オールブラックスがイーデンパークで30年間続いている無敗記録を守るか。それともイングランドがその記録を打ち砕くか。
ニュージーランド(NZ)のラグビーの聖地、イーデンパーク(オークランド)には、オールブラックスの“ 不敗神話 ”がある。前回の敗戦はさかのぼること30年、1994年7月3日のフランス戦で20-23と敗れて以来、イーデンパークでは負けていない(46勝2分け)。
7月13日(土曜日、NZ現地時間19:05キックオフ)の強敵イングランドとの第2テストマッチで “不敗神話” の継続といくだろうか。
NZに遠征中のイングランドとの第1テストマッチ(7月6日、ダニーデン)は、レイザーことスコット・ロバートソン ヘッドコーチ(以下、HC)のオールブラックス初采配 で注目されていた。
20か月ぶりのテストマッチとなったTJ・ペレナラの指揮するハカ、「カパ・オ・パンゴ」は見るものの琴線に触れた。
序盤は両チームに固さが見られたが、激しいコリジョン(衝突)は見応えがあった。 オールブラックスは、イングランドの鋭い出足のラッシュディフェンスに苦戦した。しかし大事な場面で上手く対応した10番、ダミアン・マッケンジーの見事なキックパスは、WTBセブ・リースのトライを演出した(16分)。
24分、15番に抜擢されたスティーヴン・ペロフェタが見事なフットワークでラインブレイク。そこから昨年の世界最優秀選手、NO8アーディー・サヴェアが奪ったトライには痺れた。
フィジカルに強いイングランドの選手らに前進され、48分には2つ目のトライを許して一時は10-15と5点のビハインド(48分)を負ったものの、54分、65分にマッケンジーのふたつのPGで16-15と逆転した。
試合終盤に逆転を狙う相手の攻撃に対して反則をせず、しっかり守り切ったのは良かった。
わずか1点差という冷や汗の内容で、オールブラックス指揮官としての初采配を白星で飾ったロバートソン。
試合後のインタビューでは、素直に喜びを表現していたのが印象的だった。
第2戦のメンバーは1人のみの変更。期待の新人SHラティマがベンチ入り。
第2戦に向け、NZ国内のメディアやラグビーファンの間ではセレクションの議論が盛んだった。
ロバートソンHCをはじめセレクター陣が選んだメンバーは、第1戦でヒザを負傷したTJ・ペレナラに代わり、フィンレー・クリスティーが9番のジャージを獲得した。前戦のベンチスタートからの昇格だ。昨年8月のワラビーズ戦以来のテストマッチでの先発となる。
クリスティーが先発に入ったことで空いたベンチには、今季のオールブラックスの新顔、コルテス・ラティマが入った。出場すればテストマッチデビューとなる。ダイナミックなランでトライが取れるラティマが後半からインパクトを与えてくれそうだ。
このSHのセレクションに関してロバートソンHCは、「フィンレー(クリスティー)は懸命に努力し、先発メンバーの座を獲得した。コルテス(ラティマ)と彼の家族にとって誇らしい日となるだろう」とした。
さらに同HCは、「彼(ラティマ)は才能ある若者で、テストラグビーの準備ができている」と続けた。
ケガ人を除けば先週と同じメンバーを据え置き、セレクションの一貫性を保った。
これにはNZ国内のスポーツトークバックラジオなどで議論があった。その中でも話題となったのは、初戦に続いて10番、15番のポジションについてのセレクションだった。
セレクター陣は、背番号10をダミアン・マッケンジーに2試合連続で与えた。先週、ペナルティゴールの際にタイムアウト(60秒以内の制限)を取られた。その影響で敗戦も覚悟するピンチになったが、それ以外のプレーは合格点を与えるのに十分だった。
一方の15番のポジションは、途中出場で落ち着いたパフォーマンスをしたボーデン・バレットの先発説の声も聞かれた。ペロフェタはテストマッチレベルでの経験が浅い事が心配されていたが、セレクターの期待にしっかり応えてチャンスをものにした。
イーデンパークでの “不敗神話 “ 継続なるか。
オールブラックスがイーデンパークで強敵と対戦するテストマッチでは、1994年から続いている無敗記録が必ずといっていいほど話題になる。イングランドとの第1戦で冷や汗勝利だったこともあり、不敗神話が崩れる心配も聞こえてくる。
2年前のアイルランドとのテストマッチ第1戦がイーデンパークで開催された時も同じように騒がしかった(結果は42-19でオールブラックス勝利。その後、別会場で開催されたテストマッチで2連敗)。
今回は無敗記録から30年と節目の年に強敵を迎えたことから、大きな盛り上がりとなっている。
オールブラックスが無敗記録を更新するためには、いくつかのポイントが挙げられる。
◇イングランドのラッシュディフェンスへの対応。
ラッシュディフェンスに長年戸惑っているオールブラックス。2022年8月、クライストチャーチでアルゼンチンに18-25で敗れた時もラッシュディフェンスに見事にやられた。
しかし、翌週のハミルトンでの再戦では、しっかり修正して53-3と圧勝している。今週、イングランドの鋭い出足のディフェンスにどう対応するかが注目される。
◇フィジカルバトル
先週は、イングランドのLOマロ・イトジェ、FLチャンドラー・カニンガム=サウスなどのフィジカルに強い選手に前に出られた。今週もこの2人が目立つ展開となればオールブラックスが苦戦する事になる。先週以上に激しいバトルになりそうで目が離せないだろう。
今週も接戦が予想されることで、ゴールキックが試合を決める事になるかもしれない。1戦目はマッケンジー、そしてイングランドの司令塔マーカス・スミスとも、そう難しくない位置からのキックを何度か外した。今週はどうだろうか。
先週はマッケンジーが、キックを蹴る直前にルティーンとしてしているスマイル時にタイムアウトの笛を吹かれた。この対策としてイーデンパークでの試合で、キッカーがゴールを狙う時にどれくらい時間が残っているのか解るように「60-second shot clock」(60秒のキック時計)がビックモニターに表示されることになった。
注目マッチアップは、1戦目に続き、ダミアン・マッケンジー×マーカス・スミスの10番対決が真っ先に挙がる。ゴールキックを含めたキッキングゲーム、そして司令塔としてのゲームメイクにおいて両者の対決は見逃せない。
そして、フィジカルバトルがさらに過熱しそうな今週の試合において注目したいのは、サミペニ・フィナウ×チャンドラー・カニンガム=サウスの6番対決だ。1戦目は比較的おとなしかったフィナウが2戦目はしっかりアピールし、6番のジャージを確実に手にしたいところだ。
最後に、こちらも外せないのが、スコット・バレット×マロ・イトジェのLO対決。1戦目からラインアウトの修正は必須となるオールブラックスは、バレットが鍵になる。フィジカル戦も含めてこの両者のマッチアップも楽しみだ。
初戦は、ある意味ラッキーな勝利だったともいえるオールブラックスは、第2戦でしっかり決着をつけたい。ただ、イーデンパークで30年の無敗記録のプレッシャーは少なからずあるはずだ。
イングランドは、2連敗だけは絶対に避けたいだれに、モチベーションは高いだろう。
熱い試合になる。