Keyword
3月14日、秩父宮ラグビー場で今シーズンのベストゲームにもなりうる好試合が行われた。前節を終えた時点でリーグワン、ディビジョン1の1位、クボタスピアーズ船橋・東京ベイと、同3位、埼玉パナソニックワイルドナイツの試合は、32-30のスコアでワイルドナイツが勝った。
上位のチームには、上位にいるだけの理由がある。そう思わせるような試合だった。
◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのラグビー様相。
※以後ポッドを「複数のFWによって構成される小集団」と定義する
〈スピアーズのアタックの基本構造〉
スピアーズのアタックの基本は、1-3-3-1と呼ばれる中央に3人ポッドを2つ、外側にFWをそれぞれ1人ずつ配置する形だ。中盤のFWが厚くなり、アタックに厚みをもたらすことができるフォーマットでもある。
このポッドの位置関係は、ラックに対してそこまで深さがない状態だった。少し浅めに立つことで走り込むエネルギーを使うことは難しくなるが、スピアーズのFWの選手は、誰しもが強い強度でのコンタクトをすることができる。走り込まない状況での接点でも相手を上回ることができていた。
またアタックの多くが、9シェイプと呼ばれる、SHからポッドがボールを受ける形を多くとっていた。タッチラインに近いエッジと呼ばれるエリアから9シェイプを2度当てて、最初にラックを作った選手がまっすぐ後方に下がることで逆目のオプションになることが多い。その逆目のアタックラインに対してBKの選手が振り子のように反対サイドから参加することでショートサイドに数的優位を作る形を好んでいた。
ラックでのサポートの選手の果たす役割も大きい。ラックができた時、サポートの選手はラック近くの中途半端な位置にいる相手ディフェンスをラックに巻き込むように押し込んでいる。この動きによってラック近くのディフェンスが薄くなり、ボールを直接持ち出すピックゴーと呼ばれる動きが効果的に働いていた。

