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前年度王者に、今季2度目の土がついた。
開幕節で埼玉パナソニックワイルドナイツに敗れて以降、復調の兆しを見せていた東芝ブレイブルーパス東京が、下位に沈んでいた三重ホンダヒートに敗れる結果となった。
2月7日。戦いの舞台は、ヒートが来季からホストタウンとする宇都宮(栃木)だった。
スコアは44-38。この試合を、分析的に見ていこう。
◆三重ホンダヒートのラグビー様相。
〈アタックの基本構造と特別なフロー〉
三重ヒートの基本的なアタック構造はそこまで複雑なものではない。9シェイプをベースに、そのままFWの集団でキャリーをするか、9シェイプから裏のアタックラインに展開する形だ。どのチームも基本的な構造として取り入れている。そこまで特別なものではない。
ただ、そういった基本的な土台の中で輝いたのが、工夫を凝らした特殊なプレーだ。トリックプレーと呼んでもいい。いくつかのシーンでそういったプレーが見られた。
まず、1つ目のトライにつながったラインアウトからのワンプレーだ。ここではラインアウトにSOダーウィッド・ケラーマンを入れたり特殊な配置で挑み、モールの組み方にも一工夫を加えた。結果、トライまで持ち込んだ。
2つ目のプレーはその直後のキックオフレシーブにおける一連の動きをピックアップしたい。本来であればキックオフを受けた側はそのまま近くでキャリーをしてラックを作り、タッチに蹴り出すキックに繋げるケースが多い。
しかし、このシーンではキックオフを受けたCTB岡野喬吾の横でNO8パブロ・マテーラがボールを受けるそぶりを見せておいて、岡野に対して交差するように走ったFBレメキ ロマノ ラヴァがボールを受け、大きくブレイクした。
トリックプレーは警戒されるとなかなか決まり辛くなることも多い。しかしヒートは序盤という大事な時間に、初見では対応が難しいプレーを実行することによって、上位チーム相手に大きなリードを奪う足掛かりを作った。
〈全体的な戦略性〉
ヒートは、それ以外にも戦略的に試合を動かそうとする動きを見せていた。ピックアップしたいのはキックオフシーンとスコアシーンだ。
キックオフは、基本的にはレメキが蹴り込んでいる(交代後はマヌ・ヴニポラ)。レメキはセブンズの代表経験もありキックオフの質が非常に高い。15人制日本代表や過去の所属チームでも質の高いキックオフを見せていた。

そのレメキが蹴り込むのがタッチラインの近く、5メートルほどのエリアを狙ったピンポイントのキックオフだ。この試合ではキックオフをチェイスする選手もしっかりと追いつくことができていた。キックオフを受けた相手選手を、そのままタッチに押し出すこともできていた。
スコアシーンに関しては、要所で挟んだペナルティゴールの影響が大きい。必ずしも狙いやすい位置でペナルティゴールを狙っていたわけではないが、最終的なスコア差は6点、ちょうどペナルティゴール2回分の違いとなった。
〈ディフェンスシーン〉
今回の試合でのヒートは、非常にディフェンスの質が高かった。いわゆるブリッツディフェンスと呼ばれるような極端な詰め方をするわけではないが、しっかりと前に出て相手にプレッシャーをかけることができていた。
特に、相手の10番やプレイメーカーからのパスコースを切るように、アタックラインに対してかぶるようなディフェンスが効果的だった。ブレイブルーパスは第1節でも同様のプレッシャーを受けてワイルドナイツに敗れている。
相手のアタックのキーになる部分にしっかりとプレッシャーをかけることで、相手の得意な形に持ち込まれるリスクを低くしていた。
また、「ジャム」と呼ばれる詰める動きも相手にプレッシャーをかけていた。ジャムとは相手のアタックラインの裏の選手に対して、外側から一気に詰めてプレッシャーをかける動きを指す。ブレイブルーパスは表と裏の構造を使って展開を図るフェイズが多く、ジャムの動きを仕掛けることで相手にプレッシャーがかかり、3本目のトライであるマヌ・アカウオラがインターセプトをした一連の流れに繋がった。
ただ、必ずしもディフェンスのすべてが上手く働いたわけではない。特に相手のパスコースを切るような外側がかぶるディフェンスは、ある種諸刃の剣でもある。突破力のあるリッチー・モウンガに対して外側のディフェンスがかぶるようなディフェンスをした結果、モウンガにそのままブレイクを許してトライを奪われるフェイズもあった。
また、フェイズを重ねる中で外方向に展開されることへの意識が強くなり、相手のアタックラインの裏側に潜んだ選手に大きくブレイクされるシーンもあった。ノミネートから完全に外れた選手が生まれ、そのままトライを許していた。
◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。
〈アタックの基本構造〉
最近のブレイブルーパスは、リッチー・モウンガへの依存から脱却することを狙っているように見える。ファーストタッチはモウンガが担うことも多いが、試合を重ねるにつれてなんとかバランスを取ろうとしているようだ。
基本の構造はモウンガを柱にした展開構造だ。10シェイプと呼ばれる、プレイメーカーからどんどん攻撃的に動かすフローを用いることが多い。モウンガはパスの判断力に突破力が合わさったリーグワン屈指のプレイメーカーで、展開も上手ければ、自分でボールを持ってディフェンスラインを突き崩すこともできる。
しかしこの試合での要所では、モウンガは裏のラインに潜むことも多かった。ラックやセットピースからのファーストタッチをCTBの選手などに任せ、自身はその裏に位置する形だ。この形によって生まれたトライが、スクラムから最初のフェイズで取り切った1つ目のトライになる。ボールを受けるマイケル・コリンズ、囮(おとり)のブロッカーとして走り込むロブ・トンプソン(2人ふたりともCTB)に対して、モウンガが裏でボールを受けてブレイクし、トライにまで持ち込んだ。
それ以外にもモウンガをセカンドレシーバー、2つ目以降のパスを受ける選手として配置した効果が見られた。モウンガは(おそらく)チームの中で最もパスの判断力に長けた選手だ。そういった選手を相手ディフェンスから遠い位置に配置することで、ある程度プレッシャーを和らげる効果があると考えられる。

