良い「結果」のスタートだった。
オールブラックスのグランドスラムツアー初戦(現地アメリカ・シカゴ11月1日)は26-13と、アイルランドに勝利した。
開始わずか数分でキャプテンのスコット・バレット、続いてジョーディー・バレットが負傷交代。主力でもあるバレット兄弟がそろって序盤で退く波乱の展開となった。アイルランドに至っては、厳しい判定のレッドカードが出るなど(LOタイグ・バーン)、前半は落ち着かない内容だった。
数的有利となったオールブラックスだったが、先に10点を奪われ、前半を7-10とリードをされて折り返す。それでも残り20分を切ってからギアを上げ、PRタマイティ・ウィリアムズ、FL/NO8ウォレス・シティティらの控え選手を筆頭に立て続けに3トライを奪取し、9年前の雪辱を果たす勝利を掴み取った。
◆「再戦」となった因縁の地「シカゴ。6万超の観客で盛り上がる。
今回、オールブラックスはグランドスラムツアー(ホームユニオンのイングランド、スコットランド、ウェールズ、アイルランドの4か国を巡るツアー)と掲げているものの、その初戦の舞台は欧州ではなくアメリカ、シカゴだった。
このためNZ国内では、「欧州で戦ってこそグランドスラムツアー」、「これはグランドスラムツアーとは言えない」といった声も挙がっている。中には「商業的な試合に過ぎない」という意見もあった。
しかし、現地の盛り上がりは本物だった。観客数は6万1841人。スタジアムはスタンドを埋め尽くしたファンの熱気に包まれ、イベントとしては大成功だった。シカゴの街中に「Re-Match(再戦)」と掲げたポスターが並び、2016年にオールブラックスが史上初めてアイルランドに敗れた地でおこなわれる、特別な意味を持つ試合だった。
主催はシカゴに本社を置く保険会社ギャラハー。今回の「ギャラハーカップ」は、まさに同社の地元開催。この試合を通じてNZラグビーがアメリカ市場へのラグビー普及を狙う意図も感じられた。観客動員という面では十分に成功の興行となった。

◆前半の試合テンポの悪さ。後半はエンターテイメント。
チケットの売れ行きは良かったが、試合内容についてはNZ国内でも厳しい言葉が並んだ。特に前半に関しては「見れたものではない」、「酷い内容だった」など、ラジオ番組の司会者をはじめ、トークバックで電話を寄せたファンたちからはネガティブな意見が相次いだ。
問題は、特に序盤にゲームが何度も止まりテンポが悪かったことだ。まるでアメリカンフットボールの試合のように、プレーが細かく途切れる展開。ラグビーらしい流れのあるテンポが失われていた。
さらに、開始早々にアイルランドに非常に厳しい判定でレッドカードが出たことも、試合の流れを乱した。実際に現地で観戦したアメリカ在住の友人も「周囲の観客がレフリーに強く不満を示していた」と話している。Sky Sport NZの中継でも、NZ側が有利になりながら「おかしな判定」と指摘する場面があった。
一方で後半は、オールブラックスが巻き返してトライを重ね、スタジアムが盛り上がり、観客にとって見応えのある結末となった。
◆ファレルHCはレフリー批判なしで冷静に分析。レイザーは後半の反撃を称賛。
アイルランドの指揮官アンディ・ファレル ヘッドコーチ(以下、HC)は、試合後の会見でレフリー批判を一切せず「レッドカードが出た後、私たちは(試合を)上手く対応したと思う」と語った。
敗因については、メディアや評論家から言われていた「後半の失速」。今年3月のシックスネーションズの試合以来の(ベストメンバーでの)テストマッチという背景が影響したと指摘があったが、「交代選手も力を発揮してくれた。フィットネスが問題だったとは思わない。問題だったのは、試合中の集中力や瞬時の判断の精度だった」とHCは分析したようだ。

一方、勝者となったオールブラックスのスコット・ロバートソンHCは「前半は充分なパフォーマンスではなかった」と認めたうえで「残り20分でベンチの選手たちが仕事をやり遂げ、試合にインパクトを与えたことに満足している」と笑顔で勝因について語った。
昨年ロバートソン体制になってから課題とされていた「後半の得点不足」を克服したことで、チーム全体に自信が芽生えた試合となった。次戦のスコットランド戦に、その勢いを維持できるかが焦点となる。
◆スコットランド戦、バレット2兄弟欠場のピンチも若手にチャンス。

