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前日、同じ花園ラグビー場でおこなわれたリーグワン、ディビジョン1のプレーオフ準々決勝第1戦、静岡ブルーレヴズ×コベルコ神戸スティーラーズ(35-20)同様、5月18日におこなわれたこの試合も熱戦となった。
スコアの動きは控えめだったが、両チームの試合の組み立て、戦術的要素など、深みのある面白さが見られた。
◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのラグビー様相。
スピアーズは、10番のバーナード・フォーリーを動きの中心に、FWをガツガツと当てこむことでリズムを作り、セットピース、特にスクラムを圧倒することでエリアを能動的にコントロールできるチームだ。
ただ、この試合はそう単純な様相ではなかったように感じる。
【Point 1/柔軟な構造性を見せたアタック】
スピアーズは、フォーリーが基準となってアタックラインを構成するフェイズが多く、強烈なFWの選手を有効活用したポッドの強さがあるチームだ。接点の強さがあり、複雑な構成を作らなくとも前に出ることができる。
メインの構成は3人のポッド、FWを中心とした集団を基準としていることが多い。ラックからのダイレクトパスを使う9シェイプ、SO役からのパスを受ける10シェイプが主な使い方だろうか。
フォーリーがゲームコントロールをしている都合上、10シェイプにも厚みのあるアタックをしている。
ポッド構成の派生型としては、2−2の人数比でポッドを構築するパターンが見られていた。片方のサイドにポッドを並べる時は、2人のポッドを好んで用いていたように思う。一つのサイドに対して2人のポッドを二つ並べることによる効果としては、表と裏の関係性、階層構造を2段階設けることができる点にある。3人ポッドであれば2段階の構造を作ろうとすると、合計6人(FWとは限らない)の選手をフロントラインだけで並べる必要があり、数的に負担が大きい。ラックに対して狭い側のサイドでは使いにくい、というわけだ。
また、個人的にリバースポッドと呼んでいる構造も使われていた。これは、2人のFWをフロントライン、その裏の近い位置にBKの選手を配置することで、3人という一般的な構造と同じ人数にも関わらず、アタックにバリエーションを加えることができる。
フロントラインの二人に対する投げ分け、裏に立つBKの選手へのダイレクトなパス、フロントラインから裏のBKへの下げるパスというパターンを、3人という少し数的負担を抑えた構成で作ることができる。
基本構造であるポッドは、片方のサイドに固めて配置されることもあるが、両サイドに作られることもある。ポッドあたりの人数をシーンによって調整することでアタックに色を加えていた。
両サイドに作ったアタックの選択肢に対しては、フォーリーがサイドチェンジすることで優位性を作ろうとしていた。近年で多く見られる「スイング」と呼ばれる動きだ。アタックラインにスピードを乗せつつ、一人があと出しでラインに加わることで数的優位性を作り出しやすくなっていた。
全体的にアタックの安定感はあったが、2人のポッドでキャリーを見せた時は少し不安定性があったかもしれない。ラックのサポートの枚数がある以上、プレッシャーを受けやすい傾向にある。SHの藤原忍の捌きの上手さもあってリズムが崩れるシーンはそう多くはなかったが、意図的ではない場合は少しリズムが崩れてしまう可能性がある。

【Point 2/セットピースから組み立てた試合展開】
スクラムは、多くの時間帯で圧倒していた。ボムスコッドとしての明確なギアチェンジは見られなかったように思うが、マイボールスクラムでの獲得ペナルティは多かった。
スクラムで高い確率でペナルティを獲得できることにより、前進・得点の起点として有効活用できる。今回の試合ではペナルティゴールでも加点していた。反則獲得を有効活用できていた。
また、相手のハンドリングエラーを高確率でペナルティに変換できることも意味合いとしては大きい。正直な感想として、スピアーズはそこまで効果的なアタックをすることはできていなかったのではないかと見ている。大きくゲインしたシーンも少なかった。
そんな中、合法的かつ意図的に前に出ることができるペナルティを、スクラムというプラットフォームから獲得できるのは大きい意味を持つ。
