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ラグビー王国ニュージーランド。その象徴であるオールブラックスの本質に触れることができる場所がオークランドにある。『All Blacks Experience』(オールブラックス・エクスペリエンス)だ。
従来の博物館や展示会の枠を超えた「見て終わるだけではない」体験型の施設。ラグビー好きやオールブラックスのファンはもちろん、ラグビーをあまり知らない人でも、大人から子どもまで楽しめる。
オールブラックスの歴史をたどりながら、ツアーガイドが導くリアルな体験。この45分間のツアーでは、ニュージーランド(以下、NZ)ラグビーの歴史・文化・魂を五感で感じることができる。
クライマックスは、ロッカールームからピッチ、そして「ハカ」の瞬間をその場で味わう迫力体験。まるで自分が代表選手になったかのような感覚に包まれ、想像以上に心が震える時間になるはずだ。

◆オールブラックス・エクスペリエンスの誕生の背景。
NZ最大の都市オークランドのダウンタウン、スカイタワーから歩いてすぐの好立地に位置するこの施設は、2020年にオープンした。Ngāi Tahu Tourism(ンガイ・タフ・ツーリズム)とNew Zealand Rugbyの強力なパートナシップにより実現した。
開発はNgāi Tahu Tourismが中心となり、歴代のオールブラックス・レジェンドたちの協力を得ながら、9年間にわたる準備期間を経て2020年12月に完成。NZの誇りとラグビー文化を融合した、まさに長年の情熱が形になったプロジェクトだ。
◆親切な受付&オールブラックスのレジェンドの出迎え。
入口ではフレンドリーなスタッフが笑顔で迎えてくれる。チケット購入時にリストバンドを受け取り、モニターで名前などを登録。荷物を預けられるサービスもあり、観光客には嬉しい配慮だ。
この日は、特別なサプライズがあった。
かつてのオールブラックスの名ロック、長年ブラックジャージを身にまとったイアン・ジョーンズ氏(施設のジェネラルマネージャー)が直接出迎えてくれたのだ。
※イアン・ジョーンズ:チーフス(1996年〜1999年)、オールブラックス(1990〜1999年/代表キャップ79 )、ワールドカップ3大会(1991年、1995年、1999年)に出場。

現役を退いてから時を重ねたいまも、当時と変わらぬ引き締まった体つき。柔らかな笑顔、穏やかな語り口が印象的だ。人としての大きさが自然と伝わってくる。
ジョーンズ氏は、特別展示されている2つのジャージ(FIRST XV ジャージ・コレクション)について熱心に説明してくれた。
左は、1981年の南アフリカ戦(イーデンパーク)でWTBバーニー・フレーザーが着用したもの。その試合は反アパルトヘイト抗議者による小型機からの投下物事件で知られる「歴史的な一戦」だった。
右は、1996年、南アフリカ遠征で史上初のシリーズ勝ち越しを果たした際、キャプテンのショーン・フィッツパトリックが着用していたジャージだ。ジョーンズ氏は、自身も出場した(1996年)当時の思い出を交えながら、誇らしげに語ってくれた。
※この「FIRST XV ジャージ・コレクション」は全15着があり、定期的に入れ替え展示されている。

◆ツアーガイドと共に歩く45分の体感旅。
ツアーは毎日午前10時から始まり、午後4時が最終ツアーとなる。
この日のガイドは、穏やかさの中に芯の強さを感じる女性だった。参加者はNZ国内では北島にあるホークスベイ、南島のクライストチャーチ、海外からは、オーストラリア、南アフリカなど多国籍。互いの出身地を紹介し合うところから、自然と一体感が生まれる。
序盤の展示室では、歴代オールブラックスの選手名が、マオリ模様の紋様として代表番号順に刻まれている。その中には、現在日本の東芝ブレイブルーパス東京で活躍するSOリッチー・モウンガの名前も含まれる。
ガイドの問いかけに、それぞれが「好きな選手」を語り合う和やかな時間が流れる。

