logo
緊急入院→現役引退の衝撃。「俺たちのウイニ」へ捧ぐ思い。
2026年1月18日におこなわれたインベステック・チャンピオンズカップ、ハーレクインズ戦に出場した際のウイニ・アトニオ。(Getty Images)

緊急入院→現役引退の衝撃。「俺たちのウイニ」へ捧ぐ思い。

福本美由紀

 1月30日、ラ・ロシェルで翌日のリヨン戦に向けた恒例の記者会見がおこなわれた。
 その2日前、PRウイニ・アトニオが心筋梗塞で緊急入院し、現役引退を余儀なくされるという衝撃的なニュースが発表されていた。

 キャプテンのNO8グレゴリー・アルドリットが「平手打ちを喰らったような衝撃だった」と表現したこの事態を受けて、初めての公の場となった会見は、試合の内容よりもアトニオの話題でもちきりとなった。

 最初に姿を現したアルドリットは、笑顔を浮かべ、周囲を安心させるような言葉を選んだ。
「彼はまだ入院中ですが、電話で話すことができました。笑っていたし、僕らの知っているいつものウイニでした。声を聞けて本当に嬉しかった。……何より、彼が今こうして無事で、健康を取り戻しつつあって、家族に付き添われながら、これからの時間を家族のために使えるんだと分かって、本当に良かったと思っています。自分勝手な考え方をすれば、『なんてことだ、もう二度とウイニと一緒にプレーできないのか』と思ってしまうところもあります。でも、本来あるべき姿は、彼が無事であることを心から喜ぶことなんです。僕たちもすぐにそういう気持ちに切り替わりました」

 2014年からアトニオと一緒にプレーし、現在のスコッドの中で「トップ14への昇格」を共に経験した最後の生き残りとなったFLレヴァニ・ボティアは、「彼がこんな形でキャリアを終えることになるなんて、受け入れがたいほど辛いことです。でも、彼と話しました。大丈夫でした。彼は強い男です」と、絞り出すように語った。

「彼に何が起きたかを知らされた時、動揺しました。全員がショックを受けていました。あの日ほど、静まり返ったチームを見たことはありません」と言葉を継いだ。

フランス代表として68キャップを持つ。写真は2023年のワールドカップ準々決勝、南アフリカ戦のもの。(撮影/松本かおり)


「身近な存在がいなくなるというのは、それを消化するのに時間がかかるものです。誰にとっても特別な1週間になりました。いま、僕たちが団結し続けることが重要です。みんな常に笑顔を絶やさないようにしていますが、心の奥底では辛い思いをしているのがわかります……。早く彼に会いたいです」

 最も深い悲嘆の色を見せたのが、ロナン・オガーラHCだった。

「ウイニの姿を見た瞬間、私たちは大きな恐怖に襲われました。事態がどれほど深刻なのか、先行きが全く見えなかったからです。あの場にいた全員が、感情をかき乱され、目の前の光景に打ちひしがれていました。本当に恐ろしい出来事だった。ショックで、それ以来、私は放心状態です。今週は自分をうまくコントロールできているとは言えません。だって……あんなに大きなウイニが、小さなベッドに横たわって、体中にコードを繋がれている姿を見るのは……。でも、彼は大丈夫。体調は落ち着いています」と目に涙を浮かべながら語った。

 オガーラHCの感情がこれほどまでに強いのは、今回起きた出来事が、10年前の悲劇を彷彿させるからだ。かつての友でありチームメイトでもあったアンソニー・フォーリーが、パリ近郊のホテルで心臓疾患により急逝した時の記憶だ。
 当時マンスターのHCだったフォーリーは、その翌日、ラシン92でコーチとしてのキャリアを歩み始めたばかりだったオガーラと対戦するはずだった。

「残念ながら、アンソニーはもうここにはいません。だからこそ、強い恐怖を感じているんです。私はヘッドコーチです。もし、先週の日曜日のクレルモン戦でウイニを試合に出していたら……どうなっていたか想像してみてください。実際、彼を出場させる直前までいっていたんです。だからこの事実を消化するのは簡単ではありません。私は選手たちに対して、計り知れないほど大きな責任を負っています。いま、彼が病院という適切な場所にいてくれることに心から安堵しています。ですが、本当に辛い。彼は、ずっと抱きしめていたくなるような、そんな男なんです。でも、今はそれもできない。彼の奥さんや子どもたちのことを想うと、本当に悲しくて仕方がありません」

