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◆「以上。皆さん、ご機嫌よう」
9月6日に開幕したトップ14は第6節を終え、現在、ポー、スタッド・フランセ、トゥールーズが首位に並んでいる。
トゥールーズの首位は想定内ではあるが、今季は波がある。第3節(9月20日)、アウェーのモンペリエ戦で14-44と大敗し、第4節(9月27日)はホームでカストルに59-12と圧勝。立て直したかと思いきや、第5節(10月5日)はアウェーでバイヨンヌに26-40と大量失点を喫して敗れた。モンペリエでの試合同様、「こんなトゥールーズを見るのは珍しい」というコメントがSNSで多く見られた。
試合後の会見でユーゴ・モラHCは、「今シーズンは、いままでとは違った形で築かれることになるだろう。アウェーで勝つための気概が欠けている。来週はその気概とフィジカルの厚みをもたらしてくれる選手を戻してヨーロッパチャンピオンを迎える準備をする。昨年、彼らは我々のホームに来て勝っていった。今の我々は、自分たちのやるべきことを掌握できていない。再び結束を固めなければ」。
そして、「いつも私が思うのは、40点取られたら、さっさとバスに乗って帰って、つべこべ言わずに月曜から仕事に取り掛かる。以上。皆さん、ご機嫌よう」と言い残し、会見場をあとにした。
一方、昨年度ヨーロッパチャンピオンのボルドーも、アウェーで勝ち星を上げることができていない。ラシン92に32-44(2節/9月13日)、スタッド・フランセに7-28(4節/9月27日)で敗れている。
ボルドーの不安定さの原因は、精神的な主柱であるキャプテンのSHマキシム・リュキュ、そしてCTBヨラム・モエファナ、LOアダム・コールマンらの負傷による離脱、およびPRベン・タメイフナの代表参加のための不在が考えられる。
また、昨季限りで退団したNO8ピート・サム、テヴィタ・タタフ、LOギド・ペッティのように、パワフルなボールキャリーで局面を打開する選手も足りない。タタフとサムの後任として、南アフリカのジャン=リュック・デュプレアを獲得したが、9月の代表合宿中に膝を負傷し、しばらく合流できそうにない。
さらに、チャンピオンズ・カップの決勝でトゥールーズのアタックを完全に封じたディフェンスが機能しなくなっていることも要因だ。

昨年ボルドーは、前年度の決勝(3-59でトゥールーズ圧勝)のトラウマを拭い去るべく、トゥールーズでの試合にフォーカスしてスタッド・エルネスト・ワロンに乗り込み、16-12で勝利して、その後のシーズンに勢いをつけた。
しかし、今回(6節/10月12日)はSOマチュー・ジャリベール、WTB/FBルイ・ビエル=ビアレらの主力を温存し、トップ14のプレー時間わずか29分の若手ジョゼフ・ラアーグ(19歳)を10番に起用した。リザーブにも今季3部リーグのマッシーから加入した18歳のSHを配置するなど、経験の少ない選手を多数起用する布陣だった。
結果的に、覚醒したトゥールーズは前半だけで5トライを奪い、FBトマ・ラモスが前節の不調を払拭するかのようにキックを100パーセント成功させ、35-3でワンサイドゲームとなった。この日のボルドーのメンバーではリーダー格となるCTBニコラ・ドゥポルテール(22歳)が後半から出場して2トライを挙げたものの、トゥールーズがさらに3トライを追加し、最終スコア56-13で敗北を喫した。
