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7-61。
11月1日のロンドン、ウェンブリースタジアム。南アフリカに9トライを奪われ、日本代表は10年前の『ブライトンの衝撃』のような驚きを世界に発信できなかった。
試合後、記者会見場に現れた南アフリカ代表ヘッドコーチ、ラッシー・エラスムスは報道陣を前によく話した。
以前と比べて痩せた姿に驚くも、情熱的な喋りは何も変わらない。
同HCは報道陣が、後半8分までに2トライ3ゴールを決めてチームの勝利を決定づけたSOサーシャ・ファインバーグ・ムゴメズルについての話を聞きたい様子を察知した上で、「サーシャについてもこのあと話すが、まずはチーム全体について話したい」と切り出した。
まず、負傷のオックス・ンチェに代わって前半19分から出場し、1年ぶりのテストマッチ復帰ながら最後まで戦い切ったゲラード・スティーンカンプのことを称え、8月23日のオーストラリア代表戦以来出場のFLフランコ・モスタートのプレーにも触れた。
CTB出身で、宗像サニックスブルースでも活躍したアンドレ・エスターハイゼンが本格的にFLで出場し、トライを挙げたことも喜び、この日がテストデビュー、同代表最年少PRとなった21歳の3番、ザック・ポーセンについて「先発で出場し、いい経験を得たと思う」と話した。

◆いきなりスターになったわけじゃない。
そして、サーシャのことについて、「今年に入って大躍進し、いきなり出てきたスターのように見られているかもしれないが、実際には、ここまでの各ステージで、多様なコーチングを受けてきている」と話した。
「彼自身が才能に恵まれているのは事実」としながらも、過去には南アフリカA代表の試合でブリストルに敗れるなど辛い経験もしており(2022年)、「そこから練習や試合で経験を積んだ。ハンドレ・ポラード、マニー・リボックら先輩選手からも貴重なアドバイスを受けてきている」と、階段を昇ってきたからこそいまがあるとした。
そして、この日のパフォーマンスについて、「過去に苦戦したこともある日本代表との試合で、雨のコンディションにも適応してチームをコントロールし、10番としては十分以上に体も張っていた。キック、タックルなどの基礎はもちろん、試合の流れを読み切って魔法のようなプレーも見せてくれた」と称賛。「彼に加えハンドレ、マニーと、チームとして素晴らしい司令塔に恵まれていることを嬉しく思う」と続けた。
さらに報道陣から今後のサーシャについて質問を受けると、他のSOも含め、適性を見ながら起用法を考えていくと発言。「ヘッドコーチとして、直近のサーシャのパフォーマンスだけを見て必要以上に興奮するということはない」。
「ラグビー界全体で次のスターとして取り上げられているのは理解しているが、その盛り上がりも彼自身が自分から作り出したものではなく、あくまでも本人は地に足をつけて、チームの一選手として生活できています」
2003年のワールドカップでイングランドを優勝に導いたジョニー・ウィルキンソンの名前を出し、「優勝カップを10番として掲げた中で最も若かったのがおそらくウィルキンソンの25歳で、サーシャも2年後に25歳になる。まだまだ成長の余地はあると思っている」と話した。
◆リーグワンの選手たちに特徴を聞いた。
日本代表について「予想外の何かはあったか?」と問われたエラスムスHCは、「選手を個別にしっかりと把握はできていなかった(分析する素材が少なすぎた)分、日本のリーグワンでプレーする自チームの各選手にそれぞれの特徴などは確認することはあった」と答えた。
「きょうのジャパンは、10人ほどはキャップ数が一桁で、スタートのHOも22歳と若かった。平均キャップ数は16と非常に少なかったことを考えると、数字以上のプレーを見せていたのではないかと思う。先週のオーストラリア戦もそうだった。分析は難しかったが、自分たちにできることにフォーカスしてプレーする中で、50/50のボールが我々に転がってきたのかと思う」

さらに、「ジャパンはティア1各国との対戦機会が自分たちほどは恵まれておらず、40-50キャップを持つ選手を1番から15番まで揃えることは難しいのではないかと想像する。そんな中でも先週(のワラビーズ戦)は素晴らしい戦いを見せていたので、我々もしっかりと強度を高めて臨んだ」と続け、「現状の選手、人材の中でベストを尽くしているというのが感じられる」と、エディー・ジョーンズHCの指揮についても触れた。
2015年の日本代表戦にも出場していたシヤ・コリシ主将は、「当時はまだ若手でしたが、あの試合から今日までのあなたの道のりについて話してください」と問われ、「一つ言えるのは、あの試合と今日の試合では、それぞれに向けた準備が違う」と答えた。
「2015年はあまり知らない日本の選手について、正直に話すとそこまでの分析ができていなかった。今回は各選手の普段のクラブでのプレーも確認して臨みました。我々も各自で映像を見る時間をしっかり確保したし、仮に見たうちの8割をグラウンドに出た際に忘れてしまっても、頭に残る2割が違いになる」
◆ダブリンでの日々始まる。
日本代表は試合翌日の11月2日、次戦のアイルランド戦へ向けてダブリンへ移動。こちらも午前中のフライトで、緑の大地へと向かった。
ヒースロー空港からの便を待つ間、幸運にも航空会社のラウンジに入ることができた。
お、ワラビーズの選手たちがちらほら。前日にトゥイッケナムでイングランドと戦った(7-25)同チームの次戦はイタリア戦。静かに時間を過ごしていた。
アイルランドへ行くのは2017年の女子ワールドカップ取材時以来。あの時は10日間ほどダブリンに滞在した。
1時間ほどのフライトは、あっという間。しかし、せっかく早めに到着したのに、ホテルにチェックインするのは夕方前になった。
まず、搭乗前に預けた荷物がなかなか出てこなかった。ダブリン在住の知人に聞くと、最近は人手不足が原因で、物流など、いろんなところで不都合が起きているとのこと。
そして、市内行きのバスに乗るのにひと苦労だった。

リムジンバスではなく路線バスに乗車しようとすると、「混んでいるから、荷物があるなら次のやつに」と指示される。さらに、現金か専用のバスカードが必要で、現金だとお釣りは出ない。そして近くにバスカード販売所が見つからない。
と、その時、ドライバー氏が「もう、持っている小銭でいいよ」と神の声。料金に届いていない金額で乗せてくれた。
同日夜は、前出のダブリンの友とさっそくパブへ行ってビールを飲む。いただいたギネスがうまい、うまい。美味しく飲むコツは、注いですぐは茶色い液体が、しばらく経つと黒くなる。そのタイミングが飲み頃らしい。おすすめされた牛肉もうまかった。
日本代表は11月3日からダブリン市内のグラウンドでトレーニングを再開。特に11月4日は激しいコンタクトも多く、午前中だけでも濃密な2時間を過ごした。