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コベルコ神戸スティーラーズの連勝が10で止まった。3月20日の横浜キヤノンイーグルス戦に29-38と敗れた。
第1節のクボタスピアーズ船橋・東京ベイ戦での敗戦から連勝を続けていたが、大きく負け越しつつも、徐々に試合内容を向上させてきていたイーグルスに敗れた。
今回はそんな試合を振り返っていきたい。
◆コベルコ神戸スティーラーズのラグビー様相。
〈アタックの基本構造〉
スティーラーズのアタックの基礎となるのはラックからFWの集団が直接ボールを受ける9シェイプの強さだ。9シェイプで前に出たり、9シェイプからボールを動かすことでリズムを作っていく形が多い。
しかし、この試合ではイーグルスのディフェンスによって、9シェイプでなかなか前に出ることができなかった。相手の低いタックルを受け、普段はできていたはずの倒されずに粘って前に出るキャリーをする回数が減った。
また、今回の試合で見られた特徴として、BKの選手が外方向に大きくパスを飛ばすプレーが多く見られたことが挙げられる。10番に入った李承信からのパスや、13番のプレイメーカーとなったアントン・レイナートブラウンからボールを動かすことが多く、それらのパスの多くがラックから数えて2つ目のパスで起きることが多かった。
イーグルスのディフェンスは基本的に、コンパクトに前へ詰めてくる形だ。本来なら大きく飛ばすようなパスで相手の頭を越すことができればチャンスになりやすい。しかし今回の試合での長いパスは、段階として少し早すぎるように見えた。
早い段階で大きく動かすことで、イーグルスは詰めるディフェンスから外方向に流すディフェンスに切り替える判断を早くできる。その結果、相手のスライドするディフェンスに外で捕まってしまっていた。
〈強みを見せたアタックの選択肢〉
全体的に苦戦する一方で、強さを発揮したアタックオプションもある。一つ目は私が「リードブロッカー」と呼んでいる動きだ。これはSHからボールを受ける9シェイプの、さらに前の階層でボールを受けにいく動きをする選手を指す。リードブロッカーを使うことによってラックに近いディフェンスの足を止めることができ、9シェイプへのディフェンスを薄くすることができる。
そもそも接点に強いチームだ。少しでも相手を崩すようなシーンを作れたら、高い確率で前に出ることができる。
ただ、イーグルスのタックルの多くはキャリアーの低い位置に仕掛けるロータックルが多かった。重心が崩れてすぐに倒されてしまい、接点で粘ることによって前に出ることができる強さを発揮できないシーンが続いた。

また、ラックからボールを直接持ち出す「ピックゴー」と呼ばれる動きも、いい効果を出していた。前述のようにシンプルに接点に強く、ラックからのピックゴーにより、相手ディフェンスが前に出にくいエリアでの、単純な押し合い勝負に持ち込んだ。そこでどんどん前に出ていた。
しかし終盤にかけて、ピックゴーの選択肢を選ぶシーンは減少していく。少ない残り時間で点差が広がったことにより、短い時間で大きく崩す必要があり、前進効率という点でピックゴーを選択肢から外したのかもしれない。
〈ディフェンスの特徴と課題〉
スティーラーズのディフェンスのベースになるのは、相手を抱えて押し戻すようなタックルだ。一般的にはチョークタックルと呼ばれるものの亜種と言っていい。上半身を抱え込みながら接点の強さを活かすことで、相手のキャリーを押し返せていた。
一方で、イーグルスのサポートの選手によって上半身を抱え込もうとした選手がラックに押し込められることも多かった。その結果、ラック近くのディフェンスが不安定になる要因にもなった。
さらにディフェンスシーンで特徴的だったのは、不安定な状態が続いた、ラック近くのディフェンスだ。そのエリアでディフェンスが整うライミングがやや遅く、判断の良いSH、ファフ・デクラークに仕掛けられた。ディフェンスが崩れるシーンも目立った。
デクラークがラックからボールを少し持ち出してからプレーの選択肢を切るため、ラックの近くの選手は、まず彼を見なければならない。結果としてラックの最も近くの選手とその隣の選手との間にスペースが生まれ、ゲインを許したりブレイクされるシーンが生まれていた。
◆横浜キヤノンイーグルスのラグビー様相。
〈アタックの好材料〉
イーグルスのアタックのキーになったのは、間違いなくデクラークがラックからボールを持ち出す動きだ。スティーラーズのラック近くのディフェンスの整備は、正直なところ、あまり早いわけではなかった。そのラック近くの不安定な状態に対して、デクラークはうまく仕掛けていた。
SHの持ち出す動きと共に活用されていたのが、リードブロッカーの動きだ。定義については前述の内容を参照していただきたい。
イーグルスのアタックのテンポは早い。ラインブレイクや大きなゲイン自体はそこまで多くはなかったが、相手のディフェンスラインを下げながらアタックすることができていたため、テンポを上げるアタックと噛み合って連続で前に出ることができていた。
イーグルスが連続で前に出ることができているので、スティーラーズのディフェンスは揃いにくい。そういう中でリードブロッカーのような囮(おとり)の選手を有効活用し、SHの持ち出しでディフェンスの足を止めながらアタックしていた。
〈キック様相〉
セットピースから10番の田村優が早い段階でハイボール系のキックをすることが目立った。セットピースからの最初のフェイズでは、システム的に最後尾の選手と前のディフェンスラインの間をカバーしている選手が少ない。そのため、イーグルス側がボールを追いかけてプレッシャーをかけるライン、チェイスラインを整備することができれば、サポートが薄い状態で相手の裏の選手にプレッシャーをかけることができる。
デクラークからのボックスキックも適宜見られており、高い軌道で競り合わせるようなキックを蹴ることもあれば、好判断でエリアを取るようなキックをするシーンも見られた。

