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【Just TALK】オールブラックスに憧れてきたけれど、「倒してこそ価値がある」。矢崎由高[日本代表/早大2年]
今季の関東大学対抗戦、早大でここまでに出場した3試合で8トライを挙げた。(撮影/松本かおり)
2024.10.24
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【Just TALK】オールブラックスに憧れてきたけれど、「倒してこそ価値がある」。矢崎由高[日本代表/早大2年]

向 風見也

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 10月19日の夕方、宮崎は雨に降られた。

 ラグビー日本代表は全体合宿の4日目へ入り、一般公開のもと実戦形式のセッションを実施。グラウンドを引き上げると、取材対応、ファンサービスにいそしんだ。

「今日も雨でしたけど、本当にたくさんのお客さんが来て下さって、僕なんかを最後まで待っていただいて、本当に感謝しかないです。この恩はしっかり勝つという形で返すしかないと思います」

 謝辞を述べたのは矢崎由高。早稲田大学の2年生は、スケジュールの都合上、最後にその場に現れていた。

 エディー・ジョーンズヘッドコーチが約9年ぶりに復職した今年のジャパンにあって、初陣から6戦連続で最後尾のフルバックで先発した(4テストマッチ+ノンキャップ試合2)。鋭いカウンターアタックとキックチェイスが光った。

 8月下旬からのパシフィックネーションズカップ(PNC)では、カナダ代表との初戦を最後に離脱。しばらく所属先の一員として関東大学対抗戦Aでプレーした後、秋のキャンペーンのメンバーに選出された。

 今回の正規スコッド38名中(途中合流組や離脱者も含む)、唯一の大学生だ。

——久々に代表に戻ってきました。所感は。

「まぁ、(前回から)少し時間が空いたなかでの代表合宿で、少し、意識だったり、インテンシティ(強度)だったりで、少し感覚が(大学側のそれに)戻っていた部分もあったのですが、この数日間でも自分を新しく作り変えます。それ(代表の基準値)に合わせられるように」

——トレーニングの直後、エディー・ジョーンズヘッドコーチと話し合う時間もありました。

「きょうのレビューや、これからどうしていくかというような話をしました。試合形式の練習では、前半の部分で意識の低いプレー、精度の悪いプレーが少し目立ったのですが、後半になってゆくにつれて徐々に改善されていったと(見られた)。『次の同じような練習では、高い意識を最初から最後まで持てるようにやってね』と言われました」

——矢崎選手が最初だけ参加したPNCは準優勝に終わりました。2戦目以降はどのように見ていましたか。

「去年まではいちファンとして日本代表を応援していたのですけど、(今回は)そうではなく、(いまの日本代表について)『いまはこれをやりたいんだな』、『こういう意図があるんだな』ということがわかります。客観的に見ていて——どこかと言われたら難しいんですけど——感覚的に『ここをもっと修正したほうがいい』というようなことも分かった。もちろん(PNCに)参加できたら一番よかったんですけど、それでも、(外から試合を見たことは)いい学びになったなと思います」

——今回の合流に向け、早稲田大学にいる間も代表でしたいことについて考えていたのでしょうか。

「早稲田での練習は早稲田で勝つための練習。それと代表とは切り離して考えないといけないとは思います。もちろん、自分のスタンダードは下げずに、高い意識レベルを早稲田でも保ったままやろうとは心がけていました」

 この午後は、選手が動き出すのに先立ちジョーンズもメディアに応じていた。矢崎について聞かれ、こう話している。

「矢崎の一番の強みは、学習能力が高いことです。素晴らしいプレーヤーとそれほど素晴らしくないプレーヤーの違いは、それぞれのスキルがどれだけあるかではなく、タレントがどれだけあるかではなく、やはり、学ぶスピード(の違い)にあると思っています。矢崎は、学ぶスピードがとても早いです。スマートに学ぶ能力を備えています。物事の理解度が早い。ミスをしても、こちらが指摘すると次に同じミスを繰り返すことがありません」

