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翌日にライバルと戦うスタジアムの目の前、横断歩道を渡ったところにある都立青山高校のグラウンドでキャプテンズランをおこなった(2月13日)。
リコーブラックラムズ東京は2月14日、秩父宮ラグビー場で横浜キヤノンイーグルスと戦う。
ブラックラムズは2月6日、翌日の埼玉パナソニックワイルドナイツ戦(駒沢)の前日も、世田谷区の駒澤大学高校のグラウンドでキャプテンズランを実施した。
活動地域での認知やファン拡大を目的としたもので、昨シーズンより取り組んでいる。
2月13日、ブラックラムズは正午過ぎに青山高校に到着。同校ラグビー部員たちが見つめる中、約1時間、校庭で体を動かした。ちょうど昼休みで、昼食を頬張りながら練習を眺める者もいて穏やかな空気が流れていた。
キャプテンズラン後には、選手と高校生が触れ合う時間も設けられた。

イーグルスとの対戦はブラックラムズにとって特別な一戦。リコーとキヤノンは同業種で、両チームの対戦はトップリーグ時代から『事務機ダービー』と呼ばれ、両社の社内も熱くなるカードだ。試合当日は、観客に社員の人たちも多い。普段とは違う空気の中での80分となる。
そんな特別な一戦を翌日に控えたキャプテン、TJ・ペレナラはブラックラムズでの1年目だった昨季のことを思い出して言う。
「僕たちプロ選手は正直、その意味を理解していなかったというか、理解が足りていなかった。特に(初年度だった)去年の僕はそうでした。でもクラブが選手たちに対し、会社にとってこれがいかに重要かという話を本当によく説明してくれました」
『ダービー』へ臨むマインドが大きく変わった(2024-25シーズンはブラックラムズが27-20で勝利)。
結果、主将となった今季はダービーマッチの重要性を仲間と共有している。
「選手として、会社や、僕たちがラグビーを仕事としてプレーさせてくれている人たちへのコミットメント(献身)を示す最大の方法は、まず今週どう準備するかということ。そして明日、フィールドで良いパフォーマンスを出すことだと思っています」
今季開幕からの7戦を終えてチームは3勝4敗。チームの現在地についてペレナラは、「正しい方向に向かっていると思います」と言う。

「去年の今頃は、1勝6敗でした(その後5勝6敗で最終的に6勝12敗)。その当時は『いいラグビーができている、目指す場所からそう遠くない』というものでした。
でもいまは、それが逆転しています。(去年より良い)3勝4敗ですが、最近の会話は『十分にいいプレーができていない』というものです。それは、今の僕たちのグループとしての期待値や、自分たちが到達できると分かっているレベルを示しています」
いつも闘志あふれるリーダーは続ける。
「『まだ十分じゃない』と言うとネガティブなマインドセットに見えるかもしれませんが、僕たちにとっては、自分たちがどれだけ優れているか、どれだけ良くなれるかを知っているからです。現時点ではまだそこには達していませんが、それでも試合には勝てている。それをポジティブにとらえていきたい。
正しい方向に向かっています。今週の試合は会社のためにも重要です。いまの自分たちの立ち位置にワクワクしています」
青山高校の校庭は土。キャプテンズランは、いつものふかふかな芝の上での練習とは違った。
しかし、「いつもとは違いますが、ラグビー自体、普通ではありませんから」と意に介さない。「ラグビーは完璧なものではありません。明日になって、予想とは全く違う状況になるかもしれない。それでも仕事をやり遂げる方法を見つけなければならない」と続けた。
「だから、きょうの僕たちにとって重要なのは、キャプテンズランそのものよりも、コミュニティ(練習を見学している高校生たち)とつながることです。ラグビーを初めて見る人たちや、すでにラグビーやチームを知っている人たちとつながること。そして、コミュニティに恩返しをする。それが僕たちのやり方です」
自分にも思い出がある。子どもの頃、オールブラックスと触れ合った記憶は忘れられない。
「ポリルアにある家の近くのマクドナルドにオールブラックスが来た。そこに行ったのを覚えています。一度、ジョナ・ロムーが僕のクラブ(ノース)との試合に、相手のワイヌイオマタクラブの一員として出た。そこで彼に会えたのは最高でした」
以前ブラックラムズでもプレーしていたタマティ・エリソン(NZ代表4キャップ)は高校(マナカレッジ)の先輩。その人が学校に足を運んでくれて、話をしてくれたことも忘れられない。
この日が同じように、高校生の中にいつまでも残るなら嬉しい。

