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【オールブラックス】SOはマッケンジー。ジョーダン50キャップ。TRC最終節でワラビーズに連勝なるか。ブレディスロー第2戦プレビュー
10番のジャージーを切るのはダミアン・マッケンジー。写真はRWC2023時。(撮影/松本かおり)

【オールブラックス】SOはマッケンジー。ジョーダン50キャップ。TRC最終節でワラビーズに連勝なるか。ブレディスロー第2戦プレビュー

松尾智規

 2025年度のザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)もいよいよ最終節を迎える。
 今年は例年以上に混戦模様だ。最終節を前にした順位は1位:南アフリカ(15P)、2位:ニュージーランド(14P)、3位:オーストラリア(11P)、4位:アルゼンチン(9P)。上位3チームに優勝の可能性が残されている。

 ニュージーランド(以下、NZ)代表オールブラックスが優勝するには、オーストラリア代表のワラビーズに勝利する事が絶対条件だ。そのうえで、南アフリカがアルゼンチンに敗れる必要がある。開催地がロンドンでニュートラルな状況に加え、大敗後のアルゼンチンの巻き返しも期待できることから、オールブラックスのTRC優勝の可能性には望みがある。
 前週のブレディスローカップ第1戦を振り返りつつ、2戦目の展望をまとめてみたい。

対ワラビーズ第2戦のオールブラックスのメンバー。All Blacksの公式Xより。


◆サプライズの国歌斉唱。ケイレブ・クラーク、親子の絆で奮い立つ


 9月27日、ブレディスローカップ初戦でオールブラックスはワラビーズに対し33-24で勝利した。その試合で最も注目を集めたのはWTBケイレブ・クラークの感動的な姿だった。
 昨年末の危険運転などの罪に問われていた影響で、スーパーラグビーでは迷いのあるプレーが続いていたクラークにとって、今年初のテストマッチはまさに「仕切り直し」の舞台だった。

 試合前の国歌斉唱では、マオリ語に続き英語版を歌いながら涙を流し始めた。そして、英語バージョンで「どこかで聞いたことのある声」に気づき、モニターを見上げると、そこには父エロニの姿が映っていた。その瞬間、涙は号泣に変わる。本人には知らされていなかったサプライズで、歌い終わったクラークは父の元へ駆け寄り、温かいハグを交わした。大役を終えた父は「おかえり。今度はお前の番だ。この瞬間を楽しんでこい」と声をかけた。

 この背景には、NZならではの「罪を償えば再びチャンスを与えられる文化」がある。セカンドチャンスを得たクラークは、開始4分でトライを挙げ、まるで台本通りのドラマのように展開に。その勢いを背にオールブラックスが序盤はトライを重ねた。

 前半を20-17で折り返した後半も苦戦する場面はあった。
 この危機を救ったのは、約2か月ぶりにテストマッチ復帰の正SHキャム・ロイガードだ。トライを奪うなど巧みなプレーで試合を決めた。33-24で勝利。これにより2003年から保持し続けるブレディスローカップを今年も守り抜いた。

 また新人WTBリロイ・カーター、CTBビリー・プロクター、途中出場のCTBクイン・トゥパエア、LOパトリック・トゥイプロトゥらの活躍もチームの明るい材料となった。
 一方のワラビーズも見せ場はあったが、ベテランSOジェームズ・オコーナーのタッチキックやキックオフでのミスが大きな痛手となった。

◆先発7人変更、キャプテン復帰。10番マッケンジー、ファインガアヌクは2年ぶり。


 10月2日の夕方、オールブラックスの指揮官のスコット・ロバートソンHCは、TRC最終節兼ブレディスローカップ第2戦(10月4日・パース)の対ワラビーズ戦に臨むメンバーを発表した。
 前戦で負傷したPRイーサン・デグルート(脳震盪)、PRタイレル・ロマックス(親指)、SOボーデン・バレット(肩)、WTBクラーク(足首)の欠場により、先発は7人の変更。その中には、NO8ピーター・ラカイ、SOダミアン・マッケンジー、WTBレスター・ファインガアヌクらの選出など、NZ国内のメディアの興味をそそるサプライズも含まれている。

5試合目のテストマッチ出場で初先発となるNO8ピーター・ラカイ(写真中央)。(撮影/松尾智規)