オールブラックスが得意なアンストラクチャーの状況は「僕も好き」。(撮影/松本かおり)


 それを受けて本人も、このように応じている。

——ジョーンズさんから「学習能力」を褒められています。意識されていますか。

「意識しているというより、アスリートとして、日本代表として、同じミスを 2 回も繰り返すということは、してはいけないことだと思う。そういうところは日々、心がけています」

——同じ過ちを繰り返さない。誰もができるようで、そうではないような気もします。矢崎選手がそのようにできるのは自分でなぜだと感じますか。

「エディーさんも、どのプレーヤーも、口を揃えて同じことを何回も言うんですけど、やはり、意識のところを自分が高く持って、例えば ひとつ前(の流れ)でキャッチミスをしたならば、次のプレーではまずそこにフォーカスをする。キャッチがやれないと、パスもランもない。そういう、立ち返るということを、いままでの(代表入り以前も含めた)ラグビー生活で積み上げてこられていると思うので…。そういうところ(が理由)じゃないかなと」

 ジョーンズは、矢崎についてこうも述べている。

「若いプレーヤーですし、(矢崎がデビューして大敗の)イングランド代表戦ではどうしても実力不足であると否めない部分があったとは思います。ただ、PNCのカナダ代表戦までチームにいたら、ベストなパフォーマンスを見せられた。今後も成長を楽しみにしています。

 今後も学び続ける姿勢を忘れないことです。これからは、身体の成熟が大きな課題となってゆくと思います。大学生とはいえまだまだ筋量を上げ、テストマッチに耐えうる身体を作っていかなくてはいけません。スピード、タックルを受ける時とタックルをする時のパワーは、まだまだ伸ばしていってほしいです」

 伸びゆく力と伸びしろの大きさが期待される。いま見据えるのは、10月26日の大一番である。

 出身の桐蔭学園高校のある神奈川の日産スタジアムで、オールブラックスことニュージーランド代表を迎える。世界ランクで11つ上回る3位の強豪にぶつかるのだ。

——横浜でオールブラックスと対戦できるかもしれない。どういう感覚ですか。

「オールブラックスに関しては、僕の小さい頃からの憧れです。小学校くらいの時に『好きなチームはどこ?』と聞かれたら、即答でオールブラックスでした。本当にオールブラックスが好きで、そのチームと(試合が)できる可能性があることは本当に光栄なことです。でも、光栄で終わっていいのかと言われれば、よくないと思います。倒してこそ価値があると思う。勝てるだけの準備を、残り1週間弱で積み上げたいです」

——そのためには何が必要ですか。

「ハードワーク——ゴールドエフォートという言葉をつけてやっています——を、チーム全員がしていく。また、これまでは細かいハンドリングエラーが目立っていますけど、そこをしっかり修正していったら、十分に(勝つ)可能性はあると感じます」

——相手はアンストラクチャー(混とん状態)から攻めたり、蹴り込んだりするのが得意。最後尾のフルバックは、首尾よく後ろのスペースをカバーしなくてはなりません。

「バックフィールドのカバーはフルバックの仕事のひとつ。それを怠ることは、これからもないと思います。アンストラクチャーに関しては僕も得意ですし、状況として好きなものであります。そこは、これからも注目していただけたらなと」

——対戦したい選手は。

「同じポジションでいうと、やっぱりウィル・ジョーダン。参考、ではないですけど、本当にプレーをよく見ているので。もし出れば、試合をしながらでも吸収していきたいです(10月22日のオールブラックスからの発表によるとメンバー外)」

——あらためて、チームの打ち出す『超速ラグビー』におけるフルバックの役割は。

「ボールタッチを増やすこと。色んな局面に顔を出すことが求められていますし、それが僕がしなければいけないことです。多くボールタッチをして、チームにとっていいチャンスメイクをしたいです」

 日本代表は10月24日、オールブラックス戦の出場メンバーを発表する。


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