開幕から9節休みなしで続き、選手のコンディション維持のためにメンバーのローテーションは不可欠だが、このスコアは重い。今後のチームの勢いに影響を及ぼすことも懸念される。
トゥールーズも昨季、巷で「Bチーム」や「Cチーム」と言われるような若手中心のチーム編成でラ・ロシェルと対戦した。敗れはしたものの最後まで肉薄し(22-19)、試合後、笑顔が見られたのはむしろトゥールーズだった。今回の結果から、ボルドーにはまだトゥールーズほどの層の厚さができていないということになる。
ボルドーに快勝したこの試合では、トゥールーズのWTB/FBアンジュ・カプオッゾが約4か月ぶりに戦列復帰した。その影響力は明らかで、リスタートからのキックをジャンプして巧みに味方へはたいてトライの起点となったほか、ボールを持ってはステップでディフェンスを掻き乱し、生まれたスペースをついて自らもトライを決めた。「自由電子」と例えられる彼の素早く予測不能な動きを、トゥールーズのアタックは必要としていたのだ。
また、日本の古瀬健樹レフリーが、この試合でアシスタントレフリーを務めた。現地の『ミディ・オランピック』紙でも紹介記事が掲載され、今週はプロD2のヴァンヌ×オヨナ(10月16日)、来週はグルノーブル×カルカッソンヌ(10月24日)のレフリーを務める予定だ。

◆取り戻した笑顔。
ところ変わって10月11日、パリのスタッド・ジャン・ブーアン。時計は80分を回った。ここではノートルダム寺院の鐘(録音)が鳴り響き試合終了を告げる。ピッチの上ではスタッド・フランセのSOルイ・カルボネルがキックティーの上にボールをセットしている。ゴールポストから少し左、距離は40メートル。スコアは23-24でラ・ロシェルがリードしていた。
4分前、ラ・ロシェルはペナルティを得て、スタッド・フランセのゴールから10メートルの地点でラインアウトを得た。しかし、ボールはピンクのジャージーに入りラックになった。ラ・ロシェルのSHノラン・ルガレックがレフリーに「ボール出てる?出てる?」と何度も聞く。最初は「ノン!」と言っていたレフリーが「出た!」と答えるや否や、ラックのうしろから飛び出してきたルガレックがボールをかっさらってゴールに持ち込もうとしたが寸前で止められた。
FLオスカー・ジェグーが駆けつけ、ボールを持ってピンクの壁の隙間に飛び込んで押さえた。SOアントワンヌ・アストイのコンバージョンも決まり、ラ・ロシェルが逆転に成功した。
その後のキックオフ、スタッド・フランセは10メートルラインを超えたところにボールを落とした。それを黄色のジャージーが獲得した。ルガレックが高く蹴り上げたボールがピンクのジャージーの選手にあたり、ノックフォワードでラ・ロシェルボールのスクラムとなった。
ルガレックがボールを入れる。するとピンクの塊が足で地面を激しく掻きながら猛烈に押し進み、ラ・ロシェルのパックをめくりあげて粉砕し、ペナルティを得た。これがスタッド・フランセのスクラム! この試合で6つ目のスクラムで得たペナルティだ。
昨季は初日にPRが3人負傷して強みを発揮できずそのまま自信を失ってしまったが、今季しっかり本来の強さを取り戻した。
こうして勝敗はカルボネルに委ねられた。
呼吸を整え、ボールを見る、ゴールポストを見る。もう一度繰り返し、助走に入る。当たりの良い音が聞こえた。ボールはまっすく伸びてゴールポストの間を通過。スタジアムの静寂が一気に歓喜の爆発へと変わった。
これがルイ・カルボネルだ!