【フォワードの変更】
●プロップ陣:タマイティ・ウィリアムズ、フレッチャー・ニューウェル
 負傷のデグルート、ロマックスに代わり先発に昇格。HOコーディー・テイラーを加えクルセイダーズ勢によるフロントローを形成。
●ロック:スコット・バレット
 出場が微妙だったチームのキャプテンが復帰。トゥポウ・ヴァアイとコンビを組む。
●NO8:ピーター・ラカイ
 過去4試合はベンチスタートだったが、テストマッチで初先発の機会を得た。期待値は高いチャンスを活かせるか。ウォレス・シティティの控え降格はメディアを賑わせた。

【バックスの変更】
●10番:ダミアン・マッケンジー

 ボーデンの怪我により、再び司令塔を任される。前戦からの改善点として「キックを通じてゲームをコントロールしたい。FWを前に出すことが特に重要だと思う」と意気込む。年末遠征、さらには、来年のリッチー・モウンガ帰国を控え、アピールする大事な試合になる。
●CTB(13番):クイン・トゥパエア
 今季13番を任されたプロクターに代わり先発のチャンスを得た。ロバートソンHCは「毎試合ベンチからインパクトあるプレーを見せていたから、先発でのチャンスが必要だ」と評価。本来の12番ではなく13番でどこまで力を発揮できるか注目だ。
●WTB (11番):レスター・ファインガアヌク
 フランスから帰国後、初めてのテストマッチで2023年のW杯以来の代表復帰。ロバートソンHCが「NPC(NZ国内州代表選手権)で調子が良かった」と語ったように、持ち味のパワーを活かしたボールキャリーで印象に残るプレーをNPCで連発。2年ぶりのブラックジャージーに注目が集まる。

RWC2023時以来、久しぶりに選ばれたWTBレスター・ファインガアヌク。(撮影/松本かおり)


【ベンチ注目選手】
●LO:パトリック・トゥイプロトゥ
 新人LOファビアン・ホランドに代わって継続選出。前戦に続きフィジカルを期待。
●CTB/WTB:リーコ・イオアネ
 2試合メンバー外から復帰。WTB/CTB陣の競争激化により、正念場となる一戦。
●SO/FB:ルーベン・ラブ
 実力がありながらも出場機会に恵まれていない。将来に向けてラブの成長は欠かせない。SOとFBの両方のポジションで高い能力を見せる。後半からのインパクトに期待したい。

 なお、FBで先発のウィル・ジョーダンはこの試合で50キャップ目を迎える。

◆注目マッチアップ


●スコット・バレット × ウィル・スケルトン(LO対決)
 スコット・バレットは、信頼回復のために復帰戦で意地を見せたい。フランスから一時帰国したスケルトンがフィジカルバトルで存在感を見せるか。激しいバトル戦が予想される、見逃せない。

●ダミアン・マッケンジー ×タネ・ エドメッド 10番対決
 存在感を示したいマッケンジーは、昨年NZのNPCのノースハーバーでプレーしてオーストラリア代表に飛躍した若手エドメッド。両者の対決は非常に興味深く、ゲームの流れを左右するカギを握る。

対オールブラックス第2戦のワラビーズのメンバー。Wallabiesの公式Xより。

●クイン・トゥパエア ×ジョセフ・アウクソ・スアーリイ 13番対決
 絶好調のトゥパエアが13番のポジションで、ワラビーズの攻撃の柱であるアウクソ・スアーリイとの対戦が実現する。前戦不完全燃焼に終わったアウクソ・スアーリイが2戦目は大暴れするか⁉   
 
 オールブラックスのロバートソンHCは指揮2年目だが、昨年から一貫して勝利を重ねられているわけではない。北半球遠征前の最後の試合となるTRC最終戦で、良い形で勝利し2連勝で締めくくりたい。
 一方のワラビーズは、LOスケルトン、FL/NO8ロブ・ヴァレティニ の復帰を追い風に2020年ブリスベン以来(24-22)のオールブラックス戦勝利を狙う。

 ブレディスローカップの行方は決しているが、宿敵同士の戦いはいつも熱い。両国が激突する伝統の一戦、好ゲームに期待したい。


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