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ニュージーランド遠征中のフランス代表に、今、大きな注目を集める20歳の若き才能がいる。FBのテオ・アティソグベだ。7月5日に行われたオールブラックスとのテストマッチでは、惜敗したチームの中で(27-31)、現地紙「ニュージーランド・ヘラルド」から10点満点中9点という最高評価を受け、「この試合のベストプレーヤー」と絶賛された。彼のプレースタイルは、あの伝説的なセルジュ・ブランコを彷彿とさせるとまで言わしめている。
「ニュージーランド・ヘラルド」は、アティソグベのプレーを「エネルギッシュでキレの良いプレーで戦前の評価の高さを証明した。素晴らしいランを見せ、試合終盤の激しい局面でも決定的なクリーンアウトもあった」と称賛した。
さらに、「オールブラックスのCTBビリー・プロクターは、おそらくセルジュ・ブランコを知るには若すぎるだろうが、フランスの15番が彼の目の前をすり抜けていくのを見た時、往年の名選手の片鱗を味わったに違いない」とまで書き記している。
彼がフィールドで放つ存在感には誰もが目を奪われる。縦横無尽にフィールドを駆け回り、バスケットボール選手のように両手を高く突き上げてハイボールをキャッチするそのプレースタイルは、従来の腕でボールを抱え込むようなスタイルとは一線を画す。溌剌としたエネルギッシュなプレーはまさに彼ならではだ。
アティソグベ自身は、その独自なハイボールキャッチについてこう語る。
「7人制や13人制ラグビーではよく見られるスタイルです。新しいルールではエスコートができなくなったので、より高くボールを取りにいく必要がある。僕は身体が大きい方ではないので、どんなボールにも対応できるように工夫を凝らしている。シーズン当初からこのスキルに取り組んでいて、うまくくいったりいかなかったりでしたが、2月ごろから自信がついてきました」。
所属クラブのポーでは、パリ五輪の7人制で金メダリストとなったアーロン・グランディディエと、練習の終わりにどちらがより高い位置でボールをキャッチできるか競い合っているという。
NZとの初戦をアティソグベは冷静に振り返る。
「FBのポジションでのフィールディングにはかなり満足しています。落ち着いてできたし、このポジションでプレーする上では大切なポイント。細かな修正点はたくさんあるけど、次につながる良い材料になる。練習を続け、オールブラックスをしっかり研究して、彼らが仕掛けてくるプレーに最大限対応できるようにしなければ」
残る2試合に集中する。
◆フランス南西部、大西洋沿いのランド県出身。
アティソグベはフランス南西部、大西洋沿いのランド県で生まれた。現在は2部リーグに所属するものの、ダックスやモン・ド・マルサンのように、かつてはフランスラグビーを象徴する歴史的な強豪クラブがひしめく地域だ。「中学の友達はみんなラグビーをしていた」と彼が言うほど、今もラグビーが一番人気のスポーツだ。
そんな環境で彼がラグビーを始めたのは7歳になる頃だった。本当はもっと早く始めたかったが、父がなかなか許してくれなかった。父もかつて地元のアマチュアクラブでウィングとしてプレーしていた。
父がラグビーを許さなかったのは、このスポーツは小さい子どもには危険だと危惧したためでもあったし、「他のスポーツもしてほしいと思っていたみたいで、柔道と陸上競技をするように勧められた。ラグビーは12歳からという約束だった」とアティソグベは語る。
「父は過保護で、小さい頃はヘッドキャップを着用させられたけど、髪が伸びてきてかぶるのが難しくなり、これも長い議論の末にかぶらなくてもよいという許可を得た」
父が息子の試合前にかける言葉は今も変わらない。
「体調はいいのか? 怪我するなよ。怪我させるなよ」と、シンプルだが愛情が感じられるメッセージだ。
子どもの頃に父の勧めで始めた柔道が、いまの自身のラグビーに生きていると明かす。
「ラグビーはコンタクトプレーもあるけど、僕にとってはかわすスポーツ。柔道で自分の身体を知り、身体の使い方を身につけた」
素早い方向転換のステップ、巧みなタックル避ける、いなす、自分より大きな相手を倒すなど、まさに柔道で培われた身体の使い方だ。もちろんウェイトトレーニングでフィジカル強化にも取り組み、体重も5キロ増えて現在は182センチ、84キロになったという。
トップ14デビューを果たしてわずか2シーズンで、その才能を存分に発揮している。
フランス代表WTBにはダミアン・プノーやルイ・ビエル=ビアレ、そしてFBにはトマ・ラモスといった絶対的な存在がいるが、彼は限られた出場機会を確実にものにしてきた。今回のニュージーランド遠征は、彼にとって絶好の活躍の場となっている。
ポリバレンス(多様なポジションをこなせる能力)も彼の強みだ。ラグビースクールではSO、モン・ド・マルサンではFBからCTBへ。そして現在、ポーでもフランス代表でもWTBとFBをこなす。「ポリバレンスは僕のキャリアの一部であり、これからも磨き続けたい」と語る。