また、試合展開としては少し遅めの傾向があったようにも見えた。特徴的だったのはラインアウトのセッティングで、全体的に急ぐことなく、あえて言い換えるのであれば、意図的にゆっくりとセッティングをしていた。サンゴリアスはボールインプレーを長く、ボールを動かそうとする傾向にあるため、スピアーズは意識的にインプレー間のリズムを調整しようとしていたのかもしれない。
ただ、前半のスコア効率の低さに関しては否定できない。70パーセントを超えるポゼッションを獲得していたにも関わらず、3得点だけだった。
基本的にスコアをすると、相手ボールのキックオフによって自陣に入られ、蹴り返しでテリトリーを回復する。そのことでポゼッションは相手に移る傾向がある。スコア効率の優勢なチームのポゼッションは半分ほど、またはそれ以下になることもある。
敵陣深くに入った状態からも、ミスやペナルティでスコアまで完結できなかった。ポゼッション比率に対して効率が悪かったと言える。
前半はポゼッションとテリトリーで支配的に試合を進めたことで相手のスコアを防いでいた。しかし、結局はキャンセルにはなったものの、ラインアウトモールからトライラインを越えられたシーンもあったし、短時間でトライされる脅威も感じていたかもしれない。スピアーズ側は、ゲーム展開としては難しさを感じたのではないか。
◆東京サントリーサンゴリアスのラグビー様相。
サンゴリアスは、ラインアウトの精度などを特徴とするチームだ。「アグレッシブ・アタッキング・ラグビー」を掲げた攻撃的なラグビーは、シーズンを通して苦戦していた一方で、終盤にかけて6位に滑り込むことのできる実力もある。
【Point 1/前進効率の高いアタック】
サンゴリアスは、選択肢を作るラグビーをしている。基本構造であるポッドに関しては3人という人数で完結させていることが多いが、その中でもバリエーションを作ることで微妙なズレを作り出すことを成功させている。
基本的には3人で構築しているポッドも、シーンによっては4人で構築している時もある。4人で構築する際のメリットとしては、中央の2人への投げ分けが発生することが挙げられる。基本的には9シェイプ、10シェイプなどを3人で作る時は中央の選手に向かって投げることが多い。チームによっては一方向の段状に選手を配置することでパスを受ける選手のパターンを変えている場合もあるが、基本的には中央に投げるパターンがほとんどだ。
中央での投げ分けが発生することで、ティップオフと呼ばれるポッド内の細かいパスワークに対してもバリエーションが生まれる。人数をかけなければいけない数的な負担はあるが、選択肢を増やすことで相手の集中力を分散させることができていた。
また、ゴールに近くなると4人ポッドが比較的コンパクトな構築になっていたのも特徴的だろうか。選択肢ができるという効果も考えられるが、4人を近い位置にコントロールすることでラックが安定化する効果もあるかもしれない。
また、階層構造について特徴的だったのは、後半4分に生まれたチェスリン・コルビのトライだ。12番の中野将伍を最初のレシーバー、擬似SOとしてセッティングし、10シェイプから裏に放るシーン。松島幸太朗のキックからチェスリン・コルビが追いつくシーンが連続した。
このシーンでは合間に10シェイプを挟んだことが大きな意味合いを持っている。10シェイプを挟むことでポッドの端、ポッドエッジとも呼べる部分がラックから離れた位置に生じる。それによってより外側で少人数のディフェンスのブロックが生まれ、スピードとテクニックのある松島を中核とした数的優位性が生まれた。

接点に関しても、ある程度は効率的な前進に貢献していた。本来であればスピアーズが得意とする領域だが、今回の試合では接点を効果的に使っていたのはサンゴリアスではないかと思う。
前述したズレの作り方や、粘り腰で、コンタクトをした位置からさらに前に出ることができていた。相手ディフェンスのポジショニング調整も誘導することができ、攻撃的なアタックラインによって優位性を作り出すことができていた。
前進効率で考えると、キックを使った前進も良い効果を見せていた。特にSHの流大を起点にしたボックスキックは再獲得を果たすこともあり、特に有効だった。
バックスリーの中でも、松島とコルビのハイボール処理の精度は高く、しっかり競り合いながらボールを再獲得することができていた。