ダービーマッチに挑む23人の中に、この日使用した青山高校と同じような、公立高校の土のグラウンド出身の選手が一人いた。チームのムードメーカー、WTBの西川大輔だ。
愛知県立豊明高校でラグビーを始め、中京大を経て2020年度にチームに加わった。
「僕も土のグラウンドで3年間やっていたので、本当に懐かしい感覚があります。きょうのことがきっかけになって、ラグビー頑張ろうって、高校生が思ってくれたら嬉しいですね」
青春時代を思い出す。「雨の日はドロドロになって、練習が終われば、グラウンドの脇の水道で体を洗って、そのまま家に帰るのが当たり前の時代でした」
久しぶりに土の上に立って、「恵まれているいまの環境が当たり前じゃないんだなって再認識することができました」。
野球部に所属していた西川が高校入学時にラグビーを始めたのは、顧問の先生からの誘いがきっかけだった。線の細いスタンドオフだった。
3年間は少人数制の大会に出たり、合同チームでの大会エントリーもあった。3年時はなんとか15人揃えて単独チームで戦うことが叶った。
高いレベルを目指しているわけではなかった西川の意識に変化があったのは、中京大に進学してからだ。3年時にニュージーランドでのプレーを経験した。オークランドのイーデンクラブに所属した際、日本のトップリーグチームから留学に来ていた選手たちと触れ合う。刺激を受けた。
それが転機となり、周囲に、高いレベルに挑戦したい気持ちを伝えた。道が拓く。ブラックラムズの練習に参加するチャンスを得て、結果、入社、入団に至る。
そんな道を歩んだ人だから、帰省すれば足を運ぶ母校のグラウンドで後輩たちに言うのだ。「環境って自分で変えていかないとなかなか変わらない」と。

「コーチがいないとか、顧問の先生がラグビー専門の人ではないとか、そういうことは普通にあると思います。でも頑張れる。本当にリーグワンでプレーしたいとか、強い大学に行きたいっていう思いがあれば、自分自身で行動してほしい」
動けば何かが変わる。
「高校生たちには本当に、自分で扉を開いてほしいというか、殻を破って突き進んでほしいって思っています」
自分と同じような境遇の高校生たちが、より上を見て日々を過ごすには、西川本人が躍動する姿を見せることがエナジーとなる。
しかし2023-24シーズンは入替戦2試合も含めて14戦に出場するも、新体制となった昨季はアピール届かず、出場機会を得られなかった。そんな1年を過ごしただけに、再びピッチに立てるようになったいま、強みを生かしてポジション争いに挑んでいる。
2025-26シーズンは、第5節に起用されると、その試合から3戦連続で先発。今回のイーグルス戦で4戦連続出場となる。
トライこそないが、ワイルドナイツ戦では相手に一気に攻め込まれてトライを許しそうになった場面で必死に戻り、タックルからボールを奪い返すプレーもあった。
野球経験もあり、ハイボールに強い。チームとしてうまくいっていなかった局面について、西川が入ったことで安定をもたらしている点が首脳陣に評価されているのだろう。
本人も、「そことディフェンスは自分の強みと思っています」と話す。そして、持ち前の明るさで、「仲間や応援してくれる人にパッションを与えたい」。
キャプテンズランを見た高校生たちは、事務機ダービーを見て、「あ、昨日話したあの選手だ」と興奮するだろう。
「自分とあまり変わらないサイズのあの人が、こんなプレーするんだ」と思う者もいるかもしれない。
トップ選手は、大好きなラグビーを通して、若者たちに夢を与えられる幸せな世界を生きている。