 それでもオガーラHCは、アトニオの未来に希望を見出そうとしている。

「彼はスタッフとしてチームに残ることになるでしょう。そう願っています。それは私にとってもこの上ない幸せです。なぜなら、私は一人の人間としての彼をよく知っているし、彼が表に出ないところでどれだけ尽くしてくれているかを知っているからです。若手選手の面倒を見て、外国人選手がチームに馴染むように気配りし、苦しい時期に彼が見せる振る舞い、逆に、自分たちが強いと過信しそうな時に彼がしてくれること……。彼のような人は世界中を探してもそう多くはいません。

 彼は、選手一人ひとり、スタッフ一人ひとりと特別な絆を築いています。だからこそ、全員がこれほどまでに打ちひしがれているのです。彼のことを知っていれば、冷静ではいられません。なぜなら、彼自身が『冷徹』とは真逆の人間だからです。いつも陽気で、周囲を明るく照らし、ポジティブなエネルギーを分け与えてくれる。人生において、とても大切なことです。私がここに来てから、彼が与えてくれたすべての感動に対して、感謝を伝えなければなりません。……彼を言い表す言葉が、今の私には見つかりません」

 アトニオの容態は落ち着いており、数日後には別の手術が予定されている。退院の時期については「その後の経過次第」となる。オガーラHCは「退院には数週間はかかるだろう」と考えている。

リヨン戦で、それぞれのウイニへの思いを表現するファン。ラ・ロシェルの公式『X』より


 1月31日のリヨン戦には、チーム全員が彼と共にいることを示す機会になると言って臨んだ。
「その通りです。ただ、ここには勝負の世界の冷酷な側面もあります。ウイニのために勝ちたい、最高の試合をしたいと願っていますが、スポーツというのは単に『願えば勝てる』というものではない。私たちはプロとして振る舞い、一度頭を空っぽにする必要があります。そして、これは『キャリアの終わり』という衝撃的な出来事ではあっても、幸いなことに『人生の終わり』ではないのだと理解しなければなりません」

 アルドリットは、「ウイニにエールを送る一番の方法は、土曜日の試合に勝つことです。彼はシーズン終了まで、心は僕らと共にあります。6月、あるいは(決勝のある)7月に、今起きていることすべてを笑って振り返る時間が持てるはずです。これは一つの試練に過ぎません。僕は彼が将来、指導者になってくれることを心から願っていますし、彼なら僕に大きな影響を与えてくれるコーチになるはずです。選手としては大きな損失ですが、彼は今もチームの一員です。また会えるのが待ちきれません」と強調していた。

 ラ・ロシェルのサポーターの間では、アトニオの背番号3にちなんで、試合開始後3分に「ウイニ、ウイニ、俺たちのラ・ロシェル!」というチャントを捧げようという動きがあった。LNR(プロラグビー運営団体)も「トップ14、第16節の他の会場でも、試合開始後3分にウイニに拍手を送って応援しよう」とSNSで拡散した。

「チームはその後にはまだ76分間残っていますからね」とオガーラは微笑む。
「私たちは集中し、この件を一度脇に置いて、80分間仕事をやり遂げる能力を見せなければなりません。サポーターの皆さんの熱意は素晴らしい。明日は彼らにスタジアムを熱く盛り上げてほしいし、今のチームには彼らの力が必要です。ウイニのニュースが入る前から、チームは良い状態ではありませんでしたから」

 ラ・ロシェルの負傷者リストには17人が名前を連ねている。その中には2人のSHノラン・ルガレックとトマ・ベルジョンが負傷し、エスポワールの19歳のノラン・クイヨーが先週に続いて9番に抜擢されている。さらに、チームが不調の中、常に安定したパフォーマンスを見せているFLオスカー・ジェグーが代表合宿に招集されている。

 対するリヨンも、決して良い状態ではない。現在12位で、13位のペルピニャンとは勝ち点で14リードしているが、ペルピニャンは調子を上げている。緊迫したシーズン終盤を避けるためにも、勝ち点を稼ぎたい。

 ラ・ロシェルはホームでサポーターと共に戦った。
 結果は24-44。今回はアトニオに捧げる勝利を掴み取ることはできなかったが、戦いは続く。









ALL ARTICLES
記事一覧はこちら