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とにかく「必死」だった。明大ラグビー部の木戸大士郎は、早々にレギュラーに抜擢された1年生の頃をこう振り返る。
「必死だった。必死についていこう、ついていこう…。それしか考えていなかったです」
旧大阪工大高こと常翔学園高校で主将を務め、全国の俊英が集う明大へ入ったのは2021年度のことだ。
木戸と同じ高校、大学に在籍していた神鳥裕之監督は、ルーキーだった後輩の「タフさ」を評価する。主力組に加わったばかりの木戸が、試合中に故障を抱えながらフル出場を望むこともあったという。
本人は「運、よかったりするっす」と謙遜する。最初に1、2軍からなる「ペガサス」へ昇格した理由が、同じポジションの上級生のコンディション不良だったからだ。
上位チームに定着するまでの過程については、こう述べた。
「最初に(スコッド表の)ボードを出された時はルビコン(3、4軍)で、悔しいけどこれから頑張ろうかなと。それが、翌週の頭になるとペガサスに。これは、(より)頑張らなあかん…と。…運、いいな、とも。(試合に出られたのも)運っす。あまり自信はなく、身体を当てるし、激しくやるし、走るし…と、やるべきことに必死でした」
身長185センチ、体重104キロ。ナンバーエイトとして攻守に献身する。何より今季は、高校時代に続いて船頭役を担う。
「ハードワークが、一番の売りなので」
11月3日には東京・秩父宮ラグビー場で、筑波大に31-0と完封勝利。関東大学対抗戦Aで開幕5連勝を飾り、自身もプレイヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた。
単独取材に応じたのはその5日後だ。
11月17日に秩父宮である帝京大戦への思い、2018年度以来14回目の大学日本一を目指すいまの心境、さらには、卒業後に身を置きたいトップレベルの舞台について語った。
——ここまでチームはどう進んでいるように見えますか。
「1戦、1戦、成長してくれているように映ります。ビデオを見てもディテール——細かい部分——をしっかりこだわってやれているかなと。夏に比べたら全然、(状態が)上がってきている」
——筑波大戦では、守備時の接点に必ず誰かが絡んでいた印象です。
「ディフェンスでも(チーム内での)ルールが決まっていて、それを徹底してやれている。(球出しを)スローダウンさせないといけない」
——次は大一番。大学選手権3連覇中の帝京大は(11月)3日、早大に17-48で敗れています。
「あまり相手のことを気にしない。自分たちにフォーカスすることですね。周りを見て、やることを周りに合わせるのは、僕たちのラグビーじゃない。自分たちのやることを、やっていきたいです」
——その時々のライバルを分析して対策を立てるよりも、どんなライバルにも通用する「自分たち」のプレーを表現する。その意識を持つようになったのはいつからですか。
「どうですかね。もともと、いろいろと考えるタイプでもないので、僕は。…去年の帝京大戦では、『相手はこういうことしてくるから、自分たちはこうしよう』というので(意識しすぎて)、自分たちのやりたいことができなかった(昨年11月19日に秩父宮であった対抗戦での一戦は、11-48と大敗)。どれだけ自分たちのラグビーにフォーカスするかが大事だというのが、去年の学びだった。(新任ヘッドコーチの高野)彬夫さんも同じ意見でした。今週のミーティングでもそういう話があった」
——帝京大は、自分たちらしさを突き詰めるのが大事だと再確認させてくれたライバルだったのですね。両校は今年1月13日、大雪に見舞われた東京・国立競技場で大学選手権決勝を戦いました。当時の光景は覚えていますか。
「覚えています。長かったですよね。試合自体はすごく短く感じたんですけど、中断の時間もありましたし」
——積雪による一時中断を経て、帝京大が34-15で勝利しています。
「エリアマネージメントの部分、天候に合わせてキックを多めに使うといったことは、やっておいたほうがよかったのかなと。(そう振り返ったのは)終わってからですけど」
——それから約10か月が経ちました。昨季のファイナルで苦しめられたぶつかり合いの領域で、手応えを掴んでいるようです。
「去年、一昨年に比べたら、フィジカルの部分では(帝京大と)あまり差はないように感じます。自分たちが上がってきたという感覚です。(自身も)体重はあまり変わっていないですけど、ちょっと身体が大きくなってきたかなと。
(個人のパフォーマンスは)悪くないかな、と思います。ただ、細かい部分でミス——ブレイクダウンでのきれいなクリーンアウト、ディフェンスで(向こうのボールのリサイクルに)時間をかけさせる部分でのスキル——がある。直していきたいです」
——来年1月13日の大学選手権決勝まで、どう過ごしたいですか。
「成長しつつ、勝ちたいですね。自分たちが練習でしてきたことを、本番のプレッシャーゲームで出せるかが大事。普段から本番に近いプレッシャーを(練習相手に)かけてもらうことと、(実際の重圧を)想定することが必要です。その分、明治は恵まれています。(2軍相当の)ジュニアも強いし、能力が高いので」
そういえば、筑波大戦のフィールドに立つ木戸を見て多くのファンはこう驚いたのではないか。
頭髪がさっぱりしたな。
ここ最近はくせ毛にパーマをかけたワイルドなスタイルでおなじみだったが、サイドを刈り上げたベリーショートに様変わりした。
イメージチェンジのわけが興味深かった。
——散髪されています。心境の変化でしょうか。
「いや、来週、面接があって、切ってこいと言われたので」
——卒業後にプレーしたいクラブの関連企業での「面接」ですね。
「そうです。会社の面接。心境の変化ではなく、必要だったから切ったんです。(頭の周りは)涼しいですね。というか、寒いです!」
——進路先は「未定」なのだとして、いま希望しているチームへ入りたい理由を教えてください。
「(複数のオファーのうち)一番、最初に声をかけてくれたんです。(早期に)正式に声をかけてくれたということは、見てくれているのかな…というものがあった」
——そのチームの練習に参加したことはありますか。
「はい。激しかったっす。それと、全員が(プレーなどについて)教えてくれる環境だった。楽しかったし、成長できそうでした」
——他にも複数の練習見学を経験しています。
「4つ、見させてもらいました。(特徴は)全部のチームが違いました。ただ、(どのクラブでも)全員、練習態度が真摯で、トーク量も多かった」
——明大入り後はただ「必死」だったと仰います。卒業後もラグビーで人生を切り開いていけそうだと確信したのは、いつからでしたか。
「いつですかね…。1 年生の最後らへん、ですかね。4年生から『お前もたぶん、リーグワン、呼ばれるで』という声があったので。それも何となくで、実感はわかなかったですけど」
——希望が叶えば、リーグワン1部で強豪国代表の選手と練習や試合ができます。
「テレビで見ている人と一緒にラグビーができるのは嬉しいです。いろんな人から『カテゴリー C(他国代表勢) の選手はひと味、違う』と聞く。(チームメイトになる当該選手から)学ぶこともあるはずなので、楽しみです」
大学シーンでもリーグワンでも「必死」にチャレンジする。