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東芝ブレイブルーパス東京の苦戦が続いている。
3月15日におこなわれた東京サントリーサンゴリアスとの試合に21-60と敗れ5連敗。今季11戦を終えて5勝6敗となった。
一方のサンゴリアスは8トライを挙げる攻撃力を見せた。
試合を振り返っていこう。
◆東京サントリーサンゴリアスのラグビー様相。
〈構造的なアタックの活用とプレイメーカー〉
サンゴリアスは階層構造をうまく活用することができるチームだ。階層構造とは、いわゆる表のアタックラインと裏のアタックラインを作ることで、囮(おとり)となる選手と実際にアタックする選手を分ける構造のことを指す。
表のラインで相手を引きつけて裏のラインで振り切ったり、裏の選手に食いついた相手を裏切って浅いラインでアタックしたりする。
表のラインとしては9シェイプと呼ばれるラックからFWの選手がボールを受けるアタック手法や、10シェイプと呼ばれる司令塔となるSOのようなプレイメーカーの選手からFWの選手が受ける手法をバランスよく用いている。プレイメーカーである10番の髙本幹也自体がランナー型の司令塔なので、表と裏の構造を生かしながら、コネクションが切れたブレイブルーパスのディフェンスに対して刺さるようなランニングを見せていた。
それ以外にもサンゴリアスのアタックの多くが構造的な形をとっていた。階層構造を含む様々なパスオプションの多さ、練り上げられたランニングコースの多彩さでブレイブルーパスを圧倒していた。
これらのアタックを作るパスワークの過程で有効だったのが、ボールを受ける選手を飛ばし、外の選手へパスをする「ミスパス」と呼ばれるパスだ。ブレイブルーパスのディフェンスは一部の選手が突出する形になることが多く、ミスパスですれ違うようなシーンが多く見られた。
〈安定したセットピース〉
セットピースはラインアウトもスクラムも、攻守ともに安定感を見せていた。ラインアウトは背の高いLOが揃い、ジャンプのタイミングとスローの角度も合っている。ジャンプの頂点でボールを確保することができていたので、よほどのことがなければ競り負けない。
スクラムも安定しており、セットピースの基点として安心して活用することができる状態となっていた。スクラムが崩れることによるペナルティを宣告されることもあったが、試合全体を通じて、特にフロントローの選手たちが後半になって交代した後は支配的にセットピースを作っていた。
セットピースが安定するとサンゴリアスが練り上げてきた工夫されたアタックも効果を発揮するようになる。例えばラインアウトからは様々なコースで選手が走り込むような形をとっており、何人もの選手を囮に使いながらパスワークで相手を崩していた。一度ラックができたとしても、能動的に選手を動かしていくことによって相手のディフェンスラインのセットを乱すことができていた。

