最後の14分を楽しんだ。
7月30日におこなわれたパリ五輪、女子ラグビーの最終日(3日目)。ブラジルとの9位決定戦を戦った女子セブンズ日本代表、サクラセブンズは38-7と快勝した。
セブンズが初めて採用されたリオ五輪では10位、東京五輪では12位。9位は五輪史上最高位となった。
初日にアメリカ、フランスに大敗したところから、もう一度上を向いた2日目。ブラジル、南アフリカ相手に、自分たちのスタイルを見せて勝ってつかんだ空気を、この日も再現した。
立ち上がりのキックオフを内海春菜子が蹴り上げる。相手の反則でボールを得ると、右へ左へボールを動かし、最後は前日の2試合で4トライを挙げた梶木真凜が先制トライ。その直後にも敵陣に入り、平野優芽からのパスを受けた内海がインゴールに入った。
14-0とリードした5分過ぎには大谷芽生がトライラインを越え、19-0として前半を終えた。
後半に入っても、サクラセブンズは集中力高くプレーした。
2分に相手ラインアウトのボールを取り、攻める。平野がゴールポスト真下に走った。5分、松田凜日が挙げたトライはラックから持ち出したもの。6分過ぎには、多くのパスをつないで左へ。最後は田中笑伊がトライラインを越えた。
ラストプレーで失点するも、全員がのびのびとプレーした。
『サクラセブンズらしいパフォーマンスでした。みんな、楽しそうにプレーしているように感じました』と話すのはリオ五輪で4位となった男子代表の主将を務めた桑水流裕策氏だ(現・ナナイロプリズム福岡ヘッドコーチ)。
「自分たちらしく、ボールを大きく動かしながらも、一人ひとりが前を見て勝負し、判断してプレーできていました」
積み上げてきたことを、自信を持ってやれていた。
大会全体を振り返り、それだけに初日が悔やまれると言う。
「あの日、自分の100パーセントの力を出せた、自分がやるべきだったことを100パーセントやり切れた選手は何人いるでしょう」
満員の観客。周囲の期待。様々な外圧があるのは分かる。しかし大きなことをやってのける時は、チームの覚悟と一人ひとりの覚悟が一致しないといけない。
準備をやり切った時こそ、最後は気持ちなのだ。一人ひとりが自分の仕事を理解し、やり切ることだけを考える。試合に向かう時間からそれしか考えない。リオで自分たちがうまく戦えた理由を考えた時、そこにいきつくのだ。
リオ五輪時、ピッチに入る選手たちの先頭に立っていた当時の桑水流主将は、ゆっくりと歩いて入場する理由を、それぞれの選手が頭の中で試合の中で起こること、そのときに自分が何をすべきなのかを反すうしているからだと言っていた。
頭の中は、それ以外になかった。
「選手たちは相当の覚悟でこの3日間を目指してきたと思います。最後の2日間を見ても、目指してきたものは正しかった。だから、ある意味、追求すべきは最初から力を出すにはどうすべきなのか。そこを超えられたら、さらに前進できると思います」
そのためには、HSBCワールドラグビー・セブンズシリーズの各大会に五輪の集中力で臨み、上位進出を重ねていくことだ。
平野主将が戦前に言っていた「五輪だけ勝てる、ということはない」の言葉こそ真実。9位は五輪最高位とはいっても、満足できるものではない。
サクラセブンズはパリに花は咲かせたけれど、選手たち自身、満開にできなかった思いが胸にきっとある。
それこそが、新たな4年間へのエナジーとなる。
金メダルは、ファイナルでカナダの奮闘に苦しみながらも勝ち切ったニュージーランドの選手たちの首に掛けられた。スキのない連覇だった。
アメリカがラストプレーでオーストラリアに逆転勝ち、銅メダルをかっさらった3位決定戦は盛り上がった。
5位-6位決定戦に勝利したフランスに6万9000人のファンは熱狂し、6位と健闘した中国にも大きな拍手が送られた。
セブンズはエキサイティングで怖い。3日間のうちに、急に風が変わる。
危なげなく滑り出したチームが失速するケースもあった。カナダは、毎日強さを増していった。世界はどんどん進み、各国の差は縮まっている。
最高位9位は、もう終わった話だ。
サクラセブンズには若い選手も大勢いる。中村知春らベテランの残したハードワークのカルチャーをベースに、この3年間に残したワールドシリーズでの5位や6位を超える実績を積み重ねて次の五輪へ向かいたい。
悔しくて楽しい、そして、サクラセブンズの強さも弱さも感じたパリだった。