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人生の中で、いちばん気持ちのいいトライ。矢次竜介[男子セブンズシニアアカデミー]
173センチ、80キロの23歳。安川電機BLUE BLAZEを指導する西端要氏によると「窪田幸一郎(元NEC、日本代表キャップ3、トップリーグで1試合5トライを記録した好ランナー)の現役時代を思い出す選手」と表現する。(撮影/松本かおり)
2025.04.04
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人生の中で、いちばん気持ちのいいトライ。矢次竜介[男子セブンズシニアアカデミー]

田村一博

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 世界一のセブンズ大会の、新しいスタジアムを駆け抜けて笑顔がはじけた。
 セブンズ日本選抜の矢次竜介(やつぎ・りょうすけ)が3月29日、香港セブンズ(HSBC SVNS 2025/香港大会)の中でおこなわれるメルローズカップ(日本、香港、中国が参加)、香港戦の後半にトライを挙げた。

 日本は男子セブンズシニアアカデミーとして同大会に出場し、香港代表、中国代表と戦い、それぞれ21-43、7-19と敗れた。
 しかし、多くの大学生たちが多くのファンの前でプレーした経験は大きい。日本ではなかなか感じられないセブンズの魅力を感じただろう。

 矢次はチームの中では少なかった社会人選手だ。トップキュウシュウを舞台に戦う安川電機BLUE BLAZEに2024年の春に加わった。
 今回の香港では、初戦の香港との試合に後半から出場し、試合終盤、チームメートとのクロスが効く。ラインブレイクから長い距離を走り切った。

 中国戦でも後半に出場した。
 トライはなかったが、自分のインサイドで防御の裏に出た相手に反応してすぐに追い、止めるなど、チームへ貢献するパフォーマンスを見せた。

 トライシーンを「相手が流すディフェンスをしていたので内があいていると思い、クロスで入りました。うまくパスをしてくれた」と仲間に感謝した。
「歴史ある香港セブンズのピッチに立てて嬉しかったです。(抜けた後は)走るだけでしたが、ラグビーをしてきた中で、いちばん気持ちのいいトライでした」

 社会人らしく、「この舞台に立てているのは当たり前ではなく、会社の理解もあってのこと」と支えてくれている人たちの存在を忘れない。
「応援してもらっている立場です。感謝の気持ちを伝えるためにも、代表レベルで活躍できる選手になりたい」と話す。

従兄弟の山口健太郎(福岡工業大)と国スポ、香港の舞台でともにプレーできたのも「一生の思い出」。(撮影/松本かおり)


 佐賀県出身。ラグビーマンの父の影響を受けて、小1で佐賀ジュニアラグビークラブに入り、中学時代はブランビーヤングラガーズでプレーを続けた。
 高校は強豪の佐賀工へ。2年時までは怪我に悩み、なかなか出場機会を得られなかった。しかし、3年時にレギュラーをつかんだ苦労人だ。

 福岡工業大学では2年時からポジションをつかみ、3年時には大学選手権にも出場した。
 しかし膝を怪我した4年時は公式戦に出場できなかった。安川電機(本社/北九州市)には一般入社で入った。

 大学時に同社の会社見学に行く機会があった。その時、実際に製品を間近で見て、高い技術力に感銘を受けて入社を志した。
 主に会社の製品の立ち上げやメンテナンス、修理などを担当するエンジニアとして社会人生活を送る日常を自分の未来図として描いた。

 そんな採用プロセスを歩んだから、ラグビーは会社のクラブ、BLUE BLAZEでのプレーに専念するつもりだった。
 ただ2024年の10月には故郷・佐賀で国民スポーツ大会(旧国体)がおこなわれることになっていたから、同大会を盛り上げたかった。その思いを会社に汲んでもらえたことにも恩を感じる。

 大学時に佐賀代表(セブンズ)としてブロック国体に参加していた実績からセレクションを経て、国スポのメンバーに選出された。同大会で優勝。決勝では3トライを挙げた(2024年10月8日)。
 もともと故郷に錦を飾ってセブンズ活動は終えるつもりだったから、大団円を迎えたはずだった。
 しかし、これが転機となる。

 その活躍を見たセブンズ代表からチームに連絡が入る。決勝翌日のことだ。BLUE BLAZEの吉田孝志監督から「代表候補の合宿に参加してほしいと連絡が来た」と伝えられて大きく状況が動いた。
 会社の協力も得て代表活動に参加、連絡が入ってから1か月後にはバンコクにいた。男子セブンズ日本代表のメンバーとして、アジアセブンズシリーズのタイ大会に出場した。

 急展開の人生に、「最初はドッキリ(テレビ)じゃないのかな、と思いました」と笑う。
 しかし現在は、会社の名前を背負い、高いレベルでプレーしていることの責任と充実を感じる。もっと世界と戦いたい意欲にあふれる。

「スピードが強み」と話す好ランナーは、「1対1では負けない。そこを伸ばしつつ、コンタクトも強くしないと。世界レベルの選手たちは大きい。鍛えていきます」と先を見る。
「香港は最高の雰囲気でした。大観衆の前でやれたことは、今後につながるいい経験になると思います」

 夢のようだけど、未来へつながる道は、自分でつかんだもの。
 この半年のように、目の前の好機を逃さず、結果を残し続ければ、「いちばん気持ちのいいトライ」はどんどん上書きされていく。






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