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ラグビー日本代表として4度のワールドカップに出場したリーチ マイケルは、今季のリーグワンで自身初の日本一に輝いた。東芝ブレイブルーパス東京の主将として、クラブ史上14シーズンぶりの国内タイトル奪取を果たした。
決勝戦2日前の5月24日、共同取材でチームの歩みを振り返った。シーズン後に読み返すと、名門復活の理由があらためて伝わってくる。
——昨秋のワールドカップフランス大会を終え、ブレイブルーパスへ合流すると約10年ぶりにブレイブルーパスの主将に就任しました。
「(トッド・ブラックアダーヘッドコーチからの打診に対して)最初はやらないと言っていたんですが、やってよかった。代表では主将としての自信を失っていたけど、(ブレイブルーパスで重責を全うして)それを取り戻しました。プレー面も、メンタル面も、シーズンを通してのマネージメントも、自分へのフォーカスとチームへのフォーカスのバランスも、よくできたと思っています」
——近年の代表活動では、主将を務めながら自身のパフォーマンスを保つ難しさを感じていました。今季のリーグワンでは、その問題を解消したのですね。
「チームのことを考えすぎて、自分のパフォーマンスが落ちる…と。大変でした。(もっとも苦しんだのは)2021年。手術とコロナ(活動休止)が終わってからの1年間が一番きつかったです。
(ブレイブルーパスで主将をする際によかったのは)プランニング。主将の難しさは(自分のプレーに集中するか全体に気を配るかの)バランスですが、一番大事なのは自分のパフォーマンス。そこをテーマにしました。周りのことを気にしない。(試合の)メンバーは誰かというのも気にしないでやる。それができて、よかったと思っています」
——選手へのアプローチの仕方は代表とクラブでは違いますか。
「代表だと、チームをどううまく回すかを考えちゃう。こっち(ブレイブルーパス)ではある程度プロセスを固めれば、自然とパフォーマンスがついてくる」
——ブレイブルーパスでの主将復帰を決めた際、ブラックアダーヘッドコーチへは何と伝えましたか。
「全部のプロセスに対して厳しくやりますと言いました。最初の頃は結構、厳しくやって、(練習の組み立てなどについて)フィードバックしました。前半節くらいから微調整して、各試合の2週間前くらいから(その試合で)何がしたいかを決めてやってきた。
1週間の流れ、フォワードとバックスが分かれた時の(練習の)やり方、レビュー(振り返り)の仕方。それを細かく(見直した)。そうして(試合までの準備に関して)プロセスができてきて、そのスタンダードを保てた」
——「レビューの仕方」はどう変わりましたか。
「これは僕のアイデアではないですが、森田(佳寿)コーチがアタックのレビューを事前に(共用の)クラウドにアップして、それを選手が事前(翌週の練習前)に見られるようにした。練習のフィードバックも、家に帰ったらそこ(クラウド)で振り返られるようにして、いいところも改善するところも(次の日までに)分かるようになった。ちょうどシーズンの半分くらいからそうなった。これが、よかった」
——ブレイブルーパスのプレースタイルやチーム文化の変遷について。過去との類似点、変化点は。
「いちばん変わったのは、フォワードのパススキル。当時はパスできる選手がいなかったです。ボール持ったら、突っ込むだけ! そこが(巧みに)変わった。
あとは個人練習をしたり、オフに練習したりする選手も増えた。
またどんどん選手の質が変わった。タックルだけ、スクラムだけ、ボールキャリーだけという選手は減り、ある程度全部できる選手が多いです。
(過去と)同じところは、接点の強さです」
——旧トップリーグでの順位は2016年度から順に9、6、11位と続きました(16チーム中)。いま、低迷期をどう振り返りますか。
「周りのクラブがトップのコーチを呼んでどんどん進化するなか、僕らが(以前の)強い時のままに止まっていた」
——そんななか、リーチさんはブレイブルーパス一筋にこだわっていました。
「強かった時の東芝、悪い時の東芝、強くなっていく東芝の全部を経験しているのは、僕にとっていいこと。選手として学ぶ部分がたくさんある。それぞれの時のメンタリティを思い返すと、(苦しんでいた時は)自分のメンタリティもよくなかったと思います」
——移籍を検討したことは。
「考えたこともなかったです。(ニュージーランドの)チーフスに行けたのはよかったですが(2015年からの3シーズン在籍)。もし(今後)海外に行くチャンスがあればチャレンジもしたいけど、いま35歳だから、もう、ないかな」
——ブレイブルーパスのよさは。
「選手。どんな選手も面白い。(同僚が)家に来て食事をするなど、距離感も近い。(年齢の)上と下で、全くギャップがないです。
僕が入った時は(元主将の)冨岡鉄平さんがいた。カリスマ性があり、面白かった。キンちゃん(大野均)、望月(雄太)さんにはいろんな所へ連れて行ってもらいましたけど、府中から離れない。渋谷とか、あっちの方にはあまり行かないです」
——ちなみに、ラグビー以外で楽しみにしていることは。
「ソーセージ。自家製です。ソーセージ屋さんで豚の腸の皮を、府中卸売センター(大東京綜合卸売センター=通称府中市場)で10キロの牛肉を買って、専用のマシンで…。マシンは、メルカリで買った。(完成までは)半日。その日のうちにも食べられるし、冷凍してもいい。
南アフリカ出身の選手が2人いるので、南アフリカのソーセージを作っている。その南アフリカの選手は試合にも出ていなくて、流通経済大学から加わった方(ステファーナス・ドゥトイ)は怪我をした状態で入ってきているから週末にやることがない。で、肉は大好きなのに『日本にいいソーセージがない』と。『じゃあ、作ろう』といろいろ調べたら、作れるようになりました。4回作って、やっと味が(おいしく)できた。塩加減が難しい!」
自分の動きにフォーカスするとしながら、キャプテンは、視野を広く保っていた。