戦いの舞台となる大和スポーツセンター競技場の収容人員は3000人弱のようだ。
チケット販売サイトの中には、予定販売枚数終了となったものもある。10月11日(土)、同競技場で関東大学対抗戦Aの2試合がおこなわれる。
11時30分キックオフの明大×日体大に続き、16時キックオフの早大×筑波大が特にファンを惹きつける。
両校とも開幕から2連勝と好調。特に筑波大は明大、慶大に勝っての3戦目。伝統ある3校に3連勝となればビッグニュースだ。そして、目指す日本一への勢いも生まれる。
セットプレーで優位に立ち、逆転で勝利を得た初戦の明大戦。特に輝いたのはFL中森真翔だったか。桐蔭学園出身の2年生は190センチ、93キロの体躯で全身バネ。トライも挙げた。
磯部俊太朗、白丸智乃祐の両LOも大型で頼りになり、強豪校のFW相手にも力負けしない。

好調なチームの基盤を支えている筑波大FWの中に、小柄な4年生がいる。
大町尚生(おおまち・なおき)は4年生。開幕から8番のジャージーを着続け、早大戦にも先発出場の予定だ。167センチ、90キロのサイズながら欠かせぬ存在となっている。
開幕2戦目の慶大戦に勝った後、大町は「セットプレーの安定が求められている中で、2試合を通してそこはできていると思います。フィールドのプレーではディフェンス時の接点にフォーカスしています。この2試合、そこもやり切れています。自信を持ってやれています」とFW全員が得ている体感を伝えた。
小柄なNO8の強みは、視野の広さと豊富なラグビーナレッジ。FWのオーガナイズを担当する。アンストラクチャーの中でスペースを見つけ、自分で走ることも、周囲に指示を出すこともでき、ボールを動かすこと自体も得意。
フィールドの中でFWの司令塔的立場で、修正すべきところを正し、「どこをどう攻めるのかのアイデア出し」を請け負う。
フィジカル面、サイズ面などハード面のレベルアップを図りながらも、ソフト面でライバルたちを上回りたいチームの中でも頼られる存在となっているのは、考え、判断してプレーすることを求められた高校時代の日常が原点。長崎北陽台、品川英貴監督の指導下でベースが作られた。「高校(当時はFL)と大学でやっているラグビー、似ていると思います」と話す。
長崎北陽台高校では理数科。現在は秋篠宮家の長男、悠仁さまと同じ筑波大学の生命環境学群に学ぶ。
生物資源学類で研究していることを噛み砕いて説明してもらう。が、それでも難しく、「植物由来の抗炎症効果があるものは、どんな遺伝子が働いて炎症を抑えているのか、の研究」と理解するも、おそらく正しくない。
卒業後は食品メーカーに就職することが決まっているから、ラグビーが人生から消えることはないが、「トップレベルでのプレーは今季が最後」となる予定。だから「やり切る」思いも強い。

筑波大へ進学するまでの経緯に物語がある。
主将を務めていた長崎北陽台高校3年時、共通テストで思うような結果を残せなかった。そんな時、母が「実力があるのだから、ちゃんと勉強して行きたい大学へ行ったら?」と言ってくれた。
鹿児島大学に合格するも、予備校での浪人生活を選ぶ。1年後、その日々の努力が実った。
もともと大学ではラグビーを続けるつもりはなかった。しかし、一度グラウンドに行ってみようと思い、練習を眺めていたらラグビー愛が疼く。入部を決めた。
ただ、1年間の受験勉強は大きく体力を奪っていた。
「入試を終えた後、家の近くで弟とブロンコテスト(体力テストの一種)をやったのですが、本当に動けませんでした」
その弟・佳生(よしき)は現在、帝京大で主将を務めている。
失った体力を取り戻すべく臨んだものの、大学1年時は思うようなシーズンは過ごせなかった。入部してすぐに肩を手術。復帰したのは12月で、大学のフィジカルレベルへの対応に苦労した。
2年生になって試合出場機会を得るも、NO8には谷山隼大(現・埼玉パナソニックワイルドナイツ)もいたからベンチスタートが多かった。3年時はシーズン開幕から8番を背負ったものの、怪我で戦列を離れた。
そんな3年間を過ごして迎えた大学ラストシーズンだから、最高の日々にしたい。春から怪我なく過ごし、8番のジャージーを着続ける。そのポジションに自分がいる意味を考えながらプレーする。
「チームは日本一を掲げています。そのためにも例年以上に組織作りも含めて何もかも変えて取り組んでいます。いい選手も多い。目指しているものを絶対に獲りたい。そこに向けて一日一日を大事に過ごしたいと思います」
目指すターゲットに届くには、いくつもの壁を越えなければならない。今週末の早大。すでに倒した明大、慶大も、再戦があれば牙を剥いてくる。そして大学選手権4連覇中の帝京大。弟の率いる真紅のジャージーは、一人ひとりも組織としても強大。倒し甲斐がある。
弟とは「仲がいい」と言う。
「試合となれば切り替え、戦う相手としかとらえないと思いますが、正直、彼のプレーを見るのが好きなんです」
普段からたまに連絡を取り合う。他愛もない話が多いが、互いにラグビー愛が深い。
「なので対戦したら、試合後、その日のことについていろいろ話すと思います」

自身は高校時代に主将だったが、弟は違う。しかし、「(佳生は)帝京のように(ユース世代の)代表経験者が多くいて、ベースがしっかりしているチームで、リーダーとして力を出すタイプです。周囲の生活面などにも目を光らせ、なんでもやりたい僕とは全然違う」と、兄としての温かい目でライバルチームの先頭に立つ1歳下のリーダーを見つめる。
実は大学2年時の関東大学対抗戦で、ふたりは一緒にピッチに立っている。
先発でフル出場した兄に対し、弟は後半の最初から登場。桐生(群馬)でのその一戦は、73-0と帝京大の圧勝だった。
そんな一方的な内容でなくてもいい。兄としては全国大学選手権決勝で、1点でもいいから上回って目指す頂に立ちたいだろう。
弟だって。チームは4連覇中も、自分たちの代でも優勝したいし、黄金期を継続させたい。
両者、両チームとも、まずはその舞台に立つため、日々を大事に過ごす。