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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑥】決戦前日。「相手のスペースと時間を奪え」。「まとまって低く」。「自分たちを信じる」
スクラムコーチのオーウェン・フランクス。低さとまとまりを強調する。(撮影/松本かおり)
2025.11.08
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【日本代表欧州4連戦を追っかける/DIARY⑥】決戦前日。「相手のスペースと時間を奪え」。「まとまって低く」。「自分たちを信じる」

田村一博

 曇天で時折小雨が降る天候も、そんなに寒くない。
 11月7日は、翌日にダブリン、アビバスタジアムでおこなわれるアイルランド代表×日本代表の、両チームのキャプテンズランがおこなわれた。

 いくつもの名勝負が繰り広げられてきたかつてのスタジアム、ランズダウンロ―ドに代わり、2010年開場の同スタジアムは、市内中心部からバスで20分強と便利なところにある。
 こちらでバスに乗車していて気づくのは、(2回建てバスの)1階後方の降車口から降りる乗客たちの多くが外に出る前、ドライバーに「サンキュー」と言っていること。運転席まで距離があり、実際に耳に届いているかどうか分からないが良い習慣。それを真似て毎回同じように感謝の気持ちを伝えるようにしているので、日本に戻っても続けていこう。

ほぼ満員になりそうなアビバスタジアム。(撮影/松本かおり)
練習前にチームフォトを撮影するアイルランド代表。(撮影/松本かおり)


 アビバスタジアムの収容人員は、ホームページには5万1711人と記されている。コンサートでは6万超の人たちを飲み込むらしい。

 今回の試合のチケットは、5日前にアイルランド協会が「残りわずか」と出し、3日前の地元紙には「4万9600枚が売れた」と出た。そして試合前日、アイルランド協会の広報によれば「5万を超えるファンが集まりそう」。試合は、素晴らしい雰囲気の中でおこなわれる。

 ちなみに2021年11月6日に同スタジアムで同じカードがおこなわれた時は4万の観衆だった。
 その試合には、今回も出場するジャック・コーネルセン、ベン・ガンター、ディラン・ライリーが先発し、齋藤直人もベンチからピッチに立った。4年前は5-60。大敗の記憶を払拭する試合を期待したい。

 この日のキャプテンズランは、午前10時30分からアイルランドがおこない、日本代表は14時から。こちらは長い時間ワークルームなどで過ごしたから、スタジアム内をいろいろ見ることができた。
 通路や部屋に、アイルランドラグビーが築き上げてきた歴史を示す写真や展示物が飾ってある。過去へのリスペクトを忘れないようにする気持ちが至る所から伝わってくる。

日本代表は泥だらけになる1週間を過ごしてアイルランドに挑む。写真は11月4日のもの。(撮影/松本かおり)


 両チームとも練習公開は冒頭の15分ずつ。その短い時間でも、アイルランドが、統制のとれた行動をしていることが分かった。試合メンバーでチームフォトを撮った後、ウォームアップへ。すべての移動、切り替えがスムーズだった。

 日本代表は練習後、ディフェンス担当アシスタントコーチ(以下、AC)のギャリー・ゴールドと、PR祝原涼介、CTB廣瀬雄也が取材対応のため記者会見場に姿を現した。両選手はフィニッシャーとして、17番と23番のジャージーを着る。
 こちらの会見場もスタジアムのスタンド形式になっていて話を聞きやすい。新しい秩父宮ラグビー場も同じ形にしてほしい。

 前任者のデイヴィッド・キッドウェルがチームを離れた今季、オブザーバーを経て現職に就いたゴールドACは、「エディー(ジョーンズHC)から連絡が来て、チャンスをくれた」と、6月からチームに加わった時のことを話した。
 10月25日のオーストラリア戦(15-19)でチームが見せたゴール前の激しく、粘りあるディフェンスは、この人の指導を受けた影響が大きい。

指笛が上手なギャリー・ゴールド コーチ。(撮影/松本かおり)


 ゴールドACは南アフリカ生まれの58歳。ディフェンスのスペシャリストとして2004年から南アフリカ代表と関係を持ち、2008年から約4年間は、同代表のアシスタントコーチを務めた。2011年のワールドカップにも参加した。

 英・プレミアシップ(ロンドン・アイリッシュ、ニューカッスル、バース、ウスター)やスーパーラグビー(ストーマーズ、シャークス)での指導歴も豊富で、2014-2015シーズンは、トップリーグで神戸製鋼をレギュラーシーズン1位(プレーオフ3位)に導いた実績がある。