〈キック戦略〉
キック戦略では、レフティー、つまり利き足が左の選手がいることが大きい意味を持つ。サンゴリアスで当てはまるのは髙本が挙げられる。攻撃方向の左側のタッチラインに向かって安定してキックを蹴り出せる。右方向へはチェスリン・コルビ、左方向は髙本と分業することにより、どういったフローでも安定していた。
ボックスパントも好んで用いており、意図的に偏った位置にラックを作った後、SHの選手が蹴り上げる形をとっている。競り合う選手のオプションとしてハリー・ホッキングスを配置している。スピードこそ専門職のBKの選手に劣るものの、高さが圧倒的なので、キックの位置さえ調整できれば競り勝てる形となっていた。
また、全体の戦略としてインプレーを伸ばそうとする傾向が見られている。タッチ方向に蹴り出すことにあまりこだわらず、インフィールドに残すキックが多い。相手にタッチに蹴り出されたとしても、可能な範囲でクイックスローイン(ラインアウトを作らずにすぐ投げ入れる形)で素早くプレーを再開していた。
〈ディフェンスの質〉
サンゴリアスのディフェンスは、相手の強みとなるポッドアタックをしっかり前で止めることができていた。横方向の連携をキープしたまま前に出ることができているため、相手のポッドアタックのオプションを抑えることができていた。横方向の小さなパス、ティップオンパスと呼ばれる動きに対してもコネクションを切らさずに反応できており、ダブルタックル等でカバーしていた。
チョークタックルと呼ばれる、相手の上半身を抱え込む、前進を力ずくで止めようとするタックルはあまり見られなかった。基本的には相手の足に低くタックルする、チョップタックルと呼ばれるスキルをベースにディフェンスをしている。ポッドアタックのような前進の力が強いアタックに対し、素早く倒すことで無駄に粘られない形になっていた。
◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。
〈アタックの基本構造〉
ブレイブルーパスの肝となるのは、ポッドを使った前進とプレイメーカーの連携だ。リーグワンのチームの中でも10シェイプを好んで用いる傾向にあり、プレイメーカーがボールを散らすことで距離感をコントロールしながら接点を散らし、接点で前に出る。それにより、様々なタイプのランナーが揃うバックスラインを活用する。
ゴール前に迫ることができれば、ブレイブルーパスの攻撃力が発揮される。浅い接点、例えばピックゴーといった相撲の立ち合いのような状態であれば、ブレイブルーパスの選手たちが得意とする領域となる。グッと押し合うことによって徐々に前に出ることができていた。
しかしアタック全体を振り返ってみると、あまりうまくいっていなかったのではないか。サンゴリアスのディフェンスに多くのシーンで封じられ、ターンオーバーやペナルティでポゼッションが終わっていた。
ポッドを使ってのアタックでは、サンゴリアスのディフェンスが堅く、大きく前進できたシーンはそう多くない。低いタックルで素早く倒されてしまうので、接点を得意としている選手が多いのにもかかわらず、粘ることができていなかった。
ポッドを使ったアタックフローで前に出ることができないと、一つ前のラックに参加していた選手が戻らないといけない距離が長くなる。基本的には一定の深さがないとポッドに脅威が生まれないからだ。
しかし、移動距離が長くなってセットが遅れ、なかなかテンポが上がらない。それでいて無理にテンポを上げようとする動きも見られており、ミスにつながっていた。
〈ディフェンスの特徴と課題〉
ディフェンスには相当苦労しているような様子が見られた。60失点というのは敗戦が続く中でも、今シーズンの最多失点。課題となる、様々な要素があった。
ラック近くのディフェンスには不安定さが残っていた。ラックからの距離、スペーシングと呼ばれる距離感の調整が選手によってまちまちで、壁を作ることができていなかった。5メートルほどの幅に4人の選手が並んでいることもあった。

中盤ではサンゴリアスの、相手の接点をずらすようなアタックにディフェンダーが多く巻き込まれていた。結果、ディフェンスラインに戻るよりも早く、相手のアタックが進行する状態となっていた。
その不安定な状態で、選手たちが各々の判断で前に出ようとするので、より一層ディフェンスが合わなくなり、スペースが生まれる流れが見られた。
前に出る動き自体が、選手によって異なる強度で実行されていた。横のディフェンスとの連携が切れた状態でも個人の判断で前に出る選手がいるかと思えば、他の選手はカバーするため、やや引きながらスライドしたり、選手間でディフェンス戦略に波があった。
サンゴリアスがパスワークに工夫をしてくるため、ディフェンス側からすると、ノミネートが少しずれやすい傾向にある。その結果として、ブレイブルーパスのディフェンスの立ち位置が中途半端になることもあった。その状況下でジャム、裏の選手に大きく詰める動きをする選手が見られた。横との連携が取れていないので、詰めた選手とそれ以外の選手の間にギャップが生まれ、ディフェンスラインが安定しなかった。
〈キック戦略〉
キックオフを含めたキックには一定の戦略が見られていた。
例えばキックオフを蹴り込むシーン(図らずも多くの回数が見られることとなった)では、深く蹴り込むことで相手の蹴り返しを誘導し、裏に3人の選手を配置することでカウンターに注力する形をとっていた。ブレイブルーパスはカウンターにも強さがあるチームなので、当然の判断と言える。
ただ、キックカウンター自体はあまりうまくいかなかった。サンゴリアスのチェイスライン、キックを蹴り込んだ後のディフェンスラインが堅く、カウンターに強さのあるはずのブレイブルーパスは苦戦した。
自陣からのキックに対するチェイスラインは少し特殊な時があった。相手がキックカウンターでハーフラインを越えることができないような位置まで蹴り込めた時は、最前線で押し込むように追いかけるフロントラインと、相手のキックを警戒する裏のラインの間に、ミドルラインのような、中盤を固める形があった。
そのエリアにはSHやリーチ マイケルが配置された。おそらくハイボール系で中盤に蹴り込まれた時の対策と考えられる。ただ、すべてのキックに共通していたわけではなく、戦略的な動きなのか断言できない。
◆マッチスタッツを確認する。

