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【Just TALK】「試合を重ねるほど調子が上がる」。長田智希[埼玉パナソニックワイルドナイツ]
今季は開幕からの全8試合に出場(すべて先発で7戦が11番、1戦が13番)。(撮影/松本かおり)
2025.02.17
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【Just TALK】「試合を重ねるほど調子が上がる」。長田智希[埼玉パナソニックワイルドナイツ]

向 風見也

 国内リーグワン1部は2月16日までに第8節を消化した。

 現在、唯一、無敗を保っているのは埼玉パナソニックワイルドナイツだ。

 2季連続レギュラーシーズン首位の名門は、現在、7勝1分で12チーム中首位。初年度以来3シーズンぶり2度目の日本一を目指すなか、上位6強によるプレーオフ行きへ前進する。

 2月16日には東京・秩父宮ラグビー場で、昨季4位の横浜キヤノンイーグルスと激突した。

 レッドカードによる一時的な数的不利、フロントローに故障者が出たことでのスクラムのアンコンテスト化など、トラブルに見舞われながらも51-36で勝った。

 フッカーの坂手淳史主将は言う。

「レッドカードを出したのは自分たちのスキル不足(ハイタックルが決定打だった)。見直していきたいです。ゲームはスクランブルというか、あまり決まったシェイプ(型)がないような展開に。反応、自分たちの繋がりを表現するのにいい試合になった。タフな時間でしたけど、皆で繋がり合って、いいディフェンスができたシーンも多かったのではないかと思います」

 チームの看板である防御において、リーダーを担うひとりは長田智希。身長179センチ、体重90キロの25歳で、センターやウイングを務める。一昨季は新人賞にも輝いている。

 オフには前日のゲームを複数回、見直すという万能バックスは、2月11日、埼玉県内の本拠地でクラブ、自身の現在地について語っている。

 その2日前にはホストスタジアムの熊谷ラグビー場で、前年度王者の東芝ブレイブルーパス東京と28-28で引き分けている。

ディフェンスでのコミュニケーションをより密にするため、改善を重ねていく。(撮影/松本かおり)


——きれのあるランをトライに繋げたり、大きく突破した相手に追いついて捕まえたりと、コンディションがよいように映ります。実際はいかがですか。

「身体の調子自体は悪くないと思います。ただ、それがパフォーマンスに繋がっているかというところで言うとまだまだ課題がたくさんあって、反省しながら進んでいるという感じです。

 東芝戦で言うと、バックスのアウトサイドのディフェンスのコネクション。ひとつはトライがキャンセルになったところと、ひとつはトライを獲られたところです(それぞれ後半18、30分)。

 僕がウイングに入った時の内側の選手とのコネクションは、改善すべきかなと。D-Rocks戦(熊谷での第6節、53-26で勝利)ではセンターだったんですけど、その日も内側の人とコネクションが切れてラインブレイクをされたところがあった。2試合続けて同じミスをしてしまったのは反省です」

——改善策のイメージは。例えば、どんな手順を踏んだらライン上に望んだ人数を揃えられるか…など。

「(改善点は)人数、ではなくて、僕の最初のノミネート。内側の選手が前を見ているのか、後ろを見ているのか(について)喋って、自分が誰を見ないといけないのかのコミュニケーションを取る。抜かれたシーンでは両方とも、コミュニケーションを怠ってしまって、何となく前に出て、(衝突の)タイミングが合わない…というところで抜かれたので、そこを疎かにせずに、ずっと喋り続ける」

——防御の連携においては、昨季限りで引退したフッカーの堀江翔太選手の影響が大きいと言われています。実際は。

「堀江さんって、プレーのなかで一番、喋っている。例えば内(側=接点の周り)にいたら『インサイ(ド)、オッケー!』とか、あとは『そいつに(タックルへ)行っていいよ』とか…。本当に細かいコミュニケーションの量と、質が、凄いんです。

 そこが、(以前との)違いです。

 システム自体が大きく変わったわけではないんです。ただ、そのシステムのなかでいかにコミュニケーションを取れるか、喋り続けられるかがすごく重要。それは多分、皆、わかっていても、疲れているとできない部分が出てくる。そこで一貫性を持ってやり続けるのが大事です」

——今のワイルドナイツの守りの「システム」を作ったのも堀江さん。日本代表としてワールドカップ4大会連続出場のフッカーは、この競技における様々なパートに造詣が深かった。

