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ダイナボアーズは直近の試合でサンゴリアスへの相性の良さを見せている。3月21日の試合では35-32と勝利を手にした。
今シーズンの最初の対戦(3月7日に行われた振替試合)では34-15と勝利を収め、昨シーズン(昨年3月16日)の試合でも34-22で勝利している。直近3試合で連勝を収めたことになる。
なぜダイナボアーズがサンゴリアスに対して勝てるのかを見ていきたい。
◆三菱重工相模原ダイナボアーズのラグビー様相。
〈アタックの基本構造〉
ダイナボアーズのアタック時にキーとなった動きのひとつに、階層構造が挙げられる。特に、ショートサイドにプレイメーカーであるSOチャーリー・ティトコムが何度か回り込むように動く、ループと呼ばれる動きを使うことで、表と裏の関係を作っていた。
表と裏の構造を作ることで相手ディフェンスがいくつものオプションを警戒しなければならず、前に出られないケースが生まれる効果がある。前半に生まれたWTBマット・ヴァエガのトライでは、ティトコムがループでもらう動きで優位な状態に立ち、ブレイクした。
裏のオプションの脅威度が高まると、表のオプションに対する警戒度が下がる。つまり、表のオプションへの注力が下がるということだ。前半と後半に一度ずつ、CTBルカニョ・アムを絡めてトライを奪ったシーン(前半41分のSHブラッド・ウェバーのトライ、後半21分のアムのトライ)では、その階層構造の2つ目のメリットが見られた。
この2つのトライは、サンゴリアスのディフェンスが裏のオプションに集中してしまったことにより生まれたトライだ。裏のラインに対する警戒度が上がることによってサンゴリアスのディフェンスは、少し外側に動きの重心を置いてしまうこともあれば、裏のラインに詰めてしまう状況にもなった。ダイナボアーズはその動きを利用し、表のラインに入ったアムにボールを送ることで容易なブレイクを作っていた。
〈キックを使った試合運び〉
ダイナボアーズの選手は個々の能力が高い。1対1の状況ならある程度前に出ることができる土台があり、接点の部分では互角の戦いを見せていた。
その一方で中盤からはボックスキックを蹴り込む形が多く見られている。再獲得自体は安定しなかったが、タッチライン際で前に出てモメンタムがある時でもFWのキャリーで一旦落ち着かせ、ボックスキックのセットアップをする場面が見られた。

また今回の試合では2枚のイエローカードが提示され、人数が少ない状況があった。ダイナボアーズはその時間帯にアタックにこだわらず、早めにキックを敵陣に蹴り込む選択を多くとっていた。シンビン中の戦い方としての意図があったかは断言できないが、結果的にキック主体の試合運びに移行することで、数的不利な中で時間を稼ぐ動きとして機能していた。
また、そこまで多く見られるシーンではなかったが、キックを使う中でいい働きを見せた選手として、チャーリー・ローレンスが挙げられる。ローレンスは基本的に12番、インサイドCTBに入る。接点を作り、アタックにリズムを作るような重要なポジションだ。
その一方でキックのスキルも高い。インサイドセンターとしての役割もこなしながら、キックを使った戦略にも貢献した。今回の試合では中盤からのキックでエリアを取ることに貢献していた。
〈ディフェンス様相〉
サンゴリアスが得意とするタッチラインまで広く使うようなアタックスタイルに対し、ダイナボアーズはいいディフェンスを見せていた。エッジを守る選手のディフェンスレンジが広く、一人分の数的不利であればカバーできる場面が多く見られていた。
対面の選手がボールを手放したあとのディフェンスも、内側からディフェンスラインを押し上げる動きも見せていた。相手のアタックをいい形で止めることができていた。
キック直後のような、いわゆるアンストラクチャーと呼ばれるカオスな状況下では、ディフェンスラインを前に押し切れないシーンもあった。相手のアタックにプレッシャーをかけることができていなかった。
特にキックの攻防では、相手のカウンターアタックに崩されやすかった。仕掛けてくるフェイズ単体で崩されるというより、流動的なフェイズの中でディフェンスの整備が遅れる形が目立っていた。
ただ、全体的なディフェンスの精度、集中力は終盤にかけて向上した。サンゴリアスのアタックは徐々にテンポを上げていく一方、シンプルな構造が増える。ダイナボアーズの得意とする接点の土俵での戦いが増えた。
◆東京サントリーサンゴリアスのラグビー様相。
〈基本的なアタック様相〉
サンゴリアスの基本的なアタック構造、そしてセットピースからの事前に構築したアタックからジェネラルに移行する過程で、役割を増やしていったのがギデオン・ランプリングだ。
ランプリングは今回の試合で12番に入っていた。サンゴリアスはランプリングを最初のレシーバーに組み込むフェイズを作り、ラック近くを守っているFWの選手との質的ギャップを狙った。ランプリングを2人目のプレイメーカーとして配置することで、展開力のある10番の髙本幹也をやや後方に配置する形にもつながっていた。
アタックの過程を見ると、タッチライン際でラックに参加していたFWの選手は広いサイドに回り込むことより、まっすぐ後方に下がることを優先していた。逆目のアタックオプションを作るためだ。FWの選手がまっすぐ下がることで逆目方向に人数を多く配置することができる。相手ディフェンスラインの中にBKの選手が残りやすい逆目で、質的ミスマッチを作ることができていた。
アタックの中では、階層構造の中でも三層構造を使ったアタックオプションが見られた。三層構造はそれぞれ、リードブロッカー、フロントドア、バックドアの3つの動きになる。リードブロッカーは9シェイプなどラックから直接ボールを受けるアタックオプションのさらに前方に向かって鋭く走り込む囮(おとり)の選手で、フロントドアとバックドアはそれぞれ表と裏のオプションになる。
表と裏のオプションを作ることで相手ディフェンスの精度を下げながら位置的な優位性を作り出し、スピードのあるアタックラインを使い、外方向で相手を崩し切るシーンが見られた。

