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タイ・バンコクでは毎年2月、10人制ラグビーのアマチュア世界大会「バンコク10s」が2日間にわたって開催される。2006年の初開催から、今年で20周年の節目を迎えた。今年は2月14日(土)〜15日(日)の2日間で開催、気温が35度を超え、日差しに湿気も加わったタフなコンディションだが、会場はお祭りのように賑わっていた。
10人制ラグビーはアジアを中心に盛んなラグビーのスタイルで、15人制と同じ広さのグラウンドで行われる。バンコク10sのルールでは交代が自由で、シチュエーションやサインプレーに応じて、年齢、ポジション関係なくフレキシブルにプレーができる。
2008年からこのバンコク10sに参加しているニッポン・オーバル・ボーイズは、今年で18年目を迎えた。チームの座長を務めるのは、大手商社に務める三木剛(みき・つよし)。結成当初から、活動の段取りなどチームの取りまとめを担ってきた。三木は長年、学生に就職活動のサポートをボランティアで提供しており、三木を慕う教え子たちは卒業後、さまざまな業界で活躍している。
オーバル・ボーイズに普段の活動はなく、バンコク10sのシーズンのみ短期で結成される。同時に、毎年メンバーが入れ替わる完全な「寄せ集め&即席」のチームだ。参加者の8割以上は、三木との接点をきっかけに参加する。

20代の学生から50代社会人まで、様々な顔ぶれが揃う。宮田勇祐(みやた・ゆうすけ)はその一人で、伏見工業高校から東海大学を卒業後、複数の企業を経て、現在は外資系大手IT企業に勤める。三木の教え子の一人だ。社業の傍ら、ボディメイク競技の一種であるフィジークにも取り組んでいて、身体の厚みは際立っている。
宮田はちょうど10年前の新社会人だった頃、バンコク10sに参加していた。10年を経て再参加を決めた理由は、ラグビーが持つ人との繋がりだった。
「ラグビーから離れて会社だけにいると、仕事以外の付き合いが少なくなっていくことを感じていました。今回は特に参加してくれた学生が多くて、彼らが5年後、10年後は社会人として一緒に仕事をする間柄になっていく。自分の仕事をしているだけだと、人の人生や価値観に触れることが少ないので、こういった繋がりはあらためてありがたいなと感じました」
オーバル・ボーイズのキャプテンは、三木の意向によって代々、学生が担うことになっている。今年は関西学院大学ラグビー部から参加した一人、宮下劉牙(みやした・りゅうが)が務めた。バンコク10sは初参加で、新4年生として就職活動にも取り組んでいる。
「ラグビーが一つのツールとなって、普段の学生生活だけでは会えないような方々と交流できたことがとても財産になっています。チームのメンバー一人ひとりが分厚い経験を持っている魅力的な方々で、言葉からも重みを感じました」

バンコク10sを運営するグループの中心にいるのは、元カナダ代表PRのエディ・エヴァンス氏(Eddie Evans)だ。かつては日本IBMでプレーし、その後はバンコクに移住。現在はこのバンコク10sの運営とアパレル企業の経営、そして孤児院の子どもたちを対象としたラグビーのチャリティ活動に励んでいる。
彼が世界中に持つネットワークによって、至るところから参加チームが集まる。この20周年大会には、115チーム、総勢2400人もの参加があった。ニュージーランド、オーストラリアやフィジーに加えて、遠方からはアフリカ・マダガスカルの真東に位置するフランス領・レユニオン島からもチームが来ていた。チームの名前は“Rugby Club de Saint Pierre”。メンバーの一人が語ってくれた。
「去年、参加したのはタッチラグビーカテゴリーで女子チームだけでした。今年は、男子とオーバー40’sも加わって、3カテゴリーでエントリーしています。メンバー全員がレユニオン島に住んでいて、今回はバケーションを兼ねて仲間たちとバンコクに来ました。

ラグビーはフランス本土では非常に人気ですが、私たちの島ではサッカーが主流で、ラグビーチームは9つほどしかありません。メンバーのバックグラウンドも様々で、島生まれの選手もいれば、私のようにパリ生まれで島に移住した者もいます。アフリカ大陸の近辺にある遠い島ですが、直行便があるので8時間のフライトでバンコクまで来ました」
オーバル・ボーイズは、1日目の最後にこのチームと対戦した。フルコンタクトで身体をぶつけ合って、宮下は感じたことがあった。
「学生生活や就職活動を通して『グローバル』と何度も聞いてきましたし、自分でも言ってきたんですけど、やっと本当の意味が分かったと思います。初めての海外でこういった体験ができて、自分の視野が広がりました。
ラグビー以外では、インフラの部分でも日本との違いを感じましたし、自分がどうやって将来のキャリアを作っていくのか、どういった立場で社会に貢献できるのか、深く具体的に考えるきっかけになりました」

1日目の夜には、現地駐在員によって結成され、今年で創部62年目になるラグビーチーム “Bangkok Japanese Rugby Football Club”、戦後まもなく創部したエーコンクラブとの合同懇親会が設けられた。学生たちは、実体験に沿ったリアルな駐在体験を聞くことができ、スポーツの枠組みを超えて大きな刺激になった。
一方で、すでに社会人としてキャリアを十分に歩んでいる宮田も振り返る。
「ここでは、いろんな方々との繋がりをラグビーだけで持てるんですよね。世代とか年齢、職種、バックグラウンドとか一切関係ない皆さんが、ただラグビーをやるという理由のために集まる。僕が参加した10年前できた友人とも、まだ繋がったりするんですよね。これがこの先、10年、20年と続いていくんです。ラグビーは人生を豊かにすると本当に思います」
ラグビーが繋ぐ縁は、一瞬にして広がっていく。そして、それは生涯続く。そのチカラを体現しているかのような2日間だった。