〈アタックで受けたプレッシャー〉
終盤こそ足の止まったヒートのディフェンスを崩すシーンが増えたものの、試合の半分以上の時間は、詰めてくる相手ディフェンスにプレッシャーを受けていた。接点で圧力を受けるためラックに人数をかけざるを得ず、結果としてアタックラインから人数が削られていった。
また、特に影響を受けたのがアタックラインに対して被せるようにディフェンスをしてきたヒートのディフェンス戦略だ。アンブレラディフェンスとも呼ばれる形に近いように見える。10シェイプといったプレイメーカーからの展開を基本とするブレイブルーパスの攻撃は、このディフェンスと相性が悪い。外のオプションが切られることが多いため、プレイメーカーがそのままキャリーをせざるを得ないシーンが増えた。
また10シェイプのネックとして、位置的にゲインラインから深くなりやすいというものがある。ヒートはこの10シェイプに対して鋭く前に出た。それが、ブレイブルーパスのアタックラインが徐々に下げられることにも繋がっていた。
それでいてブレイブルーパスはオフロードを繋ごうとする意識も強かった。そのため効果の少ないオフロードパスが結果的に増えた。
〈ディフェンスシーン〉
今回ディフェンスで苦戦した要因に、接点で押し負けるシーンが多かったことが挙げられる。特に前半奪われたトライの多くがこの要素に起因するもの。相手の前進を止め切れないシーンが目立った。
相手に前に出られてしまうと、自然とラック近くのディフェンスが圧縮され、狭い範囲にFWの選手が固まることとなる。ヒートはピックゴーといったラックに近いエリアで前進を狙うことも多く、そのエリアを薄くするわけにはいかない。その結果として、ラックから離れた位置に配置された相手ポッドの対面がSHやBKの選手になり、質的なギャップを突かれることでさらなる前進を許した。
また、ペナルティの数が極端に増えたわけではないが、相手のアタックに押し込まれることにより、ブレイクダウンでのペナルティも増えた。相手キャリアーに前に出られることによって、ブレイクダウンにプレッシャーをかけようとする選手が下がりながらブレイクダウンに仕掛けることになる。それによって重心が崩れ、姿勢をコントロールできず、ペナルティを取られる流れに陥っていた。
ペナルティが積み重なったことによって積極的なディフェンスがしづらくなり、悪循環に陥ったことも否めない。序盤こそ接点に対して激しく前に出ようとする意識が見られたが、徐々にコントロールができなくなっていた。結果的に得点上は、相手に決められたペナルティゴール2本分の点数差で試合が終わったこともあり、防ぎたい要素だった。
◆マッチスタッツを確認する。