〈キック戦略とアタックの課題〉
前半は相手の裏を狙うグラバーキックがいい効果を見せていた。前半に生まれた藤原忍のトライも、バーナード・フォーリーが裏に蹴り込んだボールに対して根塚洸雅が反応して生まれたラインブレイクから繋いだトライだった。ワイルドナイツの選手の反応もよく、毎回確保できていたわけではないが、キックオプションを見せることで外側のディフェンスの動きを抑え込んでいた。
ボックスキックの戦略はやや優位に立つことができていた。蹴り込んだ時、蹴り込まれた時の両方で安定したプレーを見せていた。しかし、試合を通じて見ると少し長いキックになることも多く、プレッシャーをかけ切ることができないくらいの距離になることも多かった。
スピアーズの見せるラグビーが悪かったわけではないが、いくつか相手に上回られたポイントをピックアップしたい。
9シェイプは比較的安定していたが、少しでも深さが過剰になるとワイルドナイツのディフェンスに差し込まれ、サポートが少し遅れたり、アタックのテンポが悪くなったりしていた。アタックラインも全体的に深く、ワイルドナイツにうまく対応されていた。
〈ディフェンスの特徴〉
ディフェンスは、32失点したものの徹底した堅さを見せていた。ディフェンスのベースは、相手の上半身を押さえ込む少し受け身とも取れるタックルだった。体が強い選手が多く、受け気味のタックルではあるが、抱えたまま相手を押し返すことができていた。
接点で前に出ることができるので相手のサポートメンバーよりも先にラックに仕掛けることができる。ターンオーバーやスティールを狙える状態にもつながった。
ディフェンスラインは相手の9シェイプの高さまで前に出てスライドするイメージだった。相手の囮(おとり)となる選手にそこまで注力せず、SHがラック近くをカバーすることでディフェンスラインの人数を担保し、外方向の数的不利を最低限に抑えていた。
ただ、いくつかワイルドナイツに突かれたウィークポイントのようなものも見られた。
まずはタッチラインの近く、エッジと呼ばれるエリアでのディフェンスだ。スピアーズのディフェンスラインのうち最も外側にいる選手は、相手の展開に合わせて前に詰める傾向にある。相手のハンドリングがうまく回っている時は大外で前に出られており、裏に位置していたディフェンスをやや苦手としているフォーリーが、外で相手の好ランナーと勝負せざるを得なかった。
また、ラックに積極的に仕掛ける傾向によって、ディフェンスの連携が切れる時もある。ラック近くのディフェンスのベースとなるシステムは、そのエリアをSHがカバーすることが多いが、スピアーズのSHは相手SHの動き出しに対し、レシーバーになりうる選手へ激しくプレッシャーをかける。相手SHの動きによって足が止まったラック近くの味方ディフェンスと、(レシーバーへ向かう)SHの間にスペースが生まれていた。
◆埼玉パナソニックワイルドナイツのラグビー様相。
〈ワイルドナイツのアタックの特徴と戦略〉
ワイルドナイツの肝となるアタックシステムは、FWの選手2人にBKの選手1人を組み込んだ3人ポッドを使った振り子の動きで、ポッドのうちインサイドに位置しているBKの選手が裏から回り込むようにアタックオプションになる。ティップオンと呼ばれるボールを1つ隣りの選手に小さいパスで繋ぐ戦略と合わせ、いわゆる「表と裏」の関係性を作っていた。
また、全体的に好んで用いられたのが「スイング」と呼ばれる動きだ。スイングとはここまで触れてきた動きのうち「振り子のように裏に回り込む動き」のことを意味する。
この動きを長短使い分けることで、位置的に相手を上回ったり、あと出しでアタックラインの人数を増やすことができる。SOのような主要なプレイメーカー以外の選手もスイングしてくるので、どの位置からでもアタックラインの拡張をすることができていた。
〈キックを使った戦略性と上手さ〉
前半は相手キックに押し込まれるシーンもありながら、全体的には互角の戦いを見せることができた。代表例となるのが前半9分過ぎに生まれた竹山晃暉の50/22キックだ。狙って蹴り込むことができる選手なので、それ以外のケースも含めて、キックを使ったエリアコントロールの計算がしやすかった。大きな戦力となった。
またキックシーンで忘れてはいけないのが、前半に生まれた竹山のトライへの一連の流れだ。スピアーズがタッチに出たボールをクイックで投げ込んだ後のキックを受けてからのカウンターで攻め切った。
このシーンではスピアーズの選手が「キックを蹴り込まれる」、「クイックでスタートする」といった2段階の崩れた状況でディフェンスが整っておらず、山沢拓也の短いキックでスピアーズを完全に崩すことに繋がった。


〈最終盤のアタックの持つ意味〉
そして最終盤に生まれた、4分弱続いたワイルドナイツのポゼッション(最後の攻撃)が勝負を決めた。
37のフェイズを重ね、大きなミスもなく長い時間アタックし続けることができた。第9節にコベルコ神戸スティーラーズに負けたところからの立て直しが、うまくいっていることを意味するのではないだろうか。
37フェイズのキャリーのすべての、効率が良かったわけではない。少しパスが乱れたり、相手のタックルを受けて押し返されたりもした。ただ、それでもワイルドナイツのアタックは崩れない。ペナルティでポゼッションが切れることもなかったので、高い集中力をキープしていたと分かる。スティーラーズ戦を含めた前半戦に苦戦を重ねることもあった時期のチームだったら、ここまで集中力高くアタックはできていなかったかもしれない。
〈ディフェンスの特徴〉
スピアーズが使うスイングと呼ばれる動きについては、あまり後手に回らずにディフェンスすることができていた。ただ、数的優位自体はカバーできていたが、位置的・質的に少し抑えきれなかった様相もある。
一方でスピアーズは、構造的なアタックをしてきた時は裏のオプションを使うことが多い。それに対しワイルドナイツの選手は囮(おとり)の選手をすり抜ける動きをする優先度を上げ、数的不利を作られにくくしていた。
接点では、試合を通じて苦戦傾向が見られた。相手の強いキャリアーに押し込まれ、中盤からでもじわじわと前進を許していた。この点に関しては修正が必要かもしれない。
一方で、相手の展開形のアタックの時は安定して抑えることができていた。ある程度前に出てから、ディフェンスラインの高さを変えずに流しながらディフェンス。その動きで展開時の前進を抑えていた。
苦戦した状況には、ラック間際の攻防も上げられる。そのエリアの動きではスピアーズが一枚上手だった。相手のサポートの選手に近くのディフェンスが巻き込まれることでラック周辺にスペースが生まれた。また、少しずつゲインを許すことでディフェンスの整備も遅れた。前半24分の藤原のトライが顕著な例だろう。
◆マッチスタッツを確認する。