キックを早い段階で蹴り込むことができれば、基本的にはテリトリーを優位に進めることができる。敵陣深くまで蹴り込むことができれば、相手チームの多くは蹴り返す判断をする。そうすればタッチに出たボールから自分たちのポゼッションを始めたり、キックの蹴り合いに持ち込むことができる。時間を使いながら相手に容易に展開されないようにしていた。
ただ、チェイスラインがそう崩れていなかった一方で、相手のバックスリーの選手の質の高さもあった。オフロードパスにも長けた選手が揃っているため、少しでもディフェンスラインが崩れていると、大きく前進を許すことにもつながっていた。
〈イーグルスのディフェンス様相〉
イーグルスのディフェンスラインは、基本的には非常にコンパクトだ。それでいて外側の選手まで揃って詰める動きを見せる。相手のアタックラインとのタイミングが合えば、前に出ている分、相手のアタックラインを下げることもできる。
ただ、このシステムは諸刃の剣だ。大外の選手も揃って詰めるので、相手のハンドリングスキルなどで外されると大きなゲインを許すことにもつながる。ディフェンスラインが詰めた動きをした分だけ後方の味方との連携も取りづらい。
スティーラーズに許した5つ目のトライがその代表例だ。詰める動きを見せた選手が相手とすれ違ってしまい、完全に裏を取られてブレイクを許した。
しかし、スティーラーズは多くのフェイズでこのシステムに対して早い段階で大きく飛ばすようなパスワークを見せた。飛ばすタイミングが早い分、イーグルスのディフェンスがそれほど前に出ていない状態でボールを動かすことにつながっていた。イーグルスとしては比較的容易に外側へ流す、スライドディフェンスをすることができたのではないか。
また、試合への影響が大きかったと考えられる要素として、イーグルスが見せた「低いタックル」が挙げられる。イーグルスの選手の多くが、しっかりと相手の下半身にタックルできており、素早く相手を倒すことができていた。
低くタックルに入って素早く倒すことの副次的なメリットとして、一人でタックルを完結させることができる点が挙げられる。そうすることができれば、近くの選手がスティールを狙い、ブレイクダウンへ先手を仕掛けることができる。ダブルタックルを強いられていればラックに巻き込まれてディフェンスラインが薄くなることもあるが、そういった状況を比較的避けることができていた。
一方でディフェンス時の安易なペナルティもあった。レフリーとのコミュニケーションで解決できるレベルのものもあったので、必要性を見極めながら仕掛けていきたい。
◆マッチスタッツを確認する。