それではマッチスタッツをチェックしていきたい。
ポゼッションはほぼ同程度だったが、テリトリーではヒートが少し上回っている。これはペナルティに起因するものかもしれない。ヒートが犯したペナルティは6、ブレイブルーパスは11と大きな開きがある。ペナルティを獲得した側は簡単にゴール前まで入ることができるので、テリトリーの差にも繋がっていると想像できる。
敵陣22メートルへの侵入回数はほぼ同じで、トライ数もともに6本となった。そのため、得点効率もほぼ同じとなる。最終的な点差はちょうどヒートが決めたペナルティゴールによる得点(2PG/6点)だったため、そういった意味でもブレイブルーパスはペナルティを減らしたかった。
基本スタッツでは、ブレイブルーパスがキャリーでは7回、パスでは74回多い数値を取っている。パスとキャリーの比率のリーグ平均から見ると、ヒートは平均よりもキャリー比率が多く、ブレイブルーパスは平均よりかなりパス比率が多かった。ブレイブルーパスはオフロードパスを繋ごうとする意識も高かったので、そういったシーンからパスの比率が高まったと想像できる。
タックル成功率はヒートが80パーセント、ブレイブルーパスが81パーセントと、ともにあまり高くない数値を示した。80分で合計12本のトライが生まれた。両チームともディフェンスに課題を抱えることになった、ということができる。
◆プレイングネットワークを考察する。

次にヒートのネットワークを見ていきたい。
ラックからボールを受けるBKのパターンとしては、一般的な形に落ち着いた。SOとFB、両CTBがボールを受ける機会がある、オーソドックスな形だ。パスが通るバランスも一般的。SOやFBが多く、CTBが少しボールを受ける形になった(交代で入ったヴニポラはFBとして計上している)。
ポッドを使ったアタックでは9シェイプが多かった。一般的な水準の範囲内に収まっているとは思うが、フランコ・モスタートやマテーラといった強烈なキャリアーが揃っている。9シェイプを使った前進も多く見られており、うまく運用することができていた。
また、ボックスキックについてもピックアップしたい。フル出場した土永雷は、ボックスキックを多く蹴り込んでいた(3、4回が一般的な数字)。距離感の微調整は今後必要になってくると思うが、今回の試合ではボールをチェイスする選手と距離感が噛み合い、ボックスキックからの再獲得も果たしていた。相手によってうまく使い分けていきたい。

最後にブレイブルーパスのデータも確認しよう。
やはり最も特徴的なのは9シェイプと10シェイプのバランスだろう。どちらも極端な数値ではないが、あまりにも「両方のバランスが取れている」。基本的には9シェイプが10シェイプよりも多くの数値を取ることが多いが、10シェイプがここまで多く、かつ9シェイプがこの程度で収まっていることは少ない。あるとしても9シェイプも10シェイプも少ないという形だ。
10番のモウンガへボールが供給されることが多い。他チームではポッドへのパスよりも多いというのは基本的に見られない。それくらい、モウンガに対してボールが動いていた。モウンガの選択自体は非常にバランスが良く、キーになるシーンでの自身でのキャリー以外は、10シェイプとバックスラインへの展開をバランスよく用いていた。
それ以外のパスルートとしては、バランスよく動かしながら15番の松永拓朗へのパスワークが多い。モウンガがパスコースに入らないシーンではFBがパスを受けることが多かった。ただ、松永が入った時は相手のパスコースを切るディフェンスとの噛み合わせが悪く、自身でのキャリーに持ち込まざるを得ないシーンが多かった。
◆まとめ。
ヒートにはこの試合に向けての準備が随所に見られた。単にスペシャルプレーがハマっただけではなく、スコアリングの戦略や丁寧で強度の高いディフェンスなど、王者に勝利するに値するパフォーマンスを見ることができた。
しかし、最終盤6分ほどで3トライを奪われたことは間違いなく反省材料だ。6分で17点を奪われることを続けていたら、勝てる試合を落とすことにつながる。
ブレイブルーパスは開幕節に続いて2敗目を喫した。特にキーになったのは前半20分までだろう。この時間帯はキャリーが10回もできていない。
攻撃力に定評のあるブレイブルーパスが奪った最初のトライは、スクラムから奪った前半12分のスコア。それまではペナルティが多く12点を奪われるなど、難しい展開をコントロールすることができなかった。次節までに修正をしていきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
