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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/コベルコ神戸スティーラーズ×静岡ブルーレヴズ】新入団選手の躍動と激しい点の取り合い。
デビュー戦で3トライを挙げたスティーラーズのFB上ノ坊駿介。仲間に祝福される。©︎JRLO

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/コベルコ神戸スティーラーズ×静岡ブルーレヴズ】新入団選手の躍動と激しい点の取り合い。

今本貴士

 両チーム合わせて、80分間で105点を奪い合う試合展開となった。2月17日に実施されたコベルコ神戸スティーラーズ×静岡ブルーレヴズは60-45。第7節時点(執筆時点)では、リーグワンの今シーズン最多合計得点試合だ。

 試合を通じてお互いの攻撃力がいかんなく発揮され、綻びの生まれたディフェンスを突き崩すようなトライが多く生まれた。今季アーリーエントリーで加入、初出場のスティーラーズFB、上ノ坊駿介は3トライの活躍だった。

 寒空の下での一戦だったが、会場も盛り上がっていたことが想像できる。
 今回も、分析的に試合を振り返っていきたい。

◆コベルコ神戸スティーラーズのラグビー様相。


〈12番タリ・イオアサの貢献〉
 個人的な考えとして、今節は12番で出場したタリ・イオアサの貢献について書きたい。イオアサは身長があり(193センチ)、ハンドリングスキルに長け、それでいてフットワークもスキルフルな選手だ。今回の試合ではイオアサのプレーから生まれたトライが何度もあった。

 特に大きな意味を持ったのが、キックオフレシーブからの前進だ。点差が離れ始めた中盤以降はブルーレヴズも狙いを変えて逆サイドに蹴り込むようになったが、序盤はスティーラーズから見て左側の深くに蹴り込まれていた。

 必ずしもイオアサがキックオフレシーブのポゼッションに絡んでいたわけではない。しかし、数回のポゼッション内でボールを受けたイオアサは、その体を生かして大きく前に出ることに成功した。その中の一回では、そのまま敵陣にまで侵入することに貢献した。

 相手にキックオフで深くまで蹴り込まれると、多くの場合、脱出のキックを蹴ることになる。さらにそのキックの多くは、自陣深くから蹴り込むこともあり、自陣側で相手のポゼッションになることが多い。

 しかし、今回のイオアサのようにそのシーンで前に出ることができれば、キックを含めたプレーの選択肢は多くなる。単に押し込まれるだけではなく、能動的に相手にプレッシャーをかける選択肢を選べるという点でも貢献度は大きかった。

効果的な前進を何度も見せたスティーラーズのCTBタリ・イオアサ。©︎JRLO


〈連続攻撃とアタックの距離感〉
 スティーラーズも、基本的なアタック構造としては3人組のポッドをベースにした接点の連続と、展開形のアタックの繰り返しになる。ブロディ・レタリックを始めとするキャリーに強みのある選手が揃っており、単純な接点での勝負でも相手にそう負けはしない。

 ただ、スティーラーズのアタックの肝となるのが、そのキャリーの距離感だ。単にポッドを当てるだけではなく、接点に強い12番のイオアサや13番のアントン・レイナートブラウンのような選手を状況判断も交えながら比較的ラックに近い位置で当てこんだり、ラックから直接持ち出すこともあった。

 そういった単調なキャリーではない距離感を見せることによって相手のディフェンスの動きを誘導し、ノミネートの難易度を上げていた。

 また、ラックから直接持ち出すピックゴーのシーンで、ラックへ参加した選手がいい働きをしていた。接点で相手選手を巻き込みながら前に出ることで人数を減らし、さらにラックに参加するか否かの微妙な立ち位置の選手をラックに巻き込むことにより、ラック近辺にスペースを生み出していた。結果、ピックゴーをする選手をカバーする選手を減らし、効率的に前に出ることに成功していた。

〈ディフェンスの課題〉
 スティーラーズのディフェンスシーンにおいて少し目立っていたのが、ノミネートのエラーと過剰な寄せだ。特に相手のポッドに対するディフェンスに不安定さが感じられた。

 ブルーレヴズはポッド構造を多く用いてくるチームだ。そのポッドに対して、スティーラーズの選手はノミネートがぶれていた。相手のポッドの先頭の選手に2人の選手が寄ってしまうシーンが目立ち、ティップオンという小さく浮かすようなパスによってずらされるシーンが散見された。

 ノミネートがずれてしまうと、本来であれば外方向をチェックしていた選手が内側のカバーに回らなければいけないようになる。結果、さらにノミネートがずれ、相手に簡単なオフロードやブレイクを許すことにもつながっていた。

◆静岡ブルーレヴズのラグビー様相。


〈敵陣深くでのアタックフロー〉
 敵陣深く、22メートルラインを越えてアタックをしている時のブルーレヴズの戦略は、そう難しいものではない。基本的にはラン&キャッチ、つまり走り込みながらボールを受けて、そのままキャリーに持ち込む形だ。パスオプション自体の複雑さは、このエリアではあまり見られていない。

