが、この試合では「走行強度」を優先した布陣とした。
試合前は「格闘強度」に欠けるのではという声もあったが、ギヤールが見事にカバーした。後半、途中出場したエマニュエル・メアフーがディフェンスラインへの戻りで苦労していたことからも、この試合では「走行強度」が求められていたことを示す。
ただ、アイルランドが万全の体制ではなかったことも忘れてはいけない。この布陣がイングランドや南アフリカに通用するかどうかは、最終ラウンドのイングランド戦(現地時間3月14日)を見たいところだ。
この試合で最も注目されていたのは、ジャリベールとSHアントワンヌ・デュポンのハーフ団だった。
この試合が代表復帰戦となったデュポンが自らディフェンスラインを切り裂くという場面はあまり見られず、彼は配球役に徹した。しかし、そのプレーのスピード、精度ともに極めて高く、キックでは陣地を挽回し、相手にプレッシャーをかけながらゲームをコントロールした。
アルレターズ アタックコーチは「『ハーフ団がチームをうまく機能させているか』という議論は常にされていますが、『チームがハーフ団を上手く機能させている』という側面が忘れられがちです。実のところ、これは一種の『自己循環する回路』のようなもので、アントワンヌ(デュポン)が適切なゾーンを突き、チームがそのスペースで効果的に動ければ、それはハーフ団がチームを自在に操縦し、その勢いを維持するための最高の条件となる。その結果、チームが良いプレーを継続できるのです。アイルランド戦では、我々は最初の接点において非常に効果的でした。アントワンヌが突くべきゾーンを的確に見極め、最善の選択をし続けたからです。それは、彼が自らラインを突破してフィールドを駆け抜ける以上に、決定的な貢献だったと言えるでしょう」と評価している。

そして、ジャリベールは、正確なキックでアイルランドを後退させ、試合を通じて味方のプレーを見事に演出し続けた。
22分には敵ゴール前スクラムからボールを取り出したデュポンのパスを受け取り、3人のディフェンスの中を突き抜けて自らもトライを決めた。
指摘されてきた守備でも11のタックルに成功した。チームでは、NO8アントニー・ジュロン(16)、FLオスカー・ジェグー(15)、CTBニコラ・ドゥポルテール(13)に続いて多い数値だった。
代表戦では大きな期待とプレッシャーを背負う。ロマン・ンタマックと常に比較される。2024年のネーションズシリーズの期間中には、代表チームでの居心地の悪さを訴え途中離脱もした。しかし、そこから成長し、そんな紆余曲折からも解放されたようにいきいきとプレーしていると感じられた。
「チームとして楽しみながらプレーできたし、個人としてもとても満足しています。これまでは、フランス代表の試合を終えてボルドーに帰る時に、『自分らしくプレーできなかったのではないか』と後悔することもあった。だからこそ、今夜はとにかく全てを出し切りたかった。たとえ全てが完璧ではなかったとしても、心からラグビーを楽しみたかった。そして、何よりも胸を張ってこの試合を終えたかったんです」と清々しい表情で試合後に語った。
「ハーフ団はFBトマ・ラモスも含めて申し分ない働きを見せてくれました」とガルチエHCも満足感を示し、「我々にとってのハーフ団は彼ら3人による『トリプル・ハーフ団』なのです」と付け加えた。
「2人の『10番』を同時に起用して戦っているということです。フィールド上の立ち位置や、攻略すべきゾーンに応じて、彼らはほぼ自然に入れ替わります」とアルレターズ アタックコーチが説明する。
「最良の例はテオ(アティソベ)のトライシーン(80分)です。あの時、トマ(ラモス)が10番の位置に入り、絶妙なタイミングで『マニー(エマニュエル・メアフー)』が突くべきスペースへパスを通しました。そしてその背後で、非常に効果的なタイミングでボールを要求したのがマチュー(ジャリベール)でした。あの瞬間、マチューは15番の位置にいたのです。彼らがこれほど素早く役割を入れ替われるということは、我々が提示しているシステムの中で、彼らがいかに心地よく自由にプレーできているかを証明しています」
もう一人のハーフ団として名が挙げられたラモスは、積極的にイニシアチブを取り、プレーを仕掛け、その多くが身を結んだ。まさに「ボスの風格」を感じさせた。彼がビエル=ビアレに放った芸術の域とも言えるキックパスはネットを賑わせた。
「バウンドを見て、あれしか選択肢がないと思った。左にルイ(ビエル=ビアレ)がいるのは分かっていたから、とにかく彼のいる方へボールを運ぼうと考えて、一か八かでキックしてみた。狙ってやったなんてとんでもない。映像を見て、自分の足の当たり方を確認したけど、かなりラッキーだった」とラモスは言う。