データとして、マッチスタッツを振り返っていきたい。
ポゼッションをスティーラーズが支配的に進めている。両チームの差が10パーセントを超えるようなら、有意に違いがあると見ていいだろう。今回の試合では、多くの時間でスティーラーズがアタックをしていた。
その一方で、スティーラーズのターンオーバーは20回となった。11節までのリーグ平均が約14回ということを考えると、回数的には上振れしているといえる。ポゼッションを多く獲得していた一方で、ミスでポゼッションを終えることが多かった状況を推測することができる。
敵陣深くへの侵入回数は、ほぼ同程度となった。アタックの様子を見ても、どちらのチームも中盤で時間を使っていた印象が強い。リーグ平均と同等の値でもあるので、お互いのアタック自体は平均的な戦いだったと考えられる。
特徴的な差が出た要素に、キャリーとパスの比率が挙げられる。キャリーの回数自体はチーム間で差ができているが、これはポゼッション率の違いを反映していることも想定できる。特別に特徴的な要素ではないと考える。
一方で明確な違いが出たのがキャリーに対するパスの比率だ。パス回数をキャリー回数で除した値を比較すると、リーグ平均に対してスティーラーズが同等の数値を示しているのに対して、イーグルスはかなり小さい値だ。つまり、キャリーの比率が高いことを指す。
確かに今回の試合を振り返ると、イーグルスのラグビーは展開傾向を強く示したわけではない。9シェイプをベースに接点に近いエリアで試合を動かしていた。トライが生まれたシーンでもデクラークの持ち出しや少ないパス回数でトライまで持ち込むことが多く、ボールを多く動かすことなく得点を重ねていた。
◆プレイングネットワークを考察する。

次いで各チームのパスネットワークを見ていきたい。
まずはスティーラーズから確認していく。全体像として、ある程度の複雑性を持っていることが分かる。BKの多くの選手がボールに触り、ラックから展開する様々なオプションが多く準備されていると分かる。
数値を見て分かる通り、スティーラーズのアタックの肝になっているのは、ラックから直接ボールを受けるオプションである9シェイプだ。50回ボールが渡り、41回はキャリーに持ち込んでいる。
ただ、前述した通り9シェイプでの前進効率が良かったわけではない。スティーラーズとしては強みである9シェイプで前に出ることができず、思ったようなラグビーができなかったのではないか。
特徴的な点として、ラックからボールを受けるBKの選手のレシーブ比率が挙げられる。実は今回の試合、プレイメーカーになっている李よりも13番に入ったレイナートブラウンの方がボールを受けている回数が多い(9シェイプから下げられた回数含めても、レイナートブラウンの方が多い)。
終盤にかけて12番のタリ・イオアサと交代したブリン・ガットランドにボールが渡った回数が増えたことも影響していると思うが(番号は交代によって引き継がれる)、普段とは少し違うボールの動き方をしていた可能性もある。

次にイーグルスのデータについても確認しよう。
全体を見て気づくのは、何よりもBKの選手にボールが渡ったシーンからキックオプションが使われていない、ということだ。正確に言えばラックからのデクラークのキックや、セットピースから直接田村が蹴り込むようなキックは起きている。しかし、それらのキックはこのネットワーク図では計上されないため、今回のような状態になっている。
想像できる点としては、イーグルスがテリトリーの優先度を上げて試合を動かしていたということだ。中盤であってもボールを動かすチームは多い。しかし、イーグルスは中盤からフェイズを重ねずにキックを蹴り込んでプレッシャーをかけるフローを優先していた。
もちろんチェイスラインを整えてターンオーバーする狙いもあったが、質量のあるスティーラーズを動かしながら中盤で不要なフェイズを重ねないことで、ポゼッションは取られながらも、テリトリーでイーブンに持ち込んでいた。
また、明確にBKの選手へ動かした回数より9シェイプを好んで用いている。これはデクラークの復帰に合わせて方向性の修正を進めている可能性がある。
デクラークは自身の持ち出しを強みとする。ただ、持ち出しの動きとバックスラインへの展開は相性が悪い。デクラークが持ち出してラック近くのディフェンスに仕掛ける動きをすると、角度的にパスを通しづらい。その結果として9シェイプの比率が多いのではないか。
◆まとめ。
スティーラーズとしては、手痛い敗戦となった。ここまでの試合では平均45.4得点と圧倒的な攻撃力を武器にしながら多くのチームを倒してきた。しかし、今回の試合は29得点にとどまっている。これまで得意としてきた9シェイプでのアタックの効率が落ち、圧倒的な得点でカバーしてきたディフェンスが崩されることにより、失点を重ねたと言える。ただ、敗戦することで切り替られることもある。ここから間違いなく修正してくるだろう。
イーグルスにとっては会心の出来だったと言える。スコアフローもよく、失点はしたものの、全体的にディフェンスはいい形を保っていた。
前週の三重ホンダヒート戦で得た勝利の感覚をあらためて掴み始めているように感じる。
ただ、完全な立て直しには至っていないようにも見える。細部の修正も求められる。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
