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強豪ブラックファーンズ(女子ニュージーランド代表)との対戦を翌日に控えた8月30日。サクラフィフティーンは午前中に会場のサンディーパークでキャプテンズランをおこなった。
同スタジアムはプレミアシップ、エクセター・チーフスの本拠地で、街の中心部からバスで20分ほどの距離にある(最寄りのバス停から徒歩で約15分かかる)。
取材に向かおうと準備を進めていると、日本でのスペイン戦で怪我をして、離日後、チームとは別メニューで調整を続けていた松田凜日が離脱するリリースが日本ラグビー協会から届いた。
松田は帰国し、代わりに西亜里沙(東京山九フェニックス/立教大3年)が合流する。

ブラックファーンズとの試合が、3戦あるプールステージ2戦目となるサクラフィフティーン。松田の回復までに必要な時間が、チームに残された時間では足りないと判断しての決断となったようだ。
前日、長田いろは主将が松田に「プレーできなくてもチームに貢献してくれていた」と選手の代表として感謝の思いを伝え、一人ひとりハグをして送り出したと、津久井萌(SH)が教えてくれた。
齊藤聖奈(NO8)も、松田がチームを離れる際に残してくれた、「最後まで気持ちはここに置いて、みんなと一緒にいます。(帰国後も)応援します」のメッセージを紹介し、「凜日の思いを胸に明日の試合も戦いたい」と話した。

津久井、齊藤の両選手は、2017年大会から数え、3回連続でのワールドカップ出場。しかし、大会でニュージーランドと戦うのは初めて。それぞれ、胸の高鳴りを言葉に込めた。
「ワールドカップという最高の舞台で最高のチームと試合ができることを、個人的にもチームとしても楽しみにしています」と言ったのは津久井。齊藤は「アイルランド戦の敗戦(14-42)からチーム全体で立て直すことは難しかったのですが、いまは次に向けてしっかり準備できています。チームとしても2大会連続優勝しているチームと戦える機会はなかなかないので、ワクワクしています」と話し、ともにアスリートとして強大な相手に挑む喜びを伝えた。
前戦で、自身のパスがインターセプトされたところから失点を喫した津久井は、そのシーンを振り返り、「(試合後も)最初は落ち込みましたが、切り替えていくしかない、と。今週は一つひとつプレーに責任を持ってやりたい」と、強い気持ちで戦いに臨む。
気持ちを切り替え、いい準備期間を過ごしたようだ。
「アイルランド相手でも日本のテンポでやれたら通用しました。(自分たちのスタイルが)ニュージーランドにも通用するかどうか試したい。自分でも動いたり、パスするところはパスをして、メリハリをつけて崩していきたいと思います」

2024年、スーパーラグビー・アウピキ(ニュージーランド女子)のチーフス・マナワに所属した齊藤は、ブラックファーンズに当時のチームメイトが何人もいることを喜び、特に、同じ屋根の下で暮らしたケネディー・トゥクアフ(FL)が怪我から復帰、バックロー同士で対峙できる現実を「楽しみ」とした。
「相手はフィジカルチームでもあるので、一瞬一瞬のコリジョン、ブレイクダウンと、一瞬のモーメントに負けないようにしたい」とも話し、一歩も引くつもりはない。
そして、スーパーラグビーの経験から「(ブラックファーンズの選手たちも)同じ人間やぞ」と思えるようになった感覚を、サクラフィフティ―ンの若い選手たちも共感してくれるようになったことに相好を崩す。
「聖奈さんが同じ人間やぞ、と言っているのを聞いて、『確かにそやな』と、自分も思えるようになったと、後輩たちが言ってくれるんです」
試合でも怯むことなく、自分が先頭に立って立ち向かう。
ブラックファーンズはサクラフィフティーンの数時間後にキャプテンズランをおこなった。
チームを率いるアラン・バンティングヘッドコーチは、東京五輪(2021年開催)では、2016年のリオ五輪で銀メダルに終わった女子ニュージーランド代表を金メダル獲得に導く指導力を発揮した人だ。
ベイ・オブ・プレンティ、チーフス、セブンズNZ代表で活躍したこの人は、かつて東京ガスでもプレーした経験がある。

リオ五輪ではショーン・ホラン監督のアシスタントコーチとしてサポートし、その後、前任者の退任を受けて女子セブンズ代表指揮官に就いた。2022年にチーフス・マナワを率いてスーパーラグビー・アウピキを制し、ブラックファーンズのカルチャー&リーダーシップ・マネージャーを経て、2023年から現職に就いている。
東京五輪後にインタビューした際、チーム全員が常につながっていることを重要視して準備を進めたと話した。チームスピリットを大事にした上で、「サインプレーや型にはめるようなプレーはあまり持たず、状況に応じた最適解を本能的に選択できるようなトレーニングを積んだ」(バンティング監督)と言っていたことを覚えている。
ボールを持てばスペースを見つけ、そこを攻める。防御時は相手のスペースを奪う。シンプルかつ最強の鉄則を精度高く繰り返すことができる集団に進化させた手腕が印象的だった。
15人制でもアスリートたちが並ぶニュージーランド代表は、近年、思うような成績を残しているとは言えないが、大会3連覇を狙うモチベーションは高い。初戦で満点のパフォーマンスとはいかなかったが、スペインに54-8と大勝。日本戦で、さらにチームを上昇させるモメンタムをつかみたいと思っているだろう。
この日も選手たちの表情は柔らかかったものの、マネージメントチームには緊張感があった。
取材後は大会の観戦に訪れている女子日本代表キャップナンバー2、第1回、第2回ワールドカップに出場している玉置文子(たまおき・ふみこ)さんやプレミアシップ・ウィメンズのイーリング・トレイルファインダーズに所属している玉井希絵さん、元女子セブンズ日本代表の鈴木陽子さん(群馬プライムス チームディレクター)らと食事。女子ラグビー発展を願う熱いトークにビールのおかわりを重ねた。
ブラックファーンズをやっつけたら、もっともっと祝杯を重ねたい。
