![同じ人間やで。NO8齊藤聖奈[サクラフィフティーン]](https://www.justrugby.jp/cms/wp-content/uploads/2025/07/KM3_2397_2.jpg)
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女子日本代表キャップ48は歴代最多。目前に迫る3度目のワールドカップ(以下、W杯)への出場が成れば、8月9日のイタリア戦(敵地でのW杯直前試合)を経て、50キャッパーとして大舞台へ挑むことになる。
レジェンドと呼ぶにふさわしい足跡を残してきた。
33歳になった齊藤聖奈(PEARLS)が7月26日に秩父宮ラグビー場でおこなわれるスペイン代表との第2テストマッチにNO8で先発する。
第1テストマッチ(7月19日/北九州/32-19)には途中出場。その試合は、2024年10月におこなわれたウェールズ代表戦以来のテストマッチだった。
3月の合宿中に左膝の半月板を痛めて手術。サクラフィフティーンが4月に敢行したアメリカ遠征には参加できなかった。
その期間、仲間たちは合宿と同国代表とのテストマッチ(史上初めての米国撃破!)を経て、大きく成長して帰国した。
その時のことを「帰ってきたみんなと久しぶりに会った時、すごく差がついたな、と思うくらい逞しくなっていました」と思い出す。
「なので、いま、その差を埋めようと必死になっています」

そう話したのが今回のメンバー発表の2日前。「次の試合ではプレータイムを(多めに)もらえたら」と言っていた。
「ゲーム感覚は個人で養えるものではなく、相手ありきなので。チームとのコネクション、自分がチームにフィットできているかどうかも大事です」
周囲とのコネクションを、より密にする時間は最後の最後まで続く。
受傷から1週間後に神戸のスペシャリストのもとで手術を受けた。復帰までに3か月と言われた。一瞬心が乱れるも、「なるようになる」と、ドーンと構えた。
レスリー・マッケンジー ヘッドコーチ(以下、HC)と復帰までの道筋を話し合うと「2か月で戻ってきてほしい」と指令が出た。
「たくさんの人のサポート」と努力を重ねてHCの意向通り、信じられない早さで仲間のもとへ戻った。
後半15分から出場したスペイン代表との第1テストマッチ。その時のスコアは13-12。後半19分には13-19と逆転された。
しかしサクラフィフティーンはラスト15分に3トライを重ね、勝利を得た。
「(ベンチから)ああいう熱気のあるとこに入っていくのは結構難しいんですけど、しっかり気持ち高めて、チームにコミットできたかな、と思います」
同じピッチに立つと、チームの成長がよく分かる。
「トライを取られてスコアされた時も、みんなすごく落ち着いていました。一人ひとりの役割もすごく明確で、話し合うこともできていた。チームに、『うわ、やばい』というところはありませんでした」
過去のW杯出場時のことを思い出す。
「(2017年の)最初のワールドカップ(の時)は25歳。キャプテンでしたが、お姉さんたちに助けられながら、本当に無我夢中で目の前のことで精一杯でした。2 回目の大会は少し余裕が出て、(33歳になった)今回、出られたらチーム最年長。仲間を下からしっかりプッシュしたい」と言う。
チーム全体に向けて声を出し続けるのではなく、「個人的に声をかけて(一人ひとりを)サポートする」スタイルで仲間を支える。
第1テストマッチでは、長田いろは主将の代わりにゲームキャプテンを務めた向來桜子を気にかけて動いた。
「前回のワールドカップを経験している選手も多いし、WXV(2023年、2024年と開催された女子国際大会)を乗り越えてきた選手もいるので、チームとしてはいい感じでワールドカップに臨めると思います」と手応えがある。

チームが組織として力を伸ばしているだけでなく、一人のプレーヤーとしての進化も著しい。
2024年にスーパーラグビー・アウピキ(ニュージーランド女子スーパーラグビー)をチーフス・マナウで経験した。
そこで得た体感によって、目が覚めたことがあった。そして、その感覚を後進たちに伝えた。
ラグビー王国のトップ選手たちと時間を共に過ごし、相手を必要以上に大きく見ることはないんだぞ、と若い選手たちにも知ってほしい。
「私も、最初にチーフスの練習に参加した時はブラックファーンズ(女子ニュージーランド代表)の選手が何人もいて、わーっ、となりました。最初はそうでも、オフ・ザ・フィールドの時間を共に過ごし、一緒に練習して、遠征に出かけると、自分たちと変わらんぞ、と気づいた。すごい選手たちだけど、タックルされたらこけるし、ミスもする。彼女たちも完璧じゃない。同じ人間やで、と分かりました」
「ブラックファーンズって世界トップで、みんな、ちょっと見上げるじゃないですか。でも、試合になったらフェア(な立場)なので、そういうふうに見る必要はない。私たちは、彼女たちの完璧ではないところを突いて、崩していけばいいんです」
初キャップは2012年。50キャップに迫るまで、足掛け14年の歳月を要した。ところが、例えば40キャップのSH津久井萌は2016年の年末にデビューと、自分よりはるかに早いペースで代表キャップを積み重ねている。
代表選手として駆け出しの頃、テストマッチは年に数試合しかなかった。
いまは毎年10試合前後のテストマッチがある。そんな環境の違いがあるから、選手たちは若くても経験値が高い。そして、「みんな本当に上手」と言う。
「それに負けないように、くらいついています」
底上げされるチームの歩みを喜ぶ。「みんな逞しくなってきた。リーダーもいっぱい出てきて、本当にチームを任せられるところまできている」と後輩たちを愛でる。
だから先頭で声を張り上げるより、「うしろからプッシュし、チームがもう一段階レベルアップできるようにプッシュしたいな、と思っています」。
3戦全敗に終わった前回W杯と変わらぬマッケンジーHC体制も、「やってきたことをより突き詰めて、 レベルをひとつ上げた感じはします。コリジョンも、レベルを上げた練習を突き詰めてやり続けています」と、歩んできた道を信じる。
モールも強くなった。
「(FWコーチのマーク)ベイクウェルさんは、本当に基礎的なことを練習で何度も何度も繰り返すんです。何回やんねん、っていうぐらい。全員で、同じ方向へ、低く、まっすぐ押すことだけを徹底する」

それでもW杯では、思い通りにトライラインを越えることは難しいだろう。もし押し切れず、ラックになったなら、この人の職人芸が輝く時。相手ゴール前での決定力の高さは、長い時間をかけて積み上げた知見に支えられたものだ。
ラックの両側、トライラインに並ぶ相手選手たちを観察する。ディフェンダーの目の動き、足元のスペースも見て、飛び込むスペースを決める。相手の目線がこちらから切れた瞬間、低く、鋭く出てトライを挙げるシーンが、これまで何回あったか。
歴代最多キャップについて、「皆さんからの質問や、記事にしていただいた時に、あ、そうなんや、と思い出すぐらいです。若い選手たちにすぐに追い越されますよ。(やがて)100キャップの選手が出ますよ」と笑い飛ばす。
将来についても、「ワールドカップが終わった時の気持ち次第」と目の前のことだけに集中する。
164センチ、72キロ。
赤白ジャージーの8番は、自分よりはるかに大きな相手と対峙しても、「同じ人間やで」と思う。
その強気が肩を組む仲間にも伝播すれば、秩父宮、イタリア、そしてイングランドから、サクラフィフティーンの躍動するニュースが届く可能性が高くなる。