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【リーグワンをアナリストの視点で分析する】東芝ブレイブルーパス東京×リコーブラックラムズ東京】要所で得点を重ねたブラックラムズ、王者を破る。
相手のテンポを遅らせ、自チームを前に出すブラックラムズの SH、TJ・ペレナラ。(撮影/松本かおり)

【リーグワンをアナリストの視点で分析する】東芝ブレイブルーパス東京×リコーブラックラムズ東京】要所で得点を重ねたブラックラムズ、王者を破る。

今本貴士

 前年王者の苦しい戦いが続いている。
 2月28日に行われた鹿児島での一戦で、東芝ブレイブルーパス東京はリコーブラックラムズ東京に14-33のスコアで敗れた。

 勝ったブラックラムズは、3トライを挙げ、すべてのコンバージョンキックに成功。さらに4PGを加えての快勝だった。

 要所でのプレー精度や判断が勝敗を分けた試合を振り返っていきたい。

◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。


〈基本構造とシェイプの運用〉
 ブレイブルーパスのアタックのうち強度が高いのは、9シェイプやCTB陣にダイレクトにキャリーをさせるフラットなアタックだ。FW中心の集団を指すポッドの配置でいうと、中央に3人のポッドを2つ、または3人のポッドと2人のポッドを組み合わせたような配置をしている。

 今シーズン特に好んで用いられているのは10シェイプ、つまりプレイメーカーであるリッチー・モウンガや松永拓朗からボールを受けるポッドだ。プレイメーカーが起点となることが多いブレイブルーパスのラグビーにおいては、非常に重要なウェイトを持っている。

 しかし、この10シェイプが高い確度で効果的なアタックにつながっていたとは言いづらい。タッチラインからの折り返しで10シェイプを使う時など両サイドにアタックオプションを作りたい状況において、ブラックラムズは高い強度でプレッシャーをかけていた。

 その結果、10シェイプは位置的に下げられることが多かった。10シェイプが下げられることによって直前のラックに参加していた選手が戻る距離が長くなり、時間がかかってアタックのテンポが出ないシーンが見られた。また、結果的にアタックラインが浅くなることでオプションを使いづらくなったり、戻ろうとする選手とパスが合わずにミスが生まれたりしていた。

〈エッジへの展開と打開〉
 エッジへ大きく動かすシーンでは比較的前に出ることができていた。中盤にパススキルの高い選手が揃っているので、浅い位置でプレッシャーを受けても外まで展開することができる。ブラックラムズはエッジにいる選手まである程度前に出てくるので、外まで回すことができれば前に出ることは担保されていた。

 ただ、停滞してくると打開がうまくいかない。一度前に出始めれば前進を続けることができるが、リズムが落ちるとアタックラインの脅威度が下がってくる。停滞してくるとフェイズをただ重ねることになり、パスミスが生まれるケースがあった。

10番のリッチー・モウンガとともにブレイブルーパスに勢いを与えるFB松永拓朗。(撮影/松本かおり)


 アタックライン自体も、相手のプレッシャーを受けてどんどん下げられていた。位置として大きく後退させられているわけではないが、下がったところからアタックしようとしてラインが浅くなり、攻撃オプションが減らされていた。また、アタックラインの深さを保とうとすると、時間がかかってテンポが上がらない。悪循環に陥っていた。

 また、プレッシャーを受けることでオフロードパスも乱れ、本来生まれるカオスをコントロールすることができなかった。誰がキャリーするか、誰がサポートに入るか、どこでキャリーするかなどがブレるため、場が安定していなかった。

〈ディフェンスシーン〉
 ディフェンス戦略・様相にはいくつかのブレが見られた。
 ノミネートは極端に外れているわけではないが、誰に詰めるか、どれくらい詰めるかの点でズレが起きていた。その結果、相手の小さなパスで崩されたり、一気にブレイクされたりしていた。特にキャリアーに対して外側の選手が、自分がノミネートしている選手へ詰める傾向が強く、ギャップが生まれていた。

 そういった小さい綻びを、相手の細かいパスによって崩されるシーンも目立った。ギャップでブレイクされなかったとしても、その過程でアタックに巻き込まれる選手が増え、ディフェンスラインが薄くなってしまっていた。巻き込まれた選手が勤勉に戻りきれないシーンもあり、数的不利を解消することができなかった。

 ディフェンスを個別に見ていくと、うまくハマっている状況も見られていた。特にリーチ マイケルのディフェンスは精度が高く、プレイメーカーにプレッシャーをかけることで相手のミスを誘い、ターンオーバーを誘発していた。

