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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/東芝ブレイブルーパス東京×クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】18フェイズの最終決戦。
79分過ぎ、18フェイズ目のアタックで逆転トライを挙げたブレイブルーパスSOリッチー・モウンガ。©︎JRLO

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/東芝ブレイブルーパス東京×クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】18フェイズの最終決戦。

今本貴士

 前年度決勝のカードと同じマッチアップとなった。昨年6月1日におこなわれた決勝では、18-13でブレイブルーパスが勝利を収めている。

 そういった背景も踏まえ、今回も熱戦となった1月24日の80分を振り返ってみた。
 結果は24-20で東芝ブレイブルーパス東京の勝利。試合終了直前にSOリッチー・モウンガがトライを挙げ(コンバージョンキックも成功)、クボタスピアーズ船橋・東京ベイを逆転した。

◆東芝ブレイブルーパス東京のラグビー様相。


〈ポッドの活用と構造的なアタック〉
 ブレイブルーパスは、SOなどのプレイメーカーからボールを受けるFW中心の集団、「10シェイプ」を活用することが多い。後述するように、回数的には一般的には最も多くなる選択肢、ラックからボールを受ける9シェイプとほぼ同じような回数となる。

 10シェイプの起点となるのは必ずしも10番のリッチー・モウンガだけではない。13番のマイケル・コリンズや15番の松永拓朗を始点にポッドを用いたアタックをすることも多かった。

 モウンガがラックから離れた位置に入ることが増えた、というのがブレイブルーパスの最近の傾向だ。モウンガはアタックオプションに対する反応も良ければ、自身でディフェンスラインを切り裂く走力もある。
 本来であればパスを繋ぐ始点にならなければいけないところを、位置関係を外寄りにすることでモウンガの能力をいかんなく発揮することにつながっていた。

 モウンガはパスの距離も長い。アタックラインの端の方に少しでも数的優位が生まれていれば、味方を飛ばすようにパスをすることで、「多人数対多人数」の状況を「少人数対少人数」の戦いに持ち込んでいた。
 外の選手まで一気にパスをすると相手も外方向に流しながらディフェンスをすることができるが、その少し手前の選手に対してロングパスをすることで数的優位を最大限活用している。

 また、ブレイブルーパスが得意とする階層構造によるラインブレイクも何度か見られていた。階層構造とは表のライン、「フロントドア」と裏のライン、「バックドア」を持つ層を重ねたようなアタック構造だ。この構造をどのチームも有効活用しようと試みているが、ブレイブルーパスは今回の試合の中で有効活用をしていた。

 スピアーズのディフェンスはブレイブルーパスのフロントドアに対し、それを避けるようにしてバックドアにプレッシャーをかけることをベースにしていた。しかしブレイブルーパスは、それに対してあえてフロントドアを使うことで選択肢をちらつかせていた。
 それによってスピアーズはディフェンス戦略が乱れ、足が止まることも多かった。

状況に応じてパスを投げ分けたブレイブルーパスSH、高橋昴平。©︎JRLO


〈アタックの改善点〉
 数値的には後述するが、敵陣22メートルエリア内に入る回数が多かった一方で、スコアへの変換率は低かった。安定した勝利を収めるためには今の倍くらいの効率でスコアを重ねていきたい。

 特に、ゴール直前のエリアまで入った後の戦略は、一部のシーンで乱れる状況が見られていた。走り込みたい選手、待ってボールを受けたい選手、展開したい選手などに分かれ、選手の位置関係が乱れていた。
 大きくゲインを切った後の選手の配置に関しては、うまくコントロールしていきたいところだ。

 ただ、終盤にかけてアタックの精度は磨かれていっていた。敵陣深くに入った回数に対してしっかりとスコアに変換することができており、チャンスを活かすことができていた。

〈ディフェンスラインの特徴と課題〉
 ディフェンス時の動きとしては、相手のパスコースを切るように少しアンブレラディフェンスの形で守っている。相手のアタックラインに対して、外側の選手が少し被さるようにディフェンスをする形だ。相手の外方向のパスコースを切り、内側に追い込むようにディフェンスをしていた。

 また、相手の階層構造に対してはフロントドアの選手を潜り抜けるようにして裏の選手にプレッシャーをかけることができており、それにアンブレラディフェンスを合わせることによって、アタックラインの裏でボールを受けた選手にプレッシャーをかけた。
 その結果、裏に立つ選手は外側に展開することが難しくなり、深い位置でプレッシャーを受けることにつながった。

 ディフェンスシーンでの課題として、2つのシーンをピックアップする。

 一つ目は、エッジサイド、タッチラインに近いエリアでのディフェンスにおいて。最も外側に立つ選手(主にWTB)と、その内側の選手の間でディフェンス戦略に乱れが起きていたことだ。
 大外のWTBはキックもケアしながら少し後方で待ち構えるようにディフェンスがしたい。それに対して前方のディフェンスであるCTBの選手は詰めるような動きを見せることがある。その戦略面でのギャップが、そのまま空間的なギャップにつながっていた。