 基本的には3人1組となったポッド、主にFWの選手によって構成されるアタック単位を中心に、接点を前へ前へと動かすことを狙っている。ポッドの形が完璧に形成されていなくても、突破を得意とする選手がリードして走り込むことにより、SHからのパスを呼び込んでいた。

 ゴール前のエリア、このエリアをAゾーンと呼称する。
 このエリアでは12番のチャールズ・ピウタウや13番のセミ・ラドラドラもポッドのような役割を果たすことが多い。ボールを受けた後に展開ではなく、自身でのキャリーという選択肢を選ぶ傾向が強い。そういった観点から考えても、接点に強い彼らを12番13番に配置することの意味が見えてくる。

 Aゾーンではこれらのポッドを使ったアタックをタッチラインの近くまで連続して見せている。同じ方向に選手が回り込みながら、3人1組になって連続してラックを作っていた。接点をベースにしているので大きく展開するシーンは多くないが、相手のディフェンスに阻まれ、展開がトライに繋がるシーンはあまり多くなかったように感じた。

 特徴的だったのは最初のトライシーンだろうか。エッジでのラックから突破力に定評のある選手が連続してキャリーを試み、最終的にはヴェティ・トゥポウが5メートルほど押し込み切ってトライを奪った。

ブルーレヴズは7トライ奪取も失点が大きすぎた。写真はブルーレヴズCTBセミ・ラドラドラ。©︎JRLO


〈優位性の作り方〉
 ゴール前を中心としたアタックの動きの中で、数的優位性、人数を相手ディフェンスに対して余らせる過程では、スイングという動きと、ブロッカーという役割を組み合わせる動きを見せていた。

 スイングとは、最初からアタックライン上に立っているわけではなく、内側から湧き出るようにボールを受ける位置まで移動して、後発的にアタックラインに参加する動きだ。ディフェンスラインは多くの場合「今そこにいる人数」に対して誰を抑えるかの調整をするので、後出しで人数を増やすことができる分、人数を余らせやすい。

 ブロッカーという役割は、メインとなるアタックラインの前方に位置する選手が囮(おとり)となって相手ディフェンスの足を止める役割のことを指す。少し内側に切れ込むように走り込むことによって、相手ディフェンスはその選手を選択肢から切ることができなくなる。それによってディフェンスは容易に外へ移動することができず、それにスイングを合わせることにより、外に優位性を作ることができる。

 必ずしもこの数的優位性を作る過程が、うまくいったわけではない。相手ディフェンスがラックを挟んでしっかり移動してくることで数的優位性を作れないシーンでは、そのままアタックを継続しようとしてミスが生まれていた。表と裏の構造を作った時も、相手ディフェンスはブロッカーを潜り抜けるように裏のラインに対してプレッシャーをかけてきたり、なかなか優位性をキープすることができていなかった。

〈キックオフシーン〉
 ブルーレヴズにとってダメージが大きかったのが、自分たちが蹴り込むキックオフの戦略ではないだろうか。序盤はブルーレヴズから見て右奥、主に相手12番のタリ・イオアサが位置しているような場所に蹴り込むシーンが多かった。

 本来であれば、奥に蹴り込むということは相手に脱出のキックを蹴らせたい。浅い位置ではキックで自陣深くまで入られるが、奥に蹴り込んでそこでキックオフレシーブのポゼッションを停滞させることができれば、相手はそこからキックを蹴らざるを得ない。多くの場合で、そのキックによって攻撃権が移ることとなり、敵陣に入った状態でポゼッションを取ることができる。

 しかし今回の試合の序盤は、そううまく事が運ばなかった。イオアサは体の強さを生かしてスティーラーズ陣内から大きな前進を見せ、ブルーレヴズ側にラックを押し出しながらキックに繋げていた。スティーラーズが簡単にタッチに蹴り出さずにフィールド内に残すようなキックを蹴っていたことで、エリアの取り合いがスティーラーズとブルーレヴズの間で五分五分の状態に持ち込まれていた。

 特に致命的だったのは前半に生まれたスティーラーズの5つ目のトライだ。本来であれば相手に脱出のキックを強制したいシーンにおいて、イオアサにビッグゲインを許し、そのポゼッションのまま植田和磨にトライを奪われた。
 攻撃権の取り合いという考え方で見れば、キックオフというトライを奪われた状態での「相手への攻撃権の移動」から、その攻撃権のうちにトライを取られるということだ。これは、キックオフ戦略としても大きな意味を持った。

◆マッチスタッツを確認する。





 それでは、まず『RUGBY PASS』によるマッチスタッツを確認しよう。

 ポゼッション、テリトリーは、ほぼ同水準となった。最初に述べたようにかなりの打ち合いとなった試合ではあるが、コンパクトなフェイズでトライを取り切ったスティラーズと、フェイズを重ねてトライをとったブルーレヴズといったところだろうか。
 両チームともに中盤から大きなブレイクをしたフェイズもあれば、ペナルティなどでスムーズに敵陣からポゼッションを開始した時もあった。