トゥーロンからモンペリエに移籍し、あまり良い成績を出せず昨季パリに移籍したが、コーチの解任、その後もスタッフ間の対立、またチームの成績不振と理想的な環境ではなかった。個人的にも低迷していた。
現在HCのポール・ガスタードは、昨シーズン終盤にディフェンスコーチからHCにアポイントされた。彼はイングランド人でサラセンズ黄金期のディフェンスを築き、イングランド代表でもディフェンスコーチをした経歴を持つ。その彼が、「フランスでは9番がプレーを指揮するが、僕は10番にそれをしてもらいたい」と今季始めからカルボネルにチームの鍵を託した。

スタッド・フランセでアタックコーチをしている元フランス代表SHのモルガン・パラは、試合翌日のラジオ番組で「彼(カルボネル)にとって信頼はとても重要で、このPGの成功は彼にとっても非常に有益だ」とコメントした。コーチからの信頼、仲間からの信頼、そして自分自身への信頼だ。
今季、ラ・ロシェルから加入した元オールブラックスのベテランSHタウェラ・カーバーローの存在も彼の助けになっている。カーバーローについて、「アタックを仕掛け、創造し、ディフェンスラインを攻める」という。自分自身と「近しいDNAを共有」し、さらに「強いリーダーシップを発揮する存在」。カルボネルは、チーム内の意思統一もスムーズに進むと語っている。
開幕当初、ガスタードHCは「バランスが大切」と言っていた。選手の口からもその言葉が聞かれた。アタックコーチのパラは、「強いモール、スクラム、ディフェンスのチームだったが。それだけでは勝てないということが昨季よくわかった。まずメンタリティーを変えなければならなかった」と明かした。
攻めることができる場面で攻めなければ練習を止め、「なぜ攻めないの?」と選手に問う。ビデオを見ながら選手と話し合い、「自陣から出る手段はキックだけじゃない。キックするスペースがなければ、パスを回してスペースを生み出すこともできる」と伝えた。
「トゥールーズになりたいわけじゃないし、同じことはできない。自分たちのスタイルを築きたい。少しずつ自信をつけ、スペースをキックとパスを使って攻めるということが選手たちに浸透してきた。ラックとディフェンスが強いラ・ロシェル相手にこの試合では焦って自分たちを見失ったところもあったが、この勝利のおかげで、これを土台にさらに取り組んでいける」とアタックコーチは語る。
昨季、最終節まで降格の危機に面していたスタッド・フランセが、本来のプレーと自信、そして選手たちの笑顔を取り戻した。
一方、敗れはしたが、ラ・ロシェルのロナン・オガーラHCはむしろ満足感を示した。
「コミットメントとフィジカルの強さについては満足している。もちろん、スクラムはもっと良くする必要があるが、今夜は穏やかな気持ちで眠れそうだ。モンペリエ戦(13-37で敗戦)のあとのように、頭の中に1000もの疑問を抱えることはない。我々のシステムを本格的に稼働させるには、もう少し時間が必要だ」とコメントした。
スタッド・フランセ×ラ・ロシェルの舞台、この日のスタッド・ジャン・ブーアンは1万7178人の観客が入り、スタンドの最上階までほぼ埋まっていた。2週間前にボルドーを下した時は1万8000人を超えた。収容キャパ1万9500に対して90パーセント。昨季の平均の1万4100人を大きく超えている。
このスタジアムではスタッド・フランセが勝利すると、ヘルメス・ハウス・バンド(Hermes House Band)の『I will survive (la la la)』が流れ大合唱になる。最近はどこも『Freed From Desire』になっているが、ここは今もこれなのだ。1997年に1部昇格を果たした時からの伝統だ。
一方、ポーのスタッド・デュ・アモーでは、バイヨンヌの『ペニャ・バイヨナ(Pena Baiona)』のように試合が始まる前に歌うクラブのアンセム、『ラ・ウニャード(La Hounhada)』がある。フランス語と、ベアルン地方で話されるオック語(ガスコーニュ語)でアカペラで歌われる。「行け行け、緑と白の戦士たち。アンリ4世の故郷、誇り高きポーの街のセクション・パロワーズ、団結して君のラグビーをしろ。私たちはいつも一緒に歌うそして勝つ」という内容だ。この歌を現地で聞かれた斉藤展士さん(現・三重ホンダヒート アシスタントコーチ)も感動されたそうだ。
