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なんと60回目。津軽雪上ラグビー大会に咲いた笑顔いろいろ。
2025年を最後に引退した小出深冬さんが日本代表の片鱗を笑顔で見せる。(撮影/松本かおり)

なんと60回目。津軽雪上ラグビー大会に咲いた笑顔いろいろ。

田村一博

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 マイナス5度ぐらいの寒さも天気が良くて、日が当たる場所は快適だった。2月8日の弘前は穏やかだった。
 大雪に見舞われる青森県。それは津軽地方のりんごと桜で知られる街も例外ではなく、この冬は平年の何倍もの降雪と積雪だったそうだ。

 しかし、津軽雪上ラグビー大会が開催された日は、天候に恵まれた。60回という節目の年を祝うかのような青空とふかふかの雪が積もったグラウンド。会場となった弘前市運動公園多目的広場では朝から午後まで、多くの人たちが楕円球と戯れる光景が見られた。

遠路駆けつけ、楽しんだ「Brave Louve」(右)。リフトされているのはRWC2025イングランド大会の女子日本代表メンバー、安藤菜緒(撮影/松本かおり)
キックしたボールと長靴が一緒に飛んでいく。女子日本代表キャップ22を持つ左高裕佳(撮影/松本かおり)


 今回の大会には、ラグビースクール、U15チーム、女子チーム、男子チームのカテゴリーで全9チームが参加した。
 女子には東京から『Brave Louve』が参加し、新旧日本代表選手の姿も見られた。

 男子レジェンド選手枠で本城和彦さん(日本代表10キャップ)、松尾勝博さん(同23キャップ)、伊藤剛臣さん(同62キャップ)が雪の上に立ち、2025年を最後に引退した小出深冬さん(女子セブンズ日本代表23キャップ/リオ五輪、東京五輪出場)、現役女子日本代表の松田凜日さん(15人制女子日本代表14キャップ、女子セブンズ日本代表6キャップ/パリ五輪出場)もプレーした。

 雪の要素が選手のキャリアの差や、スピード、体格差をなくしてくれるのが、このイベントのいちばんの魅力だ。長靴(ながけり)を履くことで、運動能力の高い人とそうでもない人の格差も縮まる。
 また、雪の上なら転んでも痛くない。結果、多くの人が楽しめる。

 大会前日から現地を訪れ、夜の時間もプレーも楽しんだ松田は、弘前にいる間、ずっと笑顔だった。「楽しい」、「おいしい」の言葉が何度口から出たか。

終始笑顔だった松田凜日。(撮影/松本かおり)


 松田はすべてのプレーを終えた後、「最高に楽しかったです」と言った。
「もう、なんだろう……雪に埋もれながら走るのが、新感覚すぎて、癖になるというか……なんか、倒れても痛くないし、うん、新しい感覚でした」

 父・努さん(日本代表43キャップ)も以前この大会に参加したことがある。しかし、特に弘前で過ごした時間について具体的な話をしたことはなかった。
「お土産を持って帰ってきてくれたりしていたので、雪上(大会)に行ってきたんだな、っていう認識はしていたんですが、まさかこんなに楽しいものに参加していたとは」と話して表情を崩した。

 松田自身、弘前訪問は2回目。日体大の3年生の時、太陽生命ウィメンズセブンズシリーズが当地でおこなわれた。その大会に参加した。「だから、冬に来たのは初めてなんです」。
 濃密な時間を過ごし、「もうご飯も美味しくて、人も優しい。青森、大好きになりました」。

 弘前大学医学部ラグビー部、弘前大学医学部OB、弘前大学全学ラグビー部、弘前サクラオーバルズの4チームが参加した男子の部の決勝は医学部OBと弘前サクラオーバルズ
の間で優勝が争われ、19-12と勝利した医学部OBが優勝した。

優勝した弘前大学医学部OB。(撮影/松本かおり)
かつてのトッププレーヤーも雪の上では悪戦苦闘。写真右上は三上匠さん。写真左下は本城和彦さん。写真右下は松尾勝博さん。(撮影/松本かおり)


 チームのキャプテンを務めた熊谷玄太郎さんは、弘前大学病院に整形外科医として勤務している49歳。岩手の盛岡一高出身で、高校時代までは雪の少ない場所で育った。
 大学進学後、深い雪と雪上大会に出会って30年。毎年のように、この大会に出場しているそうだ。

 勝因について、「OBたちは普段はあまり動いていませんが、きょうはちゃんと頑張って走りました。作戦もうまくいってよかった」。集中力高くプレーし、少ないチャンスを得点に結びつけていた。

 レジェンドと呼ばれる選手と対戦できたのも「いい思い出になりました」と目を細めた。
「伊藤さんはやっぱり強い。滅多にない機会です」
 埼玉パナソニックワイルドナイツでプレーしていた192センチの三上匠さんの存在も、「フィジカルが強かった」と印象に残った。

まだまだ元気。雪上大会歴は「数えきれない」渡辺志保子さん。(撮影/松本かおり)


 子どもたちも大人も、男女を問わず、誰もが雪とラグビー、そして仲間とつながり、笑い合う時間を過ごした一日。その中に、15人制女子日本代表キャップNo.10の渡辺志保子さんの姿があった。

 小柄な体が雪の上に倒れてもすぐにピョンと立ち上がり、すぐにボールを追い、動き続けていた渡辺さん。65歳になったいまも、県内の女子ラグビーや子どもたちにこのスポーツの魅力を伝える活動を続けている。日頃からトレーニングを続けている成果が随所に見られた。

「この大会には、もう何回出たか分かりません」と笑いながら言った。
「やっぱりラグビーは、試合は楽しいですね。同年代と一緒にやれたらもっと楽しいと思うんですが、なかなかねえ」
 弘前は、温泉もあれば食べ物もうまい。そして雪上ラグビー大会もある。61回大会は、同窓会を兼ねてみんなで集まりましょうよ。

 雪の深みに足を取られて転んだ動きにディフェンダーが気を取られている間にトライが取れたとか、キックと一緒に長靴が飛んだなど、そんな話をしながら笑い合える時間もいい。
 春になって雪どけの時が来ても、みんなで笑い転げた記憶はなくならない。だから長い歴史が積み重ねられている。

子どもたちはこの先、この大会に何回出るのだろう。(撮影/松本かおり)
寒くても楽しすぎる一日。(撮影/松本かおり)




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