logo
物議を醸したレフリング。
レフリーに詰め寄るミニョニHCをPRプリゾが止める。(Getty Images)

物議を醸したレフリング。

福本美由紀

 トップ14第5節を締め括ったクレルモン対トゥーロン(10月6日)。クレルモンはここまで2勝2敗で7位。前節のペルピニャンでの大敗後(3-33)、ホームのサポーターの前で勝利して形勢の立て直しを誓っていた。対するトゥーロンは3勝1敗、ボルドー、トゥールーズと並んで首位につけており、アウェーでも勝ち星をあげて、この好調を維持したいところだった。

 80分のホーンが鳴った。77分に逆転したクレルモンがトゥーロンの猛攻を凌いで逃げ切った(19-18)。クレルモンの選手が拳を天に突き上げ歓喜した。その次にテレビカメラが捕らえたのは、凄まじい形相でレフリーの方に向かって行こうとして選手に引き止められているトゥーロンのピエール・ミニョニ ヘッドコーチ(HC)だった。
 PRダニー・プリゾがミニョニHCを思いとどまらせようと苦労しているのに気づき、この日のゲームキャプテンのSHバティスト・セランも駆けつけてなだめる。

 ミニョニHCがロッカールームに姿を消した後、現地中継局のレポーターが「何が起こったのか?」とプリゾに投げかけた。

「まるでコントだよ。僕たちに対するレフリングが…、なんと言えばいいのかわからないけど、とても残念だ。この試合、うちがずっと支配していたのに報われなかった。ペテンにかけられたみたいだ。がっかりだし、満たされない思いもある。するべきことをしたのに報われなかった。理解できないジャッジもある。レフリーのせいだとは言わない、僕たちのせいだよ。練習して強くなるよ」

 レフリングに対する不満を抑えようとはしたのだろうが、あまりうまくできなかった。

 何が起こったのか?

 激しい雨の中、華麗にパスを繋ぐようなアタッキングラグビーが炸裂する試合ではなかった。トゥーロンはボールを持てば近場で繋ぎ、ディフェンスに回れば堅く守る。クレルモンのペナルティを誘い、セランが100%の成功率で3点ずつ積み重ねた

「60〜65分まではコントロールできていた」と試合後の会見でミニョニHCが言うように、60分を過ぎるまではトゥーロンがクレルモンを抑え、18-9でリードしていた。

 しかし、「その後、コントロールを失いトライを取られ」(ミニョニHC)、コンバージョンも成功し18-16と差を縮められた。物議を醸したのはそれ以降のレフリーのジャッジだ。

『フィガロ』紙は「終盤、クレルモンのミスや反則は罰されなかった。トゥーロンが不満に思うのも仕方ないだろう」と指摘し、『ミディ・オランピック』紙は「終盤15分のいくつかのレフリーの判定が、片方を優位に立たせることにつながった」として、その判定をすべて分析する記事を掲載した。

 試合の内容よりもレフリングが話題になった。今月、フランスはレフリー月間で、各チームの選手たちが「レフリーモードになってみよう」と呼びかけている動画を発信しているのだが。

 それらの動きに対していち早く動いたのが、今年7月にフランス協会内に立ち上げられた「プロ部門レフリングテクニカル対策室」だった。試合の翌日に声明を出した。

 こちらのコラムで8月にも紹介させていただいたように、この対策室はレフリーの育成と支援を目的としており、元国際レフリーのロマン・ポワットとマチュー・レイナルが指揮を執っている。

「すべてのトップ14とプロD2の試合に共通する通常のプロセスに従い、まず対策室でレフリーチームと共に、妥協のない分析とフィードバックをおこないます。続いて、試合の重要なポイントについて意見交換するために、両クラブと面談をします。レフリー、選手、コーチにとっての改善点を特定するために、それぞれが自分の見解を述べることができる、建設的な話し合いです。レフリーは期待されているレベルに達するために、常に自問自答を繰り返しています」と方針を示した。

 続いて、「今季から選手・コーチとレフリーの距離を縮めるために、互いに意欲的な取り組みがおこなわれていますが、この試合終了後の現場での態度や発言は受け入れられるものではありません。それらは、私たちがコーチ陣と意見交換しながら改善していこうという取り組みに反し、フランスのアマチュア、そしてプロラグビーに貢献するために私たちが取り組んでいるレフリング向上活動を妨げるものです」と、ミニョニHCの行動を批判した。

「レフリーサイドからのコミュニケーションが不足している。レフリングへの理解を向上させるためにもっと発信して対話していかなければ」と現役引退時に訴えていたレイナル氏の意向を感じた。

 プレーの技術、スピードが向上し、戦術やルールに対する対策も精巧になり、レフリングにもますます高いレベルが求められている。しかし、果たして完璧なレフリングの試合が1年にどれぐらいあるのだろうか。
「議論を呼ぶ判定がない試合なんて1つもない」と、こちらも昨季のトップ14最優秀レフリー賞受賞時のレイナル氏の言葉だ。

 この日、トゥーロンは勝ち点4を狙っていたが、得られたのはディフェンディングボーナスの1点だけと、3点足りない。この3点でプレーオフ進出を逃すことになるかもしれない。
 それだけ真剣勝負なのだが、この様子を見て、「この状況でアドリアン・マルボ(この試合の主審)は来週もレフリーをしなくてはいけないのか」と彼の胸中を思いはかった。

 昨年のワールドカップでもレフリーへの批判や中傷が問題になった。そのせいでやめてしまった育成期間中の若いレフリーがいると、フランス協会のフロリアン・グリル会長は言う。
「今、フランスには2700人のレフリーがいるが、すべての試合をカバーするには3300人必要。レフリーがいなければ、困るのは選手たち」と警鐘を鳴らす。

 レフリングのレベルの向上はもちろんだが、今回の声明のように時には守ってくれたり、文字通り支援してもらえるのは、現役レフリーにとってかなり心強いのではないか。ポワット、レイナルの両氏がリードする対策室の効果をすでに感じさせられる。

 試合から3日後、規律委員会からミニョニHCに出頭が命ぜられた。しかし同HCはその前に、すでに地方紙『ヴァール・マタン』を通して反省の意を示している。

「私には苛立つだけの客観的な理由があった。しかし、私のリアクションは度を越していた。どのような理由、思いがあろうとも、私の態度は許されるものではない。次のラシン92戦から当面の間、スタッフと共にスタンドから試合を見ることにする」

ALL ARTICLES
記事一覧はこちら