 敵陣22メートルへの侵入回数については、トライ数の差に直結しているようなイメージだ。侵入回数中トライとなった割合は、スティーラーズが約71パーセント、ブルーレヴズが70パーセントだった。ブルーレヴズとしては、侵入回数を増やしてトライに繋げていきたかったところだ。スティーラーズはキックオフレシーブからそのまま敵陣深くへの侵入を実現したり、「侵入効率」で相手を上回ったイメージが強い。

 キャリーはほぼ同数、それでいてパス回数はブルーレヴズの方が40回近く多かった。パスとキャリーの比率は、リーグ平均で約1.4。スティーラーズは小さい値、ブルーレヴズは大きい値をとった。ブルーレヴズは後述するように9シェイプというパスを刻まないアタックを多用するが、おそらくは展開するフェイズの中で多くのパスを使っていると予想できる。

 ブルーレヴズにとって影響が小さくない要因として、ターンオーバーロストの回数という様子が挙げられる。今シーズンの数値を見ると、ターンオーバーを奪った回数からターンオーバーされた回数を引いた数値が大きいほど(基本はマイナスで、プラスに近いほど)勝利に近づく傾向にある。この考え方に基づくと、スティーラーズは+1、ブルーレヴズは-12だった。

 また、タックル成功率が影響した可能性も高い。80パーセントを下回ると「かなり悪い」水準となるが、ブルーレヴズは75パーセントという数値をとった。この水準では相手の前進をなかなか止める事ができなくなる。アタック能力の高いチームに対してこの水準は致命的だった。

◆プレイングネットワークを考察する。





 次にプレイングネットワークをチェックする。まずはスティーラーズからだ。

 9シェイプへ渡った回数が39回と、取りうる手段の中で最も多い数値をとった。しかし、BKの選手に対するパス回数を鑑みると一般的な水準に落ち着いている。
 BKの選手に対して最も多かったのは10番の李承信と交代で入ったブリン・ガットランドに対するパス回数となった。目立ったのは13番のレイナートブラウンへのパス回数だ。

 13番の選手へのパス回数が一定数に到達するチームは珍しくない。ただ、10番役が14回、13番が12回となると結構な比率になる。多くのチームではこの数値を取るのは12番の選手が多い。ただ、今回の試合では12番にイオアサが入り、ペネトレーター役を担当した。その分の役割がレイナートブラウンにシフトしているのかもしれない。

 また、ピックアップしたい数値として、ラックから直接キャリーに持ち込むピックゴー、または持ち出した後にパスをせずに直接キャリーをするパターン(個人的にはこの二つは分けて考えている)が10回となったのは、ある種のキーになっていると感じた。質的分析の欄で述べたように、チーム全体でラック近くのエリアでの前進を図っており、このシーンでのプレーの質は非常に高かった。




 次にブルーレヴズのデータもチェックしていこう。キーになるのは9シェイプの多さだ。BKに対するパスも存在するが、最も多くのパスが9シェイプへとつながっている。
 キャリーやパスにつながる回数も含めて合算すると、55回のパスが通っている。その中でティップオンという小さくずらすパスを繋ぐことで接点をずらして前に出ようとしていた。これが前述したパス回数の多さにもつながっている。

 BKの観点で言えば、ラックから直接ボールを受ける選手のバリエーションが少ない。一般的な見方では当然のこととも考えられるが、近年はBKのすべての選手に可能性があるチームも多い。そういった傾向も考えると、少なめだ。

 12番のピウタウ、13番のラドラドラは当然キャリーの強さが期待されての起用だが、ピウタウはキック、ラドラドラはパスの能力に長けており、アタックラインの中間の位置だけではなく、アタックラインの先頭に配置しても強さを発揮する選手だ。ラックからボールを受けた後は、バランスよく選択肢を選んでいた。

◆まとめ。


 スティーラーズは、前半から爆発的な攻撃力を生かしたトライの量産体制に入った。中盤から終盤にかけても手を緩めず、合計で10トライを奪った。
 反省点としては45失点が挙げられる。特にゴール前に入られたシーンでの粘りはあまり見られなかった。得点力をキープしたまま、ゴール目前のディフェンスの精度を高めていきたい。

 ブルーレヴズとしては、とにかく「前半に点を取られすぎた」ことの影響は大きい。前半30分頃の時点で24点差がついており、この点差は3トライ3ゴールでも追いつけない差。戦略的にも難しさが出てくる点差だ。さらに試合終了までに22点を加点されており、勝利が遠のく結果となった。
 ただ、中盤からの大きなブレイクなど、効果的なアタックを続けることもできた。こちらもディフェンスの修正が課題だ。


【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。






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