同じ場所には、歴代の戦績が刻まれた「レガシー・ウォール」があり、それぞれの心に残る試合を語り合う姿も見られた。
続いて、NZラグビーの原点を描いた映像シアターへ。ブラウン管風のスクリーンに映し出されるのは、クラブラグビーから代表チーム誕生までの歴史。たとえ英語がわからなくても映像だけで十分に感動できる構成だ。
その後、違う部屋に移動。参加者は2組に分かれ、ラグビーに関するクイズや状況判断の問題などに挑戦できる。自分がプレーヤーになったつもりになれるユニークな内容も盛り込まれ、ラグビーをよく知らない人でも夢中になれる仕掛けが満載だ。

◆クライマックス。ロッカールームからピッチ、そして「ハカ」へ。
ツアーも終盤、クライマックスが訪れる。
オールブラックスのロッカールームを忠実に再現した空間に入ると、空気が一変し、座ったロッカー横にはスクリーンがある。そこに現れるのは現役・OBのオールブラックスたち。試合前の緊張感と高揚感を語りかけてくる。
ここには正面にカメラがあり、各々の好きなポーズで写真撮影ができる。自分が座ったロッカーの両隣りにオールブラックスやブラックファーンズの選手を選択し、合成写真が作れるサービス(別料金)もある。


そんな和やかな雰囲気から一転、会場は一気に試合モードへ。ツアーのクライマックス、「ハカ」の瞬間が訪れる。
オールブラックス、そしてブラックファーンズ(女子NZ代表)のハカと対峙すると、ただの映像ではない圧倒的な迫力が全身を包み込む。まるで対戦相手としてピッチに立っているような緊張感がそこにはあった。「オールブラックスとテストマッチを迎えるとは、こういうことなのか」と、思わず息をのむ。
ロッカールームからピッチへ向かう演出も見事だ。自分が大舞台に挑む選手になったような錯覚に陥る。その「魂を揺さぶられる」感覚は、一度味わえば忘れられない。
何度でも見たくなるハカ。何度でも体感したくなるこの瞬間。まさに、それこそが「オールブラックス・エクスペリエンス」の真髄だ。
◆ツアー終了後も楽しみが続く。
充実の45分のガイド付きツアーを終えると、実際にラグビースキルを体験できるコーナーへ。ゴールキック、ラインアウトのスロー、パスセッション、俊敏性テストなど、子どもから大人まで楽しめる内容が詰まっている。
各セッションでは、画面越しにリッチー・モウンガやダミアン・マッケンジーら現役&元オールブラックスが動画で登場し、指導してくれる(内容は時期により変更の可能性あり)。

スキル体験を終えるとツアーお楽しみの買い物の時間が訪れる。ショップには、オールブラックス、ブラックファーンズ、マオリ・オールブラックスなどのジャージを始め多彩な公式グッズが並ぶ。
販売コーナーには、日本人スタッフもおり、日本からの観光客にも親切な対応が嬉しい。普段は、日本からも観光客、修学旅行、などたくさん訪れるとの事だ。
45分のツアー+ラグビースキル体験、買い物まで含めると、所要時間は60分〜90分ほどみておきたい。時には、現役、元オールブラックスの選手が来場する事もあり、サプライズに遭遇するチャンスもある。
家族で訪れても、友人とでも、ひとりでも楽しめる。
「オールブラックス・エクスペリエンス」は、NZラグビーの誇りと精神を肌で感じられる体験の場。ラグビーを愛する人なら、一度は訪れておきたい場所である。
◆施設情報
All Blacks Experience(オールブラックス・エクスペリエンス)
住所:Level 4/ 88 Federal Street, SkyCity Entertainment Precinct, Auckland CBD, New Zealand
営業時間:毎日午前 9時30分から午後5時まで
・最初のガイドツアー出発:毎日午前10時
・最終ガイドツアー出発時刻 :毎日午後4時
所要時間:ツアー約45分(+スキル体験・ショップ見学で計60〜90分)
料金:大人$69、子ども(6〜14歳)$35、乳児(0〜5歳)無料、学生$49
※料金は2026年9月30日までのもの
団体割引、家族割引あり(要確認)
※日本語の字幕翻訳付きツアーが1日に数回あり(要確認)
公式サイト:https://www.experienceallblacks.com/