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大海へ出て広がる夢。金井忠好&岩切景介[鹿児島高校/ビッグマン&ファストマンキャンプ参加]
桜島をバックに。左がビッグマンの金井忠好。右がファストマンの岩切景介。(撮影/松本かおり)

大海へ出て広がる夢。金井忠好&岩切景介[鹿児島高校/ビッグマン&ファストマンキャンプ参加]

田村一博

 大海に出て初めて気づくことがある。それがきっかけとなり、大きくなれる。
 金井忠好(ただよし)と岩切景介の2人は昨年(2024年)の12月に千葉県市原市でおこなわれたTIDユースキャンプ(Bigman&Fastman Camp)に参加した。

 ともに鹿児島高校ラグビー部に所属している。金井は2年生。180センチ、150キロの体格を誇り、ビッグマン枠で招集された。岩切は1年生。180センチ、66キロ(キャンプ参加時)のファストマンだ。

 同校ラグビー部は昨秋の花園予選には甲南高校と合同チームを組んで出場。初戦を突破して準決勝に進出した。
 新チームになって臨んだ今年1月の新人大会には単独チームで10人制へエントリー。県の2位となり、九州大会(10人制/3月15日、16日@宮崎)進出を決めた。

 長い歴史を誇る同校ラグビー部は、花園出場の経験はない。随分前に県大会決勝まで進出したのが最高位だ。
 鹿児島市薬師にある学校は、2023年に創立100周年を迎えた共学の私学。鹿児島中央駅にも近く、多くの生徒たちが学ぶ。

◆最重量だからいいだろう、ではダメだ。

 金井は1年生の時にもTIDユースキャンプへのエントリーを打診されたが断った。その場がどんなものかと思い調べたら、2メートルを超える選手もいると分かったから「(自分には)無理だな」と尻込みしたまま終わった。
 しかし2年生になり、再度の誘いに「お願いします」と重い腰を上げた。

 実際に参加すると、やはりビッグマンたちのサイズに圧倒された。体重は自分がいちばん重かったけれど、見上げるような長身選手に驚く。
 例えば中川櫂人(千葉日本大学第一)は192センチ、104キロの1年生。「うわっ、でけえ、と。学校では自分より大きな人はいないのでびっくりしました」と回想する。

 キャンプでの3日間は、自分の現在地を知るものになった。
 スクラム時のパワーには手応えを感じられた。ただ、スピードは参加者の中でもいちばん遅い方。「最重量だから、と言い訳にしちゃいけない」と肝に銘じた。

以前、親に相撲を勧められるも「まわし姿が無理」と断った金井。ジャージーは4XLでパンツは特注。シューズは幅に合わせると31センチ。(撮影/松本かおり)


 キャンプ参加時は146キロ。最重量時は153キロ前後だったと話す。
 曖昧なのは、自宅にある体重計の測定可能値を超えていたからと頭をかく。小1時に50キロあったというから、ビッグマンとしての人生を歩んでいる。

 楕円球との出会いは高校入学後だ。ラグビー部の上級生が教室にやってきた。口説き落とされた。「最初は断っていたのですが、根負けしました」と言う。
 吉野中時代は薩摩ボーイズという硬式野球のクラブに所属し、ファースト、キャッチャー、ピッチャーをしていた。当時92キロ。受験のために中3の春に活動をやめ、勉強も食事もたくさんしたら1年で約40キロ増えた。

 好物は唐揚げとおばあちゃんの作るカレーライス。毎日三食をしっかり食べる。1日に5合のご飯を食べる。取材前日の晩御飯では、ラーメン、焼きそばと唐揚げを8個食べた。
 顧問の大﨑文経監督から減量指令を受けているものの、昨夏以降減ったのは7キロだけで現在146キロ。「130キロになって、どう動けるか試してみたい」と言うものの、なかなか前へ進まないのが現状だ。

 全国から集まった逸材たちの中に入って、パワーや接点の強さに手応えを感じたものの、それを試合で発揮できるようにしないといけない。ボールを持たなければヒットできないし、相手のステップに簡単に抜かれるなら重いタックルもお見舞いできない。

 キャンプ中、大島脩平コーチからは「懸垂できるようになれ」と宿題が出た。そして、予測して動くことの重要性も伝えられた。
「試合形式の練習でもボールをもらえない。予測して動くことが大事、と。それは普段から大﨑監督にも言われていることでした」