14歳でモン・ド・マルサンの育成センターに入り、17歳でポーのエスポワール(アカデミー)に入団した際には、最初からプロチームの練習に参加した。
2023年1月にはチャレンジカップでプロデビューを果たし、翌週も先発出場。18歳でU20代表に選ばれ、U20世界選手権で全試合に出場し、世界チャンピオンの座を掴んだ。
この経験は、彼を大きく成長させた。「ベイビー・ブラックス(NZ U20代表)との試合や準決勝、決勝と、こんなに重要な試合は初めてで、試合の準備段階で、自分のことをより深く知り、自分に何が必要かをさらによく理解できるようになった。ラグビーだけでなく人間としても僕を成長させてくれた」
続く2023-2024シーズン、アティソグベはブレイクした。
トップ14の全26試合中24試合にWTB、FBで先発出場し、シーズン9トライを記録。3月のトゥールーズ戦では2本のトライを奪った。特に2本目は、的確な読みでトゥールーズのパスをインターセプトし、誰も追いつけないスピードで70メートル駆け上がる、彼の強みが凝縮されたプレーだった。
活躍が評価され、シーズンの新人賞に選出。7月にはU20ではなく、フランス代表の南米遠征メンバーに選ばれ、アルゼンチン戦で初キャップを獲得し、2試合で2トライを挙げ、代表スタッフの信頼を得た。

◆2024年11月の日本代表戦にも出場。
昨年11月の日本戦では、キックオフ直前にプノーの代わりに出場することを告げられたが問題なく代役を務めた。自国での初めての代表戦だったが、家族にスタッド・ド・フランスに観に来てもらうことはできなかった。
今年1月のシックスネーションズ、ウェールズ戦ではWTBで先発出場し、2つのトライを決めた。どちらもキャプテンのSHアントワンヌ・デュポンからのパスを受けてのものだった。
最初のトライ(18分)はデュポンのクロスキックをキャッチしてのトライだったが、彼は表情を変えず、淡々と持ち場に戻った。「ボールをグラウンディングした時、心の中ではものすごく嬉しかった。歓声や光の演出にもすごく驚いた。でも、まだ試合の序盤で何も決まっていなかった。集中力を保つために、何も表に出したくなかった」と語る一方、内心では「キャプテンからのキックパスは見事だったし、トライ確実に見えるけど、ボールを捕るまでは何が起こるか分からない。もし8万人の観客の前で、ゴールから5メートルのところでノックフォワードなんかしたら、その後の試合が台無しになってしまう!だから、ボールをグラウンディングできて本当にホッとした」という本音も漏らしている。
2本目のトライ(34分)では、ゴール前まで持ち込んだデュポンからの飛ばしパスを受けてラインを越え、笑顔を見せた。
「まだボールをグラウンディングしていないのに、レフリーがトライの笛を吹いたから。僕はトマ(・ラモス)のコンバージョンを楽にするために、できるだけポストに近づこうとしていたのに。それが面白くて笑ってしまった。そして、心の底ではホッとしていた。アントワンヌ(・デュポン)も笑顔だったし、僕も感情を出してしまった」
若きアティソグベにとって、デュポンは特別な存在のようだ。
ウェールズ戦は家族もスタジアムで観戦していた。試合後、彼を抱きしめる父の目に誇りが満ちているのを見て、胸が熱くなった。
オールブラックスとの第1戦は、NZへ出発前に行われたイングランドXV戦に続き、15番での出場となった。空中戦でひけを取らず、ボールを持てばディフェンスを突破し、フランス最初のトライのきっかけを作った。正確なキックで自陣から脱出し、またインターセプトでも味方を助けた。
ディフェンスでも、ニュージーランドのトライをライン際で2度阻止するなど、攻守にわたって貢献した。
ニュージーランドのFB/WTBであるウィル・ジョーダンも、「ランが非常に上手く、空中戦でも脅威的だった。今シーズンのトップ14で彼のビデオをいくつか見たが、流れるような動きで非常にキレがある。特に前半は、私たちにかなりの問題を引き起こした。彼は才能ある選手、来週はもっとうまく抑える必要がある」とアティソグベを警戒する。
アティソグベはジョーダンについて「僕は彼のようなタイプの選手が大好きです。ボールを持っても持たなくても、無駄がなく流れるようにプレーしている。ニュージーランド代表には、彼のようなレベルの選手ばかりなので、このような格の選手と対戦する準備をしなければならない」と敬意を表す。
そして、オールブラックスとの次の試合(7月12日)に向けて、彼は力強く語る。
「僕たちは勝利するためにニュージーランドに来たんです。それが非常に難しいことはわかっています。彼らは世界で1位か2位の国です。これはとてつもないチャレンジ。先週土曜日、3つのトライが取り消されたとはいえ、僕たちにはそれができる力があることを示しました。76分の時点で4点差だった。この週末の目標は、この偉大なオールブラックスに勝つことです」
厳しい戦いになることを認識しながらも、対戦への決意を示した。