◆チーム愛。未来につながる決断。
ポーが6節に迎え撃ったのは、前節トゥールーズを倒し首位になったバイヨンヌだ(10月11日)。バイヨンヌは昨季はベスト4進出を果たした。今季は、それがサプライズではなかったと証明したいところだ。
しかしこの日までに、すでに10人を超える選手が怪我で離脱する状況があった。さらにこの試合で6人を怪我で失う。まさに悪夢の80分だった。
試合の途中からPRがNO8に入り、HOがFLになり、FBとFLでCTBを組み、WTBがSHにと、つぎはぎだらけの布陣にするしかなかった。
スクラムでは5回もペナルティを取られ、その状態で好調のポーを相手に24-47というスコアで抑えられたのは、よく持ち堪えたと言えるだろう。ポーのミスに救われたところもあった。
バイヨンヌのグレゴリー・パタHCは、「ラグビーの神様は我々の味方ではなかった。まさに悲劇的なシナリオだった。選手交代を含め、やろうとしていたことができなかった」と苦しい状況を吐露した。
勝利したポーのセバスチャン・ピケロニHCは勝利の中にも課題を指摘した。
「勝ち点5(勝利で4点+ボーナスポイント1点)を獲得するチャンスがあり、それを実現したことは非常に良いこと。しかし試合を完全にコントロールできたとは言えない。試合の3分の2は、シンプルなことを複雑にしていた。ポジティブな点は、リーダー陣がペナルティからラインアウトを選びモールでトライを取り切り、自分たちが優位に立てる領域を意図的に攻めたことだ」
ピケロニHCは2018年、2019年にフランスU20代表を世界チャンピオンに導いた実績を持つ。当時、フランス代表はなかなか勝てず、試合を見ていても胸が痛くなるような状況だった。そんな時に彼が率いるU20の次から次へとボールを繋ぎ、溌剌としたプレー、そして選手がそのプレーを本当に楽しんでいるのが感じられ、「こんなフランス代表が見たい」と思わせた。
彼はクレルモンのエスポワールに入団したが、膝を負傷し契約を更新されず、3部リーグでプレーを続けながら体育教師の資格をとった。まずトゥールーズ地区のU17の指導者になり、その後フランスU17、フランスU19 、フランスU20代表と、若手の育成に携わりながら指導者の道を歩み、2021年にトップ14のポーのHCに就任した。期待通り、ポーでも若手の育成に取り組み、少しずつクラブで育った若い選手がチームの中心になってきた。
CTBエミリアン・ガイユトン(22歳)、WTB/FBテオ・アティソベ(20歳)、LOユーゴ・オラドゥ(22歳)の3人がすでにフランス代表にも選ばれている。さらに19歳のCTBファビアン・ブロ=ボワリーも注目を集めている。

先日、ガイユトンがポーとの契約を2029年まで更新したことが発表された。ラ・ロシェルとトゥールーズからもオファーを受けていたが、彼はポーに残ることを選んだ。これは非常に大きな意味がある。タイトルを獲得したければトゥールーズからのオファーを断る選手は稀だが、彼はクラブ、コーチ、チームメイトを信頼し、この環境でこの仲間とタイトルを獲得することを選んだのだ。他の若い選手もガイユトンに続くだろう。そんな彼らの信頼関係が、チームの強さとしてピッチの上でも感じられる。
若い彼らをリードしてくれる経験豊富な選手も必要だ。そのためにイングランドのエクセターからSOジョー・シモンズが2年前に加入し、効果的にゲームメイク力を指揮している。
今季はFWの強化のために、アルゼンチンのFLファクンド・イサとHOフリアン・モントージャが加入した。イサはすでに試合に出場しパワーをもたらしている。チャンピオンシップを終えてチームに合流したばかりのモントージャはバイヨンヌとの試合をスタンドから、時折うなずきながら観戦していた。彼の経験と真摯な姿勢がさらにポーのパフォーマンスを一層強固なものにすると期待される。
ただ、シーズンはまだ長い。
「10月の真実は6月の真実ではない」とよく言われる。これからも目が離せない。