それではまずマッチスタッツを確認していきたい。
印象的なのはテリトリーの数値だ。これまでも数パーセントの差であれば誤差の範囲内としてきたが、今回の試合ではサンゴリアスが42パーセント、ブレイブルーパスは58パーセントと、差は16パーセントと大きかった。ポゼッションの差の影響力よりもテリトリーの影響力は高い。サンゴリアスが長い距離を一気にブレイクするようなトライが多かったことが推測できる。
敵陣22メートルへの侵入回数は、最終的なスコアに準じた差となっていると言っていいだろう。サンゴリアスは13回の侵入回数に対して8つのトライ、ブレイブルーパスは7回の侵入に対して3回のトライを奪っている。トライ効率としてはサンゴリアスが20パーセントほど上回っており、サンゴリアスは敵陣22メートル内に入ったあとにペナルティゴールを選択した時もあった。総合的なスコア効率は、さらに良かったと言える。
キャリーの回数は、両チームともに控えめな数値となった(リーグ平均は120回ほどだ)。パスとの比率を見ると、サンゴリアスが平均値を大きく上回り、ブレイブルーパスが平均程度の数値だ。サンゴリアスは細かいパスを繰り返すことで相手を崩そうとする動きを見せていたので、その分、パス回数が増加したと想定できる。
ペナルティの回数は、ブレイブルーパスにとって弱点とも言えるだろうか。その回数はリーグでもトップ(ワースト)の数値となっている(10節終了時点で1試合平均13.2回)。
スクラム時に連続でペナルティを取られたり、なかなか自分たちの流れに持ち込むことができないこともあった。それが試合全体の流れにつながったかもしれない。
相手のペナルティゴールで点差を広げられたことも、心理面で影響した可能性はあるだろう。
◆プレイングネットワークを考察する。

次にサンゴリアスのネットワークをチェックしたい。
サンゴリアスのBKへの展開オプションは4人と、一般的な水準と呼べる。2人のチームもあれば6人というチームもあり、それに比べると普通の範囲内に収まる。パス比率としては、10番と13番にボールが集まっている。
10番の髙本に集まるのは当然だが、13番のギデオン・ランプリング、また交代で入った中村亮土は、比較的にボールをラックから直接受ける選手だ。自身でのキャリーにも強さがあるが、ボールを動かすことにも貢献していた。ボールを受けた後のオプションはそれぞれのバランスがよく、タスクの集中はなかった。
9シェイプや10シェイプといったポッドを使ったアタックは、バランスよく用いられている。回数も突出したものはない。プレイメーカーの影響が大きいチームのわりに10シェイプの回数が少ない。

最後にブレイブルーパスのデータで締めよう。
ブレイブルーパスのBKへの展開は、サンゴリアスのものと同様に4人の選手に対してボールが動いている。ただ、11番の豊島翔平へのフィードは偶発的なものだったので、おそらくキーになるのは10番のリッチー・モウンガ、13番のマイケル・コリンズ、15番の松永拓朗だったのではないか。
モウンガ、コリンズ(また交代で入った池永玄太郎)、松永のアタック時の選択肢には、どの選手もキック、パス、キャリーの展開がある。タスクが完全に分業しているわけではなく、司令塔と副司令塔のような形で、似たタスクを3つのポジションで分け合っているという見方ができる。
ポゼッションが相手を少し下回った影響もあり、9シェイプ、10シェイプとも、ポッドを使ったアタックの回数は少なかった。特に9シェイプから裏に立つ選手への下げるパスは前節から減少し、今回はなかった。意図的かどうかは分からないが、アタックのフォーマットに苦しんでいるような様子が見てとれる。
◆まとめ。
サンゴリアスとしては、会心の出来だったということができるだろう。ラインアウトモール、ゴール前での連続アタック、中盤からのブレイクなど、バリエーション豊かにトライへ結びつけることができた。
どんなシーンからでもトライが取れるのは、今後に向けての指標にもなる。攻撃力を高めていきながら、ディフェンスをさらに固めていけば上位陣に食らいついていけるだろう。
ブレイブルーパスは、なかなか敗戦を止めることができない。戦い方、「負け方」にも苦戦の色が見える。埼玉パナソニックワイルドナイツ戦(開幕戦)の衝撃的な敗戦から立て直したように見えたが、接戦を繰り返しながらも5連敗となっている。
昨シーズンまでうまくいっていたことが、なかなかうまくいかないようになってきている。チームの哲学を大きく変える必要はないが、後半戦も修正を練り上げていきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