しかし、トゥールーズでもこの手のキックパスを通しているところを何度か見た。ただのラッキーではないだろう。
彼のプレーへの影響力は、デュポンのそれに勝るとも劣らない。さらに、キックオフの前にはジャリベールの元へ駆け寄り言葉をかけていた。
また試合終了間際、アイルランドのLOジェームズ・ライアンから強烈なタックルを受けてジャリベールがしばらく起き上がれなかった際、すぐさま駆け寄ってライアンに詰め寄ったのもラモスだ。
ガルチエ体制第一期にアタックコーチをしていたロラン・ラビット(現ペルピニャンHC)は、「トマ・ラモスは、現在世界最高のプレーヤーではないでしょうか? 彼こそがフランス代表の舵を取り、必要な瞬間に常に完璧なパスを供給できる存在です。まさに天才です。キックの成功率も100パーセント。クラブでも代表でも常に最高の状態を維持しています。彼こそがこのチームの『ボス』です」と賛辞を送っている。
一方、この試合で疑問の声が上がっているのは、50分におこなわれた選手交代だ。前列5人と、膝の痛みを訴えていたCTBヨラム・モエファナを一気に交代させた後、アイルランドが息を吹き返した。フランスが遅れをとり、規律も乱れ始めた。58分、62分と立て続けにトライを許し、29-14とリードを守りながらも点差を縮められた。大量の選手交代でバランスが崩れたのではと指摘されている。
「相手は世界ランキング3位のアイルランドです(編集部注:試合前の時点では4位)。このレベルで試合が完璧に進むことなど滅多にない。我々も時としてミスを犯したが、その数はごくわずかでした。セットピースからの一時攻撃については、もっと改善の余地があるでしょう。ベンチメンバーについて私が気になったのは、ハーフウェイライン付近でのポゼッションを、それまでよりも簡単に失ってしまった点です。そこで相手にわずかなスペースを与えてしまい、その後のアイルランドの勢いを止めるのが非常に困難になりました。しかし、その悪い流れを再び押し戻し、試合終了間際にトライを奪い切ったのもまた、このフィニッシャーたちを含むチームだったのです」と、ガルチエHCは改善点を認めながらも、勝ち切った選手たちを擁護した。

昨秋の3連戦でガルチエHCは、「ワールドカップを2年後に控えた現在のフランス代表は、2021年当時ほどチームが整っていない」と評価した。それが「2020年や2021年の開幕戦と並ぶほどの、現在のこのチームの『ステートメント』となる開幕戦」(ガルチエHC)となったのはなぜなのだろう?
ガルチエHCは「選手たちが心底『プレーしたい』、そして『共にプレーしたい』と切望していたからだと思います。この10日間、彼らからはその熱い思いが伝わってきた。そしてアイルランドを完全に封じ込めたいと強く願っていた」と説明した。
「彼らは我々が構築した『テーマ』を忠実に遂行した上で、さらに自分たちの持ち味である攻守の才能をそこに上乗せしてくれた。自分たちがこれほど質の高いプレーを体現できるのだということを、選手たち自身も、そして我々も、あらためて実感しているところです」と手応えを感じている。
この試合の前に、ガルチエHCは「2020年に我々が灯すことに成功した『情熱の炎』を絶やさずに燃やし続けなければならない」と訴えていたが、この試合はまさに2020年のイングランドとの開幕戦で勝利を挙げた時のような熱い炎が選手に感じられた。
次戦のウェールズ戦(現地時間2月15日)の準備を始める前に選手たちには4日間の休暇が与えられた。トレーニングを増やすよりも、心身ともにリフレッシュすることを選んだ。
2月9日からの42名の合宿メンバーには、LOチボー・フラマンとFLポール・ブドゥアンが復帰した。FW2列、3列のメンバーの動きに関心が集まる。BKでは、CTBカルヴィン・グルグが足首捻挫で離脱、モエファナも膝の痛みを抱えていて、現在のところ出場が定かではない。
一方、試合中(昨年末のトップ14、ラ・ロシェル戦)に受けたタックルで腎被膜を損傷のため欠場していたSOロマン・ンタマックだが、復帰に向けてトレーニングをしている様子もSNSに投稿され、復帰は間近と期待されていた。しかし新たにハムストリングを傷め、1〜2週間遅れると報道されている。
【プロフィール】
福本美由紀/ふくもと・みゆき
関学大ラグビー部OBの父、実弟に慶大-神戸製鋼でPRとして活躍した正幸さん。学生時代からファッションに興味があり、働きながらフランス語を独学。リヨンに語学留学した後に、大阪のフランス総領事館、エルメスで働いた。エディー・ジョーンズ監督下ではマルク・ダルマゾ 日本代表スクラムコーチの通訳を担当。当時知り合った仏紙記者との交流や、来日したフランスチームのリエゾンを務めた際にできた縁などを通して人脈を築く。フランスリーグ各クラブについての造詣も深い。