 期待されることで向上心も芽生えている。存在を知った大学関係者から進学の誘いももらった。普通科の選抜コース、理系に学んでいる。ラグビーをより高いレベルで続けたい気持ちと将来のことを考え、じっくりと進路を決めるつもりだ。

 昨秋の花園予選のことを思い出して言う。
「相手のプロップに低く組まれて力が出せませんでした。いろんなところを改善して成長していきたいですね」

 3月15日から始まる九州大会(10人制)に向けて、「ビッグマンらしく、相手をぶっ飛ばしてゲインしたいですね。できればトライも取りたい。スクラムは全部押します。相手ボールも奪えたら」と抱負を口にした。

ラグビー部の仲間たちと。(撮影/松本かおり)


◆いくつもの扉を開けていきたい。


 ファストマンで1年生の岩切は、スピードが持ち味だ。体は細いが、自分からキャンプ参加を希望し、監督経由でエントリーした。
 その結果、全国から集められた意欲ある選手たちと出会い、刺激を受けて鹿児島に戻ってきた。

 キャンプ参加へのきっかけは体力測定だった。
 立ち幅跳びで290センチを記録したと家で話したら、陸上競技出身の父が、高いレベルへのアプローチを本人に提案してくれた。
「鹿児島にいたら全国を経験することはありません。すごいプレーヤーのレベルを肌で感じたいのと、(全国での)自分の立ち位置を知りたいな、と思い、応募を希望しました」

 妙円寺小5年の時に鹿児島オールブラックスに入った。
 小4時の担任の先生がラグビー協会の普及委員長をしていたため、タグラグビーに取り組む機会があった。そこを入口に、ラグビーへの興味が膨らんだ。

 鹿児島オールブラックスでは中学時代でもプレーを続け、県の選抜チームにも選ばれた。
 全国大会には出場できなかったが、同選抜チームの倉園獅子丸主将ら6人とともに鹿児島高校へ進学した(選抜5人+鹿児島ジュニア1人)。

 ファストマンとしてキャンプに参加してみて感じたのは、自分の強みと課題だ。即席チームでの試合形式の練習で自分のスピードが通用することは分かった。
「そう感じたのですが、他の選手は速くて、パワーもある。そこに差があります」
 小倉高校(福岡)の髙野恵次郎が印象に残った。182センチ、82キロ。速くて強かった。

キャンプ参加後、三食に加え、捕食なども摂って増量している岩切。早大ラグビー部のスプリングスクールにも参加してみたい。(撮影/松本かおり)


 もっと強く、太くならないと。
 そう感じてから行動に移すまでに時間はかからなかった。故郷に戻った後、週6でジムに通う。食事の量も増やして、66キロだった体重は2か月あまりで71キロになった。
「それでも、(以前と同じように)動けます」

 三重ホンダヒートに所属する藤田慶和の高校時代のプレーをYouTubeで見て、自分の理想の動きを頭に浮かべる。
 よく見る映像は、藤田が東福岡高校2年時の花園決勝。桐蔭学園と31-31の引き分けで両校優勝となった試合だ。

「(藤田は)スピードもパワーもあり、バネがあって、しなやか。そういうプレーヤーになりたいと思っています」
 足が長く、初速や加速で勝負するというより、伸びのある走りが持ち味だ。1対1で相手を追い詰める防御も得意としている。

 将来は大学ラグビーでの活躍も夢見る。1学年上、鹿児島実業で活躍する桑山和生(早大→東芝ブレイブルーパス東京所属の桑山聖生、淳生兄弟を兄に持つ三男)とは仲がいい。「一緒に早稲田でやろうよ」と声をかけられて心が動く。他大学への道も頭に浮かぶ。

 キャンプで学んだことがある。
 抜けたら外へ。防御に迫られたら、裏へキックを転がして打開する。そんな教えをチーム内で共有。戦術面にも積極的に発言するようになった。
 自分たちの代が10人入部したこともあり、新チームには12人の選手たちがいる。「3年生の時には花園へ行きたい」と夢が広がる。

 まもなく始まる10人制の九州大会での活躍を誓う。ビッグマン&ファストマンキャンプにも、また参加したい。全国レベルを知る機会にも、できるだけ多く触れたい。
 いろんな扉を開きたい。

部活動が盛んな高校。鹿児島市薬師にある。(撮影/松本かおり)


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