 次に、9番のディフェンス方針だ。ブレイブルーパスの9番はディフェンスラインに能動的に参加することが多い。その結果として生まれたのがスピアーズの最初のトライだ。ラック近くにいたフロントローと相手SHとの1対1が生まれて隙をつかれる形となる。SHがラック近くでカバーする位置にいるようなスタイルであれば、対応できたかもしれない。

◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのラグビー様相。


〈9シェイプと攻撃様相〉
 スピアーズはラックからFWにパスをしてキャリーをさせる、9シェイプを好んで用いている。その結果として10番のバーナード・フォーリーのボールタッチはそこまで多くない。フォーリーと15番のショーン・スティーブンソンがプレイメークすることが多く、15番が最初のレシーバーになるシーンも見られている。

 9シェイプで好んで用いているのが、4人のFWによるポッドを使う形だ。4人の選手に対する投げ分けが発生することで選択肢が生まれ、相手は4人の選手をノミネートするために人数をかける必要がある。結果、足を止めることができる相手の人数も多い。
 4人ポッドで相手の足を止めながら裏に立つプレイメーカーにパスを通し、外方向に展開するというフローが強力だった。

 そのため、基本的にはエッジから1人-4人-2人-1人というポッドの人数配置になりやすい。この中盤の4人-2人というポッドの組み合わせが効果的な働きを見せ、4人ポッドから裏にパスを下げて、2人のポッドをブロッカーにすることでさらに相手の足を止めることができる。
 そういった過程で足を止めた相手ディフェンスに対して、外側の優れたランナーを使うことでゲインを狙っていた。

〈アタックにおける課題〉
 ブレイブルーパスの課題としてもピックアップしたが、スピアーズもスコア効率という点ではなかなか安定感を見せることができなかった。敵陣22メートルライン付近まで入ったポゼッションを、うまく活用し切れない時があった。

 中盤からゲインを積み重ねて敵陣22メートルラインの近くまで入ることはできていたが、キックがアウトカムになることも多く、相手に確保されてポゼッションが終わることも多かった。
 また、展開して敵陣22メートル内に入った後もラックがあまり安定しておらず、ラックの近くでターンオーバーが起きてポゼッションを失うことにつながっていた。

 終盤にかけてFWのワークレートが落ちていた。基本的にポッドの配置は4人-2人となっていて、不均等な人数比になっている。4人ポッドから1人が離脱して次のポッドを3人ポッドにすることがワークフローとなっているが、終盤のワークレートの低下によって4人ポッドからの離脱ができておらず、その後のポッドが2人のポッドになって不安定になっていた。

SHからのボールを受けることも多かったスピアーズのFBショーン・スティーブンソン。©︎JRLO


〈守備の特徴と課題〉
 ブレイブルーパスは階層構造、表と裏のラインを活用する仕組みを作ってアタックをしていたが、スピアーズはそれに対し、裏のバックドアへフォーカスを当てたようなディフェンスをしていた。少し早い段階でフロントドアを潜り、裏に対して圧力をかける形だ。
 しかし、相手にフロントドアを活用されることでディフェンス戦略に乱れが生じていた。

 ブレイクされるパターンとして、タッチライン近くのディフェンス戦略の乱れが挙げられる。ブレイブルーパスでも似たような事例を挙げたが、内側からスライドしてきてほしいWTBと、ポッドに対して詰めてしまったCTBとの間に、パスを受けたBKに走り込まれていた。
 本来であればCTBがポッドにプレッシャーをかけつつ裏に対して圧をかけていきたかったが、フロントドアに仕掛けすぎることでカバーが間に合わなくなっていた。

 また、10番のモウンガに少しフォーカスを当てすぎているようにも見えた。スピアーズはモウンガの動きに対応してディフェンスのコミュニケーションを取っている。しかし、ブレイブルーパスのアタックはモウンガが必ず絡んでいるわけではない。その動きに過剰に反応してしまうことで少し薄くなった逆サイドに展開され、ゲインされるシーンが見受けられた。

〈キック戦略〉
 キックオフの再獲得を狙ったり、全体を通じてキックを効果的に使っていこう、という様子が見られた。キックの主体となるのは10番のフォーリーで、エリアのコントロール自体はそこまで悪い様相は見られていなかった。主に自分たちが犯したペナルティによって押し込まれていたように思う。

 ハイパント系に関しては、良し悪しがあったように見える。特に序盤は高く蹴り上げるようなキックが少し距離が長く、相手に安定した確保をされていた。また、相手のキックに対する反応も良く、裏に狙うような蹴り方をしても、うまくいかないことが多かった。