〈アタックの課題〉
サンゴリアスのアタックは、フェイズを重ねていくこと自体は安定していた。序盤には20以上のフェイズを重ねていたシーンもあった。ただ、ゴール前で20フェイズ重ねたということは、スコア効率が悪いということでもある。アタックを続けていく中で最終的なアウトカムが悪いケースも見られた。
アタックの中では階層構造を使い、相手ディフェンスを崩そうとする動きを見せていたが、終盤にかけて階層構造が徐々に淡白に見えるようになった。囮となるブロッカーの選手が相手ディフェンスの足を止めきれず、オプションの脅威が弱い場面が見られた。
終盤にかけてアタック構造自体がシンプルになり、一回のパスでキャリーに持ち込むことが増えた。大きく展開しようとする状況でも単純なライン構造が増え、シンプルな構造に対しては安定した強さを見せるダイナボアーズのディフェンスを崩し切れない時間帯が続いた。
〈ディフェンス様相〉
相手が蹴り込んでくる高い軌道のキックに対しては基本的に安定しており、とりわけFBチェスリン・コルビのハイボール処理が安定していた。中盤のカオスな状況を有利に進めることができており、互いにアンストラクチャーになる局面ではサンゴリアスが少し優位に立っているように見えた。
一方で相手の強力なランナーに対して質的なミスマッチが生まれることもあった。いくつかのシーンで質的ミスマッチが生まれ、ディフェンスの強度を上げ切れない状況ができていた。タッチライン際のディフェンスラインが横方向のスライドをし切れない状況となり、裏のエリアをカバーする選手が前に出ることもできず、相手が大きく展開してくるシーンではゲインを許す形になっていた。
また特徴的な脆弱性に関して、相手の階層構造に対する対処が後手に回ったことも大きい。相手が階層構造を作った時に裏のラインへの警戒度が高すぎた場面があった。選手によって引いたり詰めたりの差はあるものの、裏を強く意識することで表のオプションに外されやすくなっていた。
◆マッチスタッツを確認する。