「…堀江さんの声って、どこにでも聞こえる。よく通るというのもあるとは思うんですけど」

——大物の抜けた穴を埋めるべく、残されたメンバーが少しずつ連携面を進歩させているのですね。

「そうですね。そこは成長するべきところです」

——ここまで「課題」を口にする前提で、「身体の調子自体は悪くない」とも話されています。その理由は。

「試合を重ねると調子がよくなっていくと、僕は思っている。ひとつ、試合を終えたその後に、1週間、反省した部分に取り組んで次の試合に臨んでいるので、毎試合、毎試合、成長している。その意味では、よくなってきているのかなと」

 クレバーさと向上心で己を磨き、日本代表としてはワールドカップフランス大会などで計17キャップを得ている。

 第2次エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)政権1年目となった昨季は、テストマッチ(代表戦)で4勝7敗。試練にさいなまれた。

 特に国内や欧州を回った秋のキャンペーンでは、ニュージーランド代表、フランス代表、イングランド代表にそれぞれ19-64、12-52、14-59と大敗した。

 折しもスコッドは若返っていて、途中参加で主将となった35歳の立川理道らベテランのリーダー格は故障などで相次ぎ離脱していた。

 長田はこうだ。

「全体的には見ている方たちと同じような感想です。自分たちが目指すレベルにまでは到達できなかった。試合の結果も含めてです。高いレベルの国を相手に自分たちのやりたいラグビーはできなかったですし、相手の強みを存分に出させてしまった。エディーさん(の体制)になって 1 年目で、これから成長していかなくてはいけない。一方、そのなかでも結果も大事だなと」

 ジョーンズHCを含めた複数関係者への取材を総合すると、昨季のジャパンは連続攻撃の仕組みと感覚を導入するのを重視。キック戦術にはあまり手をつけなかった。

 コンセプトの落とし込みと、目先の勝負に必要なプレーの選択。そのバランスを取ってきた1年について、長田はこうも掘り下げた。

1999年11月25日生まれの25歳。179センチ、88キロ。日本代表キャップ17。2023年7月22日のサモア戦で初キャップ。(撮影/向 風見也)


「最初の試合では、自分たちがどういうラグビーをしていくのか、不安で、難しかった(6月22日、東京・国立競技場でイングランド代表に17-52と敗戦)。ただ、パシフィック・ネーションズカップあたりから『こういうラグビーなのか』が少しずつわかってきて、いい方向に行った(準優勝)。ただ、強豪国相手には、そのわかってきた部分を出せずに不安になっていく…と。どんな相手にも、自分たちがやると決めたことをやり切るのが重要だと感じました」

——全日程終了後、日本ラグビーフットボール協会は、代表の選手やスタッフに現首脳陣についてのアンケート調査をおこなったようです。

「僕としては正直マイナス(の印象)ではないです。エディーさんの根本に日本代表を強くして勝たせるという思いが感じられないわけではないですし、たぶん、僕たち選手にも変わらないといけない部分がある。もちろん意見(を出すこと)は大事だと思うんですけど、監督がどうとか…ということは、僕たちが変えられる部分じゃない」

 活動期間中、同学年で仲の良いフッカーの原田衛はジョーンズにとっての「怒られ役」であると発言。それについて長田は「自分で認めるのはどうかと…」と、親しいからこそ口にできるであろうジョークを述べつつ、タフな役回りの盟友へ敬意を口にした。

「(ジョーンズが意識の高い原田を注意することで)周りに引き締まって欲しいという意味だったかと。おそらく原田も(意図は)わかっていたと思います。しんどそうでしたが」

 2027年のワールドカップオーストラリア大会では長田、原田の世代が軸となるよう期待されている。

当事者のひとりは続ける。

「僕としては、まずは毎年リーグワンで結果を残し、代表に呼ばれて、そこで勝つためにどうしていくか…というところです。長期的な目標を見るのも大事ですけど、目の前の試合で確実に成長していくことも重要です。

ジャパンで大事にしてきた部分は、リーグワンでもある程度は頭に入れながらやる。エディーさんがよく言っているオフ・ザ・ボールの動き(速い起立と動き出し)は、どんなシステムのラグビーにも当てはめることができます」

 ジャパンでアップデートした心構えをそのままに、ワイルドナイツの戦いを研ぎ澄ませてゆく。


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