 しかし中盤から終盤にかけて、ハイパント系のキックの脅威度は増した。安定して再獲得が狙えるようになり、ジワリと前進を狙えるようになった。相手のディフェンスシステム的に、ロングキックに注意している裏の選手と、相手に圧力をかける表のラインとの間に空間が空いていた。その空間を効果的に狙うことができた。

◆マッチスタッツを確認する。




 それではマッチスタッツを確認していく。『RugbyPass』によるデータだ。

 ポゼッションとテリトリーはブレイブルーパスが10パーセント前後上回る形となった。スピアーズのハンドリングエラーやペナルティがやや多く、その分ポゼッションの移動が起きたと考えられる。ブレイブルーパスは自陣からのアタックを続けたり、敵陣ゴール前で粘りのアタックを見せたり、一つひとつのポゼッションも長そうだ。

 敵陣22メートル内への侵入回数は、ブレイブルーパスが15回、スピアーズが7回となっている。その回数に対するスコア効率でいうと、ブレイブルーパスが1.6、スピアーズが2と低い数値だった。ハンドリングエラーや相手ディフェンスとの兼ね合いもあるが、この辺りの効率を上げることができれば、安定した勝利にもつながる。

 キャリー、パスの回数を見ると、リーグ平均よりスピアーズのパスの比率は大きく、その数値よりさらにブレイブルーパスのパス比率が大きかった。
 ブレイブルーパスは10シェイプメイン、スピアーズは9シェイプメインと、主となるアタック手段は異なっている。しかし数値的には共に平均値よりも高い数値を示した。

 タックル成功率はブレイブルーパスが89パーセントと高水準、スピアーズは82パーセントと、平均値を下回る数値を示した。スピアーズとしては、この数値を上げていきたいところだろう。どのタックルが具体的にミスタックルとして計上されたかはわからないが、試合を見る限りでは、手を弾かれるようにタックルを外されるシーンが見られていた。

◆プレイングネットワークを考察する。





 プレイングネットワークも見ていこう。まずはブレイブルーパスのものからだ。

 今回の試合においても、9シェイプへのパス回数と10シェイプへのパス回数はほぼ同程度となった。一般的なチームでは10シェイプへのパスは10回前後ということを考えても、ブレイブルーパスが10シェイプを好んで用いていることがわかるだろう。

 BKへのボールの供給は比較的バランスが良くなっている。10番、12番、13番、15番が中核となってボールを受けていた。ボールを受けたモウンガ以外の選手はそのまま10シェイプに繋げることが多く、文字通り「10番の代わり」となってアタックに参加していた。

 それでもまだモウンガがボールを受ける回数は多い。間違いなくチームの柱になる選手だ。モウンガの特徴を活かしながらバランスよくボールを動かすとしたら、このあたりの数値が分岐点になるだろうか。うまく活用していきたい。




 スピアーズの注目点は、圧倒的な9シェイプの多さだ。10シェイプが一度しか用いられていないのに反して、9シェイプだけで46回ボールが渡っている。この数値から見てもスピアーズのアタックの柱になるのは9シェイプであり、9シェイプでどれだけ相手ディフェンスを突き崩すことができるか、という点が攻防の成否を分けたと言える。

 BKに対しては4人の選手への投げ分けが発生しているが、13番のハラトア・ヴァイレア、14番のゲラード・ファンデンヒーファーに関してはそれぞれ1回となっており、それ以外の選手との兼ね合いを見ると、おそらくは彼らに対するものは状況判断的なパスだった可能性が高い。

 ブレイブルーパスは司令塔に対して多くのボールを供給しているのに対して、スピアーズのプレイメーカー、フォーリーへのパスはそう多くない。むしろ10番にしては少ないとも言えるだろう。
 これは15番のスティーブンソンへの供給があったこともあるが、9シェイプを生かしたアタックが多かったことも影響している。フォーリーがボールに触れない時間が少し長かったか。

◆まとめ。


 ブレイブルーパスは10シェイプを土台としながら、10番のモウンガへの依存からの脱却を狙っているように見える。モウンガのタスクを減らし、彼のランナーとしての強力な能力をいかんなく発揮できる形を使っていた。
 ディフェンスでも相手のアタックを効果的に封じ込み、トライ数を最低限に抑えた。これからは敵陣深いエリアでの決定力を整え、攻撃力を増したいところだ。

 スピアーズは9シェイプを中心に据え、接点をベースとするアタックをしていた。ポッド自体への工夫やオフロードパスによって効果的なアタックを支え、ハイパント系のキック戦略によってポゼッションの獲得を狙っていた。
 ただこちらもスコアの変換率は悪い。効果的に攻撃的なアタックを継続していきたいところだ。



【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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