それではまず試合全体のデータを振り返っていきたい。
まず特徴的なのはポゼッションの比率だろう。ダイナボアーズが36パーセント、サンゴリアスが64パーセントという驚異的な数値になった。ありえない数値ではないが、勝利チームの比率がここまで小さくなるケースは珍しい。
後述するプレイングネットワークの図を見ても、「ダイナボアーズがどれほどアタックできたか」ということが読み取れる。36パーセントというポゼッションの中で5つのトライを奪ったのは驚きだ。テリトリーも押し込まれている傾向にあるが、ポゼッションの割に大きな差となっていない。ポゼッションで支配される一方で、エリアのコントロールはうまくいっていたと言える。
敵陣22メートル内への侵入回数も両チーム同じ回数となった。トライ数は同じだが、コンバージョンキックとペナルティゴールの精度、「どういったスコア戦略をとるか」といった点で最終的な得点差につながった。
普段あまり見ないような数値として、キャリーやパスの数値にも注目したい。
ダイナボアーズが62回、サンゴリアスが186回と、ちょうど3倍の数値をとっている。ポゼッションの比率が約1.8倍となっているのに対して、キャリーの比率がさらに大きくなっていた。
この差が生まれる要因として、アタックのテンポが挙げられる。アタックのテンポ、ラックからボールを動かすリズムが早くなると単純計算でキャリーの回数が増える。オフロードパスでラックを作らずに動かした時も同様の現象が起きる。
私の推測としては、前者の要素が大きかったのではないだろうか。キャリーの回数に大きく差ができた一方で、キックの回数はほぼ違いがない。ダイナボアーズは後述するようにボックスキックを狙う回数も多く、あまりテンポを上げるアタックをしていないのではないだろうか。
タックル成功率にも大きな差がある。ダイナボアーズの83パーセントという数値も特別高いわけではないが、サンゴリアスは75パーセントだ。
一般的な感覚で言えば、タックル成功率が80パーセントを切ると試合の流れは確実に悪くなる。どれだけポゼッションで圧倒していたとしても4回に1回の割合でタックルミスが起きていると、相手のアタックを抑えるのは難しい。
◆プレイングネットワークを考察する。

順にプレイングネットワークも確認していきたい。
ダイナボアーズは前述の通り、ボールをほぼ持つことができていない、ということができるだろう。ラックからのボールの動きを図示したネットワーク図でもその様子が分かる。
最もボールが動いている9シェイプというラックからFWの集団に動かすアタックオプションに関しても、ボールが渡った回数が16回だ。これまで私が記録してきた肌感覚としては、どれだけ少なくても9シェイプが20回を割り込むことはほとんどない。ダイナボアーズがどれだけアタックできていなかったかを示す結果となった。
そのアタックの傾向の中で、比率的にはボックスキックの回数が増えることになった。今回の試合ではイエローカードが1枚出たこともあり、20分間は14人で試合せざるを得ない状況だった。その状況下で、ラックやモールからのボックスキックが少し多く見られた。
BKの選手へのボールの動き、全体のパス回数やキャリー回数から考えても、あまり大きな数値とはならなかった。それぞれのタスクによってパスの動きは絞られる。ネットワークの複雑性は見られなかった。

最後にサンゴリアスの数値も見ていきたい。どの数値も結果的に大きな数値となった。
9シェイプにボールが渡った回数は驚異の72回となった。62回が9シェイプのキャリーになっており、アタックの多くのシーンで接点ベースの試合運びがされていた。
私が記録してきた中では70回を超える回数はほぼ見たことがない。キャリーそのものの回数の多さもあり、圧倒的な数値を示すこととなった。
10シェイプの回数も少し多い。普通のチームであれば、平均的な数値として6〜7回。チームのポゼッションに比例するように10シェイプが増えた。サンゴリアスはプレイメーカーベースのアタックをしているため、10シェイプが好まれる傾向にある。
BKへのボールフィードは10番と12番に集まっている。サンゴリアスは基本的に10番の選手(多くの試合では髙本が務める)にボールが集まっている。全キャリーとの比率としても妥当な数値と言える。
また、12番のランプリングにも一定数ボールが動いている。ランプリングの多くのオプションはそのままキャリーに持ち込む形だったが、10シェイプへの移行にも貢献していた。
◆まとめ。
ダイナボアーズは同カード3連勝となった。昨季のたけびしスタジアム京都から始まった対サンゴリアスの勝利は、秩父宮ラグビー場での連勝につながった。
イエローカードが2回提示されたことに関しては間違いなく反省材料となるが、アタックの強度、ディフェンスの精度を示す試合になった。ただ、12節終了時点で順位は10であり、入れ替え戦に回る11位までの勝点の差は3に過ぎない。ここから流れを変えていきたい。
サンゴリアスはダイナボアーズに対する相性の悪さを感じる試合となったか。これまでの5敗というのは上位3チームへの敗戦とダイナボアーズ相手の2敗となっている。アタックの形やディフェンスの形自体は悪くなかったが、細かいミスやディテールの部分で差が生まれたように見えた。
現在、プレーオフ圏外(の7位)からは勝点16の差があるが、残り6節の結果によっては順位が入れ替わる可能性も否定できない。ディテールにこだわって修正していきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