 その後、2018年の5月からはアメリカ代表のヘッドコーチを務め、2019年のワールドカップでチームを率いた。直近は母国へ戻り、ブルズで指導にあたっていた。

 同コーチは翌日の試合に向け、「アイルランドは南アフリカとは違う強さを持っている。それに対応していかないといけない」とした。そして、短期間でディフェンスを強固にするのは難しいが、選手たちには「世界のベストやトップチームと戦い、(その経験を得て)成長していくことが大事」と話した。

過去へのリスペクトがあちこちで感じられるスタジアム内。(撮影/松本かおり)


 日本代表はテンポのある展開でアタックするスタイル。そのためにもディフェンスでは、はやくボールを取り返すことが大事。そのためには、自分たちの強みのスピードある動きを生かし、「相手から時間とスペースを奪うことが重要」と言う。
「ただ、ラインスピードを上げても、接点で負けていてはいけない。アグレッシブに、フィジカル的にも強くないと」
 もっと早く。もっと強く。日本代表には伸び代があると考えている。

 パシフィックネーションズカップ時には脆かったトライラインを背負ってのディフェンスが、ワラビーズ戦で見られたように向上したのは、「細かなディテールを詰めるなど、そこにフォーカスしてハードに練習したから」という。
「しかし南アフリカ戦で分かったように、いまはモールディフェンスに問題を抱えています」
 一進一退の歩みはじれったいけれど近道はない。コーチと選手たちのチャレンジは続く。

 南アフリカ戦の出場時間は約15分と短かったものの、パシフィックネーションズカップの途中から4キャップを重ねる祝原は、184センチ、115キロと日本代表の中では大柄も、世界のトップチームのフロントローと比べればサイズで上回れない。

大きな体を低くして挑む祝原涼介。キャプテンズランにて。(撮影/松本かおり)


 アイルランドを「日本よりサイズがある相手」と認識し、前戦で得たセットプレーとブレイクダウンまわりの課題を踏まえ、この1週間は「フィジカル面にこだわって準備してきました」。

 スクラムについては、元オールブラックスで担当コーチのオーウェン・フランクスを信頼する。
「(同コーチが)こだわっているところは世界に通用すると思っています。南アフリカ戦では押されましたが、通用するところもあった。塊になって低く。サイズでは劣っていても、スキルやまとまりで戦えるところはある」

 アビバスタジアムの芝については、ダブリンに到着してからはゆるい(泥混じりのやわらかい)表面のクラブチームのグラウンドで練習を積んできたため、「(ポイントがよく)刺さる」と表情を崩した。

 廣瀬は、12番、13番だけでなく、15番での起用も視野に入れてベンチに座るようだ。
 パシフィックネーションズカップの決勝、フィジー戦以来の出場。オーストラリア代表と南アフリカ代表戦には出場できず悔しい思いをした。そんな思いがあるだけに、「(アイルランド戦には)どんなシチュエーション、どのポジションで出るかわかりませんが、自分の持ち味を出していきたい」と誓った。

勝利を追い求めることが成長を呼ぶ。廣瀬雄也。(撮影/松本かおり)


 ミッドフィールドでのプレーを得意とする24歳は、強豪との戦いの中で大事にしないといけないのは「自分たちを信じること」と言う。南アフリカには大敗したけれど、自信を無くすのではなく、前へ出続けることが大事だ。

 2015年のワールドカップで南アフリカに勝ったチーム、2019年大会でアイルランド、スコットランドを破ったチームとも、負けて得た学びを生かして、ほしかったものをつかんだはずだ。
 だから自分たちも自信を失うのではなく、「ティア1やトップ4に勝つ(時がくる)と信じながらプレーしないといけない」。

「それは明日かもしれないし、来週、1年後、2年後か分かりませんが、目の前の勝利に貪欲になることが大事だと思っています。ウェールズ戦でもそうでしたが、自分たちの通用するところを見つければ自信につながる。心を折らずに全員で頑張れば成長していけるチーム」
 経験豊富な選手たちに任せるのではなく、「自分たちからも引っ張っていきたい」と高まる責任感を口にした。

 取材後は、ラグビー仲間とパブへ。この夜訪れたところはステージでの生演奏やアイリッシュダンスがあり、それをすぐ目の前で楽しめてあっという間に時間が過ぎた。
 日本の勝利を祈ってギネスビールも飲み干した。試合後もおいしく飲みたい。

ギネスビールと生演奏、アイリッシュダンスで、ダブリン気分が盛り上がる。(撮影/松本かおり)





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