 それ以外の選手のブレイクダウンへのプレッシャーも質が高く、スティールを狙うこともできれば相手の球出しを遅らせることもできていた。シンプルな9シェイプに対してはプレッシャーをかけることができており、接点自体が脆いわけでもないので、接点の勝負に限れば互角かそれ以上に戦うことができている。

◆リコーブラックラムズ東京のラグビー様相。


〈アタック様相〉
 ブラックラムズのアタックのキーになるのはSHのTJ・ペレナラだ。自陣からの脱出のキックを含むキック戦略の中核を担っており、インフィールドに残すキックも、外へ蹴り出すキックも精度が高く、ある程度テリトリーを返すことができている。
 また、攻撃方向を選択する際の意思決定にも絡んでおり、SOの中楠一期よりも主導権が強いようにも見えた。

 アタックにおける効果量としては、ティップオンのような短いパスがハマっていた。ブレイブルーパスのディフェンスラインが詰める選手と引く選手でギャップが生まれており、そのギャップをうまく突くことができた。その過程で前に出ることで相手の選手をラック付近に巻き込むことができており、ディフェンスラインの人数を減らしてアタックを効率化させていた。

 ラインブレイクに対する出口、最終的な結果に関してはあまり良くない時もあった。タッチラインに近いエッジと呼ばれるようなエリアではある程度ラインブレイクを作ることができていた。しかし、トライに至りそうな最後のプレーでミスが出たり、相手にうまくカバーされてポゼッションが切れていた。
 この領域で精度を上げることができれば、もう少しスコアに繋がったかもしれない。

正確なプレースキックでチームを勝利に導いたブラックラムズの司令塔、中楠一期。(撮影/松本かおり)


〈ディフェンスの特徴〉
 ベースとなるのは相手のアタックラインに強くプレッシャーをかけるシステムだ。南アフリカをはじめとするいくつかの国が導入している相手に激しく詰めるブリッツディフェンスと呼ばれるシステムほどではないが、ブレイブルーパスのパスが2回か3回繋がる過程の中でかなり前に出ていた。

 ブレイブルーパスはプレイメーカー起点でのアタックが多く、プレイメーカーからのパスに対してプレッシャーをかけることができればテリトリーを上げることができる。トライにはならなかったが、 PJ・ラトゥがインゴールまで駆け抜けたシーンでは、メイン平のモウンガへのプレッシャーが相手のミスにつながっていた。

 基本的には強いプレッシャーをかけるディフェンスシステムだが、しっかりうしろに戻る動きまでコントロールされているので、エッジで前に出られても致命傷には至らない。ある程度ゲインはされるが、中盤でフェイズを重ねさせることができているので、相手のミスを能動的に作ることができていた。

 一方で、ディフェンスの中ではブレイブルーパスと同様の事象が起きている。より前に出る選手と引き気味の選手の間にギャップが生まれ、そのスペースを突かれる形だ。強いプレッシャーをかけることがベースになっているので、ゲインは抑えられているが外方向への脆さはある。
 また、前半に奪われたトライの形として、相手のパスをカットするような動きも込みで前に出ているので、頭の上を越されると完全にディフェンスが崩れていた。

◆マッチスタッツを確認する。



 それではマッチスタッツを確認していきたい。

 テリトリーとポゼッションはブラックラムズが支配的だ。50パーセントから数えて5パーセント以内の差であれば中立的な数値であると考えているが、その幅を超えてくると試合展開にも影響を与えうる。
 ブラックラムズはキックの回数も多く、テリトリーをうまくコントロールしながらエリアを確保することができていた。ターンオーバーからペレナラが素早く相手後方のエリアにボックスキックで蹴り込んだり、裏のスペースをうまく突くようなキック戦略を見せていた。

 実は、敵陣22メートルラインよりも内側に侵入した後のスコア効率(=侵入回数1回によって獲得した平均得点)自体はブレイブルーパスが上回っている。ブレイブルーパスが6回の侵入に対して平均2.3得点、ブラックラムズは14回の侵入回数に対して平均1.7得点だった。
 しかし、ブラックラムズは敵陣深くに入ることなくペナルティゴールでスコアを重ねた。トライ数は1つの差だったが、ペナルティゴールの差で大きな違いが生まれた。

 キャリーとパスの比率は両チームとも平均値よりも大きい数値を示している。その上で、ブレイブルーパスの方がより多くのパスを使ってボールを動かそうとしていた。
 ブレイブルーパスは、オフロードパスも多かった。キャリーで接点を作った後に後方の選手にパスを繋ぎ、どうにか展開しようとしていた。

