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0-46。連覇中の王者敗れる。
そんな衝撃的なニュースが発信されたのは2か月半前だった。
リーグワン2025-26ディビジョン1はレギュラーシーズン全18節のうち、ちょうど半分の9節を終えた。
2連覇中の東芝ブレイブルーパス東京は9試合を戦って5勝4敗。開幕戦で大敗したとはいえ、その後、5連勝した。いつもの安定感を取り戻したように感じられた王者が、後半戦に入る時点で12チーム中5位の位置にいるなんて、誰が想像していただろう。
ラグビーは難しくて、チームは生き物。ブレイブルーパスのトッド・ブラックアダー ヘッドコーチ(以下、HC)とSOリッチー・モウンガは、そんな話をした。
来日3年目の今季を終えたら、モウンガはニュージーランドに戻る。まだ果たしていないワールドカップでの優勝を、オールブラックスのジャージーを着て成し遂げるためだ。日本でのラストシーズンを笑顔で終え、3連覇を置き土産にしたい気持ちは強い。
2019年から現職に就き、連覇の礎を作ったブラックアダーHCと、その積み上げたものを花開かせるトリガー役として、真摯にチームを牽引したモウンガのコンビを見られる時間も少なくなってきた。
レギュラーシーズンの残り9試合とプレーオフ(最大3試合)が終われば、ワールドクラスの司令塔は府中を離れる。

濃密だったこれまでの足取りを2人で振り返る場に同席した。J SPORTSオンデマンドで配信中の『CORE × RUGBY』、ブラックアダーHCとモウンガが語り合う「勝利への覚悟」が視聴者を引き込む。
両者の出会いや勝負の哲学、ブレイブルーパスでの日々や、未来図が詰まった時間となった。
2023年にフランスでおこなわれたワールドカップ終了後、府中の地でHCと司令塔の関係性で再会することになった2人の最初の出会いは2015年だった。
モウンガは、同年のスーパーラグビーを戦うクルセイダーズのワイダートレーニンググループに入った。ブラックアダーHCは当時のヘッドコーチだった。
モウンガは子どもの頃のことをよく覚えている。
「最初の記憶は1998年、1999年ですね。(クルセイダーズ、オールブラックスで活躍していた)トディはよく知られていて、そのプレーを尊敬していましたし、家族もみんな彼の大ファンでした」
そんな人のもとでスーパーラグビープレーヤーの第一歩を踏み出した。
「初めてのシーズン(2015年)は素晴らしかった」と振り返る。
憧れていた人が指導者だっただけでなく、「レジェンドと呼ばれる選手たちがたくさんいましたから」。モウンガはその中で、チームの勝たせ方や日常の振る舞いなどを感じ取る。将来の飛躍につながる道を歩み始めた。
ブラックアダーHCは、モウンガの存在を以前から知っていたコーチたちがその才能を高く評価しているのを聞き、実際にプレーを見るのを楽しみにしていた。
「彼がクルセイダーズのトレーニンググループに入った年、最初はノンメンバーでした。しかしトレーニングを見ていて、リッチーが非常にタフで、才能がある世界レベルの選手だというのがすぐに分かりました」
メンタルの強さが印象的だった。
「リッチーは本当に競争心が強くて負けず嫌いです。いつも一貫性を持って取り組み、自分がベストになる、という思いが強く伝わってきました。特別な選手は特別なことをします。彼は基本を大事にしますが、基本的なことをするだけでなく、ある瞬間、何か特別な力を出せる。リッチーは、生涯に一度出会えるかどうかの選手。そんな選手が、いま、ここにいます」
ラグビーマンなら誰もが尊敬するような道を歩んできた両者の、ブレイブルーパスとの向き合い方が素晴らしい。
ブラックアダーHCは、トップリーグ(リーグワンの前身)で準優勝した2025-16シーズンを最後に中位〜下位に低迷していたチームを再構築してほしいとのオファーを受けて覚悟を決めたという。
「伝統あるクラブと一緒に、文化を作り上げようと思いました」
連覇は急にやってきたわけではない。2019年からのプロセスがあるからいまがある、と確信している。
モウンガは3年契約を結んで日本に来た理由を、腰を据えてチームと歩みたかったからだと話す。
自分のプレーでゲームに影響を与えるためだけに来たのではない。「自分の経験や知識をチームに伝えるために東芝に入りました」。

「無私無欲」という言葉を使う。
「グラウンドでのマネジメントだけでなく、日々の準備やドリルなど、80分のパフォーマンスの助けになることすべてをサポートし、自分の知識を伝えることが大事だと思ってやっています」
言葉の壁がある分、アクションで示す。より明確にコミュニケーションをとる。「自分のことだけ、とは考えない」。
自分が歩んできた中で学んだことと、ブレイブルーパスに根付いているものを混ぜ合わせたものが「いま僕たちがやっているラグビー」。
その結果、日本の地で連覇を達成し、家族も増えた。「忘れることのできない、特別な思い出ができました」。
日本の多くのファンに愛されたモウンガ。3連覇を達成して母国へ戻れるかどうかは分からないけれど、その結果はどうであれ、世界的10番の世界一を目指すチャレンジは続く。
ニュージーランドに戻り、あらためて始まる競争に勝つ。国外から戻った者が漆黒のジャージーを着るためにはクリアしなければならないハードルもある。そのすべてを受け入れてモウンガは、2026年6月以降の自分の人生について、「ラグビーで学んだのは、コントロールできないことが多い、ということ」と表現した。
「できるのは、最善の準備をして、あらゆることに対応していくことぐらいです」
ラグビープレーヤーとしてだけでなく、人生においても大切なこと。フィールドの中でも外でも勝利を得るために必要なことはとてもシンプルだ。
生涯に一度出会えるかどうかの選手を、日本で毎週末見られる幸せは、残り3か月余り。
リッチー・モウンガは期待を裏切らない。