【Point 2/苦戦したディシプリン】
サンゴリアスは、高いディフェンス精度を誇っていた。試合を通じてのタックル成功率は86パーセントと悪くない数字だった。接点での圧力もあり、ほぼ相手を抑え込んでいたようにも見える。
強烈な相手のFWや、決定力のある両WTBに対してもしっかりと圧力をかけることもできており、トライ数で見るとイーブンの数値だった。
しかし、規律、ディシプリンの水準では苦戦していた様相が見て取れる。試合を通じてのペナルティの数は15回と、相手の1.5倍ほどの数。合計で4回の相手のスコア機会のうち、ペナルティゴールも含めると3回はペナルティから生まれたスコアだった。
もっとも苦労したのはスクラムだろうか。相手ボールで奪われたペナルティが多かったために試合後のスタッツには反映されにくいが、相手スクラムでは高確率でペナルティを奪われていた。
後半にかけて選手の交代や修正によって安定するようにはなったが、ペナルティを献上することによって奪われたテリトリーも多く、なかなか敵陣に入ることができなかったことも、試合の結果に影響した。
◆プレイングネットワークを考察する。
それではネットワーク図を見ていこう。
まずはスピアーズのものだ。

以下のようなことが感じられるだろうか。
・ラックからのボールタッチをするBKの選手が多い一方でロールは少ない。
・普段の試合に比べると、BK全体のボールタッチが少ない。
・FWを主体としたアタックが多い。
プレーオフという状況も影響しているかもしれない。
BKの早い段階でのボールタッチが少なく、9シェイプやピックゴーといったFW主体のアタックが数値的には多い傾向となった。
キックレシーブから直接蹴ったキックなどはこの図形に含まれてはいないが、直接キックを蹴り込むキック数も多く、キックを中心に据えた戦略をしている可能性が高い。
また、気になったのは12番のボールタッチの比率だ。12番には立川理道が入っており、プレイメーカー的なロールもこなすことができる選手でもある。しかし、今回の試合では早いフェイズでのボールタッチが少なかった。誤差の範囲内の可能性もあるが、BK全体のレシーブ比率にも影響を受けているかもしれない。
次に、サンゴリアスのものもチェックしていく。

以下のようなことが見えてくる。
・どの形からでもレシーバーのキャリーに持ち込んでいる。
・ラックからのレシーブはある程度バランスが良い。
・10シェイプが比較的少ないか。
サンゴリアスの特徴としては、どの選手もハブになりながらキャリーの主体となることができる点だ。他のチームでもありうる形ではあるが、他のチームではハブとキャリーのロールをこなす選手が分かれていることも多い。
ラックからはバランスよくボールを受けており、どこからでも接近戦・展開戦の両パターンに広げていくことができる。
また、これまでの試合のイメージと比べると、10シェイプがやや少なかっただろうか。ここ数試合はSOに森谷圭介が入っている。12番もこなすことができるマルチロールな選手だ。自身でのキャリーもあり、様々なプレイングを見せていた。
しかし、比率的に10シェイプは少なかった。主な10シェイプのシーンは、後半に生まれたコルビのトライへとつながるフェイズと、終盤に高本幹也が投入されてからのものだ。プレイタイプとして、10シェイプをあまり定型にしていないのかもしれない。
◆まとめ。
サンゴリアスとしては、惜しい展開だった。ディフェンスも大きく崩れるシーンはなく、スコアも良い形で奪うことができていた。
スコア的には終盤のペナルティゴールでの2回のミスが影響していたとも言えるが、ゴールが入っていれば相手のキックオフからの再開だった。エリア取りとしても難しいシーンにつながっていた可能性もあり、こればかりは理想的な選択が難しい。
スピアーズは、安定した試合展開を見せた。普段の試合と比べると前進効率は下がっていたようにも感じたが、プレースキックをすべて成功させるなど、スコアの精度に関しては相手を上回っていた。
準決勝では埼玉ワイルドナイツと試合をすることになる。レギュラーシーズンでは1分け1敗という結果の相手ではあるが、こういった競り合う展開を直前に経験できたのは大きいだろう。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