 しかし、ブレイブルーパスのこのオフロードパスがうまく運用できていたとは言い難い。昨シーズンまでと違い、相手のプレッシャーを受けながら、プレッシャーから逃げるようにパスをしているので、パス回数に対して前に出ることができる回数が多くなかった。

 ブレイブルーパスとしてはターンオーバーロストの回数も気になるところだ。ブラックラムズも同程度の回数を示しているが、ブレイブルーパスの方が少し痛いタイミングでのミスが目立った。
 例えば敵陣深い位置でのアタックであったり、リズムを出していきたいところでのミスだったり、流れを切ってしまうようなミスが多かった。攻めたプレーをした結果によるミスというよりも、個々人のミスによるところが大きかった。

 また、ブレイブルーパスの敗因として最も大きかった要素は、18回にもなったペナルティの多さだろう。ブラックラムズの7回と比べても、際立った数値となっている。ブラックラムズの33得点のうち、12得点はペナルティゴールによるものだ。
 もしその分の得点がなければ、得点差は7点(14-21)にすることができた。それくらいの点差に抑えられていれば、チームとしての戦略や心境を極端に乱すことなく点差を詰めることができたかもしれない。

◆プレイングネットワークを考察する。


〈ブレイブルーパスのネットワーク〉



 まずブレイブルーパスのネットワークを確認しよう。

 ブレイブルーパスの基本的な傾向からは外れていない。10シェイプを用いている回数が多く、9シェイプはあまり多くない。ただ、今回の試合ではポゼッション自体が相手に大きく上回られた。各ポッドを用いる回数もそれに合わせて減少し、今回のような数値となったと考えられる。

 ピックアップしたい情報としてはボックスキックが少なかったことが挙げられるだろうか。直近の数試合でも、そこまで蹴り込んでいたようには思えない。ボックスキックからの再獲得を狙うような戦術が浸透してきた流れの中で、少し違う様相を示している。

 BKの選手が蹴り込むキックもあまり多くなく、その中ではテリトリーを取ろうとするロングキックが主流だった。ハイボールの再獲得を主体としたキック戦略の優先度を下げているのかもしれない。

 アタックラインの柱となるのは、モウンガと松永だ。ラックからボールを受ける回数も多く、アタックで展開する時の中核になっている。モウンガがキャリーしたタイミングやテンポを上げていきたいところで、松永がボールを受ける形になっている。

 ただ、9シェイプからの下げるパス、いわゆるスイベルパスと呼ばれるパスは多くなかった。これまでの傾向とあまり変わらないが、普段より9シェイプにボールが渡る回数自体が減少しているため、割合的にはやや増加しているかもしれない。

〈ブラックラムズのネットワーク〉



 最後にブラックラムズのネットワークをチェックしよう。

 まずはボックスキックの多さが目立つ。ペレナラからのキックが多く、テリトリーを取るようなキックも、再獲得を狙うようなキックも、多く用いていた。特に再獲得を狙うようなキックは距離感の調整がハマっており、相手にプレッシャーをかけながら再獲得したり、相手のミスを誘ったりすることができていた。

 ポッドの配分としては9シェイプが多くなっている。10シェイプの比率が高いブレイブルーパスとは対照的な形だ。ポゼッションを支配的に進めたこともあり、回数自体がかなり多かった。

 質的な感覚と組み合わせるとしたら、9シェイプでのアタックは可もなく不可もなく、といったところか。効果的なキャリーが多かったわけではないが、ある程度の前進にも貢献していた。ベースとなるアタック選択としては及第点だろう。

 BKの選手たちへのボール配分としては、10番の中楠へのパスが増えている。15番のアイザック・ルーカスへの配分もあるが、プレイメーカー2人というよりは、ルーカスをアタックのカードとして捉えている可能性が高い。

◆まとめ。


 ブレイブルーパスはプレイメーカーを起点に苦戦している状況を打開しようと動いたが、ミスやペナルティが重なり、ポゼッションもテリトリーも支配されることになった。18回のペナルティでは、どれだけいいラグビーをしようと勝利を掴むことは難しい。
 連敗が続いている。修正が急がれるが、1日、2日で解決するものではない。バイウィークを挟んで立て直していきたい。

 ブラックラムズは、トライを取り切れないシーンも目立ったが、相手のペナルティの多さに乗じた得点機にPGでスコアを重ね、勝利を収めた。
 考えるべきはペナルティゴールでスコアを重ねられないような試合展開の時、どうやってトライを取るフローを構築していくかだ。さらに練り上げていきたい。


【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。





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