それではマッチスタッツを見ていきたい。
ポゼッションとテリトリーはほぼ互角だ。テリトリーに数パーセントの違いはあるが、この程度なら差はないと言える。お互いにキックを中心に据えた戦い方をしながら、良いエリアの取り方を互いに繰り返して均等な数値になった。敵陣22メートルライン内への侵入回数もそう違いはない。まさに互角の戦いだ。
キャリーとパスの比率は、スピアーズがキャリーへ大きく偏り、ワイルドナイツもややキャリーに偏っているような数値を示した。今回の試合はFWの集団による形が多く起きることとなり、パス回数が相対的に減少したと考えられる。激しい肉弾戦の様相を示す結果となった。
ターンオーバーをされた回数自体はワイルドナイツが多かった。ターンオーバーを相手から奪った回数はスピアーズが上回っており、一般的な傾向としてはスピアーズが勝ち筋を得た試合だった。相手のポゼッションを奪い、相手にポゼッションを与えないという点で、ターンオーバーによる影響は小さくなかったが、ワイルドナイツは終盤にかけて精度を上げた。
タックル成功率はほぼ同率だ。平均より少し良い数値を示し、試合のレベルの高さを示した。その分、小さな綻びがスコアにつながったと言えるだろう。競り合う展開を呼ぶ要素となった。
◆プレイングネットワークを考察する。

まずはスピアーズのプレイングネットワークを確認する。
ご覧の通り、BKの選手の多くはラックから直接ボールを受けることはない。10番のフォーリー、15番のショーン・スティーブンソンにボールが渡るようになっている。これはタスクの完全な分離が予想できる。
スピアーズはもともと多く(の選手に)投げ分けるチームではないが、今回のような様相からは、それを徹底している様子が伝わる。11番のハラトア・ヴァイレアのような直接ボールを受けても効果的なプレーを見せる選手もいるが、今回の試合でそういうシーンはなかった。
BKへの投げ分けと同じく徹底していたのが、9シェイプを使ったキャリーだ。10シェイプが3回なのに対し、9シェイプは56回のパスが通っている。試合を見ていれば分かるように、スピアーズの柱となるのはFWのコンタクトによる接点の圧力。それが最も強いカードと言える。
示した数値は、相手を上回ることができる強いカード、手段を切り続けたことを示す。分かってはいても止められないところに近年のスピアーズの強さが表れていた。

ワイルドナイツに対してもチェックしていきたい。
図を見て分かるのは、スピアーズの対極にあると言ってもいい、全手段のバランスだ。9シェイプは最終盤の連続アタックを経て増加傾向にはあったが、その前までは非常にバランスよくアタックをしていた。
BKへの展開は、ポジションによるタッチ回数の違いはあれど、多くの選択肢をとっている。キーになっているのは10番の山沢拓、12番のダミアン・デアレンデだ。主たるプレイメーカーは山沢だが、デアレンデはテンポを上げた時の補助的な役割を果たしつつ、キャリアーとしての力も発揮していた。
◆まとめ。
スピアーズは、アタックでもディフェンスでも徹底していた。アタックでは9シェイプという強いカードを出し続けることでどのようなシーンでも前進し、ディフェンスではリーグトップ水準の接点の強さで相手のリズムを崩していた。
決して何か致命的にスピアーズのラグビーが悪かったわけではない。ただ、ほんの少しの綻びが勝敗に繋がるのが上位同士の試合だ。修正点はそう多くはない。
ワイルドナイツは、さまざまな工夫、カードを切るような試合運びを見せた。強いカードを徹底的に使うスピアーズとは対照的に多くの戦術を用いて相手を崩そうとしていた。
そしてハイライトとなったのは最終盤の、逆転に繋がった37フェイズのアタックだ。私はあのシーンに、ワイルドナイツの立て直す強さを感じた。リーグ戦前半戦とは少し違う試合をしていくことができるだろう。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