現地エディンバラ時間の11月8日、午後3時10分キックオフのスコットランド戦に挑むオールブラックスの23人のメンバーが発表され、3人の先発変更があった。 前戦で負傷退場したキャプテンのLOスコット・バレット、そしてCTBジョーディー・バレットの欠場が週初めに決まっていた中でのセレクションとなり、注目が集まっていた。
スコットの代わりにはジョッシュ・ロード(203センチ)が入りも4番を付ける。ファビアン・ホランド(204センチ)との「2メートル超えロックコンビ」が誕生する。まだ経験が浅いロードと今季の新人ホランドの若手コンビにとって、テストマッチの大舞台でステップアップを図る絶好のチャンスとなる。
注目のバックロー(FL/NO8)は、ロバートソンHCが「コンビネーションを重視した」セレクション。ここ数試合ベンチスタートだったシティティが、前戦で見せたインパクトあるプレーが評価されて6番で先発に復帰。ゲームキャプテンを務めるアーディー・サヴェア(7番)、そして3試合連続でNO8のポジションの座を確保したピーター・ラカイとともに、攻撃的な布陣が形成された。

バックスでは、負傷でツアー離脱が決まったジョーディー・バレットに代わり、クイン・トゥパエアがアウトサイドセンター(13番)からインサイド(12番)にシフト。先週ベンチスタートだったレスター・ファインガアヌクが先発に昇格し、トゥパエアとコンビを組む。
ジョーディーの不在はチームの柱を欠く形となるが、前戦で途中出場ながら力強い突破を見せチャンスを作り出したファインガアヌク、そして成長著しいトゥパエアのコンビは、逆に新たな可能性を感じさせる。
ベンチには、空いたLOにサム・ダリーが入る。今季スーパーラグビー直前に負傷離脱していたが、NPCでパワーアップした姿を見せた。テストマッチレベルでの活躍が期待される。
さらに、4試合ぶり(9月13日のスプリングボックス戦以来)にFLデュプレッシス・キリフィがベンチ入り。残り20分のフィットネスがきつくなる時間帯に、キリフィがブレイクダウンでハッスルする姿が見られれば、チームに勢いが出そうだ。
バックスの控えには、今季13番で先発が多かったビリー・プロクターが3試合ぶりにメンバー入り。一方でCTB/WTBがカバーできるリーコ・イオアネは今回もメンバー外となった。
会見終盤でロバートソンHCは「ポジティヴに話すと、(前週の試合で)早い段階での怪我があったお陰で、(控えの)選手たちは長い時間一緒にプレーする機会を得た」と語った。ロックとCTBコンビがチャンスを得たことを喜んでおり、「このチャンスをまた活かしてくれるだろう」と期待を寄せる。

◆100周年を迎えるマレーフィールドでのテストマッチ。
スコットランドのエディンバラにあるマレーフィールドは1925年に完成した。同年にスコットランドがこのスタジアムでイングランドに勝利し、その年のファイブネーションズ(現在のシックスネーションズ)でグランドスラムを達成している。
今回のテストマッチは、マレーフィールド100周年記念として特別な意味を持つ。両国の対戦は32回行われ、オールブラックスは30勝(引き分け2回)でまだ一度も敗れていない。スコットランドにとっては、宿敵相手に初勝利を目指す絶好のタイミングとなり、モチベーションも高いようだ。
オールブラックスはこの試合で特別なジャージを着用予定だ。ロバートソンHCは「白いジャージとポピーは、かつて私たちに貢献してくれた人々に敬意を表している」と語った。
前週スコットランドはアメリカ代表に85-0で大勝した。しかし、力の差が大きく参考にならないとも言われている。
ロバートソンHCがスコットランドのメンバーで注目すべき選手として挙げた司令塔のフィン・ラッセル(10番)やキャプテンのCTBシオネ・トゥイプロトゥを中心としたクオリティの高いバックス陣が揃う。FWが奮闘すればスコットランドにも勝機が出てくるかもしれない。

ロバートソンHCは、「マレーフィールドでおこなわれるラグビー100周年記念の試合に参加できることを光栄に思う。特別な一戦になるだろう」とコメント。
オールブラックスにとっても、グランドスラム達成に向けて負けられない試合となる。歴史を積み重ねたマレーフィールドで、熱い戦いが待っている。